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13 勇者べティ改め……にゃ~
しおりを挟むスウィーツ巡りはコリスの反則を指摘してストップ。次の名所巡りに移行したかったのだが、さすがにお金が心許なくなって来たので、冒険者ギルドに顔を出してみた。
「「見付けた~~~!!」」
すると、二人の美女が突撃して来たので、わしはそっと扉を閉めた。
「「なんで閉めるの!?」」
そりゃ、怖いからだ。この手のケースでは、わしが死ぬほどモフられるパターンだから、閉めたくもなるってものだ。
しかしギルドには用事もあるし、二人も出て来てしまっては無視するわけにもいかないだろう。
「王女様。こんにゃちは~。今日も綺麗だにゃ~。アオイさんは、今日は綺麗にゃ服着てるんだにゃ~。紫の髪に合ってるにゃ~」
この美女二人は、この国の王女様とわし達をつけていた暗殺者。どちらも国の要人だから、よいしょしておくのが無難だろう。
「そんなことよりも!!」
「私が綺麗……」
残念ながら、サトミはいつも言われているだろうからまったく効かず。アオイは……なんか照れてるな。
「やっぱりシラタマ様は、ゆう……」
「にゃ~~~! 王女様が大声出すなんてはしたないにゃ~!!」
「あっ……」
「話は中で聞くからにゃ。いいにゃ?」
「はい……」
大声でわしのことを勇者なんて言わせねぇよ。それより大声で邪魔して、サトミをギルドの中に連れ込むわしであった。
「綺麗……」
「はいはい。あなたも行くわよ」
なんか顔の赤いアオイは、べティに引っ張られて中に連れ込まれたのであったとさ。
サトミの用件はさっきのやり取りである程度理解したので、受付嬢に部屋を用意してもらう。本当は会議室を借りるのは有料らしいが、サトミの顔を見せたらフリーパス。王女様からはお金が取れないみたいだ。
その代わり、エリマキトカゲが……いや、ギルマスが盗み聞きしにやって来たので追い返そうとしたが、ギルマスにも関わる話とサトミが言うので、渋々同席を許可する。
「話ってアレにゃろ? またわしを勇者に祭り上げようと……」
わしだってバカではない。前日に魔王城の門まで破壊していたのをアオイに見られていたのだから、武闘王に報告されているのはわかっていたことだ。
「はい。神託は間違っていませんでした!」
なので、サトミは自信満々。
「大間違いにゃ~。勇者の剣だって抜けなかったにゃ~」
「あれは何かの間違いです! 次やったら確実に抜けるはずです!!」
「次やったら、わしは確実に教会を壊す自信あるにゃ~」
勇者の剣を裏庭ごと持ち上げたのは、ちょっと力加減をミスっただけで、本気では引っ張っていない。フルパワーでは本当に何が起こるかわからないからわしはやりたくないのだ。
「で、では、魔王討伐だけでも! 民の苦しむ未来は見えているのです!!」
しかし、これほどの戦力を野放しにできないサトミも必死だ。
「だから~。勇者はどこかに居るんにゃって~。探す努力はしたにゃ?」
「シラタマ様が勇者の剣を抜けなかったから、ショックで寝込んでいましたからまだです!」
「自信満々で言うことじゃないにゃ~」
「シラタマ様が勇者と認めてくれたらいいだけなんですぅぅ!」
「無茶言うにゃ~」
わしとサトミが揉めていると、べティがテーブルを「バンッ!」と叩き、勢いよく立ち上がる。
「よし! この魔法少女べティ様に任せなさい! あたしが魔王を倒して、新しく魔法少女伝説を築いてやるわ!!」
まさかの、新伝説の樹立を目論むべティ。
「またお前は……魔法少女として目立ちたいだけにゃろ~」
「いいじゃん。ちょっとぐらい……あたしが魔王に挑むってことは、シラタマ君もついて来るってことだよ~? いざとなったら手伝ってくれるから、100%討伐できちゃうってことだよ~? どうどう??」
「結局わし頼りにゃ!?」
べティのアイデアはわしとしては容認できないのだが、サトミは……
「アリ? これってアリ? いけそう??」
なんかアオイに確認を取ってる。
「たしかにべティさんの魔法は凄かったです。強力な爆裂魔法で、ケルベロスも一撃でした!」
「そんなに!? それなら魔王も倒せちゃうんじゃない??」
「はい。レベルも52になっていましたしいけますよ!」
「そこにシラタマ様もついて来てくれるなら確実……うん!」
さらに、なんか二人で盛り上がってるよ。
「魔法少女べティ……あなたに魔王討伐を命ずる!」
「はっ! 慎んでお受けします」
「べティも盛り上がるにゃよ~」
こうしてべティが王女サトミの命令を受けてしまったので、魔法少女べティ伝説が始まるのであったとさ。
それから今後の話に移ったので、わしはコリスとお喋りして暇潰し。ノルンはべティの頭に乗って真剣に話を聞いているところを見ると、魔法少女派閥に入った模様。二人でユニットを組むらしい。
その話し合いは長引いたので、コリスがそわそわして来たので餌付け。夕食の時間になったので、わしは席を立った。
「「「どこ行くのよ!!」」」
しかし、べティ、サトミ、アオイに三本の尻尾を掴まれてしまった。
「もう夕食時にゃし……おにゃか空いたし……」
「じゃあ、続きは食べながらしましょう!」
「「「は~い」」」
「食事代はそっちが持ってにゃ~?」
べティが音頭を取っているからわしは心配。サトミとアオイだけでなく、同席していたギルマスとウサミミ受付嬢までついて来ようとしていたので、釘を刺しておいた。
本来、冒険者ギルドに来た目的は金策だったのに受付カウンターに寄らせてもらえなかったので、マジで心配。なのでギルマスに「接待費から出してくれ」と何度もお願いしながらわしは続く。
馬車に揺られてやって来たのは、べティが目を付けていた高級料理店。要予約に加え、ドレスコードがあったので断られたけど、王女オーラで難なく入店。でも、ギルマスから「こんな店、接待費が下りない」と釘を刺された。
べティ達が話し合いをする中、わしとギルマスで伝票の押し付け合いをしていたら、並ぶ高級料理。ここまで来たら、やけ食い。
コリスには皆の物を取らないように高級串焼きの支給を忘れない。というより、ちょっとでも支払いを減らす努力だ。
本来ならば行儀よく食べないといけないのだろうが、わしとコリスは知ったこっちゃない。バクバク食べて腹と頬袋を膨らませる。ギルマスと受付嬢も、こんな高級店には来たことないのか、腹に詰め込めるだけ詰め込んでいる。
そうこうしていたら、わし達はお腹いっぱい。べティ達も楽しく食べて話し合いも終わったようなので、わしはサトミに伝票を回す。
「えっ……何この値段……」
「美味しいからいっぱい食べちゃったにゃ~。にゃはっ」
サトミが青い顔をしているので、わしはかわいこぶりっこで乗り切ろうとする。
「こここ、こんなの無理ですよ!」
「おこづかい、いっぱい貰ってるにゃろ~」
あんなに貰っているのに、サトミは払ってくれない。しかし、食い逃げするわけにもいかないので、今度は王女、エリマキトカゲ、猫の三者会談。
三人の必死の伝票押し付け合いの結果、折半となるのであった。
「にゃんでわしはチョキを出したんにゃ~~~」
端数はじゃんけんに負けたわし持ちになったので、完全に敗北した気分になるのであったとさ。
支払は、全員カード払い。わしはドキドキしながらカードを出したが、足りたのでホッと胸を撫で下ろす。サトミもギルマスも同じ顔をしていたところを見ると、全員、残高が怪しかったっぽい。
まぁなんとか足りたので、ここでお開き。先払いしていた宿屋に帰ろうとしたら、サトミとアオイに尻尾を掴まれた。
「にゃに~?」
「お城に泊まらないのですか?」
「堅苦しいのは嫌いなんにゃ~」
「シラタマ様って、王様って言ってたじゃないですか!」
たしかにわしは王様だけど庶民感覚が抜けていないってのもあるが、お城に泊まりたくない理由もある。
「わし達の見張りがしたいんにゃろ?」
「うっ……そうですけど~」
「だから泊まりたくないんにゃ~」
サトミがぶっちゃけるのは好印象だけど、わしは心を鬼にして宿屋に帰るのであっ……
「アオイさんはいつまでついて来るにゃ?」
「シラタマ様のパーティに加入しましたので、同じ部屋まで……」
「せめて他の部屋を取れにゃ~」
アサシンアオイを連れて、宿屋に帰るわしであったとさ。
わし達の部屋は、いちおうべティ用の部屋にベッドが二個あったので、アオイと一緒に使ってもらう。
「にゃんでこっちに来てるにゃ……」
「だってあの子、アサシンなんでしょ? 寝首を掻かれそうじゃな~い」
「勝手にパーティメンバーに入れたのはべティにゃろ~」
自分で入れたクセにパーティメンバーを信じないべティは、キングサイズのベッドで、わしとコリスの間で『河』の字。
「『川』の字にしてよ~。口はしんどいって~」
せっかくだからちょっとしたお茶目。妖精ノルンとわしでさんずいを担当し、コリスが横棒と縦棒。べティを丸まらせたら『河』の字は上手く再現できたと思うけど、ベティから苦情が入るのであったとさ。
結局はわしとコリスも変な体勢はしんどいので普通に寝て朝を迎えたら、べティがコリスに潰されていたので助けてあげた。
それからルームサービスを食べてゴロゴロしたら、わしとコリスの待ってましたのランチ。
「た~んと召し上がれ~!」
べティ作、異世界料理だ。と言っても、べティはまだフライパンも振れない幼女なので、わしが指示通り作ったから猫メシとも言える。
「「「美味しいにゃ~」」」
「フフン。どんなもんよ!」
さすがは、元の世界で創作フレンチ店を営んでいたべティ。見たことも食べたこともない食材でも、高級フレンチに仕立て上げたのでめちゃくちゃうまい。
わしとコリスとアオイはほっぺを押さえて食べ、べティはドヤ顔。しかし反省点はあるらしく、ブツブツ言いながら食べている。
「和食もにゃんとかならないかにゃ~?」
「専門じゃないけど、たぶんいけるわよ」
「じゃあ、夜は和食にゃ~!」
宿屋の夕食は断りに走り、それからまた惰眠。べティは何やら書き物をしていたから、メニューを考えていたのだろう。
そして夜になったらわしも頑張って手伝い、異世界の食材で作られた和食がテーブルに並ぶ。
「「「美味しいにゃ~」」」
「う~ん。やっぱり家庭料理の域は出てないわね」
わしとコリスとアオイは美味しく食べているのに、べティは納得いっていない模様。料理人としてのプライドがあるらしい。
そうして美味しく食べていたら、急にアオイが叫び出した。
「あ~~~!!」
「にゃに~? ごはんが掛かったんにゃけど~??」
正面に座っていたアオイは口に物を入れたまま叫んだものだから、わしは大災害。テーブルの上に落ちなかったのは不幸中の幸いだが、顔面にぶっかけられたからにはきちゃない。
「魔王!? 魔王を倒しに行かないんですか!!」
そう。昨日サトミから命じられたのに、わし達はゴロゴロしているわ料理しているわ、一日が食っちゃ寝で終わるから、料理に現を抜かしていたアオイは叫んだのだ。
「今日は休みだったんじゃにゃい?」
「そ、そうなのですか?」
わしは予定を聞いていなかったので予想を行ってみたら、アオイはべティを見詰めた。
「あ~……言い忘れてたわ。服の仕上げがまだだから、魔王討伐はそのあとよ」
「聞いてないよ~~~」
こうして出発日時を聞き忘れていたアオイは、なんだか三人組のお笑い芸人みたいなことを言うのであったとさ。
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