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09 要塞都市に戻るにゃ~

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「立てるかにゃ?」

 キマイラを奇麗に真っ二つにして倒したら、アオイは尻餅をついていたのでわしは手を差し出した。

「立てないにゃらコリスに乗せてあげるにゃよ?」
「だい……そうさせてもらうわ」

 アオイはコリスに乗る選択をしたので手を貸して立たせてあげたら、先に乗ってるべティの後ろに座らせた。
 それから走り出したら問題発生。

「あたいのタマ取ろうなんて百年早いのよ!!」

 アオイがべティを人質に取ろうとクナイを出したのだ。なのでべティはアオイの首筋にナイフを当てて凄んでいるので、わしは止めに入る。

「コリスが尻尾で拘束したんだから、コリスの手柄にゃ~」

 そう。コリスなら簡単にアオイを止められると信じていたから、こんな無防備極まりないことができただけ。

「ちょっ! あたしだってビビビッて来たから対応できたんだからね!!」
「へ~へ~。先を急ごうにゃ~」
「信じてよ~」

 べティなら余裕とはいかないがなんとかなったと思うけど、非力な幼女ではちと心配。せめてもう十個は年を重ねないと安心できないので、それまでは子供扱いするわしであった。


 それからも魔物を蹴散らして進んでいたら、コリスの尻尾で拘束されてずっとあわあわしていたアオイがとある魔物を見て、焦りながら待ったを掛けたので、どうしたものかと聞いてみた。

「アレはメデューサよ。目を見たら石にされる!」
「へ~……目を見なければいいのかにゃ?」
「そんな戦い方できるはずないじゃない! 逃げましょう!!」
「ま、わしがやるから見てるにゃ~……って、見たらダメだからにゃ~?」

 注意事項を説明したら、わしは目をつぶって前進。足場や距離は探知魔法を小まめに飛ばしているので、こけずにメデューサの目の前に立てた。
 わしが無造作に近付くと、メデューサはトライデントでの突き。もちろん侍攻撃のできるわしは先の先で一閃。一匹ずつこの方法で、メデューサの群れを殲滅すわしであった。

「わりと余裕だったにゃ~」
「次はあたしにやらせて!」

 わしが皆の元へ戻ると、べティがそんなことを言うのでわしは頭を撫でる。

「もうちょっと大きくなったらにゃ~」
「子供扱いしないでよ~」


 アオイがありえないって顔をする中、魔物を倒しながらガンガン前進していたら、アオイの顔色が悪化して行く。
 わし達の強さに驚いているとは気付いてはいたが、仕事をしないことには食っていけないので、そのまま前進していたら門みたいな物を発見した。

「シラタマ君……たっけて~!」
「戦いにくいからくっつくにゃ~」

 その門に近付くと、べティはさっきまで子供扱いするなと言っていたクセに、みっつも頭がある大きな犬を見た瞬間、幼女に戻ってわしに抱きついて来た。

「コリス、やっちゃってにゃ~」
「うん!」

 べティがここまで取り乱すのは、わしを初めて見たとき以来なので聞き取り調査をしてみたら、どうやらべティは二度目の人生で、みっつの頭を持つ白い犬に殺されたから怖がっていたみたいだ。

「ほら? もう大丈夫にゃ。コリスお姉ちゃんが倒してくれたにゃ~」

 ケルベロスはコリスのリス百裂拳で滅多打ち。両手両尻尾でボコボコに殴られたケルベロスはあっという間にチリとなって消えたので、わしはべティの頭を撫でて落ち着かせていたら、アオイが近付いて来た。

「あの……」
「にゃ~??」
「この門って、魔王城の門じゃ……」
「わしに聞かれても知らないにゃ~」
「ノルンちゃんが見て来てあげるんだよ~」
「気を付けてにゃ~」

 わしは本当にわからないので、ノルン頼り。空からならわかりやすいはずなので見て来てもらった。

「この先に不気味な城があるんだよ」
「やっぱり!?」
「お~。そんにゃに深く入り込んでいたんにゃ~。それじゃあそろそろ薬草採集は終わろうかにゃ~?」
「これのどこが薬草採集なの!?」

 アオイがいいツッコミをしてくれたところで帰ろうとしたら、門の前に魔法陣が現れたので皆の視線が集中する。

「シラタマ君。たっけて~!」

 すると、ケルベロスがリボーン。もしくはリポップ。一定時間が経つと、復活する仕組みみたいだ。

「お~。これぞ地獄の門番だにゃ~」
「早く倒して~!」
「コリス、やっちまいにゃ~!」
「ホロ~!!」

 べティはまたわしに抱きついて離れてくれないので、コリスにお願い。またリス百裂拳でケルベロスはご臨終になった。

「にゃんか剣が落ちてたけど、これって高く売れるのかにゃ?」

 ケルベロスはどう見てもボスっぽいので、拾った剣をアオイに見せてみた。

「え? これは魔剣……すっごく高く売れますよ! なんだったら私が欲しいぐらいです!!」
「にゃるほどにゃ~。教えてもらってにゃんだけど、わしも借金があるから譲れにゃい……あ、その手があったにゃ~」

 いい情報を手に入れたと同時にナイスアイデアも浮かんだので、べティに言い聞かす。

「もうちょっと稼ぎたいから、にゃん度かケルベロスと戦っていいかにゃ?」
「……」

 べティからいい返事をもらえなかったので、強行手段。コリスのモフモフに顔を埋めさせて、わし一人でケルベロスを倒しまくるのであった……


「つ、次、あたしがやってみていい?」

 ケルベロスを20匹倒して魔剣が四本出たところでわしが「にゃしゃしゃしゃ」悪い顔で笑っていたら、べティが声を掛けて来たので振り返る。

「無理しなくていいんにゃよ?」
「ううん。シラタマ君は、あたしのトラウマを消そうと思ってこんなことしてるんでしょ?」
「いや、金策の為にゃ~」
「そこはあたしの為って言わないとモテないぞっ。うふふ」
「にゃに勘違いしてるにゃ??」

 べティはわしの狭いおでこを人差し指でツンとしてから、前に進んで行った。
 まるで少女漫画の主人公にでもなりきっているべティを見ていたら足が震えていたので、ふざけて緊張を解こうとしていたのかもしれないが、たぶん主人公気分を味わっていると思う。あのベティだし……

「来たわね……喰らえ! マハーリク、マハーリタ、ニャンバラバンバンババン……だっけ?」
「わしに聞くぐらいにゃら必要ない詠唱にゃんてするにゃ~」

 魔法陣が輝く中、べティが振り返って質問して来たから、わしは前を指差しながらツッコンだ。

「わっ! わわわ……【エクスプロージョン】!!」

 その後、ケルベロスを確認した瞬間「ドッカァァァーーーン!!」と、大爆発。辺り一体に爆風が吹き荒れたのであった。


「やりすぎにゃ~」

 べティは焦りすぎて【エクスプロージョン】なる魔法に魔力を込めすぎ。今までの訓練の成果が出ているのはいいのだが、ケルベロスだけでなく魔王城の門も消し飛び、自分まで吹き飛ばしたのだ。
 あまりの威力にわしもべティを守りに行けず、キャッチしたあとに飛散物を体で守るのが精一杯だった。

「あ、えっと……きゃはっ」
「『きゃはっ』じゃにゃいし~」

 そんな状況なのに、べティはかわいこぶりっこで乗り切ろうとするのでウザイ。

「ま、トラウマを克服できたんだから、結果オーライ!」
「あ、魔法陣は生きてたみたいにゃ」
「たっけて~!!」
「トラウマ克服したんにゃろ~」

 ケルベロスがリポップしたら、振り出しへ。このままではべティの為にならないので、べティを担いだまま戦うわしであったとさ。


 ケルベロスを倒したら、アイテムを拾ってダッシュで逃走。もう夕暮れなのでこのまま帰りたいところであったが、アオイが居るので転移魔法が使えない。

「ちょっと目隠ししてくれないかにゃ~?」
「目隠し? そ、そんなのさせて、私をどうするつもり! このケダモノ!!」

 たしかにわしは猫だからケダモノは合っているんだけど、そんなことすると思われているのは心外だ。てか、想像力が豊かすぎる。

「コリス、やっちまいにゃ!」
「にゃっ!」
「やめっ。ムグッ!」

 なので、キレ気味にコリスに命令。コリスにはたいした指示を出していないのに、わしの考えを汲んでアオイを尻尾で拘束してくれた。
 あとはアオイの目にもう一本の尻尾を巻き付けさせたら、全員をくっつくぐらいの距離に集める。

「さ~てと……飛んで帰ろうにゃ~。せ~のっ!」
「「「「「とおぉ~うにゃ」」」」」

 皆が固まったらわざと変なことを言って、全員低い声を出しながらジャンプ。すると、編集されたテレビ番組のように次の瞬間には、要塞都市近くに辿り着いたのであった。

 ……本当は転移魔法で飛びました~。


 要塞都市はギリ見えている程度なので、アオイはコリスの尻尾に拘束されたまま走り出す。ちなみにわしはべティを背負ってノルンを懐に入れ、揺らさないように走っている。
 帰り道は仕事で外に出ていた冒険者が何組も同じ方向に歩いている姿を見たが、ごぼう抜き。

 驚いている者、元気だなとか言ってる者、「女の子が捕まってなかった?」とか言ってる者が居たらしいが、すぐに置き去りにしたからわしは聞いていない。
 要塞都市の門に並んでいる時に、「その子、悪さでもしたのか?」と聞かれてようやくアオイの拘束と目隠しを取ってあげた。

「うそ!? さっきまで魔王城に居たのに……」
「あ~。夢でも見てたんじゃにゃい? 君はずっと寝てたからにゃ~」
「いまさらとぼけても遅いわよ!?」

 アオイが呆けていたので、記憶の改竄かいざんができないかと思って試してみたけど無理っぽい。アオイはコリスから飛び下りて距離を取った。

「ここまで来たら、あなた達は用済みよ。さらばっ!!」

 そして煙玉を地面に叩き付けて、モクモクと煙が広がって辺りが真っ白になったその隙に、アオイは逃げて行くのであっ……

「ちょい待つにゃ~」
「離してよ~~~!!」

 アオイの服を掴んで逃がさないわしであったとさ。
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