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05 勇者の剣にゃ~

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 冒険者になると、面倒なことになりそうなのでわしとしては避けたかったが、もしも魔王軍が攻めて来てもランクの低い者は裏方になる可能性が高いらしいので、それを信じて登録することとなった。

「では、こちらの水晶に手を触れてください」
「あたしが一番!」
「次はノルンちゃんがやるんだよ~」

 ウサミミ受付嬢が言うには、この水晶に手を触れたら現時点のステータスが書かれたカードが発行されるらしいので、ファンタジー要素が強いからべティは興奮している。ノルンは……ゴーレムだけどステータスは出るのかな?

 とりあえずわしとコリスはそこまで興味が無いので、べティとノルンに先を譲る。

「はい? レベルが30もありますよ!? それに何この魔力量……」
「えっ!? そんなにいいの? さすがはあたしね!!」

 べティのレベルは、ベテラン冒険者並み。魔力が突出しているらしく、ベテランの中でも活躍している冒険者に近いステータスらしい。

「はい? ……なんであたしの種族がドワーフなのよ!?」
「え? 違うのですか? 年齢もひゃ……」
「言わないで! がるるぅぅ!!」

 あと、こと細かくデータが出るらしく、魂年齢のせいでべティはドアーフ認定されていて、うけるぅぅ。

「こちらのノルンちゃんさんは……レベル5ですか。さすが妖精ですね。新人としては、ステータス全てが高いほうですよ」
「もっと行くと思ってたんだよ~」

 ノルンのステータスは、本人からしたら納得のいかない結果。ただのゴーレムのはずなのに種族が妖精となっているとは、製作者の腕がよっぽどいいのかもしれない。


「次は~。コリス、やっちゃうにゃ?」
「うん。ここにてをおくんだね」

 ここまで来たのなら、オオトリはわしがやりたいってことはないけど、コリスに先を譲る。

「えっ……何これ? 名前と種族がリス以外、何も書いてないんですけど……」

 コリスの結果は、よくわからないとのこと。わし達もカードを見せてもらったが、力や速さと書かれた隣には、横線が引かれているだけであった。

「しょ、少々お待ちください。上の者に確認を取って来ます」

 ウサミミ受付嬢が慌てて駆けて行く姿を見送っていたら、べティが寄って来た。

「さっきのアレってどういうことだと思う?」
「う~ん……強さを隠す隠蔽魔法のせいかにゃ? いや、名前と種族が出てるってことは、コリスが強すぎるせいかもしれないにゃ~」
「あ~。この世界に来て、別段体に変化はないし、かもしれないわね」
「問題は冒険者登録できるかだにゃ~」

 べティとコソコソと喋っていたらウサミミ受付嬢が戻って来て結果を述べる。

「どうやらゼロレベルの者に現れる現象のようですので、故障とかではないみたいです」
「ゼロレベルにゃ?」
「赤ちゃんなんかが測定すると、こうなるみたいです」
「ふ~ん……ちにゃみにそれでも冒険者になれるにゃ?」
「えっと……それは……また聞いて来ます!」
「先にわしのカードもやっちゃってにゃ~」

 たぶんわしも同じ現象が起きるので、何度も行かせるのは時間の無駄だ。わしはウサミミ受付嬢を止めて、水晶に肉球を置いた。

「えっ……またゼロレベル……それに、種族が猫ってなってますよ?」
「見ての通りにゃけど……にゃにかおかしいにゃ?」
「普通、猫族の方は猫族と出ますので……」
「じゃあ、故障かもにゃ~。その辺もまとめて聞いて来いにゃ~」

 本当は種族は間違っていないが、向こうが勘違いしているので合わせてあげる。ハンターの時みたいに職業欄をペットにされるよりマシだからな。
 それよりも、サトミが元気がないので相手してあげる。

「にゃんで落ち込んでるにゃ?」
「だって、勇者様がゼロレベルだなんてありえないんですも~ん」
「まだわしを勇者だと思ってたにゃ!? 勘弁してくれにゃ~」

 わしとサトミが揉めていたら、べティも参戦。

「ほら? やっぱりあたしが勇者なんじゃない??」
「ややこしくなるからべティは黙ってろにゃ~」

 今度はべティと揉めていた……わしが揉まれていたら、サトミの頭の上に何やら電球みたいな物が浮かんだ。

「そうですわ!」
「にゃ? さっきのにゃに??」
「なんか浮かんで消えたわね」
「勇者の剣がありましたわ!!」
「あの~……先に電球みたいにゃ物の説明してくれにゃ~」
「勇者の剣も捨てがたいけど……あたしもシラタマ君に一票!」

 サトミは興奮していて、わしとべティの質問は無視。教会に行けば勇者にしか抜けない剣があると説明してくれた。

「それを先に言いなさい! この勇者べティが抜いてやるわ!!」
「べティは裏切るにゃよ~」

 結局は電球の正体は教えてもらえず。ウサミミ受付嬢が戻って来たら、冒険者カードの件はサトミの王女オーラでうやむやに。まぁそのおかげで、無事、冒険者登録をすることができた。

「待って! 待ってください。パーティ申請の書類だけ書いて行ってください!」

 これだけは忘れてはいけないのかウサミミ受付嬢が必死に訴えるので、サトミも申し訳なさそうにしていたけど、べティがウザイ。

「ええぇぇ~。このべティ様が、ゼロレベルと組むの~?」
「あ、そうですね。それだけレベル差があるのでしたら、他の高レベルパーティを紹介しましょうか?」
「だってシラタマ君。どうしよっかな~?」
「勝手にしろにゃ~。わしはコリスとノルンちゃんだけ居れば問題ないにゃ~」
「ちょっ! ちょっとは引き止めてよ~!!」
「知らないにゃ~」

 わしとしてはマジでべティは追放したかったのだが、申請書類に勝手に名前を書きやがった。さらに、パーティ名まで勝手に書き込んで提出しやがった。

「では、マジカルキャッツの皆さん。これからの活躍を期待していますね」
「マジカルキャッツってにゃに!?」
「う~ん……急いで書いたから、耳にしたら微妙ね」
「変更にゃ~!!」

 わしの変更は却下。いつの間にかべティがパーティリーダーになっていたから、リーダーが申請しないといけないらしい。


 とりあえず、冒険者登録はできたので買い取りカウンターへ。支払われたお金は銀貨が数枚と銅貨が十枚ジャストだったので価値を聞いてみたら、安い宿屋で一泊したらお釣りが来る程度の値段。
 これは冒険者登録しておいてよかったと思っていたら、サトミに腕を組まれてわしは連れさらわれる。冒険者ギルドでの用事が終わったから、さっさと教会に行きたいみたいだ。

 ギルドから出て馬車に放り込まれたら、べティが止まって振り向いていたので、わしは窓から顔を出す。

「早く乗らないと置いて行かれるにゃよ~?」
「あっ! 待ってよ~」

 こうして冒険者ギルドをあとにしたわし達であった。


 馬車は大通りを走り、その後ろを冒険者が列を作って歩いている。どうやらべティとサトミが大声で「勇者、勇者」と連呼していたから、気になってついて来たらしい。
 その噂を聞き付けた民衆は「王女様が勇者を連れて来たってさ」と、尾ひれを付けて野次馬を増やす。

 そのことに馬車の中からでは気付けないので、わし達は雑談しながら教会へ。到着したらシスター長に裏庭に案内され、その後ろには大量の民衆が……

「にゃんかめっちゃついて来てるんにゃけど……」
「きっとみんな、勇者べティ誕生の瞬間を見に来たのよ!」
「それで勇者の剣が抜けなかったらどうするにゃ?」
「その時は……シラタマ君が抜いたらいいんじゃない? 力持ちでしょ??」
「それでも抜けなかったらどうするにゃ??」
「うっ……どうするのよこの民衆!?」
「わしが聞いてるんにゃ~」

 何度も質問することで、ようやく恥を掻くことを考え出したべティ。サトミの神託でも、勇者は妖精と魔獣を連れて東から現れるのだから、間違いなくわしやベティではない。

 だからって、最悪、勇者の剣を折ろうって……わしにやれと言っているのか? できるわけないじゃろ!!

 べティが証拠隠滅の仕方をレクチャーしてくれているが、わしはこんな奴と一緒にされたくないので、先を歩くサトミの隣に移動した。

「アレが勇者の剣かにゃ?」
「はい。勇者様があの岩に突き刺してから、三十年間、誰ひとり抜くことのできなかった剣でございます」

 裏庭の中央には、地面から出た三角形に近い形をした岩。およそ1メートルほど小高くなっており、頂上には立派な剣が突き刺さっている。
 その勇者の剣は、四本の柱で支えられている屋根で雨風から守っているようだが、錆びひとつ付いていないのだから必要性は感じ取れなかった。

 わし達は勇者の剣の前まで歩を進めると、民衆は固唾を飲んで見守る。

「じゃあ、わしから……」
「あたしからよ! 見てなさい!!」

 わしは恥を掻きたくないので先にやりたかったのだが、べティが行っちゃったのでサトミと喋る。

「さっき三十年間あのままとか言っていたけど、それまでに勇者が現れて抜かなかったにゃ?」
「はい。魔王が三十年周期で現れますので、それと合わせて女神様が勇者様を送ってくれるのです」
「そ……そう言えば、魔王復活って、最近とか言ってにゃかった?」
「はい。すでに復活しています」
「やられたにゃ……」

 これはマズイ。誰がわしをここに送り込んだかわからないが、こんなにちょうど魔王が復活しているのならば、わしに倒せと言っているようなもの。
 ひょっとしたら、わしが勇者の線もありえる。たんにサトミが神託を聞き間違えていた可能性もある。この子、ちょっと抜けてるんじゃもん。

 わしが様々なパターンを考えていたら、べティは勇者の剣の柄を両手で握って「ふんぬ~!」とか言っていた。

「もう諦めたらどうにゃ?」
「ま、まだよ! こっからが本番なんだから!!」
「こういうのって、スッと抜けるもんじゃにゃいの?」
「スウウゥゥ~~~!!」
「口で言っても抜けないにゃよ~??」

 諦めの悪いべティは、肉体強化魔法を使ってるっぽい。それでも一向に抜ける気配がないので、カメラにその顔を収めてからドクターストップ。

「すんごいブサイクになってるにゃよ~?」
「なっ……シラタマ君に言われたくないわ!!」
「誰がブサイクにゃ~!!」

 べティを侮辱して止める作戦は失敗。反論ついでにわしを愚弄するべティと、「にゃ~にゃ~」口喧嘩になるのであった。


 とりあえず、この口喧嘩でべティは勇者の剣から離れたので、次のわ……

「ノルンちゃんだよ~!」

 なんかノルンが飛んで行って、うんともすんとも言わずに帰って来た。
 なので、今度こそわし……

「コリス。おもいっきり引っこ抜くにゃ~!」
「まかせて!」

 いや、わしが勇者の可能性が出て来たので、べティ案を採用。コリスに折ってもらおう!

「ぐっ……ぎぎぎぎ……おもい~~~」

 ところがどっこい。コリスが無茶苦茶力を入れているのに、勇者の剣はビクともしない。わしの刀だって、コリスの力なら曲がるかもしれないのに……

「にゃにあの剣……コリスで折れないにゃんて……」
「それも凄いけど、このままやらせていいの?」
「にゃ?」
「めっちゃ地面揺れてるんだけど~??」
「コリス! もういいにゃよ~!!」

 このままでは教会が崩れそうなので、コリスもレフェリーストップ。周りのどよめきが凄いが、コリスがガッカリして戻って来たので心のケア。餌付けして撫で回したら、すぐに機嫌がよくなった。

「やはり勇者はシラタマさんしかいませんね!」
「大声で言うにゃ~」

 オオトリはわし。サトミがいらんこと言うので、民衆の期待の目が超痛い。脇汗もとめどなく流れる。これでもしも抜けなかったら切腹モノだ。
 しかし、やらないことには誰も納得しないだろう。それに、わしをこの世界に連れて来たのは、間違いなく神様。信用ならんが、神頼みするしかない。

 わしは念仏を唱えながら岩に乗り、勇者の剣の柄を握った!

「にゃ? あれ??」
「「「「「ああぁぁ~~~」」」」」

 スッと抜けるもんだと思っていた剣は、ビクともせず。民衆の落胆の声が凄まじく、べティもうっとうしい。

「プププ。期待させといて、それはないわ~」
「ち、力が弱かっただけにゃ~」
「じゃあやってみたら~? プププ」
「笑うにゃ~~~!!」

 べティのせいで、手加減のミス。わしはキレていたので力を込めすぎて、とんでもない事態となった。

 ふわっ……ドオオォォーンッ……

「「「「「あわわわわわわ」」」」」

 勇者の剣に突き刺さっていた岩は下に行くほど大きくなっていたらしく、裏庭一帯が30センチほど浮き上がり、無重力状態となった後、落下して鈍い音が響いたのだ。
 この事態には、全員腰抜かし。というか、衝撃で立ってられず。尻餅を突いて「あわあわ」言っている。

「あ~……えっと……さすがは勇者の剣にゃ。抜かれたくにゃくて暴れたにゃ~。にゃはは」

 とりあえず、頭をポリポリ掻きながら笑って誤魔化してみるわし。

「「「「「魔王……」」」」」

 しかし、その言い訳は悪手。魔王に抜かれたくないが為に、勇者の剣が暴れたのだと民衆は言い出すのであったとさ。
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