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拾伍 その後……
90 呼び出しの巻き
しおりを挟む忍チューバ―「竹島」奪還事件から一ヶ月……
とある人物に呼び出された半荘は、駅に集まっていたファンを振り切り、フードを深く被って町を歩いていた。
雑居ビルに入るとスマホを片手にエレベーターに乗って最上階に移動し、部屋番号を確認しながら奥へと進む。
そして目的の部屋の前に立つと、半荘はノックもせずに入った。
「いらっしゃ~い」
そこで待ち構えていたのは、絶世の美女。
黒髪ロングヘアーに、スーツの胸元をはだけた美女は、半荘を応接室に案内する。
半荘は言われるままに移動して応接室に入ると、フードを取りながらソファーに腰掛ける。
「コーヒーにする? それとも毒??」
美女のいつもの挨拶に、半荘は苛立ちながら答える。
「コーヒーでいい。絶対に毒を入れるなよ」
「あらん。今日はご機嫌ななめみたいね。それじゃあとっておきに、私を食べさせて、あ・げ・る」
「それが一番の毒だろ!」
「あはは。つれないわね~」
一連のいつもの挨拶を済ませた美女はケラケラ笑いながら、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して、半荘の対面に座って足を組む。
「それで、不死子さんが呼び出したって事は、新しい仕事か?」
缶コーヒーを少し口に付けた半荘は質問する。
「いえ。報告があるから呼んだのよ」
半荘から不死子と呼ばれた女……通称「三根藤子」は、缶コーヒーの縁を撫でながら答える。
「それよりも、先に労わせてちょうだい。任務達成ご苦労様。陛下も大変お喜びになっていたわよ」
「陛下って……」
労いの言葉を掛けられても、半荘はピンと来ない。
「俺は総理にめちゃくちゃ怒られたのに、不死子さんは陛下に会って褒められたのかよ」
「会うのは、まだ時期じゃないわ」
「じゃあ、どうやってわかったんだ」
「御歌が発表されたじゃない?」
「おうた??」
「ほら、『菊の花 陽の当たらぬ根にこそ 支えられ』……ってね。もう感動だったわ~」
うっとりとした顔で胸を揉みほぐす藤子に、半荘は気持ち悪い物を見る目に変わる。
「そんなので、どうして俺達を褒めてるってわかるんだよ?」
「しっかり『根』って言ってるじゃない! 私達の組織を、初めて和歌にして詠んでくれたのよ~。ハァハァ。やっぱり竹島を取り返して正解だったわ! 陛下の退位と即位に、最高の贈り物になったわ~。ハァハァ」
「俺の目の前でヤルな!!」
半荘の目の前で、モゾモゾしてハァハァ言っている藤子は置いておこう。
「根」とは、半荘の属する秘密結社。
元は、宮中祭祀を裏で仕切っているとされる「八咫烏」から分裂した「菊」に所属していた組織。
「菊」の構成は「葉」と呼ばれる戦闘員、「茎」と呼ばれる諜報員、それとは別に「根」と呼ばれる科学者集団。
その上に「花」があるのだが、名前の通り、菊の花をイメージした組織構成となっていたので、天皇陛下を呼ぶ場合の暗号となっていた。
「根」の仕事は、主に科学や医学の研究。
先の大戦で「葉」と「茎」は散り散りとなったので、占領軍に変な疑いを与えないように、「菊」は昭和天皇直々に解散させられてしまった。
唯一稼働していたのが「根」。
文字通り地に潜り、「菊」を補助する研究を続けていた。
そこに、「菊」のトップであった、天皇陛下を愛してやまない異常者が合流し、新生「根」として再出発がなされる。
異常者は「菊」の機能を小規模ながら復活させ、日夜動き続けている。
と言っても、天皇陛下を見守るだけ。
強い組織であっても出番は滅多に無いし、出番があったとしても人知れず解決してしまうので、表に出る事はない。
そんな秘密結社「根」の、現在トップに君臨する者こそが、三根藤子。
半荘の目の前で、モゾモゾハァハァしている女だ。
いつもながらの行動に、半荘はげんなりしてため息を吐くしかできないのであった。
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