49 / 93
捌 助け
49 通信の巻き
しおりを挟む日本艦隊総司令官の東郷からの電話が切られると、半荘は荷物を抱えて基地へと戻る。
ドアを開け、中に入ると待ち構えていたジヨンに詰め寄られた。
「大丈夫だった? 何があったの??」
「全然大丈夫だから、離れよっか?」
心配するジヨンは、半荘の手を握るので落ち着かせ、キッチンにて贈り物の件を説明する。
「それじゃあ、私のスマホも使えるんだ」
「使えるけど、もうちょっと待ってくれるか? 先に動画をあげさせてくれ」
「家族に無事を伝えたいんだけど……」
「終わったら、必ず使わせるから。な? てか、心配するのは、そっちじゃないと思うぞ」
「どういうこと?」
半荘は、睨み合って動けない、両国の艦隊の説明もする。
「救出されるには、時間が掛かるんだ……」
「最悪、この島が戦禍に巻き込まれて、火の海になる」
「まさかそんな事に……」
「とりあえず、打てる手は打っておこうぜ」
それから半荘は、ジヨンを伴って撮影を開始する。
二人がかりの撮影は夕方まで掛かり、各種動画を時間指定で投稿する。
その後、ジヨンにWi-Fiの使用を許可し、半荘も知り合いに何通かメールをする。
「ねえ?」
お互い無言になって作業をしていると、ジヨンが先に口を開いた。
「ん?」
ジヨンの質問に、半荘は顔を上げずにスマホを見ながら返事をする。
「通信室に入るのは制限を掛けたのに、スマホは使わせていいの?」
この質問には、半荘は顔を上げてジヨンを見た。
「あ……何処にメールしたんだ!」
「おっそ……」
あまりにも遅い半荘の追及に、ジヨンは呆れ顔。
「また俺を裏切ったのか!?」
「そんな事はしてないわよ。家族と、友達数人に安否のメールをしただけ」
「ホッ……」
「信頼してくれるのは有り難いんだけど、そんなにすぐに安心していいの?」
「え……じゃあ……」
コロコロ変わる半荘の顔を見たジヨンは、笑いながら答える。
「フフフ。しないわよ。ただね~……家族にマスコミが押し掛けているみたい」
「何かされたのか?」
「ちょっとね。嫌な事を言う人もいるみたい。お前はどっちの味方なんだとかね。どっちの味方も何も、家族は何もしてないのにね」
「他人はそんなもんだよ。俺の時も凄かったんだからな」
半荘は、数々の嫌がらせや殺害予告、本当に実行された事件を笑いながら言い聞かせ、ジヨンを安心させようとする。
「全然安心できないわ!」
当然、そんな話を聞いて安心できないジヨン。
包丁で刺されそうになったとか、爆弾の入った箱を開けるすんでのところで投げ捨てたなんて聞いては、家族にも同じ事をされると、よけい心配になってしまう。
ツッコまれても笑う事をやめない半荘に、呆れてツッコムのをやめてしまうジヨンであった。
それから夕食を終えた半荘は、ジヨンに手を伸ばす。
「そろそろ更新時間だから、スマホは預かるよ」
「ええ。でも、そんな事して来るのかな?」
「さあな~? 海自の東郷さんは、注意しておいたほうがいいってさ」
ジヨンからスマホを受け取った半荘は喋りながら金属製の箱に、二人が持つ電子機器を全て入れてしまう。
「パルス爆弾って聞いた事はあるけど、そんなの使ったら、開戦になるんじゃない?」
パルス爆弾……小規模の爆発の後、辺りに電磁波を振り撒き、電子機器を使えなくする爆弾の事だ。
「ドローンで持って来たら、レーダーにも引っ掛からないんだって。それだと、日本は反撃し辛いんだとさ」
「日本って、どれだけ弱腰なの? 韓国なら、すぐに反撃するわよ」
「あはは。もうとっくに、俺に向けて撃ってるもんな」
「よく笑ってられるわ~……プッ。あははは」
あっけらかんと笑う半荘に釣られて吹き出すジヨンであった。
こうして、和やかな雰囲気で、夜は更けて行く……
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる