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肆 滞在
26 憐れみの巻き
しおりを挟む「盗人猛々しいって言うけど、俺からしたら、韓国のほうが盗人に見えるんだけどな」
ジヨンが口ごもる中、半荘は畳み掛ける。
「話が決着しそうになったら、ゴールポストをずらす。政府が決められない事は、自分で洗脳した民意に丸投げ。最高裁は日本の事になると機能しない。一度決めた事も平気で覆す。てか、勝手に財団を解体したんだから、10億、返してくんない?」
半荘の捲し立てる言い方に、ジヨンは下を向いてしまった。
そうして半荘が勝ち誇った顔で見ていると、ジヨンの肩が小刻みに揺れる。
「あ……」
言い過ぎて泣かしてしまったと思った半荘は、手を伸ばして慰めようとしたが、ジヨンに「バシーン」と弾かれてしまった。
「あ~~~! もう!!」
そして、怒りの表情で机を叩いて立ち上がったジヨンは、早口で捲し立てる。
「そうよ! あの国はおかしいのよ!!」
そこからは愚痴だらけ。
必死で勉強して、いい大学に入っても就職先は無い。
大企業に就職しても、上に吸い上げられて給料は安い。
日本の製品を好んで使うくせに、不買運動なんて馬鹿げた事をして自分の首を絞める。
政府は嘘で嘘を本当にしようとして失敗だらけ。
その上、不正に汚職になんでも御座れ。
なのに民衆は政府に怒りをぶつけずに、日本に向かって拳を振り上げる。
操作されている事にすら気付かずに、デモに参加する馬鹿な民衆。
日本の味方をしようものなら吊し上げられる。
などなど……
終わらない愚痴に、半荘は聞いている振りを続けるしかなかった。
そうしてジヨンは息を切らして、椅子にドサリと腰を落とした。
「えっと……なんかすみませんでした!」
ようやく愚痴の止まったチャンスに、半荘は憐れみからか、口喧嘩には勝ったのに頭を下げる。
「ハァハァ……やっぱり過去の話はやめましょう」
「だな」
何も解決はしなかったが、ひとまず握手を交わすジヨンと半荘であった。
半荘は喉の渇いたであろうジヨンのために、ペットボトルを渡して飲むように促し、ジヨンも礼を言ってグビグビ飲んでから、話を再開させる。
「それにしても、あなたは日本人なのに、歴史に詳しいのね」
「まぁ学が無いからな。せめて話題のニュースぐらいはついて行こうと必死なんだ」
「学が無い? 大学へは??」
「行ってないぞ」
「うっ……そんな人に負けたなんて……」
「俺達の勝ち負けなんて、どうでもいいだろ。それより、日本に来るって事でいいな?」
「う~ん……」
半荘の問いに、ジヨンは考え込んで、数秒後に口を開く。
「そんな事をしたら、私が韓国に帰れないわ」
「あ~……日本に島を売った極悪人になるのか……」
「たぶんね」
「じゃあ、日本に帰化しちゃえよ。祖国が気に食わないんだろ?」
「そんなに簡単にはいかないわよ」
「俺と結婚したら、一番手っ取り早いだろ?」
「結婚??」
半荘の結婚発言に、ジヨンはキョトンとしてしまう。
「偽装結婚だ。確か、それで国籍が取りやすいって聞いたぞ」
「あ、そういう事ね。てっきり、私に気があるかと思ったわ」
「それもありか……」
「なんで乗り気なのよ!?」
自分で言い出した事なのに焦るジヨン。
さらに半荘は恥ずかしい事を言う。
「だって、お姉さん美人だし、こうやって女性と二人きりで話したのも初めてだから、ちょっとドキドキしてる」
「う、うん。ありがとう……」
褒められて照れるジヨンは礼を言うが、ひとつ気になる事があるようだ。
「二人きりが初めてって……彼女はいた事ないの?」
「そうなんだ。モテるほうだと思うんだけど、ちょっと怖くてな。いまだに童貞だよ」
「あ、そう……」
半荘のカミングアウトに、憐れみの目で見て、こいつは無いなと思うジヨンであった。
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