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弐 竹島
11 島の名は……の巻き
しおりを挟む二人の軍服の男に銃を向けられた半荘であったが、忍チューバーと暴露すると態度は一転。
銃口を外して、何やら二人で盛り上がり始めた。
『こいつ、忍チューバーだって言ってるぞ!』
『マジで? そういえば、この顔、見た事があるかも……』
『だろ? 服だって、忍チューバーの服だ!』
『ほ、本物か?』
『ぜったい本物だって! 声も聞いたままだ!』
う~ん……敵意は無くなったけど、二人とも興奮しているから怖い。
ファンでも、俺に無理難題を吹っ掛けてくるパターンもあるからな。
大抵は忙しいとか言って、ダッシュで逃げるんだけど、海に囲まれたここじゃな~……
『なあ? 握手頼んでもいいかな?』
『不法入国してるけど、それぐらい、いいんじゃね?』
『だよな?』
男二人は、何やら太ももで手をゴシゴシ拭いてから、座っている半荘に手を伸ばして来たので、首を傾げる。
ん? 握手か?
それぐらいかまわん。
ひとまず半荘は、一人とガッシリ握手をすると、捲し立てて喋り掛ける男に、「サンキュー、サンキュー」と言っていた。
そうして二人目とも握手を交わしていると、唯一ある建物へ続く道から、多くの軍服の男が隊列を組んで歩いて来た。
『何をしているんだ!』
上官らしき男が叫ぶと、半荘と握手していた二人の男は姿勢を正し、半荘に背を向ける。
『貴様らは、日本人と何を慣れ合っているんだ!』
『『はっ! 申し訳ありません!!』』
あら? 怒られてる?
何か悪い事でもしたのか?
説教を終えた上官は、半荘を一瞥してから二人の男に質問する。
『それで……この男が不法入国した日本人か?』
『はっ! どうも日本語しか話せず、英語も苦手なようです!』
『それなのに、何故、握手なんてしてたんだ!』
『それは……この男が忍チューバーだからであります!』
『忍チューバー? ……あの忍チューバーか?』
何を喋っているかわからないけど、俺の噂をしてるみたいだな。
忍チューバーって単語が出てから、空気が柔らかくなった。
とりあえず、俺は帰してくれるのだろうか?
不慮の事故で外国に来てしまったんだから、大丈夫だよね?
半荘が「ワーワー」と騒ぐ男達を見ていると、話し合いがまとまったのか、一人の男が前に出て来た。
「あなたは、忍チューバーで間違いないですか?」
お! 日本語だ!!
数日聞いていなかっただけで、懐かしく感じる……
いや、それよりも、皆の期待の目が痛い。
何かやれってことか?
半荘はキラキラした目を向ける男達に、立っていいかを聞いてから芸を始める。
あまり遠くに移動すると撃たれる可能性があるので、選んだ忍術は【分身の術】。
これは単に反復横飛びしているだけだが、水を走れるだけの脚力があれば、簡単にできる。
切り返した時に残像が残っているだけの、目の錯覚だ。
半荘が父親に五人の分身を見せた時には、白目を剥いていたから、できるとは思わなかったのだろう。
そうして5秒ほど【分身を術】を使った半荘は、片膝をついて印を切り、決め台詞。
「忍チューバーこと服部半荘。ただいま参上! ニンニン」
『『『『『わああああ』』』』』
大歓声、有り難う御座いま~す。
でも、人前でやるのは慣れないな。
特にセリフが恥ずかしい。
ニンニンって、いまだに意味がわからん。
こうして半荘は、全員から握手を求められ、全てに応えると、ようやく尋問が始まるのであった。
「それで、忍チューバーさんが、どうしてこんな所に居るのでしょう?」
通訳の男の質問に、半荘は頭を掻きながら答える。
「実はですね。船が沈没して漂流していたら、この島に着いたのです」
「じゃあ、海難事故にあったと言う事ですか?」
「そうです! 俺は、他国を侵害する意図はまったくありません。どうか、日本に帰してください!」
「そういう事ですか……少々お待ちください」
通訳の男が上官や部下に報告をすると、何やら難しい顔をして話し合い、数分経つと戻って来た。
「えっとですね……。ここがどんな場所か知っていますか?」
「いえ……そもそも、ここの国もわからないです」
「ここは韓国です。そしてこの島は、韓国の領土、『独島』です」
「どくと……」
「独島」ってアレだよな?
「竹島」!!
学の無い俺でも知ってるぞ。
日本と韓国が領有権を主張する島……
え? これって……
俺は一番来てはならない島に漂着してしまったのか~~~!?
こうして半荘は、日本帰国の危機に向かい合うのであった。
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