忍チューバー 竹島奪還!!……する気はなかったんです~

ma-no

文字の大きさ
上 下
9 / 93
弐 竹島

09 水走りの術の巻き

しおりを挟む

 ザザ~……ザザ~……

 太陽が真上に来た頃、半荘はんちゃんは聞き飽きた波の音で目を覚ました。

「朝……いや、昼か……。今日こそ誰か助けに来てくれたら……」

 半荘はボーッとした頭のまま呟き、ある事に気付いて飛び起きた。

「揺れてない? あ……そうだ! 昨日は島に着いたところで倒れたんだった……ひゃっほ~~~!!」

 遅ればせながら、半荘は生きる喜びに浸る。
 その喜びは半端なく、躍り狂う事となった。
 調子に乗ってブレイクダンスをしたところで、背中を岩肌で擦りむいてしまい、正気に戻るのであった。

「つつ……塩が染みるぜ……でも、生きてる!!」

 何度も実感する生に、次に襲い掛かるは空腹。
 腹が「ぐう~」と鳴った半荘は、防水袋を漁り、残っていた乾パンをかじる。

「ふぅ……陸の上で食べる乾パンは、またひと味違いますな~……てか、もう節約しなくても大丈夫なんじゃね?」

 半荘の、ここ数日の食生活は非常食は少なくし、とった魚がほぼ主食。
 それでも、腹八分目ぐらいは食べていたので、節約とはほど遠い。

「もう少し食べ……いやいや、この島を探索してからにすっか~」

 半荘は最後に見た風景を思い出し、周りを確認する。

 最後に見た光景は岩肌の島。
 現在は、海面から岩肌を登った平らな場所で荷物を広げている。
 歩ける場所も少ない。
 移動するには、壁に張り付いて移動しなくてはいけない場所だ。

「変な場所に登ってしまったな」

 生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだから、場所なんて選んでいられなかった。
 だが、壁なんて、半荘には平地と変わらない。
 本気を出せば、垂直に走れるのだからだ。

「さてと……ひとまず島を一周してみよう……いや、着替えが先か。忍チューバー、ストリートキングに転身なんて言われかねないからな」

 半荘は防水袋に入れていた忍び装束に身を包み、歩き出すのであった。
 いや、岩肌に張り付くのであった。

 それからロッククライミングで静かに島を一周し、荷物を持って、先ほど気になったポイントに戻る。

「こっちは無人……あっちは建物……」

 気になるポイントは、海を挟んだ先にある島。
 そちらも岩肌の目立つ島なのだが、角度から見えづらいが、頂上付近に建物が乗っているのがわかる。

「あそこは整備された港っぽい……と言う事は~?」

 そう。何も無いかもと思った島には、人が行き来している痕跡があった。

「帰れる!」

 半荘はまた、「ひゃっほ~」と踊ったのであった。


 そうして落ち着いたところで、島に渡る方法を考える。

「これぐらいならいけるか」

 考える時間は数分で、半荘は準備に取り掛かる。
 向こう岸に近い波打ち際まで降りると、荷物を船の残骸に乗せてワイヤーでくくり、極力長く伸ばしてから屈伸をする。

「さて……やるか」

 使う忍術は【水走りの術】。
 長い布を水面の下にセットして、そこを走り抜ける忍術だ。
 走り方にコツが必要で難しい忍術だが、半荘は幼少の頃にマスターしている。
 難無く水の上を走り切った半荘を見た父親は、口をあんぐり開けていたから、できるとは思っていなかったのだろう。

 でも、布をセットしていないのにできるのか?

 当然だ。
 俺は忍チューバー服部半荘だからな!

 半荘は体を前傾姿勢にすると、勢いよく走り出す。
 右足が水面につけば、沈まない内に左足を水面につけて右足を上げる。
 そして右足が沈まない内に左足を進める。

 なんの事はない。
 俺にとっては、水も地面もたいして変わらない。

 幼少の頃に【水走り】はマスターしたって言っただろ?
 その時から俺も進化してるんだ。


 こうして猛スピードで海を走る半荘は、向こう岸に着くと、荷物を引き寄せるのであった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...