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壱 忍チューバ―漂流記
03 忍チューバーの苦悩の巻き
しおりを挟むザ~……ザ~……
「はぁ……」
ああ。そうだ。
忍チューバーの件はわかってくれたな。
じゃあ次は、俺が日本海沖でボロ船に乗って、波に揺られてため息を吐いている件だ。
動画をアップして、トップランカーになったと言っただろ?
つまり、広告収入で金もいっぱい手に入ったんだが、人気もいっぱい手に入ったんだ。
そうなるとどうなるか……
俺も馬鹿じゃない。
忍び装束に身を包んで顔を隠して撮影はしていたんだ。
まぁ結果論だけどな。
別に意図して忍び装束を着ていたわけではないんだが、そのおかげで顔を指されずに静かに暮らしていたんだ。
だけどネットって怖いね。
撮影場所を特定し、俺に辿り着いた奴がチラホラ現れて、住んでるボロアパートにまで現れたんだ。
そうなったら顔も晒され、過去まで晒されるんだぜ。
俺の事を無視していた学校の奴等も、新聞配達の社長も、俺より先にテレビに出ていたよ。
学校では、ある事がきっかけでボッチだったのに、俺にはこんなに友達がいたんだ~って、笑ったよ。
社長なんて、忍チューバーは俺が育てたんだとか、俺が一度見せた新聞手裏剣をマネして失敗してやがった。
だから俺は、次の更新で、真実を語ってあげたよ。
「名前も知らない奴等が俺の友達なんだ~。社長はケチで給料上げてくれなかった~」
なんてな。
詳しく説明はしなかったけど、そいつら全員釣るし上げられて、かわいそうな事をしたかもな。
まぁ俺の人生で、この先出会う事のない奴等の事を心配してもしょうがない。
俺も目の前の事で忙しかったからな。
壁走りの術が危険だとか、火遁の術が危険だとか……
子供を守る保護者の団体と戦っていたからな。
俺の動画には、全てテロップに「プロの忍者がやっているのでマネをすると死の危険があります」と書いていたのだが、マネするガキが続出していたんだ。
それなのに、連日ボロアパートの前で「やめろやめろ」と言われたら、寝るのもままならない。
さらに俺の動画が、トリック映像だと騒ぐ者まで現れてな。
だからわざわざ人を雇って、トリックっぽい映像を作ったら、大炎上だ。
今まで信じて見ていた者まで、ボロアパートまで押し掛けて来て、俺は大屋さんに追い出されたってわけだ。
それから家探しで手間取っていたら、更新がなかなかできなくてな。
その間に、事態は転回していったよ。
トリック映像通りやっても、俺と同じ動きにならないからと、肯定派と否定派の大激論。
俺の動画を楽しみにしている外国人による日本バッシング。
お前達がつまらない事で騒ぐから、忍チューバーは消えたんだとかな。
俺の知らないところで、俺の知らない人が、俺のために戦ってくれていたんだ。
あとで聞いて、グッと来るところがあったな。
その間、俺は何をしていたか?
もちろん俺も戦っていたんだ。
不動産屋と……
都会は人が多すぎるからパスして地方のホテルに泊まり、家探しをしていたのだが、俺が忍チューバーと知ると、賃貸は全滅だ。
マンションも購入できないし、一軒家も便利な場所は全滅。
最終的には、子供の頃に住んでいたようなポツンと一軒家を買う事となったよ。
でもな、電波が入らないんだ。
このご時世に、ライフラインがひとつも繋がってないんだ。
動画の広告収入で暮らしている俺にとって、死活問題だ。
だから現住所をここに置いて、旅をしながら点々と活動しようとしたら、行く先々で囲まれてしまって活動もままならない。
また現住所も晒されてしまって人が集まって来る。
聖地巡業ってなんだ?
俺は最近ここに住み始めたんだぞ?
そんなうるさい生活が嫌になって、静かな場所に行きたいと思い、海を眺めていたんだ。
無人島を買えれば……
まぁいくら金があっても、無人島は現実的ではない。
船の上で生活すればいいんだと考えたんだ。
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