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第一章

28 管狐 走る

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 俺は管狐。
 お隣のお姉さんの殺気は、お嬢ちゃんの漏れている霊気を吸っていると紙に書いて、なんとか収めてもらったが、いなり寿司は一日二個までと決められてしまった。
 奥さんにすり寄ってみたが、お嬢ちゃんの命令で、失敗に終わった。

 それから数日、今日もお嬢ちゃんはお姉さんと一緒に学校に向かっている。

「ヨウコ。ちょっと痩せたんじゃない?」

 そういえば、以前と比べて体が軽くなった気がする。
 今なら走る事も出来そうだ。
 やはり、いなり寿司のせいだったのか?

「元の姿に戻るまで、禁いなり寿司にしよっか?」

 そ、そんな……

「体型が戻って来てるなら、今の量で大丈夫よ。後は運動して痩せさせた方が体にいいよ」
「あやかしでも~?」
「に、人間の場合はね。それに、この絶望的な顔を見ると、かわいそうじゃない?」
「う~ん。そうだね」

 ホッ。
 なんとか一日二個は死守出来た。
 お姉さんには感謝だな。

「今日は体育の授業でマラソンがあるから、一緒に走ろう!」

 え?
 その時間は唯一、俺がゆっくり出来る時間なのだが……

「走らないなら、いなり寿司なし!」

 うぅ。お嬢ちゃんの命令では仕方ない。
 走るとしよう。


 ………


「やっと体育だ。行こ~」

 お嬢ちゃんは本当に体育が好きだな。
 さっきまでの授業と違っていきいきしている。
 たしかマラソンと言うのは、外をぐるぐる走るやつだな。
 たまに窓から見ていたから知っている。
 お嬢ちゃんが一番になれたとか、なれなかったと騒いでいたやつだ。
 みんなの後を、踏まれないようについて行けばいいって言ってたな。
 簡単な話だ。


 ………


 先生が集まるように言っているな。
 スタートするみたいだ。
 とりあえず最後尾につけて……

「位置について~……よ~い。ドン!」

 お! 走り出したな。
 俺も……
 うん。転がらなくても、うまく走れる。
 よしよし。
 これなら子供達に余裕で追い付ける。
 当然だ。
 猫や犬に追い掛けられても、逃げ切ったからな。

 さて、お嬢ちゃんは……先頭でぶっちぎっている。
 たしか、五周するのだろ?
 飛ばし過ぎじゃないか?

 ひとまず一周。

 お嬢ちゃんは……まだぶっちぎっているな。
 あと二周もすれば、追い付かれそうだ。

 二周。

 お嬢ちゃんはしんどそうだな。
 俺も調子が出て来たし、外回りから速度を上げていこう。

 三周。

 あら? お嬢ちゃんが先頭集団に追い付かれそうだ。
 お嬢ちゃん。頑張れ!

 四周。

 うん。お嬢ちゃんに追い付いてしまった。
 お嬢ちゃんは必死に走っていて、俺に気付いていない。
 俺もみんなより外回りを走っているから、さすがに疲れてきたな。

 五周。

 このままいけば、お嬢ちゃんが一番にゴールしそうだ。
 俺が先にゴール出来るが、そんな事をすると、何を言われるかわからないから、後からゴールしよう。

「やった! いっちば~ん!!」

 よくやった!
 さすがお嬢ちゃんだ。
 もう近付いても大丈夫かな?
 行ってみよう。

「あ、ヨウコ。もうゴールにいるなんて……ちゃんと走った?」

 ずっと近くにいたから!
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