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第二十五章 アメリカ大陸編其の四
724 時の賢者の手記パート3(猫抜粋)
しおりを挟む戦地から出現した黒い森は、それはもう凄い速さで広がり、俺にも手に負えなかった。人も黒い森から逃げるように移動していたが、パニックになっていたから手助けのしようもない。
これも後日聞いた話だが、スサノオノミコトが中国の事を何度も助けたせいで魔力がトンでもなく溜まっていたから、中国全土が一気に黒い森に変わったらしい。
そんな事とは露知らず、俺は当初の予定通り東に向かいつつ、目に移る人だけを助けながら進むしかなかった。
ついにユーラシア大陸の東の端、日本海まで出たら、自分で作った船に乗って出港したけど挫折。馬鹿デカイ黒い魚に襲われて、命辛々陸に戻った。
そこで漁村があったから海を渡れないのかと聞いてみたら、大きな船ならなんとか渡れるらしいが、それでも何隻も沈んでいるとのこと。
どうやら船の移動は命懸けらしい。
それならば空を行けばいいと考え、飛行機を作ろうとしたが、一人ならばハングライダーで十分かと思い直し、空に飛び立った。
やはり、ハングライダーで正解だ。風魔法を使えば、大海原を鳥になった気分で進む事が出来た。
対馬辺りで一度休憩し、島根県に近付くと灯台の光に誘われて着地。しかし灯台だと思っていた物は出雲大社だったので、その荘厳な佇まいに感動してしまった。
しばし立ち尽くしていたら、袴姿の白いキツネが歩いて来たので、襲われると思って身構えたら日本語で挨拶して来た。
どうやらこの世界の日本では、キツネが歩いているらしい……
信じられないが、現物が目の前に居る。少し撫でさせてもらったが、背中にチャックなんて付いてなかった。
丁寧な挨拶だったのでどうしてかと聞いたら、海を越えて来た人は久し振りだったから歓迎してくれているようだ。
それも見た事もない人種だから、天皇陛下と会わせてくれる流れになったが、キツネに見た事もないとか言われるとは思いもよらなかった。まぁこんな厚待遇は珍しいので、お言葉に甘える事にした。
キツネと共に出発して二日、ついに京に到着した。本来は十日ぐらい掛かる道のりだったのだが、キツネがあまりにも歩くのが遅かったから肉体強化の魔法陣を付与してあげたら飛ばしまくったので、こんなに早く着いたのだ。
京の湯屋で旅の汚れを落とし、翌日には天皇陛下と謁見。俺も日本人の端くれともあり緊張してお会いしたのだが、それよりも天皇陛下の前に居る化け物女に釘付けになった。
九尾のキツネ、玉藻前だ。
こいつに天皇陛下は操られているのかと警戒していたのだが、二人は仲良く俺の話を聞いていたから、そういうわけではなさそうだ。
緊張が解けた頃に中国の話題になったので、滅んだ確率が高いと教えてあげたら残念がっていた。どうも近々船を出して見に行こうとしていたらしい。
そもそも昔は交流があったが、海に巨大な魚が増えてからは一気に数が激減したそうだ。そりゃ、毎回何隻も沈められたら、生き残った者も帰りたくなくなるだろう。
しばらく京に滞在していたら玉藻前とも打ち解けて、つい、うっかり転生の事を喋ってしまった。
意外にも玉藻前は俺の話を信じてくれたので未来の日本の話をしてあげたが、こんな資源の乏しい島国では、俺の生きた世界を再現させる事も難しいだろう。
別れの際には、一縷の望を乗せて機械時計を預けた。もしもこれを再現できる者が現れたら、一気に技術が発展するはずだ。
こうして俺は、一年ほど観光した日ノ本を立ったのであった。
北海道を抜けてロシアに入ったところで一度実家に顔を出したが、あれから五年も経っているのにまだ白象教は俺の事を探し回っていたので、旅を継続。ロシアの海岸線を北上する。
この辺は黒い森が無いので、中国の人も北上していたら助かる可能性がある。しかし、ロシアでも似たような戦争が起こっていたら、挟み撃ちになりそうだ。
そんな心配をしつつ、たまに出会った人間に砂時計と食べ物を物々交換して進んでいたら、チェクチ族という部族と出会った。
真っ黒な家が一軒だけ建てられていたから気になって調べてたら、鉄のようだった。変わった鉄だから、ここでも砂時計を渡して物々交換をする。
ただ、ここへ来て毎日吹雪いていたので時間があったから、24時間計れる大きな砂時計を作り、設計図もあげた。出来るだけ黒い鉄を手に入れたかったからの大盤振る舞いだ。
そんな事をしていたら晴天となったので、手を振るチェクチ族に見送られて旅立つ。
目指すはアメリカ大陸。北極圏の冬という事もあり、アラスカまでの道のりは流氷の上を歩く事になったが、古代の人間はこうやってアメリカ大陸に渡ったのだと感動して進んだ。
アラスカに到着して、ひとまず東に向かっていたら黒い森を発見した。こんなところで戦争なんてしていないはずなのにと不思議に思いながら南下したら、人間を発見した。
これが、遠い昔に居たネイティブアメリカンかと感動して近付いてみたら、槍を向けられた。なかなか好戦的な部族のようだ。
テレパシーでなんとか敵意がないとわかってからは友好的になってくれたので、ここでも物々交換して食料を分けてもらう。
やはり、砂時計はどこへ行っても大人気だ。どちらかというと機能より見た目に珍しさを感じているようだ。いちおう今まで物々交換した人同様、作り方を教えてみたが、この部族に作れるかは微妙だ。
すぐに壊れては発展に繋がらないので、出来るだけ長持ちするように防御力を上げる魔法陣を付与したから、その間に作れるようになると信じよう。
それからまた南下していたが、俺の世界のアメリカとはまったく違う。どの州も人口のせいで高層ビルが立ち並んでいたのだが、眼前にあるのはどこまでも続く平原。
こんなところから高層ビルだらけにしたのかと考えただけで、人間の進歩とは凄まじいと感動した。
しかし、目的地も決めないと、このだだっ広い大地を歩くだけとなってしまう。なので、記憶を頼りに思い出していたら、遺跡を見に行くのはどうかとの結論に至った。
そこならば、文化遺産保護制度で守られていたので、ネットで見た事がある。様々な都市伝説もあったので俺も興味があるからさっそく足を運んでみた。
まずは、クリフ・パレス。宇宙人だとか地底人だとかが作った岩窟住居だ。でも、正解は、二足歩行の人間みたいなアリ。めっちゃキモイが、テレパシーで話し掛けてみたら、意外と気さくなアリだった。
どこから来たのかと聞いたら、地底。なんだか故郷が暑くなったから避難して来たそうだ。おそらくだが、マントルの活動に異常を来して暑くなっているのだと思われるが、そんな地底で暮らしている事のほうが信じられない。
もしかしたら、俺の世界でも地底人が居たのかもしれないが、その科学力を持ってしてもわからない深さに暮らしているのかもしれない。
また故郷に戻るのかと聞いてみたら、百年も経てば涼しくなるから戻るとのこと。じゃあ、もうこのアリ達は故郷が拝めないんだなと考えていたら、生まれ変わって見るから大丈夫だと言われた。
それは輪廻転生なのかと聞いてみたら、スサノオノミコトの事は知らなかった。
聞き取り調査の結果、俺の予想では、このアリ達は増えたり減ったりしないで体を乗り換えて暮らしている。これはもう、不死の集団なのではないか……
その時俺は、古事記に出て来る黄泉の国を思い出したが、こんな姿で永遠に生きたくないと記憶に蓋をした。
とりあえず、いつもの物々交換で大きな砂時計を作ってあげたら喜んでくれたので、文化レベルはたいした事がない。娯楽も少ないだろうし、次回の転生先の候補から外して旅を再開した。
所々観光地で寄り道したら、俺の待ってましたの遺跡、パカル王墓に到着した。残念ながら大戦があったらしく、メキシコは黒い森が生まれていたので人間は居なかった。
都市伝説では、このパカル王は宇宙船に乗っているとなっていたが、俺の世界でもいまだ火星移住が叶っていないのだから、そのヒントを得られるかもしれない。
何せ、火星は人間が住める環境ではない。苔やゴキブリを送ってみたが改善なんて出来なかった。それよりも、火星までの距離が遠すぎて、旅行に行くにも時間が掛かるから不人気なのだ。
ひとまずパカル王墓を探索してみたが、この程度の文明に宇宙船が作れるはずがない。念の為、地下を調べる探知魔法を使ってみたら、葉の十字の神殿の地下深くに、大きな金属が埋まっている反応があった。
まさかと思って土魔法で掘り出してみたら、白銀のUFOを発見した。しばしここで寝泊まりしてUFOを調べていたら、大変な事に気付いた。
これは宇宙船ではなく、神の乗り物。コントロールパネルのような白銀の石板から浮かび上がる難解な文字を読み解くと、スサノオノミコトを始め、神々の名前があったから確実だ。
あまりスサノオノミコトと連絡をしたくなかったが、祈ってみたらその日の夢に現れて、魂が削れるほど怒られた。
ビーダールでは白い巨象が居なくなって黒い森が広がり、中国は壊滅。その他俺がおせっかいでした事も黒い森を広げてしまったのだとか……
魂が小さくなるほど怒られたわけだが、いちおうUFOのマニュアルに書かれていた渡航券をくれないかとお願いしてみたら、説教が一段と伸びた上に、もう手助けしてやらないと切られた。
目覚めたら三日も過ぎていて、瀕死の重症だった……
体調を戻しながらこれからどうしようかと考え、やはり神の乗り物を使って元の世界に帰りたいので一計を案じる。
スサノオノミコトがこの世界に固執している事は明白だから、俺の他にもスカウトした転生者が居るはずだ。その者が気に入られていたら、渡航券が貰えるはず。それに転生者なら、遺跡を見たいと思う確率は高い。
俺は転生者が喜びそうな施設を作る事にした。
まずはメキシコからペルーまでの遺跡の調査。残念ながらマチュピチュは建設中だったが、クスコの街は残っていたのでしばらくはここを拠点とする。
ナスカの地上絵も見に行き、その辺の部族に作り方を教えてもらったり、戦争はするなと言って回ったりしながら交流を持つ。
次に石の聖地アラシャに向かい、宝石をザックザック掘りまくる。その過程で魔力の坑道のような物を発見したので、これを動力源に活用する。
至る所から鉄を掻き集めて、地上はピラミッド、地下はダンジョンの建物を作る。鉄色で少し味気ないが、アマゾンにピラミッドがあれば転生者なら入りたいと思うだろう。
内部は一番上の2フロアは俺の生きた軌跡。これは暇な時間を使って徐々に整理するとして、地下のダンジョンを先に完成させよう。
迷路に罠、休憩ポイントまでを作ったら、モンスターの製造。土のゴーレムを作っても良かったのだが、あまり弱すぎると転生者が面白くないだろうから、少しは防御力のある鉄にしたほうがいいだろう。
見た目を変え、動きも俊敏にし、魔法を使えるモンスターも面白い。ボスなんてパーティで倒せるように巨大にしておけば、VRゲームのダンジョンを再現しているようだ。
もちろん報酬は俺の集めたお宝。各地で砂時計と交換で手に入れた物だけでもいいのだが、俺の作った最強装備も付けてやる。大盤振る舞いだ。
案内役には自立式ゴーレム。絵が下手なので苦労したが、俺の大好きだったアニメに出て来る妖精そのものが奇跡的に完成した。性格もそっくりに作ったから、間違いなくこれは、俺の最高傑作だ。
ラスボスは、強度のある黒い鉄を使った巨大なスフィンクス。それを倒した者には裏ボスの、俺の登場だ。
各地の遺跡にクリスタルスカルをバラ蒔き、これを五個揃えた者に時のダンジョンの扉が開かれる。
さあ、来たれ冒険者よ~~~~!!
いい加減来てくれよ……
もう寿命だ……
ここのお宝はやるから適当に使ってくれ。
その代わり、裏ボスめっちゃ強くしたからな!!
* * * * * * * * *
「にゃに逆ギレしてるんにゃ~~~!!」
手記の編纂がやっと終わって、少しかわいそうに思っていたわしであったが、最後の一文にやっぱりツッコンでしまうのであったとさ。
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