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第二十五章 アメリカ大陸編其の四

723 時の賢者の手記パート2(猫抜粋)

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 母国と隣国の戦争は、俺の介入で一人の死者もなく終結した。少し魔法陣の規模が大き過ぎたから、負傷者大多数となってしまったが……
 しかし、両国にわだかまりが残らなかったのはいい結果だろう。その代わり、俺が怖がられる事になってしまったが……

 戦争のせいでどこへ行っても「時の賢者、時の賢者」とうるさくなってしまったので、しばらく身を隠す事にした。目的地は、西にある黒い森。イタリア辺りを見てみたいと思ったのだ。
 黒い森の奥に行くほど強い獣が増えるので、さすがに俺でも骨が折れる。しかし、今まで使うことを躊躇ためらっていた魔法を使えるのは気分がいい。それに獣は原型は留めているから、次元倉庫に入れておけば帰った時には大金持ちになりそうだ。
 まぁ砂時計の設計図を売って恒常的に金が入ってくるシステムは作ったから、一生楽して暮らして行けるけどな。


 黒い森をさらに奥、誰も辿り着けない場所まで進むと、見た事もない白い獣が居た。おそらく黒い獣の上位種だと思われるが、いまの俺では勝てる見込みがない。ここは迂回してさらに進むと、白い木が増えて来た。
 そこは化け物だらけ。大きさも10メートルを超す獣が多く、20メートルを軽く超える化け物が渦巻いていた。

 こんな場所を堂々と歩けるのは、俺ぐらいだろう。認識阻害、光学迷彩、におい遮断、熱も遮断する魔法陣を張り付けたマントを羽織っているから、獣に気付かれないのだ。
 夜になったらそれらを合わせた結界を張って寝ているから、寝不足にもならない。魔法書が無ければ、こんな無茶な冒険をしようとは思わなかっただろう。

 それからも奥へと進み、たまに街の跡を見付け、海沿いを進んでいたらイタリアに着いたと思われるが、いくら歩いても巨大な黒い木と白い木しかない。

 これが大戦が招いた結果なのかと思ったら、ゾッとした。

 そろそろ帰還を考えていたら女の子の悲鳴のようなものが聞こえたので、そちらに向かった。

 そこで見たのは、白い髪のエルフの少女。素手で白い獣と戦っていたのだ。

 物語に出て来るエルフが目の前に居ると感動していたら、エルフは絶体絶命。白い獣の前脚で殴られ、木を何本もぶち抜いて倒れた。
 そこに追い討ちを掛けるように白い獣はゆっくりと接近し、大口を開けたところで俺は覚悟を決めた。

 俺の持つ、最大火力の魔法陣を複数使い、白い獣を吹き飛ばしてやったのだ。

 白い獣は油断して大口を開けていたのが幸いして、内部攻撃となったからそれで倒せた。
 しかし、大きな音が鳴ったので獣が近付いて来る可能性が高い。俺はエルフを背負ってその場をあとにした。


 ある程度離れたら、結界を張ってエルフを治療したのだが、受けた攻撃が悪かったのか、エルフは記憶喪失になっていた。
 エルフはボロボロの服も着ているし、いちおう言葉は通じたからエルフの集落があるのだろうと探してみたが、見付からず。エルフも帰りたそうにしないどころか、どことなく恐怖に震えているように見えた。

 もしかしたら迫害を受けていたのか、それとも集落は獣に襲われて滅んでしまったのか……

 どちらにしても、エルフには帰る場所が無いのかもしれない。それでも集落ぐらいは見付けてやろうと頑張ったのだが、食材が尽きてしまって帰還を余儀無くされた。


 帰りは転移魔法陣で一瞬。俺一人で女の子の世話なんて出来ないので、久し振りに実家に帰って来た。
 そこで旅の報告をしてダラダラしていたら、女王陛下にまた呼び出された。俺が戻ったら報告するように、両親は口を酸っぱくして言われていたようだ。

 何の用かと出向いたら、「時の鐘」を輸出して他国から感謝されたので、国に貢献した勲章を授けるとのこと。別にそんな物は欲しくなかったのだが、そのおかげで俺のやらかし談は払拭されたのはいい傾向だろう。

 女王陛下との会食はいつも通り緊張したが、この数年の旅の話をしたら喜んでもらえた。エルフも紹介して、白い獣と互角に戦っていたと説明してみたら疑われた。
 なので、俺が倒した白い獣を見せたら、引かれた。どうやら災害級の生き物だったらしい……

 そのことで、女王陛下はエルフにも興味を持って、騎士との模擬戦を見たいとの話になった。その結果、騎士はエルフの前で一秒も立っていられなかった……
 こんなに強いのかと俺も驚いていたら、女王陛下は大事にするからエルフを譲ってくれと言って来た。しかし、兵士にするのは目に見えていたので断ったのだが、エルフは自分から立候補したのだ。

 どうも、俺はあまり好かれていなかったらしい……

 あとで聞いた話だと、俺に迷惑を掛けているのではないかと気を遣っていたらしいけど、その時言ってくれたらあんなにへこまなかったのに……


 エルフの事は女王陛下が責任持って養ってくれるし、俺の悪い噂は無くなっていたので、ここから各国を見て回る旅を始めた。
 大戦が起これば、黒い森が増えてしまう。いざとなったら、君主を暗殺してでも止めてやろうと歩き回ったが、平和なもの。
 なので、傭兵ギルドで獣を売りつつ各地を見て楽しんでいたら、俺の元へ依頼が入った。

 ビーダールと言う国が白い象に滅ぼされようとしているから、最強の時の賢者だけが頼りなのだとか……

 そんなよいしょしなくとも、国の危機なら協力はやぶさかではない。それに白い獣とは、一度ガチで戦ってみたかったのだ。

 俺は意気揚々とビーダールに乗り込んだけど、それはないわ~。

 現物見たら、山。鼻が七本もあって、あのイタリアで見た白い獣の数々がお子様に見える。俺の最強魔法でも、ダメージを与えられるか微妙だ。
 しかし、急がないとビーダールは確実に滅ぼされる。俺は頭と魔法書をフルに使って封印することにした。

 白い巨象がすっぽり入る巨大な魔法陣を夜のうちに作り、巨象がその中心に来たら発動。少し石化に時間が掛かるのがネックだったが、巨象は何故かそこから動かなかったので助かった。
 魔法陣の威力に極振りしたから範囲外に出したら石化は解かれるが、あんな物を動かせる奴なんて居ないだろう。まぁさすがに千年も経てば石化は解けるだろうから、その間に倒せる人間が生まれる事を期待しよう。

 こうして俺はビーダールを救い、救世主としてあがめたてられたのであった。

 ……と、思っていた頃が俺にもありました。翌朝起きたら事態は一変。俺の依頼主は白象教の教皇とビーダール王だったのに、白象教信者が怒りながら俺に襲い掛かって来たのだ。

 どうやら白い巨象は白象教の神様だったらしい……

 いや、俺だって、おかしいとは思ったぞ? 白象教だし……。でも、あんなの居たら危険じゃん? それにビーダールのツートップから頼まれたら断り難いと思わないかい??

 結局のところ、キレた信者に追い回されて逃げるように母国に帰ったのだが、信者は俺を追って来てしまった。
 「神殺し」なんて大合唱されてしまっては母国に滞在するわけにはいかず、また身を隠そうと各国を転々としていたら、殺し屋まで現れた。
 どうせ信者が暴走したのだと思ったら、雇い主は教皇とビーダール王。どうやら俺の口封じをしたいらしい……

 この事から、白い巨象を元に戻してやろうと思ったのだが、如何いかんせん、強力にし過ぎたから俺にも不可能だ。
 せめて暗殺は止めようと、教皇とビーダール王宛に「ひょっとしたら数十年から千年以内に石化が解けるかも?」って嫌がらせの手紙を送っておいた。
 そのせいで、白象教の動きはさらに活発化。行く先行く先追って来るので、俺はエベレストを越える決断に至った。


 白象教信者を引き付けるだけ引き付けたら、エベレストの登頂。信者は高山病で次々に脱落して行き、八千メートル辺りまでついて来ていた男を振り切ったら、エベレストの頂上で下界を眺める。

 しかし、古代人の頑丈さには恐れ入った。まさか何の装備も無しにあそこまでついて来られるとは……死んでませんように!

 俺は空気を作る魔法陣と温度を操る魔法陣、肉体強化の魔法陣を使っているから、エベレスト登山だってたいして苦にならない。
 一気に滑り降りて、中国に足を踏み入れたのであった。


 中国では、最初の内は人里には寄らず、十分離れたところでようやく街らしき場所に寄ってみたが、言葉が通じない……
 よくよく考えたら、英語圏を抜けていたのだ。外国人も珍しいらしく、白象教信者かってぐらい囲んで来るので居心地が悪い。
 魔法書で急遽覚えたテレパシーを使い、旅費は砂時計を売りながら先を進む。そうして古代中国の観光をしながら東に抜けようと思っていたが、キナ臭い噂が聞こえて来た。

 戦争だ。三ヵ国の睨み合いの状態だったのが、宋という国の皇帝が病で崩御し、二ヵ国の全面戦争になると商人から聞かされた。
 中国なんて戦争ばかりだったのに今まで滅んでいなかった事を不思議に思っていたが、後日聞いた話だと、あまりにも広範囲の人が死ぬので、スサノオノミコトが何度か浄化装置を止めていたらしい。

 だが、この時は知らなかったので、今度こそ浄化装置が作動してしまうと思った俺は、両国の全面戦争に介入し、終結に持ち込んだのであった。

 まぁ、前回と同じように、負傷者大多数だったけどね。


 無理矢理ではあったが、両国はこれで手を取り合ってくれる事になったので安心していたら、戦争の引き金になった宋の皇帝が挙兵した……
 どうやら宋の皇帝が嘘の情報を流し、大きくなりつつある二ヵ国を焚き付けて戦争させ、弱ったところを叩こうとしていたようだ。

 二ヵ国の王は協力して戦う流れになったので止めたら、元々は宋の皇帝が覇権を握り、民族を根絶やしにしようとしていたからどうしても引いてくれない。
 ならば、俺が皇帝を暗殺してやるからという条件を出したら、それならばと引いてくれた。

 それから挙兵していた宋の軍隊を見付けた俺は、闇夜に乗じて皇帝の暗殺に成功する。

 これで中国は安泰だと思った矢先、二ヵ国が同時に宋に進行した。そこからは、頭のもがれた宋の反撃は凄まじかった。

 皇帝が死んだせいでより結束が固くなり、守りを捨てて各地で戦争が起こったのだ。なんとか止めようと俺も走り回ったのだが、一部しか止められずにその時が来た。

 突如、黒い木がそこかしこから飛び出し、人間の住めるような土地では無くなったのだ。

 ところでこれって……俺のせい??


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「お前のせいにゃ~~~!!」

 手記の中から時の賢者が、何やらわしに語り掛けて来たように思えたので、わしのツッコミが冴え渡るのであっ……

「この白い巨象の復活は、やっぱりシラタマさんのせいだったのですね」
「ち、違うと思いますにゃ~。千年ぐらいで石化が解けると書いてるにゃろ~?」
「ここには、魔法陣から出したら復活するって書いてるニャー!」

 伝説の白い巨象復活の確証だと、リータとメイバイにツッコまれるわしであったとさ。
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