722 / 755
第二十五章 アメリカ大陸編其の四
712 オニヒメ頑張る、にゃ~
しおりを挟む単独で第9フロアを攻略しているオニヒメだけが戻って来ないのでは仕方がない。わしは立ち上がり、腰に差した刀の鍔を親指で押し上げた。
「壁を壊したら魔法書は手に入らないんだよ!」
「シラタマさん。ダメですって!」
「オニヒメちゃんなら大丈夫ニャー!」
しかしわしが壁を斬ろうと進んだら、ノルンに止められ、リータとメイバイにも腕にしがみつかれた。
「だってにゃ~。もう我慢できないにゃ~。もうこんにゃふざけた施設、ぶっ潰してお宝だけ持ち帰ろうにゃ~」
「なんて怖いこと言うんだよ!!」
わしと【猫撫での剣】のタッグなら、白魔鉱の壁だって床だってくり貫ける。宝箱だって鍵なんて関係ない。誰になんと言われようとも、オニヒメの命のほうが大事だ。
「この施設を粉々にされたくないにゃら、せめてオニヒメの状況を教えろにゃ」
「そんなこと、時の賢者様でも出来ないんだよ」
「強制退場、上等にゃ~!!」
わしが刀を抜いて振り上げると、またリータとメイバイにしがみつかれて止められた。
「シラタマさんは、オニヒメちゃんのことを信用できないのですか!」
「オニヒメちゃんだって頑張ってるニャー!」
「でも……」
「一人で戦うと決めたのはオニヒメちゃんです。それを邪魔するのですか!」
「私達はクリアできると信じてるのに、シラタマ殿はオニヒメちゃんのことが信じられないニャー!」
「でもにゃ……」
リータとメイバイの剣幕に押されて、わしのテンションが下がる。
「オニヒメちゃんなら大丈夫です。私達の自慢の娘なんですよ」
「そうニャー。シラタマ殿は訓練にあまり参加しないから知らないだろうけど、私とリータだって負けそうになる時があるニャー」
「信じて待ちましょう」
「うっ、うぅ……にゃ~~~!!」
わしは頭を掻きむしりながらドスンと腰を落とす。
「もう10分にゃ。それ以上待てないからにゃ!」
「まったく過保護なんだから~」
「あはは。シラタマ殿は家族に甘いからニャー」
わしが折衷案を出したら、リータとメイバイは優しく撫でてくれる。
「ゴロゴロゴロゴロ~!!」
いや、超絶技巧の撫で回し。わしを眠らそうとしているようだが、必死にゴロゴロ言って耐えるわしであった。
「フゥ~……」
「ようやく寝たニャー」
結局は、気持ち良すぎて寝てしまうわしであったとさ。
* * * * * * * * *
時は遡り、滑り台を楽しく滑り下りて第9フロアに足を踏み入れたオニヒメはウキウキしていた。
「いつも守られてばかりだから、たまには一人でやりたかったんだよね~。パパもママも過保護なんだから……」
どうやらオニヒメは、シラタマだけでなくリータとメイバイも自由に戦わせてくれない障害だと思っていたようだ。
そうしてルンルン歩いていたら第1フロアのボス、アイアンゴブリンが現れた。
「遅い遅い~。きゃははは」
さすがは猫パーティでしごかれたオニヒメ。アイアンゴブリンの剣を踊るように避け、白銀の扇で反撃。これも踊るように回転して振り、アイアンゴブリンの腕を斬り落とし、体を斬り刻み、首まで斬り落とした。
「ちょっと攻撃回数が多かったかな? ま、いっか」
オニヒメは普段後衛が多いので、ここぞとばかりに前衛の戦い方を楽しんでいる。それは次のアイアンウルフとアイアンオーガでも同じこと。
楽しそうに踊りながら斬り刻み、体の動かし方を確かめるように倒していた。
「さてと、ここからだね」
いくらオニヒメが楽しそうに戦っているとしても、相手をナメては掛かっていない。今までのモンスターの出現方法からフロアボスが順番に出ていると気付いているので、次は複数のモンスターが出ると確信して気合を入れ直した。
予想通りアイアンウルフの群れが現れると、ザコには複数の【土玉】をぶつけて後退させ、一気に距離を詰めて司令塔のボスに集中攻撃。
多少時間は掛かってしまったが、ザコを近付けさせずにボスは扇で斬り刻んで倒していた。
あとは同じ要領で一体ずつアイアンウルフを倒して、次へ。オーガキング、アイアンゴブリン三体、ゴブリンメイジ三体の、魔法ありの複数モンスターが現れたら、さらに気を引き締めるオニヒメ。
「【光盾】にゃ~!」
オニヒメは魔法を警戒して、防御重視。三枚の光の盾を回転させて駆ける。
しかし、ゴブリンメイジの魔法を【光盾】で防御すると、相殺させられてしまった。
「まだまだ敵は居るし、魔力は節約しないと」
ここからオニヒメは素早く動いて魔法は避け、【光盾】は魔力消費が激しいのでどうしても避けられない時に使う模様。
前衛のアイアンゴブリンは【土玉】で牽制しつつ、魔法を避けながらゴブリンメイジに接近。両腕だけ扇で斬り落とす。これは、杖さえ持っていなければ魔法を使えなくなるのは検証済みなので、トドメはあとからで十分だからだ。
そうして次のゴブリンメイジへ向かい、魔法を使うモンスターが居なくなったら、一匹ずつ仕留めて行くオニヒメであった。
「はぁ~。ちょっと休憩」
慣れない前衛の動きをしているオニヒメに疲れが見え始める。硬い物を斬っているので腕の疲労があるらしく、回復魔法で筋肉痛を取り除いていた。
しばしモンスターの破片を椅子にして、お茶やお菓子で体力の回復をはかるオニヒメ。
「魔法が効いてくれたら楽なのにな~」
白魔鉱のモンスターでは、オニヒメの魔法は効かないのでボヤイてしまうが、先に進むには倒すしかない。
オニヒメは気合いを入れ直し、歩き出した。
「あ、上のゴーレムより小さい。これなら……」
次からのモンスターは大型が予想されたが、アイアンゴーレムはおよそ半分の大きさの5メートルなので、オニヒメはホッとする。
しかしそれでもアイアンゴーレムの腕や足は太く、苦戦を強いられる。真っ先に斬り落としたい魔道具付きの腕にはジャンプしないと届かないし、いくら白銀の扇でも斬り込みは浅い。
それならばと、オニヒメは足にも攻撃。アイアンゴーレムの右半身を集中的に攻めて、頃合いになったらまずは右腕を落とす。そして右足を斬り刻んだら、アイアンゴーレムは立ってられず、右方向にゆっくり倒れるのであった。
「だよね~」
獣ならこれで勝負ありなのだろうが、相手は無機物。上のフロアでアイアンゴーレムの両足を砕いても、全ての指からビームを放っていたのでオニヒメもわかり切っていること。
ここはアイアンゴーレムの魔力が切れるまで、五本の指から乱れ飛ぶビームを避け続けるオニヒメであった。
「お~しまいっと」
ビームさえなければ、アイアンゴーレムは居間で横になっているおっさんと変わりない。オニヒメはアイアンゴーレムの手の届かない場所から斬撃を加え、頭をくり貫いたのであった。
「う~ん……もっと楽に倒せる方法はないかな~?」
次は首も脚も太いアイアンドラゴンと言うこともあり、初っ端から炎を吐いて来るのでさっきより苦戦を強いられるのは確実。
もしも足を滑らせてこけてしまったところに攻撃を受けても、誰も助けに来てくれないのでオニヒメは必死に戦い方を考える。
「よし! これでいこう!」
考えながらアイアンゴーレムの残骸で練習したオニヒメは、元気よく歩き出したのであった。
次なる刺客は予定通り、アイアンドラゴン。オニヒメは見付けた瞬間に魔法を発動する。
「【風猫】にゃ~」
ドラゴンの形をした白魔鉱製のゴーレムに対して、オニヒメも負けじとゴーレム魔法。風魔法で作られた十体もの猫を走り回らせる。
アイアンドラゴンは初めて見る魔法にフリーズしていたが、【風猫】が接近するとロックオン。踏み潰そうと追い回している。
「ラッキー!」
これはオニヒメの予想外の展開。炎も吐かずに術者から目を離すとは思っていなかったので、この混乱に乗じてオニヒメは、アイアンドラゴンを後ろからザシュザシュと斬りまくる。
その間も【風猫】は縦横無尽に走り回り、オニヒメは準備が整ったら後ろに跳んで、アイアンドラゴンから距離を取った。。
「【千羽鶴】にゃ~」
オニヒメが白銀の扇をパタパタ扇ぐと、ショルダーバックから千羽には足りないが、数多くの折鶴が空を舞う。そしてオニヒメの扇に操られるかのように、千羽鶴はアイアンドラゴンを襲った。
ドンッ! ドンドンドドンッ!
次の瞬間には、アイアンドラゴンの首と四肢は破裂……
オニヒメはアイアンドラゴンの首と四肢に斬り込みを入れて、そこに気功を乗せた折鶴を複数入れたので、傷が広がるように綺麗に割れたのだ。
「やったにゃ~!!」
こうしてオニヒメの作戦は上手く嵌まったので、ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶのであった。
アイアンドラゴンをサクッと倒したオニヒメは、小休憩。高級肉の串焼をムシャムシャして体力と魔力を取り戻す。
「次はいろんな魔法をぶっぱなすんだよね~。それと毒もあるんだった。マスクは先にしておいたほうがよさそう」
ヤマタノオロチゴーレムの攻略法を考え、空気魔道具内蔵マスクも付ければ準備完了。オニヒメは最後の試練に挑む。
「【風猫】にゃ~」
ここも風魔法で作られた複数の猫で陽動から。しかし、ヤマタノオロチゴーレムは炎のブレスを広範囲に放った。
「わっ! あちちち。【水玉】!!」
【風猫】と炎は相性抜群。ただでさえ強力な炎なのに、【風猫】が掻き回すのでさらに大きくなり、オニヒメの着物を焦がす事態となった。
「パパから貰ったのに……」
水を被って消火は出来たようだが、着物が所々焼け焦げてしまったので、オニヒメは涙目。意外と気に入っていたようだ。
「もう! 【土猫】にゃ~!!」
安全策の土魔法で作られた猫ならば、ヤマタノオロチゴーレムの放つ炎を抜けるのはわけがない。しかし次の攻撃は風のブレス。【土猫】は進めなくなる。
「【突風】にゃ~~~!!」
負けじとオニヒメも風を起こして【土猫】の援護。若干オニヒメが強かったのか、複数の【土猫】はヤマタノオロチゴーレムの足元に潜り込めた。
「よし! もらったにゃ~~~!!」
ようやくヤマタノオロチゴーレムの八つの頭は【土猫】にロックオン。四方八方に逃げ回る【土猫】を狙って、ヤマタノオロチゴーレムは口から魔法を撃ちまくるので、その隙にオニヒメは白銀の扇で斬り込みを入れる。
毒が見える場合は【突風】で吹き飛ばし、【土猫】が倒れた場合は新たに足して、全ての首と脚に斬り込みが入った頃に、オニヒメは距離を取った。
「これで最後! 【千羽鶴】にゃ~~~!!」
オニヒメのショルダーバックから飛び立った数多くの折鶴は、ヤマタノオロチゴーレムの首や脚に作られた亀裂に入り込み、気功の爆発を引き起こして八つの首と脚が同時に折れる。
「フゥ~……疲れた。一人じゃ大変だね」
こうしてオニヒメの冒険は、多少疲れたものの危なげなく終了するのであった。
0
お気に入りに追加
1,169
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる