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第二十五章 アメリカ大陸編其の四

702 時の賢者の手記にゃ~

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 時の賢者記念館、2フロア目には、柱に取り付けられた石板に手記の写しが英語と日本語で書かれているらしいので、遅れて合流したわしは、リータとメイバイに読んでもらう。

「『その時、俺はバブーッと生まれ、世界のことわりを瞬時に悟った』となってるのですが……」
「続きは『バブバブバブバブ』ばっかりニャー」
「手抜き感が凄いにゃ!?」

 時の賢者の乳幼児期の手記は思い出しながらあとから書いたのだろうが、だいたい「バブバブ」。所々、離乳食やオッパイがどうのこうの書いているだけで、読む必要性が感じられない。

「写真だけ撮って、誰かに編纂へんさんしてもらおうにゃ~」

 なので、全てを読まずに次に移動。わしとメイバイでパシャパシャ撮り、リータ達には先行して進んでもらい、面白い文があったら簡単なメモを取る。

「少年時代はどうにゃ?」
「う~ん。『神童と呼ばれて女の子にモテモテ』となってるのですが……これってシラタマさんも同じこと言ってませんでした??」
「い、言ってないにゃ~」

 たしかに子供の頃の話をする時は、ちょこっと盛って話していたけど、時の賢者と一緒にされたくない。

「日本の人は、同じ嘘をつくのですね」
「日本人、嘘つかないにゃ~」

 サンプルがふたつしかないのでは確定した証拠には弱いので、リータは帰ってからべティにも質問する模様。あのお調子者は絶対にわし達と同じ答えをすると思うので、必死に止めるわしであったとさ。


「遊んでないで早く写真撮って。リータも次行く」

 わしとリータが「にゃ~にゃ~モフモフ」やっていたらイサベレに怒られたので、各々の仕事へ。せっかくの時の賢者の資料なのに、思ったより情報が薄いからイサベレも苛立っているみたいだ。
 それから14歳辺りから少し遠出する話が出て来たので、イサベレ班の解読に時間が掛かるようになって来た。なので、わしとメイバイは先行して写真を撮ろうと進んだら、コリスに回り込まれた。
 どうやらランチの時間のようだ。わし達は時の賢者の事でいっぱいいっぱいで忘れていたが、コリスの腹時計を誤魔化せるほどの物ではなかったっぽい。

 これだけの施設だから食堂ぐらい無いのかと探そうとしても、コリスの鉄壁ガードは抜けないので、テーブルを出してここでランチ。
 リータやイサベレ達も呼んでわいわい食べる。

「どこまで進んだにゃ?」
「一年が思ったより長いので全然です」
「魔法が上手かったのはわかった」
「駄文が多いんにゃ~」

 これは今日中にこのフロアを抜けられる気がしないので、まったりと時間を掛けて飲み食いしたら、また手記の解読。
 わしとメイバイは先行して写真を撮りまくり、順路通りの最後の柱に着くと、メイバイには逆向きに手記を読むように指示。わしはウロウロして、壁伝いに歩く。

 うぅむ……どこかに宿泊施設的な物は無いじゃろうか? 案内板も真っ白じゃからわかりにくいんじゃよな~。あっ! 探知魔法、いけるかな??

 目を凝らして頑張って探すのは面倒になったので、探知魔法を使ってみたらいくつかの通路を発見。とりあえず一番近くの通路に入って個室を覗いたら女子トイレだったので、慌てて外に出た。

 あっぶな……もう少しで御用になるところじゃったわい。誰も使った事はないじゃろうけど……てか、便器を見たら、わしももよおして来た。男子トイレはどこにあるんじゃ~!

 急にやって来た尿意と戦いながら男子トイレを探したら、すぐ隣の通路だったので、目に入った立ち小便用の便器でチョロチョロ。スッキリしたら大便用の個室に入り、なんとなく座ったら大きいほうもやって来たのでスッキリ。
 だが、紙が無かったので絶体絶命の大ピンチ。辺りをキョロキョロしたら何やらボタンが何個もあったので適当に押してみた。

「ふにゃああぁぁ~……」

 変な声が出てしまったが、久し振りのウォシュレットなので仕方がない。こんな物もあるのかと感動していても、ピンチは継続だ。
 しかしウォシュレットのおかげで落ち着けたので、次元倉庫の中に入っているトイレットペーパーを使えばいいと気付き、ピンチは脱した。

 男子トイレから出たら、土魔法で作った看板の設置。女子トイレにも看板を付けたから、もう痴漢に間違われないだろう。
 リータ達も我慢していないかと聞きに行ったら、背中を「バシンッ!」と叩かれた。乙女に対して失礼だったようだ。
 しかし、我慢とまではいかないがお花を摘みに行きたい人が居たので、いちおう全員をご案内。トイレットペーパーを渡してからわしの作業に戻ったら、イサベレが走って来た。

 どうやって流していいかわからず、ニ人ほどトイレから動けなくなったそうだ。

 と言うわけでわしも許可を得て女子トイレに入り、ウォシュレットや流し方を教えるのであった。

「くさかったですよね?」
「にゃんのこと?」
「しらばっくれないでよ~」

 乙女のリータに本当の事を言えないわしは、どんなにしつこく聞かれても知らない振りを続けるのであったとさ。


 トイレ問題が片付いたら、各々の作業に戻る。涙目のリータとイサベレ達は、順路通りに手記の解読。メイバイは逆から進み、わしは小部屋の発掘。
 やはり食堂や休憩所は通路の先にあったので、通路には看板を付けて、このフロアを一周したらメイバイと一緒に逆から読み進める。

 イサベレ達と合流した頃には、もう夕食時。わしを噛もうとするコリスに串焼きをポイポイ投げながら食堂に入ってみた。

「これのどこが食堂なのですか?」
「ゴミだらけニャー」
「部屋の前に食堂ってなってたからにゃ。たぶん、テーブルと椅子は木製だったんじゃないかにゃ? 千年の時が過ぎて、風化して崩れてしまったみたいにゃ」

 ここを見せたのは、わしの風化理論が間違っていなかったと見せるため。これで、時の賢者が使っていた物がそのままの姿で残っているのはおかしいと伝わった。
 しかし、ここでの食事はホコリが舞いそうなので、元の大部屋に撤退。結局はここで夕食を済ませた。

 休憩所もゴミばかりなのでお片付け。食堂も同じく風魔法でゴミを集めて木はそのまま次元倉庫に。おがくずは土魔法で作った箱に入れて次元倉庫にしまう。
 それからここでお風呂。換気扇みたいな空洞があるから、たぶん湿気対策は大丈夫だろう。

 ゆっくり温まると、バスを出しておネムのコリスとオニヒメを送り込み、わし達はその前に出したテーブル席に着いてノートを広げる。

「一通りチェックは済んだよにゃ? 年表みたいにゃ物を作ってみようにゃ~」

 時の賢者の年齢を書いて、覚えている事を皆に発表させるが、思った通りスカスカ。だが、どこに行って、最終地点まではなんとかわかった。

「イサベレの先祖が時の賢者と関わっていた証拠が見付かったのはよかったにゃ~」
「ん。でも、東の国にある資料程度。結局どこから来たかわからなかった」
「そこにゃんだけど……ここの手記って、量はあるのに肝心のことが書いてなくにゃい?」
「そうなの??」

 イサベレ達は気付いていないようなので、ビーダールのページを指差して喋る。

「ここのビーダールのくだり、おっかしいんだよにゃ~。白い巨象も白象教も出て来ない内に、素晴らしいことをしたとだけで終わってるにゃ。変だと思わにゃい?」
「私は何も……」
「……あっ! 本当です!!」
「そうニャ! あんなことをしておいてこれはないニャー!!」

 猫王様シリーズの小説にビーダールが出て来るのだが、これは秘匿部分があったから喋っていないので、イサベレにわかるわけがない。だが、当事者のリータとメイバイは覚えてくれていた。

「だよにゃ~? 巨象を石に変えておいて、それはないよにゃ~? 白象教に騙されたのかもしれにゃいけど、黒い森を広げた張本人にゃんだから、詫びのひとつも書いてないのはふざけんにゃって感じにゃ~」
「ですよね。そのせいでビーダールは滅び掛けたんですから……」
「いや、アレはシラタマ殿のせいじゃないかニャー?」
「何それ……小説にそんな記述あった??」
「ビーダル王家の根幹に関わることだから書いてないにゃ。てか、わしのせいでもないからにゃ~?」

 白い巨象を時の賢者の作った魔法陣の中から出したのだから、復活したのはわしのせいかもしれないが、千年前の魔法陣がいまだに効果を発揮している可能性は低いので、やっぱりわしのせいではないはずだ。

 小説では勝手に封印が解けたことになってるんだから、わざわざ教えないでくださ~い。

 イサベレに説明しているメイバイを止めていたら、リータが何やら思い付いた。

「ここの中国の件も短すぎません? あんなに広いのに、すぐに日ノ本に着いてますよ」
「そう言えば……イサベレ。時の賢者が東に旅立ってから、黒い森が出現したって歴史書に載ってたよにゃ?」
「ん。それ以降、戻って来てない」
「逆に、日ノ本は長くないですか?」
「うんにゃ。玉藻のお母さんと日ノ本旅行を満喫してるにゃ~」
「何を食べてあるかまで書いてあった。そもそも各国の料理の記述、多すぎる」
「このことから……」
「「「このことからにゃ~??」」」

 リータはドヤ顔で大発表。

「なんて言うか忘れました~」
「「「ズコー!」」」

 しかし期待を裏切られたので、わし達は仲良くずっこけるのであったとさ。


「まぁ言いたいことはわかるにゃ」

 リータが何を言うか忘れて頬をポリポリ掻いて恥ずかしそうとしているので、名探偵猫が答えを代わってあげる。ていうか、わしもそう思っていたから簡単だ。

「つまり、どうでもいいことは詳しく書いてあるんにゃけど、重大なことは全て書かれてないんじゃないかにゃ~?」
「それです! さすがシラタマさんです!!」
「ゴロゴロゴロゴロ~」

 まだ喋っている最中なのにリータが褒めて撫で回すので、わしは手を握って止める。

「それでにゃ。ここの石板は手記の写しってなってたにゃろ? てことは、原本があるはずにゃ。あんだけどうでもいい物を取っている時の賢者にゃ。ひょっとしたら、この施設の中に残ってるんじゃないかにゃ~?」
「「「可能性はあるにゃ~」」」
「にゃ~? それに船の情報もまだ出て来てないにゃ。探しに来いって言ってたのにどこにあるにゃ? この施設はもしかしたら、もっと凄いお宝が眠っているかもしれないにゃ~」
「「「おお~」」」
「明日からは、もっと隅々まで見て行こうにゃ~」

 こうして新たな時の賢者の痕跡を探そうと心に決めて、わし達は眠りに就いたのであった。


 そして翌朝……

 各種準備を済ませたわし達は、このフロアの順路の最後の場所に立った。

『皆さん、時の賢者様の軌跡はどうでしたか? 時の賢者記念館は、次のフロアからが本番です。様々なアトラクションを乗り越えると、各国からいただいた宝物、その当時の絵が手に入ります。さらに難易度は高いですが、時の賢者様の魔法書や手記の原本、パカル王墓で見付けた船も手に入れることが出来ます。頑張って挑戦してくださいね』

 しかしこのようなアナウンスが流れると……

「これ、昨日シラタマさんが言ってたことですよね……」
「またニャ……またシラタマ殿は早とちりしてるニャ……」
「ダーリンって、昨日ここまで来てた。これ聞いて教えてくれたらよかっただけでは?」

 リータ、メイバイ、イサベレの残念な物を見る視線がわしに突き刺さって痛い。

「にゃんでこうも上手くいかないんにゃ~~~!!」

 外では入口を間違え、賢い予想もアナウンスに叩き潰される。時の賢者はわしに恥を掻かす為に、この地に現れたのではないかと勘繰ってしまうわしであったとさ。
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