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第二十ニ章 アメリカ大陸編其の一 アメリカ横断ウルトラ旅行にゃ~

642 蹂躙にゃ~

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『一同、整列~~~!!』

 アメリヤ王国東門に集められた戦力は、サブマシンガンを持った歩兵が五千。戦車が30。ヘリが10。その他、外壁の上には大型のマシンガンや大砲が数多く並んでいる。
 アメリヤ軍は二時間という短時間でこれだけの戦力を集結させたという事は、それだけ軍の統率力が高いという事だろう。

『ちゅうも~~~く!』

 兵士の声のあとに、アメリヤ軍最高責任者、白い髭をたくわえた総督は、外壁の上から拡声器を持ってアメリヤ軍を鼓舞する。

『アメリヤ軍、初の実戦だ! 負けることは許されない!! まぁこれだけの戦力で負けるなんて考えられないがな。わはははは』
「「「「「わはははは」」」」」

 総督が笑うと、アメリヤ兵は釣られて笑う。そりゃ、これから来る敵は、剣と盾で戦うと聞かされているのだ。歩兵の数だけで圧倒できると思っているのだろう。
 そんな相手に、まさか戦車や大砲、ヘリまでもを動員するのでは、皆の笑いが止まるわけがない。総督に至っては「こんな大規模軍事演習が出来るなんて、東の国に感謝だ」とか思っている。

 そんな中、公爵達も議会場で待っていられないのか、外壁の上から戦争が始まるのを待っていた。

「おい、笑っている場合か。もうすぐ指定した時間になるぞ」
「公爵様とあろうお方が、何を心配しておられるのですか。この圧巻の戦力で負けるはずがありませんよ」
「そうだといいのだが……」
「心配ご無用。まず船が近付いたら、長距離砲の一斉射撃。何隻あるかはわかりませんが、百までなら、陸に近付くことも出来ません。もしも陸に上がれる距離まで近付いたら、戦車で砲撃。歩兵が生き残りにトドメを刺して、おしまいです。万が一陸戦になっても、上からと下からで、絶えず弾丸が飛び交うのですから、よけられるわけがありませんよ」

 総督は心配事を取り除こうと饒舌じょうぜつに語るが、公爵達の不安を払拭できない。

「陸に上げるな! 陸に上げたが最後、奴等は見えない攻撃をして来るぞ! それに弾丸を弾き返す不思議な力も持っている。必ず海に沈めるのだ!!」
「はあ……はっ!!」

 総督は怒鳴られても意味不明って顔で返事したのだが、公爵に睨まれて返事をやり直す。
 こうして総督はふんどしを締め直し、兵士を鼓舞していたら、開戦の時が来た。


 それから五分、十分と過ぎ、アメリヤ軍の緊張が解け掛けた頃、黒い影が見えて来た。

「一隻……船が一隻だと?」

 総督の元へと部下から報告が入り、双眼鏡で確認するが、大きさの報告も入る。

「デカイのはわかっている! たった一隻で、我々に勝つ気か??」

 疑問に思う総督の元へと、また報告が……

「船じゃない? うむ。船に見えないな……猫??」

 双眼鏡の先には、シラタマみたいな顔。まったく浮きそうにないデザインだと思った矢先、「ズーン! ズーーン!!」と地響きが聞こえて来た。

「な、何の音だ!? ……アレか?? 総員、攻撃準備~~~!!」

 総督が焦りながらも指示を出したが、その声はアメリヤ兵全てには伝わらない。

 ただ、「ズーン! ズーーン!!」と近付く巨大な丸い猫を、大口開けて見続けるしかなかった。


 この日、アメリカ大陸東海岸に、大怪獣『ネコゴン』が上陸したのであった……


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 時はさかのぼり、二時間前……

 わしは【青龍】で作った氷の上に乗り、土魔法でせっせと土を出して、エリザベスキャット号みたいな巨大船を作ろうとしていたが、面白味に欠けるからちょっと変更。
 うろ覚えの海から現れる怪獣でも作ってやろうと頑張っていたのだが、リータ達が手伝うと言い出してから、デザインが変な方向に行ってしまった。

 海面から胸より上しか出てないからようわからんけど、この丸さ……わしじゃよな? わしはティラノサウルみたいのを作ろうとしていたんじゃけど、なんで猫!? これではビビらんじゃろ!!

「あの~……これって怖いにゃ?」

 いちおうリータとメイバイに意見を聞いてみたところ……

「王様は怖がっていますから、バッチリです!」
「これを見たら、恐怖におののくニャー!」

 とのこと。なので渋々風魔法で飛んで、コックピット代わりの口の中に乗り込んだ。

「ちょっと待ち合わせ時間に遅れてるけど、大怪獣出撃にゃ~!!」
「「「「「大怪獣ネコゴン、出撃にゃ~~~!!」」」」」
「ネコゴンって、にゃに!?」

 いつの間にか変な名前が付いていたので出撃がさらに遅れたが、大怪獣ネコゴンは海を行く。

 ちなみにネコゴンの姿形は、人型のわしに酷似してるっぽい。ちょっと猫背になっただけっぽい。猫なのに……
 コックピットが口なのは、ここから火を吐く予定だから。ネコゴンはただの土の塊なので、火なんて吐けないもん。わしが魔法を撃つ予定だ。もちろん【玄武】ぐらい硬いので、ちょっとやそっとじゃヒビすら入らないだろう。
 ただし、100メートルぐらい身長があるので、コックピットはめっちゃ揺れる。なので、出来るだけ揺れないように歩かせ、固定したバスに乗っておけば、なんとか酔わずに済みそうだ。

 「ズーン! ズーーン!!」とネコゴンが進んでいたら、いまにも吐きそうなジョージ13世がわしに尋ねて来た。

「えっと……イサベレ様がシラタマさんの主人なんですよね? てことは、イサベレ様は、これよりもっと凄いことが出来るのですか??」
「そうにゃ。イサベレ様は、天地をひっくり返すことも出来るんにゃ~」
「「「ええぇぇ!?」」」

 わしの嘘に、ジョージだけじゃなく、コリスとオニヒメも何故か驚いた。

「嘘言わない。ダーリンしかこんなこと出来ない」
「にゃ? もうバラすにゃ??」
「イサベレ様もやめて。ハニーって呼んで」
「いや、そこはイサベレでいいにゃろ?」
「「うそつき~」」
「コリスとオニヒメはお菓子あげるから、ポコポコはやめようにゃ~?」

 どうやら二人は嘘をつかれて怒っているようだが、オニヒメはまだ大丈夫として、コリスのポコポコなんて喰らっては、バスの底が抜ける。なので、お菓子で怒りを収めていたら、アメリヤ王国が見えて来た。
 さすがに戦闘準備に取り掛からなくてはならないので、イサベレのハニー発言もジョージの質問もうやむやになってしまうのであった。


 「ズーン! ズーーン!!」とネコゴンがアメリヤ王国に近付くと、胸辺りまでしか出ていなかった体が徐々に海から現れ、波打ち際まで近付いたら、完全に全容が見えたはず。
 ここでわしは、音声拡張魔道具を握って叫ぶ。

『ごろにゃ~~~ん! にゃははは。人がゴミのようにゃ~。にゃはははは』

 わしが笑うと、しばらくして、足元が賑やかになって来た。

 ドォーン! トドォーン! ドンドンドドォォーーン!

 戦車や外壁からの砲撃だ。

『にゃはは。顔にも届いてないにゃ~』

 砲撃のほとんどは、胸より下に着弾。いちおう被害がないか魔力を流して調べてみたが、さすがわし。ネコゴンに一切のダメージはない。
 なので、ここで反撃。イサベレに危険の有無を相談して、口の端まで行ったら足を固定して発射する。

『薙ぎ払え~~~!!』
『にゃ~~~ご~~~!!』

 わしの【咆哮ほうこう】の発射。でも、イサベレのそのセリフは前も言ってたけど、マストなの? どこの皇女様じゃ……おいしいところを持って行ってドヤ顔がうざいし……

 わしの口から発射されたエネルギー波は、アメリヤ軍の一番前に配置された戦車の少し手前に着弾。右から左に地面を削り、深い溝を作り出した。
 アメリヤ軍はそれだけで呆気に取られていたようだが、誰かの命令で、なんとか前線を少し下げていた。それと同時に浮き上がる十個の物体が見えたので、わしは忠告する。

『ヘリはやめておいたほうがいいにゃ~。【大竜巻】にゃ~!!』

 ちょうど開いたスペースに、大きな竜巻の出現。ヘリは浮き上がったものの前に進めず、後退するだけ。地上でも、隊列が乱れる暴風が吹き荒れている。

『このまま前に出すことも出来るにゃ~』

 ジリジリと竜巻が前に進むと、ヘリはネコゴンに近付く事も出来ずに街中に着陸したようなので、竜巻を解除。

『まだやるにゃ~? じゃあ、次はこれにゃ~!!』

 アメリヤ軍は体勢を立て直して前進して来たので、続きましての攻撃は【玄武乱舞】。20メートルもある亀が八体も空から落ちて、地面を揺らす。
 そして前進。アメリヤ軍は後退しながら砲撃や弾丸を乱射しているが、【玄武】の硬い守りは崩せず。外壁に追いやられ、逃げ出す者も現れた。

『逃がすわけないにゃろ~? 【朱雀乱舞】にゃ~!!』

 ネコゴンの口から八体の火の鳥が吐き出されると、四体の【朱雀】が逃げるアメリヤ兵の行く手を阻む。残り四体はアメリヤ王国の真上を低空飛行で飛び、よっつある門の上にとまった。

『そろそろフィナーレにゃ! 【火之迦具土ヒノカグツチ】にゃ~~~!!』

 最後の仕上げ。次元倉庫の魔力を惜しみなく使い、10メートルもの【火球】を五百個、ネコゴンの口から吐き出す。
 そしてアメリヤ王国上空に浮かべ、イサベレに意見を聞きたいところであったが答えてくれなかったので、オニヒメに聞きながら二個の【火球】を無人の場所に落とす。
 ひとつは、アメリヤ軍の目の前。もうひとつは、街の中央にある噴水。どちらも高速で落とすと、着弾と同時に巨大な火柱を作った。
 威力もそれ相応。地面にはクレーターが作られ、噴水の水は一気に蒸発したのであった。


 ネコゴン、エネルギー波、竜巻、巨大亀、巨大火の鳥、空を覆い尽くす火の玉……圧倒的な戦力を見せ付けられたアメリヤ軍は、フリーズ。恐怖に震えて、動く者も口を開く者も居なくなり、静寂が訪れた。

『ちょっとやりすぎたかにゃ~? でも、お前達がイサベレ様にケンカ売ったのが悪いんだからにゃ』

 わしは言葉を切ってイサベレにマイクを渡そうとしたら、イサベレは青い顔をして首をブンブン横に振っていたので、自分で喋る。

『さて……いま浮いている火の玉が落ちると、アメリヤ王国は消滅するにゃ。どうしてこうにゃったか、お前達にはわかるかにゃ? 銃を手に入れ、爆弾を手に入れ、それを弱者に使ったからにゃ。弱者から暴力で全てを奪ったからにゃ。だから、東の国の特使、イサベレ様は怒っているにゃ』

 またイサベレを見たら、首を横に高速で振っていた。

『見て見ぬ振りをしていた者も同罪と言いたいんにゃけど、それを率先して行っていた者は誰にゃ? 降伏するにゃら、そいつらを生きたままイサベレ様の目の前に連れて来いにゃ。そして、被害にあった者が、もういいって言うまで誠意を見せろにゃ。お前達が生き残る道はそれしかないにゃ。わかったにゃ!! ただちに動けにゃ~~~!!』

 わしが叫ぶと、アメリヤ王国内は凄まじい騒ぎとなり、奴隷だった原住民、議員を連行する住人や軍人が、東門に流れて来るのであった。




「にゃんでイサベレが最後ぐらい締めてくれないかにゃ~?」

 地上の騒ぎを見て【朱雀】や【火球】はもう必要ないと思い、もったいないから吸収魔法で全て吸い取ったら、わしはイサベレに苦情。

「にゃんでって……ダーリンが怖いからに決まってるでしょ!」

 どうやらわしの本気の魔法を見て、いまさらイサベレは怖くなったらしく、感情をあらわにしてツッコんでいるっぽい。リータ達も、まさかこんなに大魔法を連発できるとは知らなかったので、ウンウン頷いている。コリスはいつも通り。
 愛人希望者に愛想を振り撒くのはやめておいたほうがいいかと考えたが、女王に変な報告をされても困るので、イサベレに飛び付いてスリスリごまスリ。

 なんとかイサベレは落ち着いて来たら、青い顔を通り越して真っ白なジョージ13世がフラフラな足取りでわしの元へと近付いて来た。

「さ、さっきのは、ゆ……夢ですよね?」
「夢にゃら、にゃんでこんにゃ場所に立ってるにゃ?」
「夢じゃないと……」

 ジョージは自分の顔をつねっていたが、それでも夢から抜け出せないので、三度ほど自分を殴ってから現実に戻って来た。

「えっと……イサベレ様は、シラタマさんに怯えていたのですが……本当にシラタマさんは、イサベレ様の部下なのですか?」
「あ~……もうその設定はいいにゃ」
「え? 設定??」

 さすがに制御不能の化け物がおかしいと思ったジョージ。なので、ネタバラしをしてあげる。

「イサベレはただの友達にゃ」
「違う。愛人」
「猫と愛人……」

 イサベレがちゃちゃを入れるが、ジョージがあっちの世界に行きそうなので、わしは急いで先を続ける。

「イサベレは東の国で騎士をやってるんにゃ。んで、わしは猫の国の国王、シラタマにゃ。だから本当は、イサベレより偉いんだにゃ。嘘を言って悪かったにゃ~」
「愛人が国王で……てか、猫!?」
「猫だにゃ~。にゃ~はっはっはっはっ」

 こうしてアメリヤ王国との戦争は死者一人もなく終わり、自己紹介やいまさら見た目に驚いたジョージがますます混乱する中、わしの笑い声が響き渡るのであったとさ。


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キリがいい所がここだったので少し長くなりましたが、これにて二十ニ章の終了です。
さすがにここまでやれば(やりすぎ)、議員も反省するでしょう!
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