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第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~

609 おやっさんは世界一自由な猫にゃ~

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「ちょっとだけ準備させてくださいにゃ」

 モナカとも戦わないといけないのならば、アホ毛一本では心許こころもとない。いや、絶対に殺される。あの顔は手加減とかしない顔だ。
 なので、【弍鬼猫にきねこ】発動! 約6秒待てばわしの狭い額に白銀のアホ毛が二本、ピョンッと立った。

「さっきから変だと思っていたけど、角を出し入れ出来るの?」
「まぁそんなところにゃ」
「ウフフ。変わった子ね。じゃあここでやりあうのもなんだから、ついて来て」

 モナカがわしのアホ毛に興味を持ったのも束の間、お尻を向けるので広い場所に向かうのかと思ったら、トトトンッと空気を踏んで空に上がって行った。
 3メートルの猫が軽々浮き上がって行くのを呆気に取られて見ていたら、ダイフクと息子猫もトトトンッと続くので、わしも空気を踏んで空を駆ける。

 まったく簡単にやってくれる……白銀猫には空中散歩なんて、一般常識なのか? ああ。だからおやっさんは、エベレストまで数分で移動できたのか。白銀猫の生態……おかしすぎるじゃろう。
 てか、空なんて飛んだら他の四神から攻撃が来そうで怖い。おやっさん達なら喰らってもケロッとしていそうじゃけど、わしは痛いの嫌なんじゃ。撃って来るなよ~?

 以前、四神には戦闘機を撃ち落された経験があるのでビクビクしながら上空1キロほどの位置まで来ると、ダイフクはお座り。その頭の上にシルコもお座り。わし達の戦いを見学するようだ。

 シルコはわかるとして、おやっさんはどうやってその姿勢で浮いておるんじゃ? 尻尾で空気を叩いてるっぽいな。前脚も小刻みに動いておる。でも、その体勢は楽なのか??

「ここなら何もないから全力を出せるわ」

 四つ脚を小刻みに動かして空に浮くモナカからゾクッとした念話が届き、わしに緊張が走る。

「行くわよ……」
「は……」

 はやっ!?

 わしが返事をしようと思ったら、モナカはもう目の前。すでに大きな前脚も目の前にあったが、侍の勘を使ってなんとか両前脚で防御。同時に空気を何度も踏んで落下を阻止していたら、雷鳴のような音が遅れて聞こえて来た。

 まさにいかずち。モナカのスピードは雷を凌駕するかもしれない。

「ウフフ。ちゃんと受け止められたわね。えらいわ~」
「にゃにゃにゃんと!!」

 モナカは褒めながら両前脚を連続で落とし続けるので、わしはまったく休めない。ネコパンチと後ろ脚を交互に動かして耐える。

「これはどうかしら? にゃ~~~ご~~~!!」
「死ぬわ!!」

 モナカはゼロ距離からの【咆哮ほうこう】。わしはツッコミながら横に避けたが、狙いは違っていた。

 超高密度の魔力の塊が横を通り過ぎた瞬間、モナカはわしの後ろに回り込んでいたのだ。

「どにゃ~~~!!」

 ここは空中。体勢なんてどうとでもなる。わしは体を捻って四つ脚全てでモナカのメガトンネコパンチを受け止めた。
 うつ伏せでは踏ん張りがきくわけがなく、わしは空気の壁にぶつかる。しかし、いまのわしなら防御力も上がっているので痛みはない。
 だが、音速で落ちて行っているので、何度も空気の壁を突き破りながら地面が迫る。

 でしょうね!

 モナカも急降下でわしを追い越し、下からのメガトン頭突き。攻撃を読み切っていたわしは風魔法で体を捻り、頭を蹴って背中にくっ付いてやった。

「もう! そんなところにいちゃ戦えないじゃない」
「ゴロゴロ~」

 からの、甘えた声でスリスリ。

「もう……本当に甘えた子ね。でも、よく頑張ったわ」

 そして陥落……モナカは優しいお母さんに戻って、急遽始まった戦いは終わりを告げる……

 ドゴーーーン!!

「ぐにゃ!?」

 モナカに甘えていたら、わしの左半身に痛みが走り、大きな爆発音と共に空を平行に飛ぶ。

 ぐっうぅぅ~……効いた~。

 痛みに耐え、空中を転がるように体勢を整えて止まったら、目の前には鏡。わしが首を傾げたら、鏡の中のわしは一切マネせずニヤリと笑った。

「わははは。次は俺だ!!」

 わしではなかった。ダイフクがわしと同じサイズに変身していたので見間違えたのだ。

「ちょっ、ちょっと待ったにゃ!!」
「こんな楽しいこと、待てるわけないだろ!!」
「ぶにゃん!?」

 わしの待ったは聞く耳持たず。ダイフクはわしの侍攻撃が役に立たないほどの速度でネコパンチを放つので、顔面に入ってしまった。

 は、速い~~~!!

 一瞬意識が飛んで、わしが気付いた時には何キロも空を飛んでいた。体勢を立て直そうにも、今まで感じた事もないスピードで錐揉みしていたので、上も下もわからない。そのまま白い森に突き刺さった。
 何本もの白い木を貫通したその時、キラッと光る塊が目に入ったので、わしはそこを足場に着地する。

 キャット空中……何回転したんじゃろ? わからん。

 わしが着地した岩っぽい塊は衝撃で横にズレたが、探知魔法ではダイフクが追って来ていたので、そのまま迎え討とうとする。

「誰じゃわしの眠りを邪魔する奴は~」

 だが、大きな念話の声が聞こえたので、わしは恐る恐る左を見た。

 へ、へび? 洞窟から伸びた白銀の蛇が……いや、洞窟も白銀じゃ……こ、これって亀じゃね??
 かめカメ亀タートル……って、玄武!? もしかしてわしは、四神の縄張りに入ったのか!?

 そう。ダイフクにブッ飛ばされて、エルフの里の北にある大きな白い森に入ってしまったのだ。

「またお前か! 何度も何度も来やがって!!」

 は? わしは初めて来たんじゃけど……おやっさんと勘違いしておる!?

 尻尾が七本もある20メートルオーバーの白銀陸亀はお怒りらしいので、このままではわしが殺され兼ねないので焦って叫ぶ。

「それ、わしじゃないにゃ!」
「はあ? お前みたいな奴が他に居るまい」
「あいつにゃ~! うおっ!?」
「ぐわ~~~!!」

 わしがダイフクを指差した瞬間にダブルネコパンチが振るわれたので、間一髪避けたら、白銀陸亀の甲羅に当たってしまった。
 白銀陸亀が地面を削る中、ダイフクは攻撃を続けるので、わしは必死にネコパンチで捌く。

「ここはヤバイにゃ!」
「わはは。これぐらいならいけるのか!」
「聞けにゃ~~~!!」

 ダイフクは手加減してくれているらしいが、場所がマズイ。白銀陸亀の背中でこんな衝撃を出すような戦いをしたならば……

「誰の背中で遊んでおるんじゃ~~~!!」

 激オコ。なんか高速回転して空を飛んだ。

 やった! おやっさんと逆に飛ばされた。でも、アレこそガメラじゃな。

 白銀陸亀はダイフクを回転しながら追いかけているので、わしは木の陰に身を隠す。

 おお~。互角の戦いをしておる。と言うか、おやっさんにからかわれておるな。
 とと、傍観している場合じゃなかった。いまのうちに逃げないと……
 いや、おやっさん相手に逃げ切る自信がない。転移しても探し回られたら世界が滅ぶかもしれないし……ここは、アレ使っちゃうか。
 上手く動けないけど、ダメージぐらいは減らせるじゃろ。もう少し遊んでいろよ~? 【参鬼猫みきねこ】!!

 わしの魔法の発動からおよそ9秒後、わしの狭い額に白銀のアホ毛が三本、ピョンッと立った。

 ヤベッ……見付かった。

 白銀陸亀と遊んでいたダイフクは飽きたのか、わしを見付けたと同時に飛んで来た。なのでわしも急浮上。軽く飛んだだけで上空2キロを超えてしまったので、バタバタ脚を動かしてバランスを取る。

「逃がすか~~~!!」
「逃がすか~~~!!」
「後ろ! 後ろにゃ!!」

 ダイフクも白銀陸亀も同じ事を言いながらわしに迫るので、指差してみたがダイフクはお構いなし。
 なので、わしは反撃。ダイフクに向けての特攻だ。

 ひょいっ……ガッキーーン!

 残念ながら不発。ダイフクにギリギリ避けられて、白銀陸亀の頭と自分の頭をぶつけて目に火花が散った。

「大丈夫そうだな」

 白銀陸亀が墜落する中、声を掛けたダイフクは、頭をさすっているわしにネコパンチ。

 ちょっとは心配しろ!

 そのネコパンチは空気を蹴って全力回避。

「お、さっきより速い……」
「にゃ~~~!!」

 だが、スピードが出過ぎて制御不能。またわしは白い森に突っ込んで、柔らかい物体にぶつかった。
 そして弾かれ、ボヨンボヨンと転がったら誰かの念話が届いた。

「またお前か! 何度も何度も来やがって!!」
「ちゃいます! それ、別の奴にゃ~~~!!」

 わしの目の前には、10メートルを超える白銀のユニコーンが六本の尻尾を逆立てて怒っていたので、すかさず言い訳。空気を蹴って、ユニコーンの顔の前で全身を見せる。

「ん? たしかにそんな角は付いていなかったな……でも、めっちゃ似てる……」
「わしは迷い猫にゃ~。あいつのことを言ってるんにゃろ~??」
「あいつ?? ぐおっ!!」

 わしは探知魔法でダイフクの位置を確認していたので、振り向きもせずに指差してひょいっと避けたら、ダイフクのダブルネコパンチが白銀のユニコーンの頭に入った。

「大丈夫にゃ? 一緒にあいつを倒そうにゃ~」
「お、おう。なんかよくわからんが、やってやる!」

 いきなり殴られたユニコーンはダイフクに突っ込んで行ったので、わしは前脚をヒラヒラ振って見送った。

 チョロイ……ま、これで時間は作れたし、ここの事を考えよう。
 たぶんここはエルフの里の東側じゃろ? てことは、白銀のユニコーンは朱雀……じゃなくて、麒麟か。四神ならばユニコーンでも当て嵌まるじゃろう。
 でもな~。若干おしい! 馬かと思ったけど、ロバじゃ。耳もデカイしたてがみも短いから間違いないじゃろう。まぁ似たようなもんじゃし、四神にカウントしてやろう。

 しかし、西の白銀猫『白虎』。北の白銀陸亀『玄武』。東の白銀ロバ『麒麟』と来たら、南の奴も気になる……
 いまのわしなら死にはしないじゃろうし、おやっさんもついて来てくれる。見に行こっと。待ってろ、青龍~~~!!

 白銀ロバをからかうダイフクが飽きた頃合いを見計らって、わしは大ジャンプ。空から南にある白い森に突っ込み、着地に失敗してゴロゴロと転がる。
 そして探知魔法で確認していた10メートル以上の細長い物体に、ポヨンとぶつかって止まった。

 白銀じゃけど……これはなに? イタチか?? エルフが飼っていたクロテンって生き物に似てる気がする……ざんね~~~ん!!

 龍は無理でも、せめてハ虫類を期待していたわしは、六尾の白銀クロテンの顔を見てチェッと石ころを蹴る。
 すると白銀クロテンの目が開いた。

「またお前か……何度も何度も来やがって……」

 またこのセリフか……おやっさんは、ここいらの主に何しておるんじゃ。って、早く否定しておかないと、わしがロックオンされてしまう!

「違うにゃ! 猫違いにゃ! あいつに襲われて逃げ回っているんにゃ~!!」
「違う? あいつ? ここにはお前しかいないだろう」
「へ? あれ??」

 さっきまで探知魔法では、おやっさんは後ろにおったのに……真上か!?

 そう。ダイフクはわしの予定を覆し、空の上で腹を抱えて笑っていたのだ。

「あ……えっと……お邪魔しましたにゃ~」

 ダイフク抜きでこんな化け物とやりあいたくないわしは、頭をペコペコ下げて西に向かうが、白銀クロテンに回り込まれてしまった。

「逃がすわけなかろう……いっつもいっつもからかって逃げやがって……」
「だからそれはわしじゃないにゃ~~~!!」

 ダイフクの普段の行いが悪いせいで、白銀クロテンの怒りはわしにぶつけられ、この世界最強クラスの攻撃から猛ダッシュで逃げ回るわしであったとさ。


「ゼェーゼェーゼェーゼェー……」
「にゃ~しゃっしゃっしゃっしゃっ」

 わしが白銀猫の縄張りに命辛々戻ったら、高みの見物をしていたダイフクは大笑い。笑い転げてやがる。

 ムカッ……誰のせいでこんなに疲れておると思っているんじゃ! クロテンの攻撃、めっちゃ痛かったんじゃぞ! 四匹もおったから、どんだけ逃げるのに苦労したことか!!

 ダイフクに文句を言いたかったが、【参鬼猫】が解けてこんな疲れた状態で戦いになったら間違いなく死ぬので、恨めしそうに睨むだけ。
 だが、後方から冷たい殺気が飛んで来て、ダイフクの笑いはピタリと止まった。

「あなた達……またお隣さんに迷惑掛けて来たんじゃないでしょうね?」

 モナカだ。なんだか主婦みたいな事を言っているが、ダイフクだけでなくわしも数に入っていたので、プルプル震えてしまう。

「な、何もしてないさ~」
「ごめんにゃさい! お父さんに吹っ飛ばされて、お隣さんとぶつかったにゃ~!!」
「おま……お前だって一匹で縄張りに入っていただろ!!」
「わしは不可抗力にゃ~。わざとじゃないんにゃ~。ゴロゴロ~」
「卑怯だぞ! こんな時だけ甘えた声を出すな!!」

 モナカが怖すぎて、罪の擦り付け合い。てか、ほとんどダイフクが悪いんだから、モナカも許してくれるはずだ。

「だまらっしゃい! シャーーー!!」

 言い訳はドロー。というか、ダイフクのとばっちりで、わしもモナカの説教を受けるのであったとさ。


 モナカの長時間の説教が終わったら、家に帰る前にエルフの里に転移。代表のシウインと面会したら、わしが四神の縄張りに入った事を説明。かなり驚いていたが、尊敬しているような顔もしていた。
 そこでエルフの里に被害は無かったかと聞いたら、わし達の戦闘音は聞こえていたらしいので、もしもの時はソウの地下空洞に逃げるように指示を出しておいた。
 しかし、今日ほど酷くはないが、時々大きな音は聞こえていたらしく、わしの心配は杞憂だったようだ。それでも信じられないわしは、避難訓練だけはしておくように言っておいた。


 身に余る動きをした上に、モナカの説教を受けてへとへとのわしは、家に帰ったらぐで~んと倒れた。

「お疲れみたいですね」
「それで白銀猫に勝てたニャー?」

 リータやメイバイ達には、白銀猫家族に訓練をつけてもらうと言っていたので、わしを優しく撫でながら質問している。

「シルコには勝ったけど、残りは曖昧あいまいにゃ~」
「シルコ君に勝つだけ凄いニャー!」
「シラタマさんは優しいですから、モナカさん達とは勝敗をはっきりしなかったんじゃないですか?」
「お母さんとは、まぁ、そんにゃ感じかにゃ?」
「やっぱりね」
「ダイフクさんとはどうしたニャー?」
「もう、無茶苦茶だったにゃ~。四神の縄張りまで追いかけて来てにゃ~」
「見たのですか!?」
「見たニャー!?」

 リータとメイバイだけでなく、コリスとオニヒメも四神は気になるみたいなので、皆で横になってわしは今日の出来事を語る。

「まず最初に会ったのはにゃ~」

 わしの話を聞いたリータ達は会いたそうにしていたが、こればっかりはわしでは難しい。あまりにも残念そうにするので、日本に伝わる伝説上の生き物の話をして、夜が更けて行くのであった……


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さて、猫さんも強くなれたところでこの章もおしまいです。
次章はダラダラしてから冒険に出発します!
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