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第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~
602 第二回建国記念日にゃ~
しおりを挟む「そう言えば、ご老公はどうしたにゃ?」
建国記念日前夜祭のパーティでちびっこ天皇と玉藻と喧嘩していたが、こんな事をしている場合ではなかったので、わしは不思議に思っていた事を聞く。
「家康は台湾で忙しいから欠席じゃ」
「その代わりに秀忠が来てるよ」
「にゃ? 将軍にゃんてどこに居るにゃ??」
「そちの隣に立っておるじゃろう」
玉藻に言われて横を見ると、掛け軸に描かれたような黒い公家装束を着たおじさん、徳川秀忠が立っていた。
「にゃ!? これは気付かなくてごめんにゃ~」
「いや。こちらこそ、この姿での挨拶が遅れていた。私が徳川秀忠だ」
どうやら秀忠は、家康からタヌキの姿で歩くとモフられるからと注意を受けていたので、猫の国では完全な人型で過ごすらしい。モフられまくるウサギ族を見て、変身しておいてよかったとホッとしていた。
「将軍にとっては、初の外遊だにゃ。楽しめているかにゃ?」
「まだ一日だが、街を見て回るだけでも面白い。特にこの建物はいいな。五重塔にも、えれべーたーなる物が欲しくなったぞ」
「にゃはは。楽しんでくれているにゃらけっこうにゃ。まだ挨拶回りがあるから長話は出来ないけど、時間が取れたらまた話そうにゃ~」
日ノ本への挨拶が終わったら、わしは移動。ちびっこ天皇と玉藻がくっついて来たが、無視して挨拶回りに戻る。そして最後に回していた東の国のテーブルに近付くと……
「さっちゃん! ママ上! お久し振りです!!」
ちびっこ天皇がフライング。これが目的でわしのあとに続いていたようだ。
「わしより先に挨拶するにゃよ~。みんにゃ、忙しくて顔を出せなくてごめんにゃ~」
とりあえず女王達と挨拶を交わすと、わしはさっちゃんと。ちびっこ天皇と玉藻は女王と喋る。
「もう~。全然会いに来てくれないんだから~」
「ごめんにゃ~。でも、双子王女からわしの行動は筒抜けなんにゃろ?」
「うん! ラビットランドは行って来たよ!!」
「さっちゃんらしいにゃ~」
さっちゃん達がウサギの群れを見ても落ち着いているのが不思議に思っていたら、到着したその足でラビットランドに足を運んでいたらしい。
VIPルームでウサギを侍らせ、死ぬほどモフって来たと聞いたが、さっちゃん達が元気なところを見ると、死にそうになったのはウサギのほうだろう。
そうしてさっちゃんから感想を聞いていたら、女王達も話に入って来た。
「例の物……見せてもらえるのよね?」
「大きな声で言うにゃよ~? まだ他の国には内緒なんだからにゃ」
「ええ。でも、日ノ本はいいんでしょ?」
「うんにゃ。共同開発だからにゃ。陛下と玉藻も耳を貸してくれにゃ」
小さな声でコソコソ話もいいのだが、念話で内緒話。工場視察の日取りを確認してから、前夜祭を楽しむのであった。
「モフモフ~!」
「も、もうその辺で……ガクッ」
久し振りに会ったさっちゃんに深夜まで撫で回されて、気絶して眠りに就くわしであったとさ。
翌朝……
『え~。国民のみにゃさんの頑張りで、今年は他国からも多くのお客さんを呼べたにゃ。ありがとにゃ~』
祭り櫓の上に立つわしが音声拡張魔道具を使ってお礼を述べると、そこかしこから感謝の言葉が押し寄せる。
『にゃはは。元気があれば、祭りも楽しめるにゃ。そんじゃ、第二回猫の国建国記念日の開催にゃ~! 食って踊って騒げにゃ~~~!!』
ドーーーン!
わしは開始を告げると同時に着流しを腰まで脱いで太鼓を叩く。そしてレコードから流れる音楽に合わせて「ドドンがドン、ツカツカ」と太鼓を打ち鳴らす。
猫の街の住人はその音で踊り出し、祭り櫓を回りながら他の街の住人や他国の客を招き入れて輪が大きくなる。
盆踊り大会の開幕だ。
今回も振り付けはリータ家族。日ノ本まで踊りや舞踊を習わせに行ったので、本物に近い盆踊りになっている。
音楽はクラシックなんてクソ食らえ。京で人気の爆音団にお願いしてみた。
趣味に走って「祭りだ。祭りだ~♪」と演歌を歌わせてしまったが、意外と受けがよかったので、「こんにちは こんにちは 世界の国から♪」と歌謡曲まで発注してしまった。
皆が笑いながら踊っているのが嬉しくて……いや、好きな曲が流れて来るので調子に乗って、三曲も太鼓を叩いてからわしは祭り櫓を下りるのであった。
「「遅い!!」」
一曲で下がると説明してあったので、特別観覧場に戻ったわしは玉藻と女王にからまれた。
「ごめんにゃ~。ちょっと楽しくなっちゃったにゃ~」
「まったく……最初の混乱に乗じて抜け出すと言ったのはそちじゃろうが」
「いや、わしは二日目の混乱って言ったのに、二人が断ったからにゃ~」
「いいから早く行くわよ。案内しなさい」
「にゃ~~~」
案内しろと言うくせに、女王はわしの首根っこを掴んで目的地に迷わず進んで行く。それに続き、さっちゃん、玉藻、ちびっこ天皇があとを追い、盆踊りを踊るウサギに夢中のVIPの脇をコソコソと抜ける。
そうして止めてあったバスに乗ると玉藻が運転して猫の街の工業地区、最北東まで降ろされずに連れて行かれ、警備兵に止められたら女王はわしを見せて道を開ける。
わしは通行証か! お前ももうちょっと疑えよ! 王様が拉致されておるんじゃぞ!!
扱いの雑な女王に連れられて降ろされた場所は工場。双子スパイに地図まで渡されていたから迷わず着いたらしい……
「ウサギがいっぱい居るからって触るにゃよ~?」
注意事項はそれだけ。
「「うわ~。モフモフ~」」
だって、扉を開けた先は、ウサギしか働いてないんじゃもん。
「見るとこはそこじゃないにゃろ。こっち来てにゃ~」
女王とさっちゃんはウサギばかり見ているので、手を引っ張って工場見学。太陽光発電セット工場と縫製工場を説明しながら歩き、一通り見たら太陽光発電セット工場の空きスペースでお茶をする。
「聞いていたよりウサギが少ないのね」
女王の質問は、またウサギ。なのでわしは面倒臭そうに答える。
「そりゃ祭りの最中にゃもん。説明だけでフル稼働するわけないにゃ。てか、ウサギばかり見てたけど、ちゃんと説明聞いてたにゃ?」
「き、聞いてたわよ。ね? サティ??」
「え? あ、は、はい! 聞いてましたよね~?」
女王は話を逸らそうとさっちゃんに振るが、さっちゃんはモフモフ働くウサギをだらしない顔で見ていたから、現在が聞いていなかった。
ちゃんと説明を聞いていたのは玉藻とちびっこ天皇だけ。わしがさっちゃん達をジト目で見ていたら、ちゃんと質問してくれる。
「これだけの規模の工房なら、太陽光発電機も多く作れるじゃろう。輸出の話は覚えておるか?」
「うんにゃ。いまのところ、日ノ本に50。東の国に50用意しているにゃ」
「「「「そんなに!?」」」」
大量生産する施設とは聞いていた皆だが、まさかこの短期間に100個も作れるとは思っていなかったようだ。忙しい双子スパイには、わしがウサギ族に嘘の報告をさせていたので、今回の情報は女王にまで漏れていなかった。
「うちはすでに100あるから、いつでも輸出できるにゃ~」
「嘘じゃろ……」
追い討ちしてみたら、皆は固まって言葉が出ない。おそらく、工場の圧倒的な生産力に、現存の人件費を当て嵌めて計算しているのだろう。
「ちなみにだけど、縫製工場は一日にどれだけの生産量があるの?」
「まだ本気は出してにゃいけど……」
太陽光発電では正確な計算が出来ないと悟った女王が質問するので答えてあげたら、この場に居る者の顔が真っ青になった。
そりゃ価格競争で勝てないのだから、自国の商品が一切売れないと国のトップなら心配なのだろう。
「ま、うち一人でやったにゃら、すんごい儲かるんだろうにゃ~。でも、全ての国に工場自体を売るから心配するにゃ」
皆が心配そうな顔をするので払拭してやろうとしたが……
「東の国にだけでも……」
「日ノ本だけでも……」
「いいわけないにゃろ~~~!!」
双子王女と答えは一緒だとわかりきっていたので、その先は言わせねえよ!!
「まずは、工場から作られる物は輸出禁止的にゃ法律を作らないといけないかもにゃ~」
「そうね……これが広まれば、キャットトレイン並みに……それ以上に揉めそうね」
「じゃ、その辺は女王の手腕でにゃんとかしてやってにゃ~」
「あなたの発案でしょ!!」
キャットトレインに続いての面倒事を女王に押し付けようとしたら、なかなか受け取ってくれない。さっちゃん以上にわしをブンブン揺するので酔いそうだ。
しかし、わしはそんな面倒な事はしたくない。なので、ここは強権発動!!
「まぁわしはどっちでもいいんにゃよ~? 工場は輸出しにゃいで製品だけ輸出するにゃ~。もちろん太陽光発電も輸出しにゃいけどにゃ」
「「ぐっ……」」
「女王は日ノ本から買ったらいいにゃ~。たぶんうちより何倍も高くなるけどにゃ。玉藻も頑張って工場を作ってくれにゃ~。にゃん年掛かるか知らないけどにゃ」
「もう! わかったわよ!!」
「くそっ……妾も協力する。早く法案をまとめてしまおう」
「それが懸命な判断にゃ~。にゃははは」
わしの一人勝ち。無駄な時間に付き合う必要が無くなったので、わしは笑いながら盆踊り会場に戻るのであっ……
ガシッ!×2
「逃がさないわよ」「逃がさんぞ」
「にゃ~~~!!」
残念ながら女王と玉藻に尻尾を掴まれ、輸出法案の草案だけはこの場で考える事となったのであった。
「シラタマちゃんでも法律作れるんだ!?」
「こんなに賢こかったのか!?」
「さっちゃんとちびっこが邪魔するにゃ~~~」
わしがちょっと難しい言葉を使う度に驚く、さっちゃんとちびっこ天皇に見守られて……
輸出法案の草案がある程度まとまると、あとは女王任せ。今回は絶対に各国の王を猫の国に連れて来るなと念を押して話を終えるのであった。
「キャットトレインのようにゃことは真っ平ゴメンだからにゃ~?」
「わかっているわよ」
「頼むからにゃ~? 本当にお願いにゃ~。ゴロゴロ~」
「わかってるって言ってるでしょ!」
「ゴロゴロゴロゴロ~!」
念を押して甘えた声で女王の足にスリスリしていたら、羨ましくなったさっちゃんに抱かれて撫で回されながら……
「アレ……王がすることなの?」
「シラタマは楽することしか考えておらんのじゃ。絶対にあんな王になってはならんぞ」
「あんな恥ずかしいことをするぐらいなら、普通に仕事するよ」
ついでに、冷ややかな目の玉藻とちびっこ天皇にコソコソと悪口を言われながら……
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