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第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~
599 猫王様、倒れる……
しおりを挟むラビットランドがオープンすると、猫の街の住人が雪崩れ込み、わしも流されて中に入ってしまった。
『満員にゃ! 警備兵! 扉を閉めろにゃ~~~!! ゴロゴロ~』
当初からそんな危険がわかりきっていたので、ウサギに興味がない警備兵を多く配備していたから、住人の上で転がりながら撫で回されるわしの指示で扉は固く閉じられた。
パパラパッパラ~♪
ラビットランドの中ではレコードが流れているのだが、誰も聞いていない。ステージではウサギ族が素っ裸でラインダンスを踊っていたのだが、住人がステージに上がってしまってラインは崩壊だ。
『こりゃ! ルールは守れにゃ~! 双子王女! 早くルール説明しろにゃ~~~!! ゴロゴロ~』
あまりにも混乱しているので、VIPルームに居る双子王女はルール説明もままならない。しかしわしが撫でられながら怒鳴ると、住人はウサギを抱き締めて、ようやく聞く体勢になってくれた。
まずはチケット制。猫の国の住人には、月に五回入れるチケットを格安で売る事になっている。ブーイングは凄いが、ウサギ中毒になっては街の運営に支障をきたすので仕方がないのだ。
それと、お触り禁止の区域や時間制。これもウサギ中毒に関わる事なので仕方がない。守ってくれるように双子王女がお願いしている。
もちろんわしも……
『ウサギ族も猫の国の国民にゃ~。みんにゃが節度を持って接してくれたら幸せに暮らせるんにゃ。ゴロゴロ~。みんにゃだって知らない人に撫でられるのは怖いにゃろ? それでもウサギ族は撫でさせてくれてるんにゃ。頼むから、みんにゃも落ち着いてくれにゃ~。ゴロゴロ~』
さすがに王様のお願いには、住人も思う事があるのか静かになって来た。
『てか、さっきからわしを撫で回してるのは誰にゃ~~~!!』
「「「「「あはははは」」」」」
しかし、わしが犯人探しをしたら笑い声が起こって、もうしばらく静かにならないのであった。
「はぁ……疲れたにゃ……」
騒ぎが少しだけ落ち着くと、わしをずっと撫で回していた犯人と共に二階にあるVIPルームに入って、わしはぐで~んと転がる。
「てか、にゃんでセンジが撫でてたんにゃ~」
モフモフ犯は、ラサの代表センジ。センジにモフられるのは初めてなのでわしは問いただす。
「えっと……そこにモフモフがあったから?」
「名言みたいに言ってるけど、わし、王様だからにゃ?」
「すみませんでした!」
どうやらセンジは、前々からわしを撫でたかったのだが、王様には失礼だろうと思って我慢していたそうだ。そこに、ウサギを撫でられる施設が出来ると聞いて、仕事を放り投げてやって来たらしい……
さらに、大混乱の中たまたまわしが目の前に来たので、この機会に死ぬほどモフってやろうと撫で続けたんだって……
「言ってくれたらちょっとぐらい撫でさせてあげたにゃ~」
「じゃあ、撫でさせてください!」
「いますぐとは言ってないにゃ~! ゴロゴロ~」
センジに撫で回されると仕事が出来ないので、バニーガールかバニーボーイかわからないウサギに、二人のウサギを連れて来てもらい、モフらせてセンジを引き離す。
それから制限時間が来たら、客の入れ換え。また騒ぎが起こり、上からルール説明。また入れ換えてルール説明。
この日は声が嗄れるまで叫び続けた甲斐もあり、住人はウサギ族保護法を守ってくれるようになった。たぶん……
「「「「「モフモフ~」」」」」
VIPルームに入り浸る双子王女と王妃も、たぶん……
ラビットランドのオープン翌日……
わしは喉が潰れてしまって声が出ない。休みを取りたかったが気になる事もあるので、布団から這い出した。
モフモフ酔いの王族や双子王女やエミリと共に朝食をいただくと、さすがにまったく声を出さないわしを心配してくれた。てか、風邪ひとつ引いた事のないわしが病気になるなんて、初めての事なので大騒ぎだ。
いや、大丈夫だと言っておろう? ワンヂェン医院長も大丈夫って言っておろう? そんなことを言って、飼い主の目の届かない所で死ぬつもりじゃと!? 死なないからね~? 泣く必要ないからね~??
ちょっと声が出ないだけで誰かが死ぬと言ったが為に、コリスとオニヒメが大泣き。釣られてエミリとお春も大泣き。そのせいで全員に伝達してしまい、朝食の席が水浸しだ。
わしは念話で大丈夫と言い続けるが、まさか双子王女まで泣くとは……うん。肩が震えているだけで、アレは笑っておるな。大丈夫だとわかっているなら止めてくださいよ~。
双子王女は、これから面白い事になるのかと思ってまったく止めずに仕事に向かって行った。
わしはと言うと、寝室にて猫ファミリーに看病されている。もう、ほとんど監禁。トイレすら自由に行かせてくれない。
見られていたら出ないんですが……ここ、男子トイレですよ?
猫ファミリー揃い踏みでガン見するので恥ずかしい。なんとかモノを見せずにトイレは済ませたが、また寝室に監禁。
だが、やる事はあったので、お春を呼び寄せてキャンセルの手紙を渡しておいた。その時、ついでに諜報部隊の客員講師、服部半荘にも手紙を書き、渡しておくようにお願いして目を閉じた。
お昼になっても監禁継続。ただ、わしが目を閉じていたからか、もう起きないのではないかとリータ達がシクシク泣くので、ちょっとしか眠れなかった。
お腹もすいているので食事を頼んだのだが、エミリも病人食を持って来る始末。
もっと味が濃ゆい物を食べたいんじゃけど……体に障るからダメなんですか。それなら、ハチミツとレモンをお湯で薄めた物を作ってくれない? 最後の晩餐じゃなくて、喉にいいからなんですが……
いちおう最後の晩餐だから、わしの指定した飲み物は作って持って来てくれた。なんだか本当に最後を迎える患者のように、ひとりひとり代わる代わるわしに飲ませてくれたけど、その行為で本当に病気になりそうだ。
目を閉じたらシクシク泣き出すし……
そんなこんなで一日中心配されたわしは、せっかくの休みが丸々潰れて、あまり休めないのであったとさ。
「にゃ~? 声が出なかっただけなんにゃ。元気にゃろ??」
「「「「「よかったにゃ~~~」」」」」
翌朝は、声が戻ったので元気アピール。リータ達は泣きながら抱きついて来たが、めっちゃモフられた。
それから食事をモリモリ食べて、さらに元気アピール。ていうか、昨日は食べ足りなかったので、いつもの倍は食ってしまった。
「じゃあ、わしは仕事して来るからにゃ」
病み上がりという事もあり、猫ファミリーはゾロゾロとわしのあとに続く。
隠れて死なないと言っておるのに……てか、誰が飼い主なんじゃ??
昨日はツッコめなかったので、今日ツッコんでみたが誰も答えてくれない。もう忘れていたみたいだ。
その事を何度も聞きながら歩き、キャットタワーの門を開けたところで問題発生。
「「「「「猫王様、死なないで~~~!!」」」」」
猫の街の住人が大挙して押し寄せていたのだ。
これはわしの失策……
昨日、服部に頼んだ依頼が尾ひれが付いて、心配した住人が集まってしまったのだ。
その依頼内容とは……
ウサギ族と住人の関わり合いについて奮闘したわしが、過労で倒れたと噂を流してもらったのだ。
これは、ウサギ族保護法のダメ押し。王様が倒れたと聞けば、無理矢理決めた法律でも素直に従ってくれるのではないかと思ったのだ。
しかし、どこでどのように変わったのかわからないが寝て起きたら、「猫王様、不治の病だってよ」って噂の内容が変わっていて、住人が押し寄せたっぽい。
「大丈夫にゃ! 昨日、疲れて寝てただけにゃ! みんにゃがウサギ族を大事にしてくれたら疲れないからにゃ~~~!!」
病み上がりで大声を出して、喉を痛めるわしであったとさ。
「に゛ゃ~♪ に゛ゃ~~♪ まだガラガラに゛ゃ~」
「「やっぱり不治の病……」」
「もう大ごえだざぜないでぐれに゛ゃ~」
いちおう住人にはダメ押しは成功したのだが、リータ達はまだわしを心配している。なので、喉を守る為にここからは念話で話すけど大丈夫だからと念を押して、太陽光発電セット工場に抱かれて移動した。
「カレタカ君。昨日は悪かったにゃ~」
カレタカは、ヨタンカ代表の息子。クリフ・パレスで役場職員のまとめ役として頑張ってもらう予定だから人の使い方の勉強の為に工場見学をさせ、そのついでで仕事の聞き取り調査をお願いしていたので、わしは詫びから入った。
「いえ……ウサギ族の為に命を削ってくれているシラタマ王には感謝しています。でも、もう長くはないとは……」
「それ、デマだからにゃ?」
「そうなんですか!?」
どうやらウサギ族にまでわしがもう死ぬと伝わっていたので、誤解を解くように指示を出しておいた。
「ところでみんにゃの仕事は大丈夫そうにゃ?」
「はい! 簡単な作業ですので、問題なく働けるという声が大多数です」
移住も第三弾となると、ウサギ族の数が増えすぎて英語の勉強が出来ないので、言葉のいらない工場での単純作業をお願いしている。それとラビットランドで撫でられるのも仕事だ。
しかし撫でられるだけの仕事を本業にされると、今後不景気で客が入らなくなった場合ウサギが生きていけないので、将来的には副業にしてもらう予定。その為の本職が工場勤めなのだ。
「あとは~……つゆの姿は見なかったかにゃ?」
「つゆさんなら外で作業の説明をしていますよ」
ここ数日つゆを見ていなかったのでカレタカに案内してもらい、ウサギ達に作業行程を教えているつゆの後ろにわしは立つ。
ふむ……ちゃんと太陽光発電の性能テストもやっておるな。けっこうな数も出来ておるみたいじゃし、そろそろもうひとつ工場を作っても電力は足りそうじゃ。
わしがつゆに一声掛けると、新しい工場が出来るのが嬉しいのかノリノリ。新しい工場で作る物の作業行程を確認してから、今回はわし一人で建てる。
昼食を挟み、ベルトコンベアを1レーンと出来立てホヤホヤの太陽光発電セットを取り付けると完成。ついでに隣の工場にも、太陽光発電セットを足しておいた。
そうしてつゆを呼び寄せると、確認してもらう。
「これで電動ミシンも作れるにゃろ?」
「はい! 完璧です!!」
「でも、やっぱり縫製工場は分けたほうがいいだろうにゃ~」
「ですね。もう一棟工場が出来るなんて楽しみです~」
どうもつゆは、工場自体にも興味があるようだ。そりゃ、いまの科学を超越した施設だ。平賀家なら誰しも羨む技術なのだろう。
「ところでつゆは、わしの噂は聞いてないにゃ?」
「噂ですか? 何も聞いてませんけど……」
「にゃらいいにゃ。つゆも体には気を付けるんにゃよ~?」
つゆがわしの事を全然心配して来ないから質問してしまったが、知らないなら教える必要はないだろう。
ようやく普通に話せる人を見付けて、わしは話が弾むのであった。
でも、ずっと念話で話をしてるんだから、ちょっとぐらい疑問に思えよ……
心配されないと、少しは心配して欲しいと思う天の邪鬼なわしであったとさ。
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