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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~
580 長い夜パート3にゃ~
しおりを挟むさっちゃんの決意表明にスタンディングオベーションを送っていたわしは、さっちゃんの急に崩れた顔を見て拍手を止める。
「うぅぅ……疲れた……」
「にゃはは。いいスピーチだったにゃ~」
さっちゃんは長い時間脳を酷使していたのに、慣れない決意表明までしてしまったので、テーブルに突っ伏してぐで~んとなってしまった。なので、休憩しようと提案し、ケーキを一緒に食べる。
「シラタマちゃんのせい……にゃんでもにゃい。それより、ウサギ族はどうしよう? シラタマちゃんも一緒に考えてよ~」
わしのせいにしないのはいい事なのだが、さっきまでのかっこいいさっちゃんは、もうどこかに行ってしまった。
「あ、とっくの昔に、解決案が思い付いてるから、もう考えなくていいにゃ」
「え……じゃあ、私が考えてた時間はなんだったの!?」
「無駄になってないから、揺らすにゃ~~~!!」
隣に座るさっちゃんは、わしの襟元を掴んで揺らすので、ますますかっこいいさっちゃんはどこかに行ってしまった。そのせいで、さっきのは見間違いだったと思うわしであった。
わし達の揉め事が終わり、席に座り直したら、不思議な事が起きた。
「にゃ? わしのケーキが……さっちゃんが取ったにゃ??」
「そんなことするわけないでしょ。意地汚いシラタマちゃんと一緒にしないで……アレ?? 私のケーキが……シラタマちゃん、食べたでしょ!」
「わしはまだ一口しか食べてないにゃ~」
「私だって一口しか食べてないにゃ~」
二人で「にゃ~にゃ~」言い争っていたら、わしの足に何かがぶつかったので、テーブルの下を覗き見る。
「犯人はリータ達にゃ~!」
そう。テーブルの下には、リータ、メイバイ、イサベレがケーキの皿を持って隠れていたのだ。
わしに見付かった三人は、頭をポリポリ掻きながら申し訳なさそうにテーブルの下から出て来た。
「王女様のスピーチ……凄くかっこよかったです!」
「まるで女王様みたいに見えたニャー!」
「すぐにでも就任しても大丈夫です」
いや、話を逸らそうと、さっちゃんをよいしょしてやがる。だが、わしには通じない。
「いや~。見ちゃった? サンドリーヌ女王と呼んでもいいのよ。オホホホホ~」
「「「サンドリーヌ女王様~」」」
「さっちゃんは引っ掛かるにゃよ!」
よいしょに弱すぎるさっちゃんは役に立たないので、わしが追及する。
どうやら三人とも小腹がへって目が覚めたら、わし達が何か食べていたから欲しくなったとのこと。でも、「三人同じタイミングで起きるものかね~?」とわしが言ったら目を逸らされた。
なので、誘導尋問に弱いイサベレから聞き出したら、最初からずっと盗み聞きしており、さっちゃんのスピーチの際にはエアー拍手までしていたそうだ。
当然わしの浮気を疑っての行動だったらしいので、逆に浮気をしていたと追及されたので、皆にケーキを支給して、今度はわしが話を逸らしてやった。
「モグモグ……それでシラタマちゃん。ウサギ族をどうやって救うのよ?」
皆は本当にお腹がすいていたらしく、静かにモグモグ食べていたら、さっちゃんが先程までの話を思い出した。
「簡単にゃ。みんにゃ移住させればいいだけにゃ」
「六千人も受け入れられる肥沃な土地に全員って……。見付けるのも時間が掛かるし、例えあったとしても、その土地まで移動するのも大変じゃない。何人死ぬと思っているのよ~」
「にゃんで気付かないんにゃ~。三ツ鳥居で、東の国にでも移住させればいいにゃ~」
「あ! 本当だ……って、三ツ鳥居を使う案、私、最初に言ってなかった?」
「あ~……そんにゃズルは良くないから、話を逸らしたにゃ」
「シラタマちゃんだって使うつもりだったじゃない!!」
「だから揺らすにゃ~! さっちゃんの勉強の為って言ったにゃろ!」
「にゃ~にゃ~」掴み合いの喧嘩に発展すると、リータとメイバイが、さっちゃんからわしを奪い取って助けてくれた。
「シラタマさ~ん? 何を言っているのですか~??」
「そうニャー。何を言ってるニャー??」
助かったと思ったが、二人はなんだか怖い。口調は優しいのに、締め付けは強いはほっぺは引っ張るは……
「「モフモフモフモフモフモフモフモフ!」」
それに何を言っているか意味不明。しかし、名探偵猫に掛かれば、翻訳は簡単だ。
「いや、だって……あんまり面白い物はなさそうにゃし……」
「「モフモフモフモフ!!」」
「うんにゃ。モフモフは珍しいけど、猫の国がモフモフだらけになるのはにゃ~」
「「モフモフ~」」
「わしが居ればいいにゃろ~?」
「いったい二人は、なんて言ってるの??」
さっちゃんの為に通訳すると、リータとメイバイはウサギ族を東の国に移住させる事に反対している。モフモフがいっぱい居て珍しいから、猫の国で引き取りたいと涙目でお願いしていたのだ。
「そゆことね……私の一存では決められないから、戦いは帰ってからで!!」
「いますぐ決めてくれにゃ~。じゃにゃいと、二人が納得してくれないにゃ~」
「「モフモフ~~~!!」」
「「いい加減、人間の言葉で喋ってくれにゃ~」」
こうして長い夜は、二人のモフモフ語の説得のせいで、もう少し長くなるのであったとさ。
翌朝……昨日、深夜遅くまで起きていたわし達はお寝坊。
なので、わしはコリスに食べられた。
でも、起きなかった。
だから、焦ったオニヒメに助けてもらった。
けど、コリスに叩き起こされた。
そしてわしはバスの窓を突き破り、崖から落下した。
だから、焦ったオニヒメに風魔法で助けてもらった。
「パパ~! 早く起きて~! ママ達もお姉ちゃんを止めて~~~!!」
どうやらコリスはお腹がすき過ぎて、わしを早く起こそうとじゃれていたっぽい。リータ達も寝坊していたので、コリスとのじゃれあいを止めるのに遅れて、オニヒメが叫んでいたようだ。
なので、ウトウトしながらわしがエサを大量に出したら、なんとか止まったらしい。
それからウトウトしながらモグモグしていたら、オニヒメにこっぴどく怒られた。
「聞いてる? 聞いてないよね!? ママ~~~」
そして、オニヒメを泣かせてしまったので、リータ達にこっぴどく怒られて完全に目が覚めた。
うお~。小刀で斬られた……。アレ、気功も魔力も乗せておらんのじゃろ? それでわしを斬れるなんて、なんちゅう切れ味しておるんじゃ。
ちょっとメイバイに持たせるのは怖いかも……フルパワーで斬られたら、わしの命に届くぞ。それを寝込みにでも使われたら……
説教も怖かったけど、メイバイにあげた白銀の小刀の脅威が怖すぎて、説教が耳に入って来ないわしであったとさ。
リータ達にガミガミ怒られていたら、酋長のヨタンカがわし達に近付いて来たので、説教はピタリと止まる。
「猫の国に移住しませんか!」
「うちに来たら、絶対に損はさせないニャー!」
「東の国! お母様を説得するから、少しの間だけ待ってて!!」
「ん。東の国のほうが幸せに暮らせる」
リータ、メイバイの猫チーム。さっちゃん、イサベレの東チームの勧誘合戦が始まったからだ。
しかし、毛の無い生き物に強い圧で言い寄られたからには、ヨタンカは震えながら、正座でボーっとしているわしの後ろに隠れてしまった。
「た、助けてください。この人?達は、いったいなんの話をしているのですか!?」
どうやら皆は念話は繋げているが、順序立てて喋っていないので、ヨタンカには言っている意味が伝わっていないようだ。
「みんにゃ。落ち着くにゃ~」
「「「「モフモフモフモフ~!!」」」」
「だから~。そんにゃに一辺に喋られると酋長が困るだけにゃ~」
たぶん勧誘の邪魔をするなと言われたわしは、皆を落ち着かせる事に、朝から多大な労力を使うのであった。でも、人間の言葉で喋って欲しいな~。
「そ、そんなことが……」
皆を落ち着かせ、ヨタンカに移住する手立てがあると説明したら、驚愕の表情で固まる。
「まぁにゃ~。いきにゃりそんにゃことを言われても、信じられないだろうにゃ」
「いえ……シラタマ様がそう言われるのなら、必ず出来るのでしょう」
う~ん……もう信じちゃった。このまま行くと、またわしの信者が増えそうじゃから、なんとか東の国に押し付けたいんじゃけど……
じゃないと、わしの仕事が増えてしまう。移民政策なんて、まだ準備なんてしてないんじゃ~!
「まぁ移住に関しては、もう少し先になるけど、行きたい国の候補を説明しておくにゃ。東の国か、猫の国か、東の国で受け入れる予定だからにゃ。あと、猫の国にゃ」
「はあ……ふたつの、国という場所があるのですか……」
わざと東の国を二回言ったらリータとメイバイに睨まれたので、慌てて猫の国を一回足した。ややこしい言い方をしたが、ヨタンカは理解してくれたようだ。
「とりあえず今日中にわし達は帰るから、急で悪いけど、二人ほど一緒に来たい人?を決めてくれにゃ。わし達の国を見てもらったほうが、決めやすいにゃろ」
「シラタマさ~ん!」
わしとヨタンカが喋っていたら、ギュウギュウのウサギの中から灰色ウサギが二人、わしの名を呼びながら飛び出した。
「お母さんが歩けるようになりましたよ!」
「えっと……ポポルかにゃ?」
「もう顔を忘れたのですか!?」
「すまないにゃ~。わしは人の顔を覚えるのは苦手なんにゃ~」
特にモフモフは! いまだにキツネとタヌキも見分けられないのに、ウサギまで覚えられるわけがなかろう。
「それで、そっちの人?が、お母さんにゃの??」
「はい! お母さんもお礼を言いたいとお願いされまして、連れて来ました」
「この度は、命を救っていただき、本当に有り難う御座いました。酋長様にも、多大なご迷惑をお掛けして……これからいくらでも仕事をして行きますので、何卒、何卒……息子のそばに居させてください。お願いします!!」
ポポルとは違い、ヨタンカに気付いたルルは、わしに頭を下げ、ヨタンカにも深々と頭を下げて懇願する。
「体が良くなってしまったのか……」
しかし、ヨタンカは複雑な顔をする。おそらく近々行う口減らしに、ルルも入っていたのだろう。
「ちょうどいいにゃ。この二人を連れて帰るにゃ」
「そ、それでいいのなら……」
「それとにゃ。もう住人を追い出さなくていいんにゃよ? 集落にいらないにゃら、わし達が引き受けるからにゃ。酋長も死ぬ必要ないんにゃ~」
「あ……そういう話でしたな。もう、私は、仲間を殺さなく…て……うっうぅぅ」
「ほれ~。ここは喜ぶところにゃ。悲しい涙より、ウサギ族が繁栄する嬉しい涙を流すにゃ~」
「は、はい。もうしばらくだけ、お待ちください……うぅぅ」
ヨタンカが泣きやむまで少し離れ、ルルから容態を聞いておく。どうやら咳も止まり、体も軽いようだが、空いている席で休んでいるように言っておいた。
それからポポルはリータ達にモフられ……預け、わしはさっちゃんを手招きして離れる。
「酋長が、にゃんで泣いているかわかるかにゃ?」
「嬉しいから……だけじゃないよね?」
「そうにゃ。自責の念もあるだろうにゃ。今まで、無慈悲にウサギ族を切り捨てて来たんにゃ。精神的に潰れないといいんにゃけど……」
わしが苦しそうな顔でヨタンカの気持ちを説明すると、さっちゃんまで胸を押さえて苦しそうにする。
「苦しい……想像しただけで苦しいよシラタマちゃん」
「わしもにゃ。これが、上に立つ者の重圧にゃんだろうにゃ。覚えておこうにゃ」
「うん……」
ヨタンカの涙にわしとさっちゃんは切なくなって、しばらく抱き合ってお互いを励まし合うのであった。
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