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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~
565 訓練に戻るにゃ~
しおりを挟む人間界最強の猫ファミリーは、白銀母猫一匹に触れる事も出来ず、一瞬にして壊滅した。そうして母猫はわしに近付き、トドメを……刺すわけもなく、顔をベロンと舐めて優しく起こしてくれた。
わしが目覚めて何が起こったのかとキョロキョロしたら、倒れたリータ達の姿。それと、てへぺろしている母猫。
わしを殺し掛けた事と、隠蔽魔法を掛け忘れていた事を反省しているようだ。たぶん……
とりあえず体を治療したら、母猫には隠蔽魔法を掛けてもらい、ここではなんだからと言って、リータ達は手分けして背に乗せ、気絶している内に縄張りの奥に移動する。
寝床には雪だるま猫も居たので、隠蔽魔法の確認をしてから、リータ達を目覚めさせる。
コリスから目を覚まし、全員起きたけど、先ほど恐怖心を植え付けられた母猫が目の前に居るのでプルプル震えている。その姿を見た母猫が肩を落としていたので、慰めながらブラッシング。
母猫のゴロゴロと鳴る声を聞いて、リータ達も獰猛な虎ではなく、ちょっと大きな……めっちゃ大きな猫だと、少しリラックスして来た。
なので、トドメのアニマルセラピー。リータとメイバイに息子猫をブラッシングさせて、様子を見る。
いちおう昨日、絶対に手を出すなとは言っておいたが、猫は気紛れだから超心配。しかし、わしの緊張を悟られるとリータ達がリラックス出来ないので、笑顔を崩さない。
そうしていると、息子猫も至福のブラッシングと撫で回しを受けて、いつもより喉を鳴らしている。これを見て、リータ達の緊張は完璧に取れた模様。
さすが猫のゴロゴロ。リラックス効果があるのは本当のようだ。
息子猫があまりに気持ち良さそうにするので、母猫がわしに代わって欲しいと言って来たので、まずは頑丈なリータから送り込む。
【吸収魔法・球】で体を包んだから、一撃だけでもなんとか耐えて欲しい。命さえあれば、回復魔法で治せるのだから……
わしの心配を他所に、リータは母猫を陥落。3メートルの猫でも、リータの至高のブラッシングとマッサージは有用のようだ。
当然、母猫の聞いた事もないゴロゴロを聞いたおやっさんも求めて来たが、リータとメイバイは、6メートルもある巨体ではデカ過ぎて上手く出来る自信がないとのこと。
その事をおやっさんに言ってみたら、わしと同じ大きさになった。
ますますわしとキャラが被るからやめて欲しい。てか、それで強さはあまり変わらないから、リータも気を付けて!
母猫は危険な事をしなかったからメイバイに代わり、リータはおやっさんのブラッシングに挑むのだが、ひやひや。わしに似ているから同じように扱い、引っくり返して腹なんかもブラッシングしている。
わしも息子猫に擦り寄られてブラッシングをしなくてはいけないので、助けに行けない。
祈るように見つめて数十分……
母猫とおやっさんは一切嫌がる素振りを見せず、ぐで~んと倒れたのであった。
ちなみにわしは、緊張してブラッシングしていたので息子猫の機嫌を何度か損ねてネコパンチ。
コリスとオニヒメも撫でたそうにしていたから撫でさせたのだが、これも気に食わなかったらしく、二人の代わりに何度もネコパンチをされて満身創痍。
一人だけ痛い思いをしたが、皆に怪我が無くてホッと胸を撫で下ろすわしであったとさ。
おやっさんと母猫が寝てしまうと、息子猫がリータとメイバイに飛び掛かって行ったので、わしが盾となってタックルを受け、それから二人の至極のマッサージ。
リータの膝の上で、ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らしている息子猫は無視して、皆で話し合う。
「最初はどうなる事かと思いましたけど、大人しくてよかったです」
「お父さんは本当にシラタマ殿そっ……」
「シーーーッにゃ! それ以上、口にするにゃ!!」
「あ……そうだったニャ」
ここで夫婦喧嘩なんかに巻き込まれたら、わし達は確実に死ぬ。よからぬ事を呟いて、母猫に疑念を抱かせたくない。
「毛並みも素晴らしいですね~」
「うんニャ。ひょっとしたら、シラタマ殿よりも……」
「ひどいにゃ~。毎日ブラッシングしてもらってるんだから、わしのほうが上にゃ~」
キツネやタヌキならまだしも、同じ猫に負けては立つ瀬がない。でも、ちょっと嫉妬心を見せてしまったから、夜にはすんごいサービスがあるようだ。
そうこう喋っていたら、おやっさんと母猫が目を覚まして、ブラッシングのおかわり。息子猫は寝てしまっていたので、リータとメイバイは手分けして取り掛かっていた。
その間わしは、写真撮影。気持ち良さそうな白銀猫家族と、楽しそうなリータとメイバイをパシャリ。それと、抜けた毛はいつも通り次元倉庫行き。売れば高値が付きそうだが、全員分の装備が出来るまでの辛抱だ。
コリスとオニヒメは暇そうにしているので、わしを撫でるか、こっそりおやつの支給。白銀猫家族に味を覚えさせると、猫の街にまで取りに来そうだから見付からないように食べさせた。
そうこうしていたら夕暮れになったので、そろそろお暇する。別れの時に、またリータとメイバイを連れて来てくれと言われたので、適当に言っておいた。
だって、わしの心が休まらないんじゃもん! わしだけ酷い怪我をしたし……
ただ、リータとメイバイは念話で必ず来ると言っていたので、撫でたくなったら脅されて連れて来ないといけなくなるだろう。
お別れが済めば、家に帰ってわしはぐで~~~ん。緊張の糸が切れて、居間で倒れてしまった。そこにリータとメイバイの撫で回し。ゴロゴロと喉を鳴らしながら今日の感想を聞く。
「白銀猫との交流はどうだったにゃ?」
「そうですね……ちょっと疲れましたね」
「慎重にブラッシングをしたから、私も疲れたニャー」
「でも、本当に手が出るのですか?」
「わし達のこと見てなかったにゃ~? コリスとオニヒメが引っ掻かれそうになってたにゃ~。にゃ?」
二人は頷いて、わしの手から血が噴き出した話をしてくれたので、白銀猫の危険性は伝わったようだ。
「わしじゃなかったらポトリにゃ。だから頻繁には連れて行けないにゃ~」
「まぁ仕方がないですね。あんな所で気を失うなんて、本来ならば全滅ものですよ」
「仕方ないニャー。それでシラタマ殿……」
「にゃに?」
「訓練の方法は見付かったニャー?」
「訓練……忘れてたにゃ~!!」
メイバイの指摘で、昨日から強くなる方法を探していた事に気付いたわしは、リータとメイバイが邪魔したから忘れていた事にも気付いたのであった。
とりあえず、二人に責任とってもらおうと何か思い付かないかと聞いてみたが、撫でるだけ。なんなら、白銀猫家族の名前を考えている。
まぁ今回は猫だし、猫っぽい名前もアリじゃな。出来れば、おやっさんは白虎って名前がいいかな~? コリスはお菓子から離れような??
名前の案は聞き流され、相談には乗ってくれないので、強くなる方法を一人で考えるしかないわしであったとさ。
翌日は、朝から猫ファミリーでソウの地下別荘に転移。皆はわしの訓練に付き合ってくれるそうだ。
ただ、ちょっと気になる事があるわしは、ホウジツと会って雑談。先日預けた酒の発注書やカメラの現像液はどうなったかと聞いてみた。
酒は、元々猫の国になってから、ホウジツが商売の為に各国から取り寄せた物が多数あるから、万国屋の試飲程度なら問題ないとのこと。発注書に書かれた酒類も東の国の物が多いから、これもキツネ店主が来る頃には引き渡せるそうだ。
カメラの現像液は、どうやら猫の国でも容易に手に入る物で作れるらしいので、数が揃ったら猫の街に送るように指示を出しておいた。必要な機械類もつゆに作らせているから、設計図と共に売る手筈も整えている。
これらの書類を揃えて商業ギルドに提出するのは、双子王女に丸投げ。たぶん文句を言ってくるはずだから、聞かないつもりだ。
全ての準備が整えば、猫の街で各国の職人を集めて講習会を開く予定だ。それらをもてなすのも双子王女に丸投げするから、極力会わないようにしたほうがよさそうだ。
雑談が終わると、わしも遅ればせながら訓練に参加。皆はアップダウンのあるランニングコースを重力魔道具を使って走っている最中だったので、わしもダッシュ。地面を土魔法でガチガチに固めてから、重力600倍で走る。
しかし、いくら固めてもジャンプをしてからの着地には耐えられないので、わしだけ別メニュー。端っこの地面を固めて、シャトルランで汗を流す。
お昼になると、コリス待望のランチ。皆、お腹がへっていたのか、お弁当だけでは足りなくなって高級串焼きも腹に入れる。
お腹がいっぱいになると食休み。30分ほどお昼寝をしたら、各々の個人メニューに取り掛かる。
リータのメニューは、土魔法と鉄魔法と格闘技。土の槍を生やしたり、鎖を素早く操作したり、ヂーアイに教えてもらった中国拳法の型を練習している。
メイバイのメニューは、風魔法とナイフの素振り。【鎌鼬】を撃ったり、ナイフを振りながら、はちゃめちゃな動きをしている。
オニヒメは魔法特化。使える魔法の精度を上げようと頑張っている。
コリスは何しているかよくわからない。皆が魔法を撃っている所に行っては、避けたりガードしたり、魔法で相殺したりしてる。重力魔道具を使ったまま防御の練習をしていると思うけど、皆がムキになるからやめさせようか悩んでいる。
わしはというと、また座禅。無になって……
今日の晩ごはんは何かな~? と、こんな事を考えている場合じゃなかった。
無にはならず、考え事をしていた。
重力魔法を使った訓練では、今までと同じ速度で強くなるのは難しい。これは地道にやっていくしかないじゃろう。となると、あの力を簡単に引き出さなくてはならない。
ただな~……最低【五十倍御雷】を撃たないといけないのがネックじゃ。そんなの練習でほいほい撃っていたら、あっと言う間に魔力のストックが尽きてしまう。
なんとかもっと節約して使えないじゃろうか……う~ん……
わしは座禅を組み、体を揺らして唸っていたら、コリスチョップで地面に減り込んだ。三時のおやつの時間らしいけど、酷くない? あ、声を掛けたけど気付かなかったのですか。ゴメンね~。
おやつを支給して、いちおうコリスになんでチョップなんかしたのかを聞いてみたら、わしが寝ていると思ったリータがやってみろと言ったらしい。
リータとメイバイは、今度こそ真剣白羽取りをすると予想していたらしいけど、猫パーティNo.2のスピードとパワーを舐め過ぎだ。考え事をしていたんだから、防げるわけがない。
なので「にゃ~にゃ~」と苦情を言っていたら、無視して訓練に戻って行った。
三時からは、実技の訓練。コリス相手に、一人ずつ闘う。巨大盾を持ったコリスに対しての手加減抜きの対戦なので、わしは少し距離を取って座禅。考え事に集中する。
さっきコリスの頬袋にドーナツが詰め込まれている所を見て、何か浮かんだ気がしたんじゃけど……あ! 別の魔法を圧縮したらどうなるかじゃ。
【御雷】は発射までに魔力を圧縮して解き放つじゃろ? ほとんどは体外に放たれているのに、パワーアップする理由が見付からなかったんじゃ。
それがスイッチでDNAが変換される可能性はあるか……でも、スイッチを騙す方法があればいいのか。
要は、大量の魔力が体内に留まればいいはずじゃから、何かいい感じの魔法を圧縮して使ってみれば……肉体強化魔法でいっか。
よし。ちょっと試しにやってみよう。まずは、わしの魔力量を丸々肉体強化魔法に使って……
「【超肉体強化】にゃ!」
たぶん魔法は発動した。体が軽いところをみると、いつもの肉体強化ではないのはわかる。てか、失敗していても、これでも普通に強いかもな。
とりあえず軽くダッシュして確かめていたわしは、右手を狭い額に持って行って、下に動かす。
失敗っぽいな。アホ毛も立っていない。あれほどの魔力を込めたのに、通常の肉体強化の五倍程度。魔力量から考えたら、千倍ぐらい強くなっていてもおかしくないもんな。
次は~……失敗も魔力の無駄じゃし、五倍の魔力で試そう。失敗を続けるだけストックが減って行くから、これでキメたい!
「【超超肉体強化】にゃ!」
また動きを確かめたら、右手を狭い額に持って行き、下に動かす。
なんとなく弾力があるように感じる……来るか? 来るか~?? ピョンッと……
「来たにゃ~~~!!」
角のような白銀のアホ毛が立ったのを確認したわしは、嬉しくなって高速で走り回っていたら、ちょうど三対一の戦闘をしていたコリス達の戦闘区域に入ってしまい、集中攻撃を受けてしまった。
「でも、痛くにゃいもん!」
「なに言ってるんですか~」
「ビックリするから邪魔しないでニャー」
「これこれ、これ見てにゃ~!」
リータとメイバイの苦情はお構いなし。わしは狭い額のアホ毛を指差して、二人に褒めてもらう。
「毛並みが乱れたから直して欲しいのですか?」
「シラタマ殿はしょうがないニャー。アレ??」
いや、褒めてくれない。飛び跳ねるアホ毛を櫛で直そうと頑張っている。
「違うにゃ~。アホ毛が銀色にゃろ~~~??」
「「……だから??」」
「にゃ……」
わしのうっかりミス。白カニの時はアホ毛に騒いでいて、阿修羅の死闘はリータとメイバイには嘘をついたので、ツクヨミ印のアホ毛が立ったら強くなる事を、二人は知らないのであった。
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