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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~
563 一人でもちゃんと働くにゃ~
しおりを挟む隣で寝ていた白塗りのキツネがキツネ店主と知って安堵したが、まさかキツネ店主とそんな事になっていないかと、いまさら焦って服を確認する。
お互い服は、浴衣をきっちり来ていたのでホッとしていたら、キツネ耳女将が食事の準備が出来たと呼びに来た。なので案内されるままに食堂に向かうのだが、キツネ耳女将がチラチラわし達を見ては、吹き出しそうになっていた。
わしはキツネ店主が女のような化粧をしているから笑いを堪えているのだと思い、バカ笑いしないとはさすが女将だと感心していたが、食堂で待っていた厳昭がわし達を見て、バカ笑いしながら真相を教えてくれた。
キツネ店主だけでなく、わしも化粧をしてたんだって……。だからキツネ店主も、わしが笑われていたのだと勘違いしていたようだ。
でも、それならそうと、女将は教えて! わしはそんな趣味はないんじゃぞ!!
ツッコんでも恥ずかしいだけなので、二人で風呂場に駆け込んで、念入りに洗ってきれいさっぱりになったら朝ごはんにする。
その席で、昨日の記憶があやふやだったから、厳昭にわしがどうして化粧をしていたのかと聞いてみた。
どうやらわしは、いちおう芸者遊びをしていたようだ。ただ、いろんな酒をちゃんぽんしてしまったからべろんべろんに酔っていたので、ゲームは全て敗退。罰ゲームで化粧をされたとのこと。
キツネ店主も、べろんべろんなのに調子に乗って負けまくって、キツネ舞妓みたいになっていたようだ。
その姿で、二人して舞妓みたいに厳昭にからんだらしく、気持ち悪くなった厳昭は、わし達を同じ部屋に放り込んだんだって。
ちなみにキツネ店主が目覚めてすぐ動かなかった理由は、知らないタヌキ女が自分を見つめていたから、タヌキ女とヤッちゃったと思って固まっていたらしい。
でも、猫が化粧したらタヌキになるっておかしくない? ……質屋もわしの事をタヌキと思っていたのか? そうじゃろ!!
キツネ店主を追及したら、初めて見た時から凛々しいお猫様だとよいしょして来た。だが、絶対にタヌキと思っていたはずだ。まったく見た目に触れて来なかったからな!!
日ノ本では猫だと見られず、タヌキだと見られていると再認識して、悲しくなるわしであったとさ。
朝食が終われば、厳昭とキツネ店主を交えての商談。昨日、試飲した酒の発注書を受け取る。価格は例の如く、ホウジツに聞いてからなので時価。どうせ第一段は暴利で売る予定だから、あとから知っても問題ないようだ。
うちには、数が揃っている酒を何種類か購入。そこそこ高かったから質問してみたら、遠方から取り寄せた物が多いので、輸送費で高く付くらしい。
まぁ電車が走っていると言っても、京と江戸が繋がってるぐらいだ。二人が嘘を言っているわけではないだろう。それに、一蓮托生の商売をしているのだから、裏切るデメリットのほうが大きい。
なので二人を信用して、大金をドーンと、一括で払ってやった。
これで商談は終了。雑談ついでに情報を売ってあげようかと思ったが、あまり手広くやられてうちとの商売が手に付かないと困るので、公共工事の件は秘密にして立ち去った。
京をトコトコと歩き、平賀家の門を潜ったら、奥さんの元へ直行。源斉の動きを確認する。
なんでも、昨夜から動き始め、わしが作った日ノ本発電計画書の指示は出し終わっているようだ。そんなに早く終わっているとは驚きだったので、ようやく源斉も当主としての自覚が生まれたのだと思ったが、ちょっと違う。
早くソーラーパネルとラジオを作りたいんだって。
源斉は、深夜から数人のマッチョと共に蔵に込もって開発中とのこと。まぁ想定の範囲内なので、風力発電所の話に移る。
源斉が作っていないとしたら、誰が作っているのかと聞くと、元当主。源斉の父親が買って出てくれたようだ。水力発電所にも携わっていたらしく、そんなに面白い発電所が作れるのかと聞いて、誰にも譲らなかったんだって。
やはり平賀家は発明馬鹿が多いのだと奥さんと笑い、その楽しい気分のまま一通の手紙を差し出したら、一瞬にして笑顔が凍り付いた。
手紙の差出人は、天皇家。内容は、写真のフィルムと現像液の作り方を猫の国に差し出せという勅命だ。
現在、各国もカメラを買ったので、猫の国に現像の依頼が殺到しているから、人手不足、材料不足で首も回らない。京からの週一の配達では到底足りないし、わしがすぐに現像できないと困る。
各国も遠くの国に出して、写真が届くには一ヶ月以上掛かるから、なんとかしてくれと嘆願書も多くて面倒臭い。うちが楽をしたいので、現像に関しては技術を広めたいと、ちびっこ天皇の依頼の報酬に入れたのだ。
しかし、独占販売をしている平賀家としては、勅命でもいい顔が出来ないようだ。なので、もう一通……
「ちにゃみにこれが、各国に現像を教えた際の、技術使用料の概算ですにゃ~」
奥さんの満面の笑み……いただきました~!
わしの出した用紙は、十数ヵ国、年に百枚の写真を元に弾き出した金額。写真一枚にしたらかなり安いのだが、数が増えれば増えるほど平賀家の利益になるのだ。
カメラ一台でも、年に百枚以下になるわけもないので、どう考えてもこの数字は少な過ぎる。計算の早い奥さんなら、すぐにこの事に気付いて笑顔となったわけだ。
ちなみにちびっこ天皇にもこの方法で口説いたから、ちゃちゃっと勅命を書いてくれたのだ。
商談が終われば、次はこっちのお願い。カメラ担当者と顔を繋いでもらって、カメラの改良をお願いしてみた。
先日撮ってきた北極のアルバムをぺらぺら捲り、オーロラのページを開く。その際の苦労話をしつつ、シャッタースピード、レンズの絞り、遠距離レンズ、広角レンズの後付け等をリクエスト。プラス、インスタントカメラもお願いしてみた。
さすがにオーロラが普通にやって撮れなかったと聞いた担当者は、やる気に満ちていた。いや、カメラのグレードアップ方法なんてあるのかと、研究したいと張り切っていた。
こういう頼み事をする時は、平賀家はチョロイのう。
インスタントカメラの作り方を説明している時に、ついでに動画の研究もどうかと言おうと思ったが、今回は踏み留まった。
カメラの改良が遅くなるかもしれないし、うちでもやるかもしれない。スライドショーぐらいならわしでも出来そうだから、つゆに研究してもらおう。
お願い事も上手くいったので、完成したら猫の国に送ってもらう予定だ。対価としていくらになるかと奥さんに聞いてみたら、インスタントカメラは作ってから。改良品に関してはアルバムを提示された。
そんなのいつも通りお土産であげると言ったのだが、わしがあげた写真は時計台で展示していて、評判が評判を呼んで、かなりの収益をあげているらしい……
それならそうと言ってくれたら、売上の数パーセントを……あ、もうこの話は無しですか。でも、わしもまけまへん!
無事、入場料から格安の料金を奪い取ったので、次回からはアルバムを渡す前に契約書を交わす予定だ。
そうこう奥さんと話をしていたら、お昼をごちそうしてくれる事となったので食堂に行くと、目がギンギンの源斉に捕まった。
何やら専門用語オンパレードでうっとうしいが、太陽光発電の研究は聞き漏らすわけにはいかない。
「あの石をもっと寄越せと言われてもにゃ~。わしもアレしか持ってないんにゃ。ケイ素が多く含まれている物を探すしかないにゃ」
「せめてどこにあるかだけでも……」
「う~ん……たしか火成岩にケイ素が多く含まれているから、火山活動があった場所……」
「行って来ます!」
「当主が直々に行くにゃ~~~!!」
開発部門のトップが、すぐに見付かるかわからない物を探しに行くのは時間の無駄だ。
なので、わしの話を聞き終わる前に走り出した源斉は、縄を投げて捕縛。いまある物でさっさと実験機を作れと言って、さらに、もうおもちゃはあげないと脅しておいた。
これで源斉は一時の従順な犬となったので、平賀家から桂石探索隊を組ませるように動かし、さっさと研究に戻るように言い聞かせた。
わしが猛犬をしつける姿を見た奥さんはかなり驚いていたので、魔法の言葉を教えておいた。もしも変な方向に動き出したならば、奥さんに日ノ本発電計画に戻してもらおう。
昼食が終われば、あとは忘れていたお金の話。平賀家の研究費はわしが出す契約となっているので、ポケットマネーから支払う。ただ、あまり小判の手持ちは無かったので、次回来るまでに小判を用意する予定だ。
それでも国宝級の毛皮を売った残りなので、日ノ本の庶民からしたらかなりの額だから、奥さんからはこれで足りるかもと助言をいただいた。
勝手に違う事にお金を使われるのは困るので……てか、源斉辺りは別の研究で使い込みしそうなので、帳簿は天皇家とわしに提出するようにしておく。
さすがに天皇家に嘘を書く事はないだろうが、天皇家からも査察が入るかもしれないと仄めかしておいた。わしのポケットマネーなのだから、無駄に使って欲しくないからな。
きっちり領収書も、天皇家用とわし用を書かせ、ようやく平賀家関係の全ての用事が終わった。
奥さんと別れの挨拶をしたわしは、厳昭のお店に寄ってお金の相談。金貨を両替できるかと聞いてみたら、多くは無理みたいだ。理由は、そんな事をした事がないから。
万国屋で使う分なら個人的にやってもいいらしいが、お上に何を言われるかわからないから大々的にやりたくないようだ。
天皇家とはお金の交換はしているが、商家とやる契約を決め忘れていたといまさら気付いたわしは、また御所に行くのも面倒臭いので、白い毛皮を売る事にする。
厳昭は悪い顔で笑っていたから、本当はこっちが目的で、両替が出来ないと言ったのかもしれない。なんか広げた毛皮でコロコロ転がっているし……
とりあえず、支払えるだけ小判は受け取って、あとはツケておく。国宝級なんて売り捌くのには時間が掛かるから仕方がない。契約書だけきっちり交換し、猫の国に転移した。
「シラタマさ~ん!」
「シラタマ殿~!」
「ごふっ!」
役場に帰ると、リータとメイバイの殺猫タックルでお出迎え。どうやら丸一日会えなかったから、寂しかったらしい。
「どうですか?」
「クンクンクン……せっけんの匂いがするニャー」
「「怪しい……」」
いや、単なる浮気チェックだった。キツネ耳舞子の匂いを消すのに、朝シャンを念入りにした事が裏目に出たようだ。
「怪しくないにゃ~。夜遅くまで会議をしていたから、お風呂が朝になっただけにゃ~」
「「……出せ」」
心はなんとか読ませなかったが、それでも仕事の成果を出せと言われて、諸々の書類を提出するが、全て日本語だったから読めないんだって。
仕方なく朗読したら芸者遊びはバレなかったが、結局、昨日の分も撫で回されて罰となるわしであったとさ。
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