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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~
559 猫王様の北極探検記にゃ~
しおりを挟む「がはっ……出来た~~~!!」
折れた首を回復魔法で治してやった源斉は、しばらくして、何やら叫びながら息を吹き返した。
「にゃにが出来たんにゃ?」
「太陽光発電だ! ……へ? アレ? 師匠……俺の作った機械はどこにやりました??」
「どこもにゃにも……源斉は寝てたから、にゃにも作ってないにゃ」
「えっ……」
どうやら源斉は夢の中で太陽光発電の試作機を完成したらしく、わしに現実を知らされて肩を落とした。
「まぁ夢の中の設計図でも、作れるかもにゃ~。にゃははは」
「それだ! 紙と筆を貸してください!!」
わしが紙と鉛筆を渡すと、源斉は凄い勢いでガリガリと設計図を書き始めたので、わしとつゆは雑談。日ノ本のエネルギー問題が解決したら、どの技術から奪い取ってやろうかと話し合う。
しかし、電気を貯める物が無いので、一番はバッテリー。それと、変圧器なんかも必要なので、先に買うか設計図を奪う事で落ち着いた。
これさえあれば、自作の風力発電機の実験なんかも出来るので、つゆに頼む予定だ。だが、つゆは未来の技術にご執心。掃除機を作りたいらしく、分解された部品を集めて直そうとしてやがる。
やはり平賀家は面倒臭いので、喋り疲れた事もあり、わしも部品の仕分けをしていたら、源斉の設計図が書き終わった。
「どうですか師匠?」
「どれどれ~……」
マジか……これって、完璧なソーラーパネルの設計図じゃね? 死に掛けていたのに、脳は動いていたのか……
てか、死後の世界でスサノオから作り方を聞いて来たんじゃなかろうか? いや、スサノオはそんな事はせんじゃろう。あの二柱と違って……
「まぁいいんじゃないかにゃ? あとは実験だけなんにゃけどにゃ~……その前に、源斉はやる事をやれにゃ」
「はい! 完璧に作ります!!」
「違うにゃ~」
当主である源斉に、研究に没頭されては進むものも進まない。先ほど作った日ノ本発電計画書を見せながら、風力発電から取り掛かるようにと念を押す。
「それよりも、太陽光を……」
「だから~。まずは指示を出してからやれにゃ~。平賀家にゃら人材は居るんにゃから、他の発電所ぐらい余裕で作れるにゃろ」
「しかし……」
「やらないにゃら、もうここに連れて来ないにゃ」
「や、やります! だから、ここに住まわせてください!!」
「京に帰れにゃ~~~!!」
源斉なら、おもちゃを取り上げられたら乗って来るとは思ったが、予想の斜め上をいった上に厚かましい。しかし、やる気を削ぐと面倒臭い事になるので、計画書を完璧にこなしたら考えてやるとだけ言っておいた。
これで源斉はやる気を出して燃えていたが、何年掛かると思っているんじゃろう? 少なくとも、五年は掛かると思うんじゃが……
エネルギー会議が終わったら、深夜二時。久し振りの濃い生産話は若かりし日の会社を思い出し、わしも楽しくて時間を忘れてしまっていたようだ。
しかし、無断外泊はリータ達の説教案件。源斉達にはすぐに帰る旨を伝えたけど、テコでも動かない。なので説得していたら、難しい話をしていたせいで疲れていたのか、フッとわしの意識が途切れた。
翌日目覚めたら、離れはぐちゃぐちゃ。わしは部品の山に埋もれていた……
激怒したかったが、時計を見たらお昼を回っており、このままではわしの命の危機だ。だから走って地下空洞から出て、リータ達に通信魔道具を繋ぐ。
はい。はい。はい。申し訳ありません。すぐに戻るので、何卒、命だけは……
通信魔道具の先では、リータ達は大激怒。もう少し連絡が遅かったら、ソウまでわしを殺しに来るところ……いや、迎えに来るところだったようだ。たぶん、撫でられるだけだと思うけど、声のトーンが怖すぎて平謝りだ。
いちおうリータ達には報告できたので、あとは面倒な源斉とつゆをとっ捕まえるだけ。地下空洞に戻り、縄を振り回して怒鳴り声をあげていたら、離れに立てこもりやがった。
そんな所に立てこもってもまったく意味が無いのだが、これ以上離れを荒らされたくないので、二人に研究してもらいたかった失敗作をふたつ、入口から見える位置に置いてみたら、のこのこ出て来たのでお縄にしてやった。
それから猫の街に転移。まったく転移魔法に興味を示さない源斎とつゆと一緒に、リータとメイバイの前で土下座。エネルギー会議の内容と、平賀家の扱いの難しさを訴えたら、罰は夜の撫で回しだけで許してくれた。
いつも通りだったのでホッとしたら、大きな腹の虫が鳴ってしまったので、三時の爆メシ。朝と昼を抜いてしまったから、コリスの一食分ぐらい必要だ。
源斉とつゆにも出して「コリスに取られるから早く食え」と急かしていたら、双子王女にからまれて、わしのごはんがコリスの頬袋に消えて行く……
「にゃに~? ごはん食べてるんにゃけど~」
「「小説家の取材の件ですわ」」
どうやらわしが、ちびっこ天皇の用件を先にしたあげく、丸一日も時間を掛けていた事が気に食わなかったようだ。
そこでどこまで進んでいるかと聞いたら、わし以外からは取材済みとのこと。写真も現像済みで、皆で回して見ていたようだ。
「それって……オーガも見たにゃ??」
「見ましたわよ」
「あんな人間が居るとは驚きですわ」
しまったな~。現像するのは子供達だったんじゃから、配慮が足りんかった。
「子供は大丈夫だったにゃ? 怖がってなかったにゃ??」
「わたくし達も聞きましたけど、ひと目見て、目を逸らしたらしいですわ」
「もう一人は見ていないと言ってましたわ」
「それでも、気持ちの悪いモノを見たんにゃ。特別報酬を渡して、心のサポートもしておいてにゃ~」
「「わかりましたわ」」
現像組の子供には、ヤマタノオロチ肉とケーキをプレゼント。それと、ワンヂェンを使ってのアニマルセラピー。とびきりうまい物とモフモフで、阿修羅の事は忘れてもらおう。
双子王女のせいで食事が全て無くなっていたが、もうじき夕食なので、それまでリータとメイバイにスリスリ時間を潰す。
それはもう凄い撫で回しを受け、夕食も餌付けしてもらうと居住スペースに移動して、ちびっこ天皇、お玉、源斉、つゆを居間に集める。
「にゃんでみんにゃ居るにゃ?」
「「「「気になりまして……」」」」
エネルギー会議をしようとしたら、関係ない双子王女、エミリ、ワンヂェン、お春、猫ファミリーの揃い踏み。リータとメイバイはいいとして、その他は邪魔だ。
なので、わざと難しい言葉を使って追い出そうとしたら、わしを撫でるリータとメイバイ、少しは興味のある源斉とつゆ、それと興味津々の双子王女しか残らなかった。
「陛下とお玉はこっちにゃ~!」
こいつらの為にやっているのに、ゲストルームに逃げようとするので捕まえて、双子王女を追い出そうとしたけどテコでも動かないので諦めた。
「さっきは言い過ぎたにゃ。これ、三部しかにゃいから、近付いて見てくれにゃ」
日ノ本発電計画書は、ちびっこ天皇達に見せるだけだったから、日本語の物が二部と英語の物が一部しかなかったので、双子王女とリータとメイバイ、ちびっこ天皇とお玉、わしと源斉とつゆで共有する。
それから一通りを読んだ皆から質疑応答が来るが、双子王女ばかり手を上げまくるからうっとうしい。また今度説明すると言って黙らせた。
「陛下達はどうにゃ? わからない点はあるかにゃ?」
「いや、問題ない。平賀家が準備をしている間に、人員を用意したらいいだけだろう?」
「その通りにゃ。大規模にゃ工事になるけど、順序立ててやったら、いまの電力の三倍から五倍は堅いにゃ」
「すごっ……。でも、よくもまぁ二日で、これだけの案が浮かんだものだ。聞いた事もない物ばかりだぞ」
「わしの頭の中にあっただけにゃ。ただ、実現するには源斉の力が無いと無理だったんにゃ。さすが平賀家にゃ~」
ちびっこ天皇の疑問から、双子王女もわしを疑いの目で見ていたので、平賀家を使って話を逸らす。
いちおうつゆと源斉には、わしに話を合わせるように言っておいたので、つゆは頷いてくれているが、源斉は太陽光発電の設計図を見て静かなものだ。
「あ、そうにゃ。もしも太陽光発電が完成したにゃら、先にやってくれにゃ。そっちのほうが、工事が楽になるからにゃ」
「なるほど……では、途中で変更が必要になるわけだ。わかった。お玉と相談しながら進めるとしよう」
ちびっこ天皇は、六歳とは思えないぐらい飲み込みが早いので、意外と早く話が終わった。
なので、さっさとお風呂。ちびっこ天皇と源斉を放り込み、雑に魔法で洗って居住スペースに投げ捨てたら、わしはお風呂の前で見張り。
案の定、ちびっこ天皇が覗きに来たので、拉致って縄でぐるぐる巻きにしておいた。ちなみに昨日は、双子王女に簀巻きにされたらしい。こりないヤツじゃ……
そうしてわしのあげたラジオセットをいじっている源斉を見ながら晩酌をしていたら、皆がお風呂から上がって来たのだが、お玉の様子がおかしい。
何故かリータとメイバイにメロメロになっているし、居間で元の姿に戻ってブラッシングを受けている。
お玉の元の姿は、およそ2メートル半の四尾の白キツネ。ブラッシングを受けて、コロコロと声を漏らして気持ち良さそうだ。
さすがに不思議に思い、酒の入った皿を目の前に置いてお玉に問いただしたところ、リータとメイバイの揉み洗いにメロメロになったんだって。
たしかに二人のテクニックは半端ないが、玉藻は嫌がっていたのに、それでいいのか? どちらか片方を侍女にくれじゃと!?
どうやらお玉はそっちの趣味に目覚めたようなので、わしがリータとメイバイを引き離そうとしたら、嫉妬していると受け取られてめちゃくちゃモフられた。
わしも至極の感覚に陥り、昨日は深夜まで難しい話をしていた事もあって、そのまま眠りに落ちてしまうのであった。
そして翌朝、気持ちよく寝ていたら双子王女に踏まれた。でも、ゴロゴロ寝続けた。だから変な所を踏まれて飛び起きた。
どうやら時刻は十時を回っており、いつまで経っても下りて来ないから起こしに来たらしいが、王様に電気あんまするかね~?
朝から恥ずかしい思いをさせられたが、わざわざ双子王女が起こしに来なくても……お春が起こそうとしたけど、ピクリとも起きなかったのですか。起きないと泣きながら謝っていたのですか。すみません。
お春が不憫に思えた双子王女に朝からガミガミ言われて、それならリータ達はどこに行ったかを聞くと、チェクチ族の学校案内をしているようだ。
なので、わしもさっさと働けと言われたので、エミリに用意してもらっていた朝食を持って一階庭園に移動。そこで待っていた小説家の猫耳娘二人の取材を受ける。
「にゃんで陛下とお玉が居るにゃ?」
「「「「はやく~~~」」」」
どうやら二人も冒険談を聞きたくて待ち構えていたようだ。昨日もリータ達からの取材に立ち合っていたらしい。この暇人どもめ……
猫耳娘にどこから話そうかと聞いたら、一から話せとのこと。全員、一から聞いて、各々の感じ方を聞き出したいようだ。
多少面倒だが、ちゃんと話さないと双子王女やリータ達に告げ口されても困るので、写真と日記を見ながら順序立てて話す。
チェクチ族との出会い、阿修羅との戦い、北極点到達まで……
ただ、阿修羅との詳しい戦闘はわししか知らないので、リータ達に嘘をついたように長時間の戦いをした旨を話すのだが、猫耳娘に「最初以外ウソっぽい」と言われてしまった。
たしかにいま即興で話を作ったので、疑われても仕方がない。だから創作して書けばいいと言ったが、本当の事を喋ったら創作すると返された。
悩んだ末、皆に心配させたくないから黙っている事を条件に、忠実に死に掛けた事を教えてあげた。だが、小説が販売されてから読んだ時に、忠実に死に掛けた事を書かれ、戦闘シーンはフィクションとなっていた……
後日聞いた話では、最大のピンチに新しい力が目覚めるシーンは猫耳娘では思いも付かなかったので、書き直しても面白味が半減するから、そのまま使うしかなかったんだって。
もちろん「猫王様の北極探検記」は、この戦闘シーンのおかげでバカ売れ。わしを心配するファンが猫の街に押し寄せる事態となるのであった。
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