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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~

549 一難去ってまた一難にゃ~

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 赤い宮殿にもう一泊して、城壁に数多くの猫又石像を設置したら、ようやく完成したのだが、わしの目から水が流れ落ちる。

 多い……多すぎるよ……もう、壁の上は大量のわしが占拠しておるぞ。壁もわしの落書きをしやがって……猫の国やビーダールの比じゃないくらい、わしの国じゃ。なんなら夢の国……キャットランドの進化系じゃ。
 ま、まぁ、こんな危険な場所に、人が来る事は不可能か。せいぜい我が儘を言うさっちゃん達ぐらいじゃ。

 濡れた目を袖でこすっていると、コリスが噛み付いて来たので、ランチの時間のようだ。
 皆はわいわいと城壁完成に喜びながら食べている。わしは話に入れないまま遠い目をしてモグモグし、食後のデザートとコーヒーをしていたら、イサベレとオニヒメが同時に西を向いた。

「何か来てる!」
「パパ。多いよ!」

 二人は焦りながらわしを見るので、チャンスかと思って提案する。

「みにゃ様……残念にゃがら、我が猫帝国は、本日、完全に消滅しますにゃ~」
「「「「「守れ!!」」」」」

 わしが神妙な面持ちで獣から逃げようと提案しても、怒鳴られるだけ。こんな誰も居ない場所を守る必要がないと言っても、反論してきやがる。

「オニヒメちゃんの両親のお墓があるんですよ!」
「そうニャー。ここが無くなったら浮かばれないニャー!」
「ヒメのだいじ。わたしがまもる!」

 リータ、メイバイ、コリスは、オニヒメの大事な物を守る為に戦いたいようなので、さすがのわしも心が揺らぐ。そこにトドメ……

「パパ。お願い……」

 オニヒメに涙目で頼み事をされては断れないわしは、気合いを入れて立ち上がる。

「よっにゃ! パパに任せるにゃ~!!」
「「「「おお~」」」」

 珍しくやる気を出すわしを見て、リータ達は感嘆の声を出しながら撫で回すが、オニヒメだけは何やら小さく呟いていた。

「チョロ……」

 ただ、そのオニヒメの悪い顔は、リータ達から激しい撫で回しにあっていたので、わしは気付かないのであった。


 それからいろいろ揉めた末、全員で西に向かって走る。

 イサベレに聞いたところ、こちらに近付いている敵は大きな生き物の群れで、一匹、とんでもなく巨大な生き物が居るらしい。しかし、わしならなんとかなる程度の強さらしいので、すぐに倒したら危なげなく群れを殲滅できるとのこと。
 当然、そんなのが居るならわし一人で向かうと言ったのだが、まったく聞いてくれない。顔もなんか怖かったから、止める事も出来なかった。戦闘狂の集団は、これだからたちが悪い。

「「「「「あ゛っ!?」」」」」
「にゃんでもありにゃせん!!」

 わしの失言。口から漏れてしまっていたので、睨まれて怖い思いをする。戦闘の前に、一戦が始まりそうな勢いがあったので言い訳してみたが、夜にわしは、モフモフ罪でしょっぴかれるらしい。
 罪状は意味不明だが、撫でられるだけならいつも通りなので、そこまで酷い事はして来ないようだ。

 少し安心した頃に白い木の群生地を抜け、さらに走ると、阿修羅との戦闘で作られた巨大なクレーターがあったので、ここで迎え撃つ事にした。
 ついでに、皆の反対を押し切って罠を張る。ただ、接触間近ともあり、時間的に余裕が無いので、落とし穴だけ。中心の深さは300メートル以上ありそうだから、ザコならば一網打尽に出来るはずだ。

 戦いたい皆のブーイングを無視して、土魔法を使ってクレーターに蓋をしていると、ちょうど完成した頃に、白くてデカイ山が見えて来た。

「アレは……巨象……」
「ビーダールの再来ニャー!」

 体高60メートル以上の白い生き物を見たリータとメイバイは、白い巨象を思い出しているようだが、わしはちょっと違う。

 うっそ~ん! 探知魔法で象だとは予想していたけど、象じゃない!!

「マンモスにゃ~~~!!」

 そう。ナマで動くマンモスを見たわしは、歓喜の声をあげた。

「ダーリン。喜んでる場合?」
「もうそこまで来てるよ」

 鼻息の荒いわしをいさめるイサベレとオニヒメ。ちょっと顔が怖いので、わしが真面目にしていないと思って怒っているようだ。

「にゃ? ああ……じゃあ、とりあえず行って来るにゃ。みんにゃは、合図があるまで待機にゃ」


 作戦の概要は、説得と罠の二本柱。もしも説得で帰ってくれるのならば、落とし穴は発動しない。どうしてもわし達と戦いたいと言うのなら、何百メートルも下に落ちてもらう。
 その後、ダメージを受けた生き残りに、わし達でトドメを刺す作戦だ。

 わしは蓋の上を歩き、中央手前で止まるとマンモスの登場を待つ。そうしていると、ドスンドスンという音が徐々に大きくなり、黒い木を薙ぎ倒して、巨大な白いマンモスの全貌が確認できた。
 しかしながら巨大マンモスは蓋の手前で止まり、あとから現れた体高30メートルから2メートルの、白や黒、茶色のマンモス達も、蓋に乗らないように整列した。

 白い巨象、再びじゃ。鼻の数は八本、牙が四本。強さでいえば、わしの倍ぐらいあるんじゃけど、イサベレの奴……阿修羅のせいで、危険察知がバカになってるんじゃないか?
 たしかに阿修羅は倒したけども、こんなの相手にしてられるか!

 わしがイサベレのミスをとがめてやろうかと考えていたら、巨大マンモスから念話が届く。

「小さき者よ……我と敵対するつもりか」

 おっと。対話で追い返そうとしてたんじゃ。向こうもいきなり襲い掛かって来ないところを見ると、アイラーバのように穏やかな生き物みたいじゃな。

「敵対するにゃんて、これっぽっちも思っていないにゃ。この先にわしの縄張りがあるから、近付いて欲しくなかっただけにゃ」
「ほう……力の欠片も見当たらないのに、縄張りを持っているのか」
「まぁにゃ。小さいけど、大事な縄張りにゃ。帰ってくれにゃ~」

 わしの説得に、巨大マンモスは考える事すらせずに答えを出す。

「そうはいかん。この先に、我の縄張りに適した土地があるらしいのだ」

 巨大マンモスが言うには、元々の縄張りの魔力濃度が下がって来ていて住みづらくなったので、仲間を使って新天地を探していたそうだ。
 そして阿修羅の縄張りを発見したものの、仲間が数匹殺されてお怒りらしい。それで移住もかねて群れの大移動をしていたら、目指していた方向から激しい戦闘が起きているであろう音と砂煙を確認したので、真っ直ぐ向かって来たようだ。

 あら~……もうちょっと日にちがズレていたら、こいつと三つ巴になって楽が出来ていたのか。
 しかし、仲間の仇をわしが討ってしまったけど、言ってしまうとどうなるんじゃろ?

「ところでなんにゃけど、その仇が死んでいたらどうするにゃ?」
「もちろん殺した者を、我が殺して縄張りを奪う」

 うん。言わないほうがよさそうじゃ。でも、わしの留守中にこいつが猫帝国に入ったら、赤い宮殿は壊されてしまう。そんな事になったら、オニヒメに顔向けできん。
 戦うしかないのか……でも、マンモスを倒すのもな~……マンモス肉は少し捨てがたいけど……よし!

「さっき言ってた仲間を殺したヤツは、わしが殺してしまったにゃ」
「フッ……冗談の上手いヤツだ。殺された者は、我が一族で二番目に強いのだ。お前では遠く及ばん」
「信じられないだろうけど、事実にゃ。それともうひとつ事実を伝えると、お前の仇は、お前より強かったにゃ。命拾いしてよかったにゃ~。にゃははは」

 わしが笑うと、巨大マンモスは「パオーン!」と怒りをあらわに吠えるので、わしは慌てて耳を塞ぐ。

「小さき者よ……我を怒らせて、殺されたいのか……」
「いんにゃ。お前が死ななくて嬉しいんにゃ。友達に似てるから、死なれると悲しいからにゃ」
「どうしても、我に殺されたいようだな……」
「殺されたくないにゃ~。縄張りも、お願いを聞いてくれたらあげるつもりにゃ~」

 わしの意外な提案で、巨大マンモスの溜飲りゅういんが少し下がった。

「小さき者の縄張りなど、小さ過ぎていらぬ」
「だから、お前の仲間を殺したヤツから奪ったと言ったにゃろ? ここはひとつ、わしと力比べしにゃい? 証明してやるにゃ~」
「パオパオパパパ」

 わしの挑発で、巨大マンモスだけでなく、全てのマンモスが「パオパオパパパ」と笑い出した。

「面白い! 我をちょっとでも後退させられたら信じてやろう。なんなら、このまま帰ってやろうじゃないか」

 お! 乗って来た。しかも、超楽チンな勝負方法じゃ。マジバトルなら、スーパー猫又になるまで待ってもらおうと思っておったけど、お安く付きそうじゃ。
 でも、念の為……

「こ~んにゃ小さなヤツに、嘘をつくにゃんて事はしにゃい?」
「仲間が見ているのに、そんな恥ずかしいマネができるか」
「絶対にゃ~??」
「くどい! さっさと掛かって来い。何度でも許してやるぞ」
「にゃはは。そんにゃに多くいらないにゃ。二発で動かしてやるにゃ~」

 わしが笑うと巨大マンモスの群れは、また「パオパオパパパ」と笑うが、次の瞬間には、開いた口が塞がらなくなった。

「必殺【レールキャット】にゃ~!!」
「ぐああぁぁ~~~!!」

 巨大マンモスの眉間に向けて、【御雷みかずち】からの高速ネコパンチ。気功も乗せたネコパンチ一発で眉間はへこみ、体高60メートルもの巨体は、100メートルほど電車道を作る。
 それだけでなく、わしの【レールキャット】を無防備に受けた巨大マンモスは、まさかの威力に脳震盪を起こし、横向きにドスーンと倒れたのであった。


 つ~……また前脚が折れてしまった。やっぱし、重いし硬かったな。それだけで、かなりの強敵だと頷ける。
 気絶まで追い込んだんじゃから、これで言う事を聞いてくれたらいいんじゃが……

 わしが回復魔法で両前脚を治し終わった頃に、仲間のマンモス達が追い付いて来たが、いまだに巨大マンモスは起き上がらない。
 なので、この中で二番目に大きな白マンモスに、水を掛けて起こしていいかと質問して、許可が下りたら【大水玉】をぶつけて起こしてあげた。

「な、なんだ!? ……なんで小さき者が地面に横たわっている??」

 どうやら巨大マンモスには、わしが寝転んでいるように見えているらしいので、間違いを正してあげる。

「逆にゃ。逆……お前が寝転んでいるんにゃ」
「ほ、本当だ……」

 やっと自分が倒れていた事に気付いた巨大マンモスは、重たい体を起こしてお座り姿となった。

「さてと……お前が出した勝負方法は、わしが全て満たしたにゃ。負けを認めてくれるかにゃ?」
「ぐっ……うぅぅ……」

 さすがに、こんな小さな猫に負けたと認めづらいのか、巨大マンモスは一分ほどうなっていたが、仲間の顔を見て、諦めた顔に変わった。

「約束は約束だ……引き返そう」

 意気消沈。巨大マンモスは、先ほどより小さく見えるほどへこんでしまった。

「ちょい待つにゃ」
「なんだ?」
「元の縄張りが魔力が減っていて困ってるんにゃろ? わしの縄張りに来たらいいにゃ」
「小さき者の下につけと……」
「違うにゃ。お願いを聞いてくれるお礼であげるんにゃ。わしの縄張りはいっぱいあるから、ひとつぐらい減ってもいいにゃ」

 また巨大マンモスは唸っていたが、負けた事もあり、わしのお願いを聞いてくれる事となった。
 こうして巨大マンモスの上に乗ったわしは、マンモスの群れを引き連れてリータ達の元へと戻るのであっ……

「待ったにゃ! 止まれにゃ~~~!!」

 残念な事に、クレーターに蓋をしていた事を忘れていて、マンモスが全て乗ったところで蓋にヒビが入り、止めても時すでに遅し。
 あまり深い所から落ちたわけではないが、落下の衝撃で普通のマンモスは怪我をして、わしの事が信用ならないとブーイングが起こるのであったとさ。
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