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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~
536 わしの常識は信用ならないにゃ~
しおりを挟む発見した陸地に戦闘機を降ろしたものの、大量の雪が降り積もった雪原の上に着陸してしまったらしく、戦闘機から飛び降りたリータ達の姿が消えてしまった。
なのでわしは雪魔法を使って、戦闘機の周りの雪を全てどかしてしまう。すると、ぽっかりと大きくて深い穴が開き、ガタガタと震えている皆を発見した。
「さささ、寒いですです。ガチガチ」
「しし、出発した所より寒いニャー。ガチガチ」
「こここ、氷る……ガチガチ」
「ね、ねむい……ガチガチ」
リータとメイバイは、歯をガチガチ鳴らしながら喋り、イサベレとオニヒメも同じように凍えて歯を鳴らしている。
「にゃ!? すぐに降りるにゃ~!!」
モフモフのコリス以外、寒さに震えて動けないようなので、わしは飛び降りたと同時に次元倉庫から薪を取り出して火をつける。
そうして皆を掻き集めて焚き火に当てていたら、コリスがモフッと抱きついて来た。
「モフモフ~。わたしもさむいよ~」
「う、うんにゃ。水分を除去するから、一回離れようにゃ」
コリスは雪を落とさずに火の前に居たので、わしまでジットリ濡れて寒い。なので、水魔法で水分を弾き飛ばし、薪を追加。さらに、土魔法で建物を作って煙突まで付けてあげた。
「とりあえず、ごはんにしようにゃ~」
コリス以外いまだに震えているので、寸胴に入った具沢山クリームシチューとパン、高級串焼きを支給して、体を内から温める。
わしはバクバク食べたら「外の様子を見て来る」と言って、猫耳マントを羽織って長靴を履いたら外に出る。そして建物の屋根からぴょんぴょんと戦闘機に飛び乗ると、雪原を見渡す。
これ、全部雪か? 積雪5メートル以上あるぞ?? 今日は晴れてるけど、ここ数日は猛吹雪だったのかもしれんな。
それにしても、この気温はわしでも寒い。まだ一月じゃもんな。確実に氷点下はありそうじゃ。ここは北海道からさらに北じゃし、寒いわけじゃ。
さてと~……こうしていても寒いだけじゃし、皆の元へ戻るとするか。
わしはまた、ぴょんびょんと飛び跳ね、建物の中に入ると皆に声を掛ける。
「どうかにゃ? 体は温まったかにゃ?」
「はい。なんとか……」
「どうしてここは、こんなに寒いニャー?」
「難しい話になるけど……聞くにゃ?」
「わかるように説明してニャー!」
わしの質問にリータが答える中、メイバイが無理難題を吹っ掛けるので、渋々地球儀を使って説明する。
「東の国はここにゃ。んで、そこから南下した所にビーダールがあったにゃろ?」
「「「うんうん」」」
「ビーダールはめちゃくちゃ暑かったのは覚えてるにゃ?」
「「「うんにゃ~」」」
「暑い理由は、赤道が近いからにゃ。ちょうど地球儀のど真ん中を東西に一周するラインが赤道……暑い道だにゃ」
皆の顔を見ると、なんとかついて来ている顔をしており、リータがそろりと手を上げる。
「その赤道は、どうして暑いのですか?」
「気温ってのは、太陽が当たっている角度に関係するんにゃ。球体だと、ど真ん中が一番太陽光が直角に当たりやすいんにゃ。それに日照時間が長いから、暑くなりやすいってわけにゃ」
「難しいニャー!」
「う~ん……ま、赤道に近付けば暑くなって、遠ざかれば寒くなると覚えておいてくれにゃ」
「この暖炉みたいにですか……」
「まぁそんにゃ感じにゃ。ちにゃみにだけど、この赤道からちょっと離れたラインが、人が住むのに適した場所にゃ。そこを重点的に攻めれば、人を探すのも楽かもにゃ~」
わしの失言で、皆は赤道付近を探検しようと言い出したが、ここまで来て引き返すのも面倒臭い。だから人が集まるなら戦争している可能性が高いと説明して、時の賢者の足跡が途絶えたあとに繰り越す事となった。
皆の食事も終わり、体調も戻ったようなので出掛ける準備。リータ達も猫耳マントを羽織り、長靴を履いたら、巨象の皮で包んだ焼いた石を配布。これで、多少寒くても体温調節が出来るはずだ。
ちなみにイサベレ用の猫耳マントは持っていなかったので、メイバイの予備を貸そうとしたら、収納袋から猫耳マントが出て来た。
どうやらフレヤの仕立屋で売っていた猫耳マントを雨の日に見掛けて、城の工房で白い巨象製の猫耳マントを作ってもらったらしい。よけいな事を……
イサベレの心配も無くなり、コリスも寒いよりはビッグ猫耳マントを羽織ってビッグ長靴も履いたので、皆で建物の外に出てみる。
「どうかにゃ?」
「足が少し寒いですけど、なんとかなりそうです」
「戦闘になった時がちょっと心配だニャー」
「その時は、わしが相手するにゃ~」
「「「やるからね!!」」」
リータとメイバイだけでなく、イサベレもやる気満々。多少寒くても、戦闘は譲れないようだ。
さらには、【雪化粧】のような魔法を編み出せと無茶ぶりまでして来るので、「そんなポンポン魔法を覚えられないッス!」と言ってみたが、期待していると撫でて来るので、なんとかすると言ってしまった。
だって、服の中に手を入れて来るから寒かったんじゃもん。
とりあえず準備が出来たので、その辺を探索……は、雪が深すぎて出来ず、マーキングだけして、春か夏にもう一度遊びに来る事となった。
その時は、目の前にある富士山みたいな山にも登る予定だ。写真だけ撮って、戦闘機を離陸させるのであっ……
「やっぱり、今日の冒険はここまでにゃ。みんにゃ降りてにゃ~」
「「「ええぇぇ!?」」」
離陸させずに全員降ろそうとするが、非難轟々。お昼を食べたばかりなのに、もう寝るのかと怒られてしまった。
「西を見てくれにゃ~」
なので、戦闘機の窓から西の方角を指差して、皆を説得する。
「あれ? もう暗くなりそうです」
「変だニャー。さっきお昼を食べたばっかりニャー」
「コリスちゃんが催促しないのもおかしいですね」
リータとメイバイが不思議そうに話し合っているので、わしは笑いながら話に入る。
「にゃはは。現在は14時過ぎ。もうすぐおやつ時間だにゃ~」
「え? まだまだ明るい時間ニャー!」
「それがにゃ~。みんにゃは何も気付いてにゃかったから説明を忘れていたんにゃけど、ここと猫の国は時差があるんにゃ」
「「「時差??」」」
また難しい話になってわしも上手く説明できないので、双子王女やキツネ店主に説明したように、日ノ本のほうが猫の国より三時間ほど時計が進んでいると言ってみたが……
「「「嘘ついてる??」」」
信じてくれない。
「だから地球は回っていてだにゃ~」
「「「嘘つき……」」」
「ひどいにゃ~!」
どうしても地球が自転している事も、公転している事も、太陽の周りを回っている事も信じてくれない。なので「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」説得していたら、完全に日が落ちてしまった。
これでは移動もままならないので、ここで一泊。いまのところ獣の反応は無いが、念のため建物に戻り、拡張してからバスを入れる。
ただ、このままではすぐに見付かってしまうので、氷の屋根を付けてカモフラージュ。煙突も長く伸ばして空気穴も作る。もしも大雪が降って埋まっても、これで息は出来るだろう。
寝る準備は整ったが、全員まだ眠たくないんだとか。コリスに至っては、一食分、食べ損なう心配をしてやがる。わしはお昼寝ついでに眠ってしまいたいのだが、皆が許してくれない。
仕方がないので、お風呂を建設。温まってくれたら、しだいに眠気がやって来るだろう。それに、これから行く場所は極寒が予想できるので、今まで使っていた露天風呂は使えない。
湯船、洗い場、脱衣場のある、バスとドッキング出来る密閉されたお風呂、寒さ対策トイレも新設してみた。これで気温が低くても大丈夫。皆でお風呂に入って体を温め……
「う~ん……いっそ、お家にしてはどうですか?」
「バスにキッチンが無いからごはんが作れないニャー」
せっかく作った物は、皆に不評。出来るだけ、アウトドアから離れたくなかったのに……
なので、それらは全て次元倉庫の肥やし。いつか必ず使う機会が来るはずた!
というわけで、いまある建物を壊して、広いお風呂、ダイニングキッチン、トイレ、狭い寝床完備の平屋を建てる。壁はぶ厚く、間には空洞を作ったので、寒さ対策もバッチリだ。
さっそく皆でお風呂で温まり、わいわい夕食を作って楽しい食事が終われば、ようやく皆に眠気がやって来たようだ。
寝室に移動して、四畳半の畳みに予備の布団を敷いて皆で雑魚寝。リータ達は少し寒いのか、わしとコリスにくっついて眠りに就いたのであった。
翌朝は、つゆの作った試作品、昨夜時間を合わせたクオーツ時計の目覚ましで目を覚ます。ただ、わしは目覚めなかったので、誰かが変な所を触った感触で飛び起きた。
犯人はおそらくイサベレ。手の平をくんくん嗅いでいるから確実だ。しかし、それに触れると恥ずかしいので、口を閉ざして出掛ける準備に取り掛かる。
朝食を用意し、わいわいと食べるが、リータ達は気になる事があるようだ。
「なんだかいつもより睡眠時間が少ない気がするのですけど……」
「本当に六時ニャー? さっき外を見たけど暗かったニャー」
「時間はだいたい合ってると思うにゃ。ただ、地下だからにゃ~……たぶん準備を終えたら七時頃だから、太陽は出てるはずにゃ」
「腕時計は何時ですか?」
「見せてニャー!」
「にゃ? ほいにゃ。あと、予備の時計をこっちの時間に合わせなきゃにゃ~」
リータ達に菊の御紋の時計を見せると、時刻は朝の三時過ぎ。やはり嘘じゃないかと言われるが、わしは気にせず予備の腕時計の針を三時間進め、リータにも腕時計を六時に合わせるように指示を出す。
出掛ける準備を終え、キャットハウスとか変な名前を付けられた家は次元倉庫に入れて、屋根に使っていた氷を慎重にどかす。
雪が降っていたらドカ雪が落ちて来ると思ったが、少し雪が落ちただけなので、天気は悪いというわけではなさそうだ。
全ての氷を消すと朝日が差し込み、皆はわしが嘘をついていないと、半分はわかってくれたようだ。
朝の四時に太陽は出てないでしょ? もう信じてくれてもいいんじゃないでしょうか? 正午までは信じられないのですか。そうですか。
わしは嘘を言っていないので、正午までの辛抱だ。皆を戦闘機に乗せて、雪の穴から飛び立つのであった。
戦闘機は海岸線を左に見える位置を飛び、北上し続ける。たまに大きな鳥が近付いているとイサベレから報告が入り、東に機首を向けて陸から離れる。
これは、わしが戦ってしまうと、後々うるさいからの処置。戦闘狂の集団に戦闘をお預けさせるのだ。戦闘を見せたら、絶対に文句を言ってくる。
その甲斐あって機内は和やかな雰囲気で空を行き、正午が近付いて来たが、降りる場所がない。なので、無駄に魔力を消費して、【青龍】で作った氷の島に降り立った。
「「「ごめんにゃ~!!」」」
「ゴロゴロゴロゴロ~」
時刻は正午から数分過ぎた時間。影はやや北に伸びているが、東西はしっかり真下に影が出来ているので、わしを疑っていた、リータ、メイバイ、イサベレは謝って撫でて来た。
ただ単に撫でたいだけじゃないかとツッコもうとしたが、コリスがわしを奪い取ってモグモグするので、食事の準備。コリスの腹時計は、すでに時差を克服したようだ。
昼食を終えると再び離陸。氷だけは砕いて先に進む。しかし、二時間もしたら空が暗くなって来た。リータ達は太陽が曇に隠れたのかと話し合っている中、わしは少し焦りながら降りる場所を探す。
そうして探しているが、降りる場所が見付からない。やや東に行き過ぎたらしいので、西に行こうかまた氷を張って一泊するかを悩んでいたら、正面に陸が見えた。
わしはホッとしながらしばらく進むと、リータとメイバイが騒ぎ出した。
「け……煙です!」
「人ニャー! 人が住んでるニャー!」
正面の陸の端、その先にアラスカがある場所。ユーラシア大陸の最東の地から煙が上がっていたのだ。
「見えてるにゃ~。見えてるから落ち着いてにゃ~」
リータとメイバイは、日ノ本上陸の時のようにわしをぐわんぐわん揺らすので宥める。
「ちょっ! イサベレはどさくさに紛れてどこ触ってるにゃ~!!」
イサベレは二度目とあって、冷静なもん。わしの下腹部をわさわさするので、尻尾で魔の手をぺちぺち叩き落とす。
ちなみにわしは、皆が騒がしいせいで興奮できず、宥める事に精を出しているので、わくわくも楽しみもへったくれもない。
こうして興奮冷めやらぬまま、戦闘機は煙の上がるユーラシア大陸の端を目指して空を行くのであった。
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