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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~
528 お見合い大作戦にゃ~
しおりを挟むリータとメイバイとチチクリ合っている最中も、イサベレVSリンリーの試合は続いており、勉強の為に見ないのかと聞いたら、二人はわしを撫でながら会場に目を戻していた。
イサベレとリンリーは、どちらも気功と侍攻撃を使えるから実力は拮抗しているのだが、やや気功で上回るリンリーに、イサベレは武器を折られまいと慎重に闘っているように見える。
逆にリンリーは、侍攻撃の精度がイサベレより劣るので、先の先、後の先を取られないように慎重に闘っていた。
長い闘いになると我慢勝負となり、焦って勝ちを急いだほうが負けになると考え、わしはリンリーが先に仕掛けると予想していた。だが、先に仕掛けたのはイサベレ。
得意のエアウォークなる空中戦を繰り出し、リンリーの四方八方、多角的な角度で攻撃を仕掛けたのだ。リンリーはその攻撃を侍の勘を使い、足捌きと手捌きでなんとかかわし、チャンスを待つ。
その時は意外と早く来た。イサベレが着地して大きく息を吸ったタイミングに合わせ、リンリーの先の先。怒濤の徒手空拳が、イサベレの意識外から襲い掛かった。
「勝負ありだにゃ~」
「完全にリンリーさんの攻撃が入ると思ってました~」
「さすがイサベレさんニャー。私だったら、焦って何も出来なかったニャー」
勝負の行方は、イサベレの勝利。怒濤のラッシュを全て後の先で合わせ、レイピアで手を跳ね上げ、足を跳ね上げ、リンリーがバランスを崩した瞬間に足を払い、倒れたと同時に顔の横にレイピアを突き刺したのだ。
「必殺技は、焦って仕掛けたと見せただけだったみたいだにゃ。だから体勢を立て直すのが早かったんだにゃ~」
「なるほど。必殺技をフェイントに使ったのですか……」
「必殺技なんだから、最後の攻撃だと思うニャー」
「にゃはは。リンリーも見事に引っ掛かったもんにゃ~」
リータとメイバイと試合の総括をしていたら、イサベレの手を借りて立ち上がったリンリーは、何故かティーサから音声拡張魔道具を受け取って、中央で手を振ったりなんかしている。
『私の闘いはどうでしたか~?』
リンリーがマイクパフォーマンスのような事を始めたので、わし達は何をしているんだろうと不思議に思う。
『見ての通り、私は強いです! ですから、いい嫁になるはずです! お金持ちの人……私を貰ってくださ~~~い!!』
唖然呆然。まさかの結婚相手募集。猫の街では男が少ないし、わしが流したおばあちゃん情報が飛び交っているので、全然モテなかったからの暴挙。
しかしながら、エルフの里では強い女がモテる文化があるのか、強さをアピールしたからには手を上げる者が居ない。恐ろしく強い嫁は、怒らせたら一捻りされてしまうと思っているのだろう。
「ちょ、ちょっと止めて来るにゃ!!」
さすがにこのまま喋らせるわけにはいかないので、わしは乱入。だが、わしが押さえてもリンリーは喋り続ける。
『猫の国、猫の国のリンリーで~す! どうかよろしくお願いしま~す!!』
「もう喋るにゃ~~~!!」
『イチャイチャしましょ~う!!』
終わり際に口走った国名のせいで、猫の国に大量のお見合い自画像が送られて来るのであった。ただし、どう見ても軍事利用ばかりだったので、リンリーには見せずにわしが握り潰すのであったとさ。
「勝手をするにゃ~」
「うぅぅ……だって~」
スティナからの依頼、白い巨大クワガタを訓練場に出して元に居た場所に戻ったわしがリンリーを叱り付けるが、イチャイチャしたいと反論して来やがる。
「ちゃんとこのあと、お見合いを予定していたのに台無しにゃ~」
「えっ……猫さんは、私の恋路を邪魔する事が趣味だったんじゃ……」
「わしのこと、にゃんだと思ってるにゃ? にゃあ!?」
「お邪魔猫……」
「思っていても、口にするにゃ~」
ちょっと怒って質問してみたが、とぼけた顔のせいで怒りが伝わらず、酷い事を言われて悲しくなる。これでも王様なのに……
なので、お見合いは無しと言ってみたら手のひら返し。肩を揉んで腹を揉んでアゴを撫でて機嫌を取って来るが、それは猫を撫でる時にする事じゃ! ゴマをするならちゃんとして!!
リンリーはいちおう反省しているようなので、予定通り、スティナから借りていたハンターギルドの会議室に入ったら、東の国王族揃い踏み。
「にゃんで全員いるにゃ!? オッサンとオンニだけって言ったにゃろ~~~!!」
「「「「まぁまぁまぁまぁ」」」」
わしが追い出そうとしても、こいつらは全然動きやがらない。どうもお見合いが面白そうだから出て行く気がないようだ。
「はぁ……とりあえず、紹介しておくにゃ。エルフの里出身のリンリーにゃ」
「リンリーです! 得意なチョップは、脳天唐竹割りです!!」
「頭を割るにゃ~」
リンリーの変なテンションの自己紹介が終わると、オッサンから紹介を受けて、王族にガン見されておどおどしているオンニが口を開く。
「な、なんでこんな事に……俺はまだイサベレの事が……」
「それにゃんだけど、イサベレを振り向かせるのは、もう不可能だと思うにゃ」
「が、頑張れば、まだチャンスが……」
「これまで頑張ってどうなったにゃ? 差が開いただけにゃ。今日の闘いで身に染みたにゃろ?」
「うっ……」
「オッサンだって、このままではいけないとオンニを心配して、この話に乗ったにゃ。いや、リンリーの力を東の国に欲しいだけかもにゃ。にゃははは」
わしが笑うと、オッサンはバツの悪そうな顔をする。
「たしかに猫が言う通り、是非とも東の国に欲しい戦力だ。だが、その前にお前だ。もう三十だろう。そろそろイサベレは諦めて、他の女性を見てはどうだ? その女性と添い遂げても、お前は幸せになれるはずだ」
「王殿下……」
「その女性とは私です!」
「どうどうどう……」
オンニが感動したような顔になっているのに、リンリーが鼻息荒く手を上げるので、わしは慌てて宥める。
「オンニにも選ぶ権利があると思うけど、お試しでリンリーと付き合わにゃい? イサベレほど美人じゃにゃいけど、なかなかかわいらしい顔をしてるにゃ~」
「私に任せてくれれば、もっと強くしてあげます!!」
「強くしたらイサベレを諦めきれなくなるにゃろ~」
「あ……」
リンリーがよけいな事を言う中、黙って聞いていたオンニの答えが出たようだ。
「それでイサベレに追い付けるなら、是非とも付き合いたいが、そんな事の為に付き合うのも失礼だろう」
この反応は……なしよりのなしかな??
「この際、未練はバッサリ断ち切って、一人の女性と付き合ってみよう。リンリーと言ったか……。しかし、こんな不甲斐ない男でいいのか?」
「はい! 猫さんから、お金を貯め込んでると聞いてます!!」
「は??」
アカン! いらん情報を入れすぎた。
「シーッにゃ! だからお金の話をしたらフラれるって言ってるにゃろ~」
「そうか……たしかに俺は、訓練ばかりで金を貯め込んでいるが……だから俺に寄って来たのか……」
ヤベ……オンニの覚悟が揺らぎそうじゃ。
「この子はこう見えて大食いなんにゃ。だからある程度お金を持っていないと、すぐにフラれる心配があるんにゃ。それ以外は倹約家にゃから……たぶん大丈夫にゃ」
わしの自信の無い説得を聞いて、オンニは意外と乗り気になった。
「どこの女も大食いなのだな。それぐらいなら大丈夫だ」
あれ? 意外と免疫がある。イサベレとルウ以外、大食いじゃないと思うんじゃけど……
わしはこっそりオッサンに念話繋いで話をしてみる。
「ところでにゃんだけど、オンニって、女の噂はどうだったにゃ? 紳士だとか、酷いとか言われてなかったにゃ?」
「さあ? 私も聞いた事がないな。そう言えば、入隊してから浮いた話は一切ない……」
「ま、まさか……」
「可能性は否定できない……」
この日、三十代の童貞と百歳代の処女が付き合う事となったのだが、わしとオッサンは不安を拭えないまま、リンリーのお見合い大作戦は終わるのであった。
とりあえず、正式に付き合う事となったので、王族女性陣がキャピキャピうるさい。馴れ初めを聞いていたけど、いまのを見てなかったのか? あと、双子王女は、二人に何を渡しておる? そんな本、なんで持ち歩いておるんじゃ!!
どうやら双子王女は二人の経験を熟知しているから、お見合いをすると聞いたからには必要になるかと思い、百年続く恋愛指南書という名目のエロ本を用意してくれていたようだ。
必ず一人の時に読むようにと念を押して渡していたので、経験値ゼロの二人にはバイブルとなるかもしれない。ただ、どんなプレー内容が書いてあるかわからないので、二人のプレー内容がノーマルになる事を切に祈るしかなかった。
心配事は増えていく一方だが、いちおうお見合いは成功したので、女王の計らいで「あとは若い二人で……」ってのをやらせるようだ。
二人とも、ガチガチで両手両足を揃えて歩いていたけど、無事、王都内に消えて行った。
残されたわしは、さっちゃんとちょっと言い争ってから、喧嘩別れする。そうして家に帰るとドンチャン騒ぎ。
リンリーのカップル成立を祝さないで、世界から男が一人減ったと荒れるアダルトフォーとアイパーティ。喧嘩になったらリンリーに殺されそうだから、絶対に手を出すなと忠告しておいた。
バカ騒ぎが落ち着いた頃に、オンニに送ってもらったリンリーが帰って来たのだが、泣き出した。どうしたのかと理由を聞くと、緊張して上手く話せないし、ごはんも喉を通らなかったらしい。
なので、皆は献身的に慰めていた。皆にそんな経験があるかどうかは知らないが、わしが口を出す事ではないだろう。さっきまで「別れさせてやる!」とか息巻いていたけど、意外と優しいところもあるもんだ。
騒ぎが落ち着き、リンリーが疲れて眠ったら、またバカ騒ぎ。「若い頃を思い出したわ~」とか誰かが言っていたけど、ツッコムと面倒臭そうなので無視。だって、片膝立てた飲み方がおっさんみたいだったんじゃもん。
あまり相手にしたくないわしは、縁側に退避して一人で飲んでいたら、エンマとフレヤが隣に座って肩を組んで来た。
「にゃ、にゃんですか?」
わしはからまれるかと思って下手に出る。
「ちょっと相談がありまして……」
「私も私も!」
相談……この二人の相談は厄介事な気がする!!
「ヤマタノオロチの鱗が上手く加工できなくて、どこも困っているのです」
「猫君から頼まれた依頼も、全然進まないのよ~」
「あ~……硬いもんにゃ~。わしも解体で苦労したにゃ。だから誕生祭に展示されてなかったんにゃ」
「鍛冶師のマウヌさんが剣と盾を作ったのですが、出来が悪いらしいので、出品を取りやめていました」
いちおうどうやって作ったかはわしも気になったので、エンマから製造法の説明を受けたが、本来の剣の作り方とは掛け離れていた。
「ふ~ん……割る、削るは、にゃんとかいけるんにゃ」
「はい。このままでは、せいぜい盾や馬車等の外装までしか使いようがなく、せっかく軽くて強度のある素材なのにもったいなくて……」
「つまり、わしにどうしろと言いたいにゃ?」
わしの質問に、フレヤ、エンマと答える。
「私の指示通り切ってちょうだい!!」
「こちらも、型紙を渡しますのでお願いします!!」
「にゃ、にゃんで……」
「おお~。日ノ本の職人も苦労しておったんじゃ。うちも型紙を回していいか?」
「玉藻までにゃ!?」
宝の持ち腐れ。どの国もヤマタノオロチの鱗を高値で買ったのに、加工が出来なくて困っているんだって。
なので反論してみるが……
「わしは王様であって、職人じゃないにゃ~~~!!」
「「「兼任してるじゃない?」」」
いろいろ新しい技術を産み出すわしは、職人も兼ねている王様と受け取られていたから、まったく反論にならないのであったとさ。
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