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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~
523 予期せぬ事が起きたにゃ~
しおりを挟むリンリーが呆気なくフラれてしまった翌日、今日はサッカー会場で猫の国の子供が出場すると聞いていたので、開始時間の少し前にわし達は貴賓席に出向いた。
東の国王族も自国の子供が出場するからか、王族全員で観戦しに来ていたので、わしは拉致される。
「ゴロゴロ~。わしも猫チームの応援をしたいんにゃけど……ゴロゴロ~」
東チームと猫チームのキックオフは同時刻ともあり、東の国の皆は猫チームのピッチと逆側を向いているので、女王の膝に乗せられたわしは試合が見えない。
「まぁいいじゃない。きっと勝つわよ」
「いや、キックオフぐらいは向こうでみたいにゃ~。ゴロゴロ~」
「あ! 始まったわ! いっけ~~~!!」
わしが文句を言ってる間にふたつの笛の音が聞こえ、さっちゃんの熱い応援が始まった。そうして観客の応援も二方向から聞こえて来たので、わしは諦めてしばらく東チームの試合を見る。
「フフン。どうよシラタマちゃん?」
開始10分。中盤辺りで東チームが相手チームから奪ったボールをパスで繋ぎ、センタリングからのボレーシュートがゴールに突き刺さると、さっちゃんは叫ぶではなく、ドヤ顔でわしを見る。
「上手くなったにゃ~。でも、アレぐらいのシュート、うちの子でも出来るにゃ~」
「どこ見てるのよ! 華麗なパスワークの事を言ってるのよ! その前のディフェンスだって……」
ドヤ顔がうざかったので反論してみたら大失敗。何やらさっちゃんは専門用語っぽい言葉を使ってわしに食って掛かり、サッカーマニアぐらいの熱量で喋り続ける。
ただ、その声は大きく、女王達も迷惑そうにしていたので「また点が入りそう」と言って、試合に集中させて事なきを得た。
とりあえずさっちゃんは、コーナーキックになった東チームに指示らしい事を叫んでいるので、わしは女王と喋る。
「さっちゃんって、いつもこうにゃの?」
「いえ、いつもはもっと静かに見てるわよ。雪辱戦が近いから、熱くなってるのかもね」
「いまからこれじゃあ、うちとの試合はエライ事になりそうにゃ~」
「まぁその時には、落ち着きを取り戻しているでしょう」
「ゴーーール! 見た見た? シラタマちゃん!!」
「見たから回転するにゃ~!!」
コーナーキックからヘディングシュートで決まると、さっちゃんは嬉しそうにわしを抱き上げてぐるぐる回るので酔いそうだ。その事を注意したのも大失敗。さっちゃんの手からわしはすっぽ抜け、観客席に降って行くのであった。
観客席に落ちそうになったわしであったが、そこはわし。風魔法で空を飛び、元の位置に戻ったら、さっちゃんは女王に怒られていた。なので、お祭りなんだからと女王を宥め、ハーフタイムまで騒ぎ散らして応援する。
東チームはハーフタイムまでに3得点を上げていたので、次のハーフはさっちゃん達も、猫チームを応援してくれるようだ。
東チームの戦うピッチから体を反対に向け、得点版がさっちゃんの目に入ると、わしをぐわんぐわん揺らす。
「0対0よ? どうなってるの!?」
「まだハーフにゃんだから、焦る事じゃないにゃ~」
とは言ったものの、わしも楽勝だと思っていたので、暴れてさっちゃんからすっぽ抜けたらリータ達から聞き取り調査。
どうやら相手チームは南にある小国で、体力が無限かと思うぐらいあって、ずっと走り続けているから、猫チームは攻めあぐねているようだ。
いまのところボール支配率は猫チームのほうが多くあるようなのでなんとかなると思い、さっちゃんの元へと戻る。
「にゃんか意外と強いみたいにゃ」
「うそ……これじゃあ猫の国に雪辱を果たせない……」
「だからまだ半分あると言ってるにゃろ? たぶん、監督はわかってロースコアゲームをしているはずにゃ」
わしの説明を聞いたさっちゃんは、手をギュッと握りながらピッチに目を移す。
「負けたら許さないんだからね! 猫チーム、ファイトにゃ~!!」
「ファイトにゃ~!!」
「「「「「ファイトにゃ~!!」」」」」
さっちゃんは猫チームを応援してくれるので、わしも続いたらリータ達も声を張りあげてくれたが、語尾に「にゃ」が付いているのは、さっちゃんのせいだと思われる。
その「にゃ~にゃ~」応援する声に猫チームは励まされたのか、後半の時間、半分辺りで猫耳少年が一点を入れ、残り時間の猛攻を耐えて、辛くも勝利をもぎ取ったのであった。
東チームも大差で勝ったようで、わし達は今日も自国の試合が終わったら、さっさと撤収。子供達によくやったと声を掛けて差し入れを渡し、お祭りに繰り出す。
面白そうな物を見て、珍しい物や食べ物を山ほど買ったら、我が家に帰ってニューイヤーパーティーの準備。その時、玄関から大声が聞こえて来たのでお春に対応してもらったら、どうしてもわしに会いたいという人物が来たらしい。
しかし、名前を聞くと大歓迎とはいえない人物だったので、リータとメイバイに庭に連れて来るように言って、わしは縁側に座布団を敷いてその人物を待つ。
そうして待っていると、リータ達の顔が見え、その後ろにはデカくてスキンヘッドのおっさんが現れた。
スキンヘッドのおっさんの正体は、ハンター協会会長代理、レイフ。わしの目の前まで来て自己紹介を終えると、ドサッとあぐらを組む。
「この度は、猫の国に多大な迷惑をお掛けした事を、ここにお詫びする!!」
そして大声で謝罪し、拳をついて土下座した。
つ~……耳がキーンと来た! どんだけデカイ声を出しておるんじゃ。てか、これで謝罪しているつもりか? 詫びてるわりには、偉そうな態度じゃな。
「あ~……まず、声量を落としてくれにゃ。うるさいのは嫌いにゃ」
「おお! それはすまなんだ。どうも俺は声が大きくてな。皆にもよく言われているんだ。がっはっはっ」
がっはっはっ……じゃね~よ! まだわしは許しておらんのに、大声で笑いやがって。こいつには、誠意というものがないのか?
「それで、わしに謝罪するって事は、誠意を見せてくれるという事かにゃ?」
「ああ! これを見てくれ!!」
レイフはノートのような物を収納袋から取り出して立ち上がろうとするので、肉球を前に出して止め、メイバイに持って来させる。
「それを読んでくれたら、俺の誠意が伝わるはずだ!」
「こんにゃのでね~……ま、目だけは通してやるにゃ」
わしはノートを開いて、1ページ目を読む。
えっと……フェリクス・アウレール・ディースブルク……これは誰じゃ? わしの知らん人じゃな。貴族派閥で、次期会長候補だったのは読んだらわかるけども……
うっわ。何この傍若無人の数々。横領に賄賂に不正昇給。好き嫌いで左遷にクビ。セクハラどころかレイプまでしておる!?
それにフーゴ・シュテファン・モルトケ……あ、この名前は知っておる。なるほど、フーゴを派遣してたのがこいつってわけじゃな。そのせいで猫の国を怒らせた罪ってのもあるのか。
てか、何こいつ? わしが寄付したバスで儲けておる!! こんな奴は、わしの国では死刑じゃぞ! ……いや、死刑の予定なのか。
う~ん……自業自得じゃけど、それを見せて、わしにどうしろと? とりあえず、次のページは……
フーゴの奴も、不正の数々を働いておったんじゃな。なんとか死刑は免れたようじゃが、協会を追放された上に、貴族の称号を剥奪されるのか。
それはそれで、実質、死刑のような……まぁ打倒な量刑か。生きるか死ぬかは、こいつ次第じゃ。
それで~……おいおい。会長まで不正しておったんか~い! なんじゃこの組織は……ま、会長はかわいいもんか。フェリクスってヤツから、メシを何度か奢られていただけじゃもん。
そんな少額の賄賂で、会長を辞めさせられるのか……てか、めっちゃかわいそうじゃね? 本人も賄賂だとわかってなかったんじゃないか??
あとは~……
わしはパラパラと斜め読みし、ノートに書かれている内容を理解すると、レイフに声を掛ける。
「にゃんかハンター協会って、酷い組織だったみたいだにゃ。百人近くも処分するってのも大変そうにゃけど、これを見せて、わしにどうして欲しいにゃ?」
「その首を持って、怒りを収めて欲しい!」
「……にゃ~~~??」
「だから、それだけ処分するのだ。猫の国に、ハンターギルドを置かせてくれ! シラタマ王も、ハンターを辞めないで欲しい! 頼む!!」
レイフが叫びながら砂利に頭を擦りつけるので、わしの脇から汗がドバッと吹き出した。
あっれ~~~? わしはそんな要求はしておらんのじゃけど~?? 嫌がらせして、ムカつくフーゴのクビを落としどころに考えていただけじゃ。あわよくば、ギルマスの給料だけ持ってくれたら万々歳。
それが、わしが嫌がらせしただけで、百人ものクビが飛ぶの!? 嘘じゃろ? これではわしがクビに持って行ったようなもんじゃ……
いやいや、これだけの罪を犯していたのなら、見付かったら罰は免れられん。いんや……これって、わしをダシに大粛清してね? こんなの、わしだけが恨まれるじゃろう!!
ふざけおって……これは謝罪じゃなくて、わしを貶める罠じゃ!
わしは怒りを抑え切れず、レイフにノートを投げ付けようと振り上げたところで誰かにノートを奪われ、エアースイング。
「誰にゃ!?」
なので、怒りの表情で振り返ったら、女王がノートを読んでいた。
「ふ~ん……なるほどね」
「にゃんで女王が居るんにゃ~」
「スティナから、ハンター協会の会長代理がシラタマに会いに行くと聞いてね。私が間に入ったほうが、丸く収まると思って来たのよ」
丸く収まるじゃと? またパーティーを抜け出して来ただけじゃなかろうか……。でも、さっちゃん達はいないしイサベレしか連れて来ていないって事は、本当なのかも?
「てか、こいつひどいにゃ~。わしを使って大粛清にゃんてしてるんにゃ~」
わしが女王に泣き付くと、レイフは焦って反論する。
「ち、ちがっ……俺は、猫の国に謝罪したくて……」
「わしがこんにゃ事を望んでいたとでも言いたげだにゃ。全然そんにゃ事を望んでないにゃ。ムカついたのはフーゴだけにゃんだから、そいつをクビにしてくれたらよかったんにゃ」
「へ? ……それだけ??」
「そうにゃ。にゃのににゃにこれ? こんにゃの、わしに非難が来るにゃ。百歩譲って上司もムカつくからクビにしてくれていたら、わしはその謝罪を快く受け取っていたのににゃ~。もういいにゃ。猫の国独自の組織を作るにゃ」
「ま、待ってくれ! 俺は本当に……」
「プッ……あはははは」
わしがハンターギルド設立を諦めると言うと、レイフは腰を浮かして何かを言おうとしたが、女王の大笑いで遮られた。
「にゃんで笑うんにゃ~。こっちは腹が立って仕方ないんだからにゃ~」
「あははは。だって、シラタマの望みがそれだけって……フフフ。おかしくって……ウフフフ」
「だから笑わないでくれにゃ~」
「フフ。ごめんなさい。でもね、アレだけの事をしておいて、一人のクビだけなんて誰も思わないわよ。私だって直属の上司をクビにしろって言ったぐらいなんだからね」
「にゃ~~~?」
「まだ気付いてないの? あなたの味方は、あなたが思っているより多いのよ」
女王は、わしがやらかしてしまった事を目に浮かぶ涙を拭いながら説明してくれる。
どうやら、わしが卸す白い獣が金輪際手に入らないと思った者が多く、バスやキャットトレインも下手したら販売してもらえなくなると思った国が大多数だったようだ。
そんな事になると経済に支障を来すが、わしに喧嘩を売ったとしても軍事力で勝てるわけがなく、どうやってもわしの機嫌を直さない事にはいけないと結論付けた。
なので、わしがバラ撒いた手紙だけでハンター協会に恐ろしいほどの苦情や脅しが入ったから、レイフも多くのクビを用意してわしの機嫌を取ろうとした事が、この事態を招いたようだ。
えっと……これって、軽い嫌がらせのつもりだったのが、忖度されまくって、滅ぼすぞレベルでハンター協会に伝わったって事か……
マジで~? わしは各国の王や貴族に、魔王とでも思われておるのか?? こ~んなかわいらしい猫なのに!!
「わしは悪い猫じゃないにゃ~。怖くないにゃ~」
とりあえず甘えた声を出してみたが、皆からの返事は無かったので、嫌がらせする時はもう少し考えてやろうと思うわしであったとさ。
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