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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~

517 大蟻VSハンター協会視察団にゃ~

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 ハンター協会からの視察団がやって来て二日が経った早朝……

「さて……この日がやって来たにゃ」

 わしは猫軍の一個大隊と共に、猫穴温泉にある旅館を囲んでいた。

さらえにゃ」
「「「「「にゃっ!」」」」」

 わしの命令で、猫兵は旅館の離れに靴を脱いで上がり、ギルマスのフーゴとAランクハンター五人を拉致する。ちなみに、旅館には前もって話を通していたので、昨夜一服盛ってくれていたから、難なく攫えたというわけだ。

 フーゴ達はロープで拘束されてキャットトレイン改に積み込まれ、ガタンゴトンと森を行く。
 このキャットトレイン改は、軍用列車。悪路でも走れる足回りになっており、荒れ地でも何百人も運べる優れもの。この日の為に、大蟻の巣近くまで一直線に木は切り倒されいるので、楽々大人数を送り込めるのだ。

 その最後尾にわしたち猫ファミリーは乗り込み、フーゴ達を見張っている。

「ん、んん~……な、なんだ!?」

 睡眠薬が効いていて全然起きる気配が無かったフーゴ達だが、一人が目覚めて拘束されていると騒ぎ出すと、次々と目を覚ました。

「やっと起きたにゃ~」
「貴様は……いえ、あなた様は、シラタマ王……これはいったいぜんたいどういう事ですか!」

 目を覚ましても、わしの存在に気付いてくれないフーゴに声を掛けてみたら、怒鳴られてしまった。

「寝起きにゃのに、テンション高いにゃ~」
「私にこんな事をして、ただで済むと思っているのですか! ハンター協会を敵に回す行為ですよ!!」
「だから落ち着けにゃ~。これからハンターが行う予定の、猫の国からの特別依頼を見せてあげようと思って連れて来たんにゃ。知っておいてくれにゃいと、受けてくれないにゃろ?」
「それなら拘束は必要ないでしょ!」
「ただのサプライズにゃ~。みんにゃの服も持って来たから、そこのカーテンを閉めて着替えてくれにゃ」

 とりあえずロープは切って回り、着替えが終わるのを待って話を再開する。

「武器は……」
「現場に着いたら返してやるにゃ。丸腰では戦えないからにゃ」
「いますぐ返せ! 私達はここから出る!!」
「へ~……せっかく連れて来てあげたのに、帰りたいんにゃ。別にいいんにゃけど、すでに森の深くに入っているけど大丈夫にゃ?」
「はい??」
「ここは、森の奥深くだと言ってるにゃろ? 疑うにゃら、窓のカーテンを開けてみろにゃ」

 わしが指差すと、各々左右のカーテンを開ける。すると窓からは、触れられるぐらい近くにある木々が後方に流れて行く景色が映し出された。

「貴様……何をしようとしている!」
「だから見学だと言ってるにゃろ~? それとも、ハンターギルドのギルマスってのは、獣が怖いにゃ? たしか有事の際には、ギルマスが指揮を取ったりすると聞いていたんにゃけど……逃げ出すにゃ?」
「に、逃げるわけがない! しかし、わざわざ危険な場所へ行く必要もない!!」
「まぁまぁ。我が軍が五百人で向かうんにゃから、危険でもないにゃ~」
「へ? そんなに居るの??」
「見学にゃんだから、危険にさらすわけがないにゃろ~。おっと、もうすぐ着くらしいにゃ。飲み物と軽食を用意するから、よかったらどうぞにゃ~」
「あ、ああ……」

 わしが軍の規模と危険がないと説明すると、フーゴはようやく落ち着きを取り戻すが、「帰ったら問題にしてやる」とかブツブツ言っていた。
 そうしてわしが出してやったサンドイッチと飲み物はどうするのかと見ていたら、ペロッと食べていた。ハンターならば、戦いが始まる前にはあまり腹に入れないと聞いた事があるので、このAランクハンターは減点対象だろう。
 もちろんわし達は、ガツガツ食べていた。さっちゃん2に変身しているコリスは大量に食っていたから「どこに入ってるんだ?」って声が聞こえて来たが、わしもわからん。


 腹も落ち着き、キャットトレイン改が停車したら、ウンチョウの指示で猫軍兵士は整列し、各将軍、各隊長の後ろについて進んで行く。
 わしたち猫ファミリーは、フーゴ達の見張り。わしを先頭に猫ファミリーで囲んでいるので、逃げる事も許されない。ただ、フーゴ達は女の子に囲まれているからか、本当に危険がないと思って安心しきっているようだ。

 しばらく歩き、わしの元へ何度か連絡が入る。先頭集団が斥候の大蟻と交戦した。逃がしてしまった。到着した。大蟻の大群が陣形を組んでいる、などなど。
 もちろんいつも通りの報告なので、「気を付けてね~」と言うだけ。そののどかなやり取りのせいで、フーゴ達は事の重大性に気付いていない。

「さてと……もう交戦間近にゃ。弱い獲物ばかりで、数が少しばかり多いだけだから心配するにゃ。だから一番槍になって、我が軍を鼓舞してくんにゃい?」
「弱いのか……そんな相手に手こずるのなら、私の手駒を貸してやってもかまわないですぞ」
「それじゃあ、武器を返すにゃ~」

 わしが弱いと発言したせいで、ますます勘違いしてくれるフーゴとAランクパーティ。全員に武器を返し、フーゴにもソードを手渡す。

「私は戦闘を行えないですぞ?」
「念の為の護身用にゃ。それをかかげて『突撃にゃ~!』……ての、やりたくにゃい?」
「お、おお! 一度やってみたかったのだ!!」

 男の子の憧れをわしがやらしてあげると言うと、フーゴはやる気満々。意気揚々と、猫軍の先頭集団にまざる。

「くっ……敵はどこだ? 見えない……」

 猫軍最前列は、屈強で背の高い者を配置し、まだ大蟻を隠している。

「ちっさいんにゃ。猫ぐらいの大きさしかにゃいから見えないんにゃ」
「それなら私も、数匹殺してやろうじゃないか。わ~はっはっはっ」
「「「「「ぎゃはははは」」」」」

 フーゴが大声で笑うと、Aランクパーティまで笑い出す。ちなみに大蟻は、隊列を組むのに精を出しているので、完成するまではこちらを襲って来ない。
 これは大蟻の習性らしく待ってあげると、ほとんどの大蟻が外に出て来てくれるから、一掃するには楽チンだ。


「じゃあ、そろそろ準備が整ったみたいにゃ~。いってみようにゃ!」

 わしがフーゴに合図を出すと、フーゴは軽く咳払いしてから猫軍兵士を見回す。

「ゴホン! 僭越ながら、このフーゴ・シュテファン・モルトケ。このフーゴ・シュテファン・モルトケが、戦いの音頭を取らせていただく。なぁにこのフーゴ・シュテファン・モルトケが一番槍として皆を鼓舞し、必ずや勝利をもたらしてやろうぞ!!」

 フーゴは何度も自分の名前をフルネームで連呼してから大声を出す。

「我らに続け! 突撃~~~!!」

 その声と同時にフーゴは駆け出し、Aランクパーティも続く。しかし、我が猫軍は静かなもの。フーゴの命令は無視しろと言っておいたからだ。
 ただし、最前列には違う指示をしていたので、フーゴの突撃の合図と足音を聞き分け、すっと道を開けた。

「ゴーゴーゴーゴー!!」
「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」

 そうとは気付かず、フーゴは突撃。Aランクパーティは大声を張りあげて走り続けるが、猫軍から少し離れた所で足が止まった。

「ぎ……」
「「「「「ぎゃああぁぁ~~~!!」」」」」

 そして大絶叫。いまだにわしでも悲鳴をあげる何千もの大蟻軍を見たら、尻餅ついたり、叫んでも致し方ない。
 その情けない姿を見て、わしはニヤニヤしながら、同じようにニヤニヤしているウンチョウに目配せ。

「弓隊、構え~~~!!」

 ウンチョウの命令で、ザザザっと五十人もの猫兵から弓が引かれる。

「なっ……敵は向こうだ! どうして我々に向けるんだ!!」

 もちろん大蟻ではなくフーゴ達に照準は合わされているので、「ギャーギャー」わめき散らしている。
 なので、わしとウンチョウとリェンジェは、ニヤニヤしながら前に出て声を掛ける。

「ウンチョ~ウ? あんにゃこと言ってるにゃ~」
「大群とはいえ、戦わずに尻餅とは……指揮官失格ですね」
「だにゃ。リェンジェはどう思うにゃ?」
「アレがAランクハンターですか……せめて十匹ぐらい殺してから、俺達がついて来ていない事に気付いて欲しかったですね」
「何を悠長な……弓を下ろして、私を助けろ~~~!!」

 フーゴは喚き散らすが、弓を向けられているから動けない。

「にゃはは。どうしてやろっかにゃ~?」
「ここは、戦死したという事にしては? くっくっくっ」
「くくくっ。我らが口をつぐめば、気付かれる事はないでしょうね」
「「「にゃ~はっはっはっはっ」」」

 わし達が大笑いすると、フーゴ達は顔を青くする。

「そ、そんな事をしたら、ハンター協会にすぐにバレるぞ! わ、私が死んだら、猫の国に殺されたと手紙が届く手筈になっているんだ!!」
「お~……にゃかにゃか知恵が回るにゃ~」

 わしが褒めると、フーゴはホッとした顔をする。

「ま、ハンター協会とは喧嘩するつもりにゃから、さっさと死んでくれにゃ」

 わしが右手を上げると、フーゴは絶望の表情に変わった。

「な、なんでこんな事を……」
「にゃんでって……お前の我が儘を聞く代わりのテストにゃ。こんにゃ土壇場で、変更させられたらムカつくにゃろ?」
「す、すみませんでした! 建物はあのままでいいです! どうか殺さないでください!!」
「だからテストって言ってるにゃろ~? 死ぬ気で大蟻を殺して来いにゃ。全員で五百匹殺して来たら、お前の我が儘を叶えてやるにゃ」
「五百!?」
「Aランクハンターにゃら余裕のはずにゃ。それとも、お前達は、わしに嘘を言ったのかにゃ~?」

 わしが指摘すると、Aランクハンター達はフーゴに視線を送る。

「過大に紹介した事をお詫びします。本当はBランクです……」
「ふ~ん……じゃあ、三百匹で勘弁してやるにゃ」
「む、無理です!」
「無理でもやってもらうにゃ。お前達の選択肢は、大蟻と戦うか、わし達に殺されるしかないにゃ。死にたくなければ、さっさと特攻しろにゃ!!」

 わしが怒鳴り付けるとフーゴ達は大蟻に向き直ったのだが、黒い絨毯となってガサガサと進む大蟻を見て、全員剣を投げ捨てて土下座して来た。

「無理です! どうか、どうか……命だけはお助けください! お願いします!!」
「「「「「お願いします!!」」」」」

 泣きながら懇願するフーゴ。偽Aランクハンターまで涙を流しながらペコペコと土下座する。

「はぁ……もういいにゃ」
「た、助けてくれるのですか!?」
「ウンチョウ。やっちゃってにゃ」
「はっ!」
「え……待ってください! 助けて~~~!!」

 わしが許すような発言をするとギルマスは顔を明るくするが、ウンチョウに指示を出したら、また蒼白の顔へと変わる。

『全軍、防御陣形を維持しつつ、前進だ~~~!!』
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」

 ウンチョウの命令に猫軍は、泣きながら転がり回るギルマス達を無視して前進するのであった。
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