525 / 755
第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~
516 ハンター協会の視察にゃ~
しおりを挟む我輩は猫又である。名前はシラタマだ。冒険家は付け足されたが、悪役ぬいぐるみではない。
遣猫使が来訪してから約一ヶ月半。勉強は意外と早く終わり、各班に分かれて各地に散って行った。遣猫使は猫の国だけでなく、他所の国を見てから帰るようだ。
わしはというと相変わらず暇を持て余し、リータ達と訓練したり、各街をブラブラしたり、兄弟達と白銀猫に会いに行ったり、こっそり日ノ本をブラブラしたり、富士山に登ったりもしていた。写真に撮ったからバレてしまったけど……
そんな日々を過ごし、今日は何をしようかと縁側でボーっとしていたら、仕事で忙しいはずの双子王女が朝からやって来た。
「やはりここに居ましたのね」
「にゃに~?」
「少し相談がありまして……」
「相談にゃ?」
「近々、お母様の誕生祭があるじゃないですか」
「あ~。もうそんにゃ時期なんにゃ」
「また忘れていましたの?」
「まだひと月もあるからにゃ~」
どうやら女王誕生祭に、猫の国から出すプレゼントの件で二人は相談に来たらしいけど、もうすでに時計台を贈る事に決まっていた。
それでもわしは「今年は出さなくていい」と言ったら、場所は確保済みとのこと。さらには、職人も手配済みとのこと。なんだったら、建設はとっくに始まっているとのこと。
あとはお金だけ。足りなくなったから、わしのポケットマネーをたかりに来たようだ。
「えっと……それってつまり、東の国への横流し、もしくは横領にゃのでは……」
「「まぁ……そう受け取られても仕方ないですわね……」」
「やっぱり悪役令嬢にゃ~~~!!」
「「お母様に最高の品を贈りたいだけですわ~~~」」
さすがに猫の街のお金を勝手に使い込んだ事は、二人もやり過ぎた感はあるらしいので泣き付いて来た。
なので、事後報告は今回限りにさせ、次にやる時は猫会議の議題に出して、議決する事を約束させた。もちろん、わしには最初に報告をさせる。こんな高いプレゼントは、マジで懐が痛いからな。
「あと、シラタマちゃんは絶対参加ですからね」
「それと、値段は気にせず、心のこもった物を贈りなさい」
「わかってるにゃ~」
前回は、代表の勉強の為に行けなかったからな。さっちゃんや女王に、欠席する事を説得するのも面倒じゃ。
しかし、プレゼントが思い付かん。魚でいいかな? いや、スティナが絶対たかって来るから獲物は出せないし、もっといい物を贈ったら挟まれる。ならばレコード……これも、エンマに渡さないと踏まれてしまう。
う~ん……それでいいか??
「二人も協力してくんにゃい?」
それからわしが贈る誕生日プレゼントを話し合っていたら、キツネ少女お春がパタパタと小走りでやって来た。
「どうかしたにゃ?」
「ウンチョウ様から連絡が入っているとの事で、シラタマ様か代表様、どちらかと話をしたいと、呼んで来るように言われております」
「ふ~ん……ウンチョウからにゃ~」
わしは何事かと考えていたが、双子王女にはウンチョウからの用件は、聞かなくてもわかるようだ。
「そう言えば、今日でしたわね」
「今日にゃ?」
「ハンター協会の視察ですわ。これも忘れていましたの?」
「にゃ! そうだったにゃ~」
「忘れていたみたいですわね……」
「「はぁ~~~」」
わしが双子王女のシンクロため息攻撃を受けると、お春はどうしていいかわからずにキョロキョロしていたので、頭を撫でてから全員で下の階に移動する。
とりあえずお春にはお茶を頼んで、わしと双子王女は執務室でウンチョウに連絡。話を聞くと、双子王女から暇なら行って来いとお達しが下り、お春の入れたお茶を慌ててすすったら、舌を火傷した。
ウンチョウの居る場所は、猫軍本拠地があるラサではなく猫穴温泉。少し距離があるが、運動不足解消の為に走って向かう。猫型で、わしが本気を出せば一瞬だ。
ただ、そのまま街に入ろうとしたら、猫耳族の女性に撫でられまくった。なので、念話で王様だと説明し、変身魔法で人型になったらめちゃくちゃ驚かれた。まさか野良猫が王様だったとは、これっぽっちも思っていなかったようだ。
似てるから崇め奉っていたらしいが、撫でたかっただけじゃろ? あと、危険な猫も居るかもしれないから、すぐに触ろうとしちゃダメじゃぞ?
皆はわしの忠告を聞いてくれたかどうかは、わしを拝み倒しているからさっぱりわからない。このままでは恥ずかしいのでさっさと門を潜り、ウンチョウが居るハンターギルドにお邪魔する。
「「お手を煩わせてしまって申し訳ありません!」」
わしが入るなり、ウンチョウと、この猫穴温泉の代表リェンジェが駆け寄って来て謝罪した。
「いいにゃいいにゃ。ハンター協会も乗り気だったから、ゴネるにゃんて誰も思ってなかったからにゃ。交渉の得意にゃ者も入れておけばよかったにゃ~」
「うっ……俺が、もう少し口が上手ければ……」
「それを言ったら、代表の俺が……」
二人は軍出身だから交渉はまだ苦手のようで、仲良く項垂れてしまった。
「ま、今回はわしのやり方を見て、次回に活かしてくれにゃ。それで、視察の人はどこに居るにゃ?」
「こちらです」
二人の案内でハンター協会から派遣された視察の者が居る場所に向かうのだが、ギルド内に居るのかと思ったら、温泉旅館に連れて行かれた。
温泉旅館の者にも居場所を聞いてみたら、庭に居るとのこと。わし達は外から回り、日本庭園風の庭で話し合っている集団に近付く。
「「「「「猫!?」」」」」
まさかのまさか。猫の国に来て、猫の王様が居ると知っているはずなのに、ハンターらしき五人が武器を構えやがった。
「王に剣を向けるとは何事か!」
「猫陛下。俺の後ろに……」
さすがは家臣。ウンチョウは剣を抜いて怒鳴り、リェンジェはわしを守ろうとする。だが、わしより遥かに弱い者に守られる筋合いはない。すっと前に出て、皆に落ち着いてもらう。
「まぁまぁ。ウンチョウ、剣を収めるにゃ~」
「「「「「猫が喋った!?」」」」」
「お前達も、いい加減わしに慣れるにゃ~~~!!」
懐かしいやり取りにイラッとしたわしは、結局は怒鳴り散らし、ウンチョウとリェンジェに止められるのであったとさ。
やや空気は悪いがお互い矛を収めたので、わしは髭がカールしている男に目を移す。
「で……お前がここのギルマスとして派遣された人かにゃ?」
「ええ。フーゴ・シュテファン・モルトケといいます」
ミドルネーム?? この鼻髭カール男は貴族か。たしか、ミドルネームを使っていたのは、西の国の貴族ぐらいだったはず。
「それで、にゃんでハンターギルドは、あの建物じゃダメなんにゃ?」
ウンチョウからは、建物について苦情が入っていると聞いている。他所の国のギルドを見て回った時に、東の国が一番優れていたように見えたのでマネて作らせたのだが、少し小さくした事に不満が出たのかとわしは思っていた。
「あんな質素な作りでは、仕事の張り合いが出ません。作り直してください」
は? たしかに装飾はないけど、機能はどこにも負けておらんぞ??
「いや、東の国のハンターギルド、そのまんまにゃよ? ハンター協会に設計図も送ってオッケーが出たにゃ。それにゃのに……」
「視察に来たのですから、変更する事は当然ありますよ。よくある事です」
「ここまで作って変更にゃんて、納得できないにゃ~」
「いいえ。やってもらわない事には、こちらも困ります。場所も決まっておりますので、そこに作ってください」
場所が気に食わなかったのか? 他所の国はほとんど街の真ん中にあったから、森側の西門近くにしたのがマズかったのか。こっちのほうが、絶対使い勝手がいいじゃろうに……
「ちにゃみに、どこに作れと言いたいにゃ?」
「ここです」
「ここ……にゃ?」
「そこの旅館でしたか。潰してもらってギルドを建て、ギルマス専用の温泉と家を作ってくれたら許可を出します。あとは……」
フーゴはペラペラと饒舌に条件を喋り続けるが、同じ言葉で喋っているはずなのに、わしの頭に入って来ない。なので、息継ぎのタイミングで割り込む。
「ちょ、ちょっと相談させてくれにゃ~」
わしはウンチョウとリェンジェを連れてフーゴから離れると、コソコソと話し合う。
「あのバカは、にゃにを言ってるにゃ? わしの考えでは、国民の為の施設にゃんだけど……」
「今までを聞く限り、自分の為の施設に聞こえますね……」
「それに、自国のハンターを優遇しろだと……これでは、また猫耳族が奴隷のような扱いになってしまいます。承服しかねます!」
「シッ……大声出すにゃ」
「す、すみません」
フーゴのあまりにも酷い提案に、ウンチョウが熱くなってしまったので、わしは落ち着かせる。
「つまりは、わしたち猫の国をニャメてるって事だにゃ?」
「「はっ!」」
「つまりは、ハンター協会はわしたち猫の国に喧嘩を売ってるんだにゃ?」
「「はっ!」」
わしは二人の力強い返事を聞いて、悪い顔で笑う。
「そう言えば、近々、例のアレをやるんじゃなかったにゃ~?」
ウンチョウはわしの意味深な言い方に、悪い顔で答える。
「はっ! 視察の方にも見てもらおうと、準備も済ませております」
「たしかあの男が連れて来たハンターは、Aランクと紹介されました」
リェンジェも悪い顔で補足してくれるので、わしの顔はますますあくどい顔になっていく。
「ほ~……わしの知る限り、Aランクにゃんてバーカリアンしか居ないのに、そんにゃ奴が居るんにゃ~。じゃあ、死ぬ事はないにゃ~」
「「はっ!」」
「ついでにフーゴにも見学してもらおうにゃ~」
「「それはいいですね~」」
「では、大蟻駆除大会の開催にゃ~!」
「「御意!!」」
「「「にゃ~はっはっはっはっ」」」
わし達は隠す事なく大声で笑い、フーゴ達が不穏な空気を感じていても気にしない。下手に出まくって、酒を飲ませまくって、接待しまくって、その日を迎えるのであった。
0
お気に入りに追加
1,169
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる