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第十八章 日ノ本編其の四 釣り大会にゃ~
514 大漁を祝してにゃ~
しおりを挟むう~む……白カニの頂上は安全地帯じゃけど、体内の情報が入らないのが痛いのう。体内にもカニ達が入って行ってるじゃろうから、リータ達がちと心配じゃ。
ヤマタノオロチと違って白カニは、わしの位置を黙視でしか確認できないからか【水鉄砲】を至る所に発射したり、四本のハサミを振り上げて無駄にチョキチョキしている。
小カニは相変わらずわしに迫ろうとするが、四獣によって蹴散らされ、近付く事さえ許されない。
そんな戦闘がしばらく続いていたが、状況が変わった。
あら? カニさんが引いて行ってるっぽい。そう言えば、さっきからハサミも動いていないような……
わしが異変に気付いた頃、白カニの両サイドからエネルギー波が吹き出した。ただ、わしの位置からは見えなかったので、リータ達の声が聞こえるまでわしはお座りをしたままだ。
「シラタマさ~ん!」
「シラタマ殿~!」
リータとメイバイの嬉しそうな声が聞こえたのでその方向を見ると、巨大キツネと巨大タヌキが走って来ていたので、わしは人型に変身して駆け寄る。
そうして合流したら、リータ、メイバイ、オニヒメがわしに飛びつき、最後のコリスに、全員押し潰されてしまった。
「にゃはは。重たいにゃ~」
「コリスちゃんどいて~」
「モフモフニャー」
「「あははは」」
勝利に浮かれて皆と笑顔でスキンシップを取っていたら、玉藻と家康が人型に変化して近付く。
「コンコンコン。今度はえらく楽に倒せたのう」
「この調子でいけば、日ノ本の近海の安寧はすぐじゃ。ポンポコポン」
「だからわしに頼るにゃ~。勘弁してくれにゃ~」
玉藻と家康の無理難題は軽く流し、リータ達にもどいてもらって立ち上がったら、メイバイがわしの額辺りをジッと見ていた。
「にゃに?」
「毛がハネてオニヒメちゃんみたいになってるニャ……」
「寝ぐせかにゃ? でも、それがにゃに??」
「輝いているように見えるんニャー」
「あ……本当です。ここだけ、白銀の猫さんみたいな毛色ですよ」
「にゃんですと!?」
わしは慌てて鏡を取り出すと、マジマジと狭い額を見る。
マジか……鬼みたいに見える。もしくは、妖怪を感知するアンテナ……ツクヨミの奴、わしのDNAまでイジッておる!
なんじゃこのアホ毛は!! あ、寝た。いや、またピョンって立った。
「直らないにゃ~」
わしが何度も手で押さえても、アホ毛は起き上がるので、涙目でリータに泣き付く。
「ちょっと待ってくださいね」
リータは櫛を取り出してとかしてくれるが、苦戦しているようだ。
「あ……あれ?」
「どうしたにゃ?」
「直ったんですけど、色も白くなっちゃいました」
ホントじゃ。なんじゃこのアホ毛? ツクヨミの嫌がらせか?? そう言えば、戦闘中は体の調子が良かった気がする。【50倍御雷】に体が耐えられたのも、このせいかも?
にしても、そんなDNAのイジり方ある? パワーアップするなら、全身、銀色になるとか金色になるとかあるじゃろう。いや、そんな変化、わしが困る。
ただでさえ妖怪なのに、これ以上猫から離れたくない。もうわしの体をイジるなよ~!!
わし達が騒いでいると、コリスがカニを食べたいとわしをモグモグするので、皆はエリザベスキャット号に戻ってもらい、わしは解体作業を始める。
ハサミと脚を根本から【超大鎌】で落とし、胴体も真っ二つに。わしも船に戻って玉藻と家康に取り分はこれでいいかと言ったら、手数料を払うから、もっと細かくしろとのこと。
まぁ全長200メートルの半分では、保管も難しい。これまで手に入れた魚も、解体代と保管代を取る事で話がまとまった。
これで当分ハンターの仕事をしなくていい……いや、うん百年は仕事をしなくていいかもしれない。
「ハンターは続けますよ!」
「体が鈍っちゃうニャー!」
そんな不穏な事を考えていたら、リータとメイバイに筒抜け。お金の心配より、戦いの心配をしていた。これだからゴニョゴニョゴニョ。
心の中でも失言の出来ないわしは、心の声は濁しつつ、解体に戻る。ただ、昼を過ぎてしまっていたので、皆には脚を先に調理するように頼んでおいた。
そうして全てを解体し終えたら、皆、思った通り、わしを待たずに食べてやがった。
「あ、シラタマさん! 美味しいですよ~!!」
「モゴッ!」
不機嫌な顔で近付くわしに気付いたリータは、おそらく焼いただけのカニの身を、わしの口に突っ込んだ。
「モグモグ。ぷりぷりにゃ~」
「これもどうニャー?」
美味しいカニを食べて怒りの吹っ飛んだわしは、メイバイに勧められるままに味噌汁をすする。
「うまいにゃ~! でも、カニにゃら鍋がよかったにゃ~」
「鍋ですか……」
「エミリちゃんじゃないからニャー」
「二人に言ってもしょうがにゃいか。ポン酢も持ってにゃいしにゃ」
「おお。ポン酢か。それなら妾に手持ちがあるぞ。鍋にしてくれ」
「準備万端だにゃ!?」
遅れて来たわしに、鍋を作れと言って来る玉藻に「にゃ~にゃ~」文句を言いまくったが、ポン酢が気になるから調理を始める。
食材は手持ちの白菜と長ネギだけ。ちゃちゃっと切り分けると、ヤマタノオロチ産昆布でとっただし汁にぶっ込む。
白カニの脚の身は、大きいからいちいち身を取り外す必要はないので楽チンだ。これも一口大に切り分け、最後の主役、ポン酢を器に注げば完成だ。
「カニの身は、スープに数秒つけるだけで、たぶん食べられるかにゃ?」
「「「「「いただきにゃす!」」」」」
「わしから食べさせてくれにゃ~!!」
楽しみにしていたわしを差し置いて、皆は食べ始めやがる。でも、リータとメイバイが先に食べさせてくれたから、まぁいいや。
「うまい……にゃ~~~」
久し振りのポン酢は涙腺を刺激し、涙が溢れる。転生の秘密を知らない家康だけは、わしの涙の理由がわからなかったようだ。
皆も美味しく食べて腹も涙も落ち着いて来ると、わしは玉藻に問う。
「このポン酢は、どこで売ってるにゃ?」
「天皇家御用達じゃから、市場には出回っておらん」
「え~! わしにも紹介してくれにゃ~。全部買い占めるにゃ~」
「そんな事を言って紹介してもらえると思っておるのか!!」
どうやら玉藻の手持ちのポン酢は、さる蔵元で一番できのいい物が天皇家に奉納されているだけで、普通のポン酢は売りに出されていたようだ。
なので、ポン酢を製造している蔵元を数件教えてくれるとのこと。ただし、天皇家御用達の蔵元は、わしが何かするかもしれないから教えてくれないんだって。
まぁそれぐらい、厳昭と質屋にでも調査させればすぐじゃ。他と味を比べて天皇家御用達の蔵元が一番うまかったら、大枚はたいて買い取ってやろう。関西人の、ポン酢にかける情熱をナメるなよ!
わしの不穏な考えは筒抜けで、玉藻が裏から手を回して、厳昭とキツネ店主の店がお取り潰しになりかけたのであった。
でも、わしの情熱に負けて、年間、一升のポン酢を譲ってくれるようになったのであった。情熱よりも「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」うるさかったらしいけど……
カニ鍋パーティが終わると、お片付け。皆にも手伝ってもらって氷を砕く。かなり厚く作ったから、玉藻と家康しか役に立たないと思っていたが、リータが凄かった……
「「おい……リータは……」」
「みにゃまで言うにゃ~~~!」
玉藻と家康が口を滑らせる前に、わしは止める。もうすでに、自分でもあわあわしているのだから、言う必要は無いだろう。
だって、お試しで手加減抜きに殴ってみろと言ったら、氷の島がパッカーンってなったんじゃもん! ツクヨミの加護……強すぎない??
リータは自分の力に怖がっていたので、ドクターストップ。玉藻と家康が対抗して殴ったら、お互いパッカーンとなったから満足していた。四分割されたので、わしも参加して、パッカーンからの【火球】。
玉藻も氷を解かす事に参加し、ほどほどに氷の島が細かくなったら、エリザベスキャット号は北へ向かう。
何度か白い魚や黒い魚に遭遇したが、猫ファミリーで処理し、とある島にエリザベスキャット号は停泊した。
ここは琉球。巨大な船を見た住人に驚かれたが、天皇家の威光で、すぐに解散させられていた。
エリザベスキャット号は、悩んだ結果、ここに放置。猫の国には海は無いし、飛び地で持っている島から船で沖に出るつもりもないので、持って帰る理由が薄いからだ。
それに日ノ本に置いておけば、玉藻と家康が勝手に使って太平洋側の魚を減らしてくれるだろう。
エリザベスキャット号の居住スペースを、土魔法を使って完全に密閉してしまえば、見ていた玉藻と家康以外は侵入できないだろう。たとえ、フナムシであったとしても!!
諸々の処置が終われば、飛行機に乗り込んで首里城に直行。少しだけ観光させてもらっていたら、琉球を治める王が挨拶しにやって来た。
玉藻に媚び諂うように見えたので話を聞いたところ、王とは名ばかりで、城主のような仕事をしているようだ。
日ノ本に併合する際に、馴染んでいる名前を無理矢理変えると暴動になるかもしれないので、当時の天皇が王と名乗る事を許可したらしい。
その事と、琉球の危機に危険な海を越えて助けに来てくれた事、援助をしてもらった事もあり、現在は天皇家を神のように崇めているようだ。
わしも軽く紹介してもらって、今度来た時は、観光地を案内してもらう約束をしておいた。大きな黒い魚で買収しておいたから、快く受けてくれた。しかし、そのせいで玉藻と家康がうるさい。
ただのお近付きじゃ。乗っとるなんて、なんでそんな面倒な事をしないといけないんじゃ。わしは怠惰な王じゃぞ?
二人は納得。黒い魚は高級品だから二人を心配させていたようだけど、納得するの早くない??
わしは少し納得できない事はあったが、観光を終えると首里城近くにある、とある神社に向かう。軽く参拝して蔵に入ると、三ツ鳥居がふたつ設置されていた。
琉球には、ただ単に観光に来たわけではない。船や飛行機で帰るのが面倒なので、一番近くの三ツ鳥居に来ただけだ。これは玉藻と家康も総意。二人も出来るだけ早く帰りたいらしいので、三ツ鳥居を使う事になったのだ。
ふたつ設置された左側にある三ツ鳥居に家康が呪文唱えると、江戸城の蔵と繋がり、全員で通る。玉藻まで江戸について来る必要はないんじゃけど……
そこからバスを走らせ、目的の場所に着いたら乾杯だ。
「え~。無理矢理参加させられたから文句を言いたい事は多々ありにゃすが、うまい魚に罪はないにゃ。今宵は大漁を祝して、飲んで食って騒ごうにゃ! かんぱいにゃ~~~!!」
「「「「「かんぱいにゃ~~~!!」」」」」
わしの音頭で始まる宴。懇意にしている江戸の寿司屋を貸切って、寿司パーティーだ。ちなみに玉藻は、宴会をするって聞いたからついて来たんだって。
客は数人居たが、追い出さずに家康に参加しろと命令させたから、人数もそこそこ居る。その客はうまい魚に騒ぎ倒し、寿司職人も全員が騒ぎ散らしているので、盛り上がり過ぎだ。
刺身、寿司、海鮮丼、焼き魚、煮付け、海鮮味噌汁に海鮮鍋。もう寿司屋と違うメニューが出て来ているけど気にしない。寿司職人も、うまい魚なら違うメニューも食べたかったのだろう。
わし達も飽きもせずに魚を頬張り、お腹が膨らむとカロリー消費。ウクレレを掻き鳴らしながら歌い、寿司屋に居る者にも歌を教えて大合唱。近所から迷惑と言われたならば、寿司を食わせて仲間に入れる。
最初に居た人数から倍以上膨らみ、声も倍。それでもわし達は飲んで食ってのお祭り騒ぎ。
こうしてこの日の大宴会は、夜遅くまで続けられたのであった。
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