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第十八章 日ノ本編其の四 釣り大会にゃ~
497 お礼参りの旅にゃ~
しおりを挟む玉藻とお金の話をすると言いながらお昼寝に突入したわしは、夕方頃に息苦しくなって目覚めた。どうやらリータが、濡れタオルをわしの顔に掛けたらしい……
もっと優しく起こしてくれと文句を言ったら、殴られるのと濡れタオルの二択を提示された。
いや……その二択しかないのですか? 仕事をサボった罰なのですか。いちおう話はしましたよ? まったく話が進んでいなかったからですか。そうですか。
どうやらリータ達は、玉藻から何をしていたか聞いていたようだ。だからわしを殺害しようとしたらしい……
超怖かったので、二人にスリスリ。晩ごはんの配膳も積極的に手伝い、許しを乞う。
ただ、王族の食事に誘ってあげた家康と玉藻がコソコソ話をしていたから聞き耳を立ててみたら「こんなのが王で務まるのか」と罵っていたが、無視してやった。
そうして楽しい食事が終わると、リータに玉藻達を旅館に送っていけと命令されたので、「にゃいにゃいさ~!」と言いながらドライバーになる。
玉藻達の冷たい視線は痛いが、しっかり務めを果たしたわしは、リータとメイバイに優しく撫でられながら眠りに就く……
「にゃんか一人増えてにゃい?」
「「モフモフ~」」
「「違うんです~!」」
優しく撫でられていたのは、キツネ少女お春とタヌキ少女つゆ。どうやらお春もつゆと同じく、リータとメイバイに布団に連れ込まれたようだ。
なのでわしは、ぬいぐるみを抱く二人の間で、寂しく眠るのであったとさ。
翌朝、時間通り起きたわしは、さっそく朝ごはんを食べて猫ファミリーで役場を出る。バスで街中を走り、旅館で玉藻と家康を拾ったら、猫の街飛行場から飛び立つ。
今日の仕事は、日ノ本のお礼参り。何も体育館裏に先生を呼び出してボコるわけではない。救援物資を送ってくれた各国に、玉藻達が直接行きたいと言うので渋々わしが付き合う事になったのだ。
渋々の理由は超簡単。そんな長旅に付き合いたくないからだ。しかし、玉藻と家康は白い獣なので、もしもの時にはわしに止めてくれと各国の王から打診が入り、嫌々ハンターの仕事として受けさせられたのだ。
そもそも、お礼参りに玉藻達が行くとは聞いてなかったから、こんな面倒な仕事が生まれたのだ。
各国の王も聞いていなかったので、軽く会うと言ってしまった手前、いまさらキャンセルするとかっこうが悪いと泣き付いて来たから、リータ達がノリノリで受けてしまったのだ。
しかし、元々のキャットトレインで各国を回る日程に合わせると、一ヶ月近くかかってしまうので、ゴネまくって前回と同じ期間で回れるスケジュールを組ませてやった。
飛行機は空を行き、各国を回る順番は前回と逆。西の国から入り、最北西の小国から順に、南下し、東に向かって北へと抜ける。
西の国に着いたら、バスで城に直行。うるさい玉藻と家康に適当に説明しつつ、西の王と謁見したら、二人は西の国の礼儀作法に則って挨拶し、お礼と感謝の品を渡していた。
わしはというと、後ろでボケ~っと突っ立っている。話す事も特にないので、コリスとオニヒメを撫で回して暇を潰す。
そうこうしていたら謁見の制限時間が来たらしく、三人は笑顔で握手を交わし、カメラ係のメイバイに写真を撮らせていた。
城での用事が終わったら、バスで軽く西の国を見て回る。二人の観光熱に火がついているように見えるが、一日四件も国を回る予定だ。自重してもらうしかない。
絶対に降ろさんからな! アレもそれも買って来いじゃと? 嫌に決まっておるじゃろ。だから降りようとするな! リータ~、メイバ~イ。適当に買って来てあげて~~~!!
テンションの高いおのぼりさん二人をバスから降ろしてしまうと、迷子になりかねない。ここはなんとしても阻止して、リータ達の買って来た変な絵や置物で我慢してもらう。
猫が無いのが残念なのですか。猫なんていりませんよ。二人のお土産なんですからね。
リータ達が戻るのが遅かったと思ったら、猫の絵や置物を探していたようだ……
なんとか西の国を脱出したら、飛行機で小国に向かう。そこでも王様と謁見して、お礼とプレゼント。
この国ではランチをする予定だったので、露店をうろうろして適当に郷土料理を買い漁る。そうしてその辺のテーブルに陣取り、楽しくランチ。
ただ、玉藻と家康は、何やら辺りを気にしていたので聞いてみる。
「キョロキョロしてどうしたにゃ?」
「めちゃくちゃ見られておるじゃろうが」
「よくもまぁ、こんな所で堂々としてられるな」
「あ~。二人が目立っているんにゃ。尻尾がいっぱいある人は珍しいからにゃ」
「「どう見ても、そち(お主)とコリスじゃろうが!!」」
そんなに怒鳴らんでも……わかっていますとも。ここはあまり来た事がないからな。じゃが、少なからず玉藻と家康を見ている人はいるんじゃ。
わしを見る人はいつも通り……ん? なんか違う?? キラキラした目で見てる人がいる。コリスも怖がられる事が多いのに、なんであんな目で見られておるんじゃろう?
まぁ奇妙奇天烈なモノを見られる目よりはマシか。
民衆の目はわしも気になったが、いつもとたいして変わらないので、気にせずモグモグ食べる。
料理は大量に買っていたのだが、コリスとオニヒメのせいでガンガン減って行くので、玉藻と家康もわしをツッコンでいる場合ではなくなったのか、急いで食べていた。
それでも足りないと言うコリス達には、高級串焼きを支給。玉藻と家康も足りないようなので、食べさせてやった。
ランチが済むと、次の小国へ。飛行機の操縦は玉藻に代わってもらってお昼寝だ。ただ、家康が操縦したいと言ったらしく、少し操縦させたら墜落の危機になったとのこと。だが、わしはずっとリータの膝の上で寝ていたから気付かなかった。
そうして三件目、四件目と国を回れば、四件目の小国で一泊。ここでは少し時間があったので、軽く観光して露店の食べ歩き。
玉藻と家康は、今日回った国と見比べて、話が弾んでいるように見える。ただ、わしに話を振られても、来たのは二回目なので国民性なんかは知らない。
わし達をガン見しているところを見ると、奇妙な生き物は歩いていないと思うと言っておいた。
だからって、わしを奇妙とか言うのやめてくれる? 日ノ本では奇妙な生き物が山ほど歩いてるんじゃからな? てか、お前達も、たいがい奇妙じゃからな!!
巨大キツネと巨大タヌキに奇妙な生き物と言われる筋合いのないわしは、「にゃ~にゃ~」喧嘩。その喧嘩は激しく、近付こうとしていたキラキラした目の女性は、すごすごと引き下がって行った。
高級宿屋に入ると、猫ファミリー以外は個室。でも、玉藻が遊びに来てそのまま寝てしまったので、個室のひと部屋が無駄になってしまった。まぁ請求書は日ノ本に回してやるから許してやった。
それからも各国を回り、軽く観光した場所では何故かキラキラした目で見られ、ビーダールでは「にゃ~にゃ~」喧嘩。玉藻と家康が、猫の石像を指差しながら笑っていたから喧嘩になったのだ。
笑うぐらいなら、一緒に写真を撮るな! だからって、手を合わせて念仏を唱えるな! わしは生きておる!!
毎日騒がしくお礼参りを続けていたら、最後に取っておいた東の国に到着した。
ここでも、バスに乗って城に直行。イサベレ筆頭に少数の騎士の並ぶ玉座の間までズカズカと乗り込み、東の国王族と謁見。玉藻の念話の挨拶で始まった。
「ペトロニーヌ女王。久方振りじゃな」
「ああ。また会えて嬉しいぞ。それでそちらの男が、イエヤスで間違いないのか?」
「そうか。女王もこの姿は初めてだったな。家康?」
「儂が元将軍、徳川家康じゃ。あの姿ではこのような立派な城を歩くとしても、不便があるから小さくなっておる。ふたつとも顔を覚えてもらえれば幸いじゃ」
「たしかに、あの姿では我が城でも窮屈だな。だが毛並みは……なんでもない」
女王……珍しく心の声が漏れておるぞ。5メートルのタヌキを撫でたかったのか。こんなに怖いもの知らずになったのは、誰のせいじゃろう? ……さっちゃんは、もうちょっと隠そうな?
女王の隣に立つさっちゃんは、手をわきゅわきゅしているので、手招きしたらススーっと玉座から離れてわしの元へやって来た。
そうして頭を撫でられながら女王達を見ていると、玉藻の呪術【大風呂敷】から、装飾が綺麗な二本の刀が出て来た。
その打刀を玉藻が持ち、脇差を家康が持つと、前に数歩進んで片膝を突く。
「これは我が国にて打たれた刀……こちらではそーどと呼ばれる物じゃ」
「日ノ本の刀鍛冶に丹精込めて打たれた刀……切れ味は、この国のそーどとは比べられないほどあると自負しておる」
「此度は、日ノ本の危機に御尽力いただき、誠に感謝する」
「受けた恩には遠く及ばないが、天皇陛下の感謝の印。どうか受け取っていただきたい」
二人が畏まって両手で刀を差し出すと、女王は目配せして、イサベレと王のオッサンを二人に近付かせる。
「こちらとしては善意の行為だったのだから、お礼をいただくには些か心苦しい。だが、そこまで言われて受け取らないのも悪かろう。有り難く頂戴しよう」
女王が感謝の言葉を述べると、イサベレと王のオッサンが片膝を突き、両手で刀を受け取って、女王の元へ運んで行く。
……このやり取りは必要なのかね? どっちも畏まっちゃってウケル~。てか、玉藻とご老公は何度もやってるから、その都度笑ってしまいそうなんじゃ。
でも、三件目で吹き出して、リータ達にめちゃくちゃ怒られたから、お口チャックじゃ。
わしが肩を振るわせていると、イサベレとオッサンは刀を鞘から抜いて女王に見せていた。
「美しい……刀とは、武器だというのに斯くも美しい物なのか……」
「喜んでくれて幸いじゃ」
「これで天皇陛下も喜んでくれるじゃろう」
息を呑む女王を見た玉藻と家康は、顔を崩して笑みを浮かべる。一通り刀を鑑賞した女王も穏やかな顔に変わり、感謝の儀式的なものは終わったようだ。
お礼参りの旅は東の国で最後という事もあり、女王達は少し時間が取れるので……いや、わしが来ると、長々と時間を取るらしいので、場所を変えて食堂でお喋り。わしは定位置の女王の膝で、さっちゃんは定位置のコリスの腹だ。
「ほう……そこまで酷い惨状であったのか……」
玉藻と家康から正確な被害状況を聞いた女王は心を痛める。
「本来ならば、もっと死者は多かったと思う。シラタマが迅速に対応してくれたからこそ、死者をかなり減らせたのじゃ」
「ゴロゴロ~」
「山のような化け物に、臆せず挑むシラタマ王を、お主にも見せたかったぞ。我等もヤマタノオロチの体内で戦っていたから見てはいないのだがな」
「ゴロゴロ~」
「この猫が……」
「ゴロゴロ~」
旅先で何度も聞いた話なんて聞く気のないわしは、女王の膝でお昼寝。
「「「この猫が……」」」
「ゴロゴロ~」
女王、玉藻、家康、三人の突き刺さる冷たい目も、眠っていたからまったく痛くないわしであったとさ。
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