上 下
494 / 755
第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~

487 懐かしい声にゃ~

しおりを挟む

「凄かったですね……」
「過去最高だったにゃ……」

 わしとリータは、アマテラス達の兄弟喧嘩で地獄絵図となった夢の中から生還し、ムクりと体を起こす。

 時刻は丑三つ時。御所の寝屋では、メイバイがわしの尻尾をニギニギし、オニヒメはコリスに埋もれて、皆「スピー」と寝息を立てている。

「シラタマさんが、たまにうなされている理由がようやくわかりました……」
「今度から、気付いたら叩き起こしてくれにゃ……」
「はい……」

 こうしてわしとリータは、嫌な汗を濡れタオルで拭き合い、もう一度眠りに就くのであっ……

「にゃんでわしの手を胸に持って行くにゃ?」
「夢の中で触ってたじゃないですか? 触りたかったんでしょ?」
「にゃんの事かにゃ~? ひゅ~」
「もう~。チュッチュッチュ~」

 リータにおもちゃにされて眠りに就く……

「にゃ! アマテラスがわしのこと、おもちゃって言ってたにゃ~~~!!」
「シーーー!」
「ムグッ……」
「みんな起きちゃうでしょ……あれ? シラタマさん??」

 こうしてリータの胸の中で気絶して、わしは眠りに就くのであった。

 だって、息が出来なかったんじゃもん。


 翌日は、メイバイに叩き起こされた。本当に叩き起こされた。

 わしもリータぐらい優しく起こしてくれてもいいのに……起こしたのですか。そうですか。

 やや寝坊してしまったが、御所の食堂に顔を出すと、ちびっこ天皇と玉藻は朝餉あさげを始めたところだったらしく、わし達が座布団に座ったら食事の手を止めた。
 遅れたわし達が悪いので「どうぞどうぞ」と言いながら、わし達は高級串焼きをモグモグ。玉藻達も欲しいと言って来たので振る舞い、わし達のお盆が揃えば手を合わせて美味しくいただく。

 身支度を整え、先日用意すると言っていた各国へのお礼状を受け取り、二人に別れの挨拶をしたわし達は御所を出る。そうして歩いていると、リータとメイバイがグチグチ質問して来た。

「三ツ鳥居から帰らないのですか?」
「転移して帰ったほうが、魔力の節約ににゃるかにゃ~っと……」
「じゃあ、走ってキョウを出ようニャー? 早く帰って仕事するニャー」
「朝から激しい運動をしたら、体に悪いみたいにゃ?」
「かなり長く滞在しているんですから、早く帰りましょうよ~」
「そんにゃに急ぐ必要ないみたいにゃ??」
「さっきから何言ってるニャー!」

 わしはモゴモゴと言い訳しつつ、とある店の前で足を止める。

「まさか……落語を見てから帰るつもりですか……」

 すると、リータが睨んで来るので、わしはモゴモゴと理由を説明する。

「えっと……しばらくここに来にゃいから、コリスがもう一回見たいかにゃ~と……だからその……リータ達はここで待っていて欲しいにゃ~と……」
「私達ニャ? ……シラタマ殿は、一人でどこかに行こうとしてるニャー??」

 メイバイの質問に、わしはさらにモゴモゴとなる。

「ちょ~っと……一人で行きたいところがありにゃして……夕方までには戻るから、待ってて欲しいにゃ~」
「どこに行くのですか!!」
「どこに行くニャー!!」

 わしの歯切れの悪い言い方に、二人は怪しんでいるみたいだ。

「にゃにも聞かず、行かせてくださいにゃ~! お願いにゃ~。後生のお願いにゃ~」

 わしが涙目で必死にスリスリしながらお願いすると、二人は顔を見合せ、目で何かを語り合っていた。

「……わかりました」
「その代わり、必ず夕方には戻って来るニャー?」
「うんにゃ! ありがとにゃ~!!」

 わしはパッと顔を明るくして、二人の手をブンブンと振り、感謝のスリスリをする。それから全員分の昼食とお財布を収納袋に入れて渡すと、わしは駆け足で離れるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「さっきのシラタマさん……おかしかったですよね?」
「うん……お腹痛かったのかニャー?」

 シラタマを見送ったリータとメイバイは、話し合っていた。

「気になりますよね?」
「うん……気になるニャー」
「つけましょうか?」
「つけるニャー!」

 先ほどのシラタマの様子がおかしかったので、リータとメイバイはあとをつける事で意見がまとまる。しかし、ひとつ問題が残っていた。

「コリスちゃん。オニヒメちゃんと一緒にお留守番できる?」
「お金の使い方わかってるニャー?」

 コリスとオニヒメの存在だ。二人の思考は子供同然なので、残して行く事が心配のようだ。

「う~ん……モフモフつける~」
「つける~」

 即解決。先日落語を見ていた事もあり、二人もシラタマの様子が気になったのか、リータ達に同行する事にした。なので、さっそくシラタマをつける行動に移す。

「コリスちゃんはオニヒメちゃんを乗せてあげてね」
「うん!」
「メイバイさんは匂いでシラタマさんを追ってください」
「こっちニャー!」

 メイバイは鼻をヒクヒクさせると、嗅ぎ慣れたシラタマの匂いを辿って走り出す。するとリータ達も続き、猛スピード京を駆けるのであった。


 リータ達が町外れに近付くと、空を飛ぶ物体に気が付いた。

「飛行機です!」
「これじゃあ、匂いを辿れないニャー」
「……いえ、逆に見付からずに追いやすいかもです」
「どういうことニャー?」
「飛行機は目立ちますし、何より私達は、かなり速く走れます」
「あ! たしかに、追いかけて走るより見付かり難いニャー!!」
「というわけで、追跡続行ですにゃ~!」
「「「にゃ~!!」」」

 くして、リータ達は猛スピードで街道を走り、道も野原も、山も峠も関係なく走り続けるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 う~ん……建物が少ないからようわからん。

 わしは京から飛行機を離陸させると、下を見ながら目的地を探していた。

 たぶんアレが堺だと思うんじゃが……せめて通天閣ぐらいあったらわかりやすいんじゃけど、この世界には無いか~……とりあえず、変わらない風景を目印にして探すか。
 山並は見ても懐かしいとしか感じないし、やはり川か……あの大きな川は、淀川じゃろ? で、西に行くと神崎川じゃったか? ……それであの川が目的の川のはず。
 ひとまず、河口から攻めてみよっと。

 わしは飛行機を海の近く、それでいて人に見られない位置で着陸させる。

 ここからは、子供時代の記憶を探り探り進んで行くしかないな。わしの前頭葉……頑張れ~~~!!


 そうして、川を上流に向かって駆け出し、記憶にある風景を探すわしであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 その少し前、リータ達は爆走していた。

 先頭はリータ。リータは余裕で走れる速さで皆を先導していた。
 その次にメイバイ。空を見上げ、リータが足元の注意を促す声を聞きながら飛行機を追跡する。
 最後にオニヒメを乗せたコリス。もしもメイバイがこけた場合は、すぐさま抱き上げる事になっていたが、出番はないようだ。

 皆は空を飛ぶ飛行機と同じ速度で走り続け、ほどなくして、飛行機の着陸体勢に気付き、とある川沿いにて身を隠す。

「ここからは徒歩みたいですね」
「コリスちゃんが目立ってしまいそうニャー」
「ですね……変身してくれる?」
「わかった~」

 さっちゃん2にコリスが変身すると、シラタマから距離を取ってあとをつける。そうしてシラタマが止まるまで、リータ達は走り続けるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 うぅぅ~む……見た事あるような無いような……

 わしは川を上流に向かってキョロキョロしながら走り、なんとなく見た事のある光景の場所で止まる。

 あの土手も見た事がある気がするけど、なにせ百年近く昔の事じゃからな~……懐かしい景色を見たらすぐに思い出すと思ったけど、そうは上手くいかんか。

 ここからは徒歩に変え、キョロキョロと周りを見ていたら、わしは石につまずいて前のめりにこけてしまった。

 つ~……痛くはないけど恥ずかしい! リータ達に見られなくてよかったのう。よっこいしょっと……ん?


「あはは。お兄ちゃんがこけた~」
「にいちゃん。いたいいたい?」


 こ、この声は……

 わしが顔を上げると、そこには、幼き日の兄弟達が笑っている顔があった。

 次郎……あきこ……みんな……

「ほら、お兄ちゃん立って」
「もうお昼なんだから帰ろうよ~」
「おなかすいた~」

 わしは兄弟達の急かす声に、あの日のように背負っている妹を落とさないようにゆっくり立ち上がる。

「てつのじょ~う! みんな~!!」

 するとまた聞き覚えのある声が聞こえ、兄弟達は一斉に土手を見た。

「あ! おかあちゃんだ~!!」
「おかあさ~ん」

 兄弟達は嬉しそうに駆け出し、わしもその先に目をやる。

 お袋……

 そこには、若かりし日の母親が手を振り、駆け寄る兄弟の名前を呼んでいた。


「お袋! 次郎! あきこ~~~!!」

 その懐かしい顔、その懐かしい声、懐かしい風景を見たわしは、わけもわからず叫びながら駆け出したのであった。


*************************************
【告知】
 すっかり忘れていましたが、短編小説『ティムした裏ボスを野に帰したら行方不明になった件』がアップし終わっています。

 時間に余裕のある方は、どうぞお読みください。m(__)m
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

処理中です...