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第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~
484 三種の神器のお目見えにゃ~
しおりを挟む池田屋を立ったわし達は、御所に行こうと思ったが、朝から行くのも気が引けたので、寄席にて時間を潰す。本当はわし一人で行きたい所があったのだが、リータとメイバイが尻尾を離してくれなかったので、仕方なく落語を見て大笑いする。
昼が近付くと寄席の近くのお店でランチ。三件ほどハシゴして、お腹がいっぱいになったら御所を訪れ、玉藻にあの話を切り出す。
「それで、急ぎの仕事は終わったにゃ?」
「ああ。取り急ぎは終わったぞ。しかし、話があるとは、なんの話じゃ?」
「関ヶ原に出た報酬の話にゃ~」
「関ヶ原の報酬……あ!!」
「忘れてたにゃ!? ひどいにゃ~!!」
ヤマタノオロチ騒動で、玉藻はすっかり忘れていたようだ。しかも、いまさら渋り出す始末。「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」文句を言いまくって、やっとこさ許可が出た。「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」うるさかったんだって。
それから場所を移し、御所にある神社にわし達は向かう。その神社は特別な施設なのか、キツネ侍やキツネ神職がウロウロしており、厳重に守られているように見える。
玉藻に続き、ゾロゾロと神社に入ると、何部屋も通り過ぎて、ようやくとある物が保管されているという部屋に入った。
そこには、二つの台座とその上に乗る桐の箱しかなく、わし達が入ったら木戸は固く閉じられた。
「御開帳すら、年に一回しかないのじゃからな……今回は、特例中の特例じゃからな……絶対に触るでないぞ……」
ふ~ん。三種の神器は見る事すら許されないと聞いていたが、この世界では見てもいいのか。ダメ元じゃったけど、だから許可が出たんじゃな。
玉藻はブツブツ言いながら桐の箱に掛かってある紐をほどき、御開帳となる。
ひとつは、両刃の剣……
ひとつは、勾玉……
そう。わしが要求した報酬……三種の神器のお目見えだ。
おお~! 天皇陛下ですら見る事を許されないのに、こんなわしが生で見れるとは……。なんだか、どちらの神器からも後光が差しているように見える……玉藻は何もしておらんよな? うん。しておらん。感動じゃ~。
しかし、天叢雲剣はもっと錆びていると思っておったけど、錆びひとつない白銀の剣とは、これ如何に? 白魔鉱?? 白魔鉱にしてはキラキラし過ぎな気が……
八尺瓊勾玉も、翡翠のはずじゃから緑色をしてないとおかしいんじゃけど、白銀……さすがに、全てが元の世界と一緒というわけにはいかんか。
わしは近付いて一通りジロジロ見終わると、玉藻に顔を向ける。
「鏡は無いにゃ?」
「八咫鏡は御神体として賢所に奉置されておる」
「それも見せてくれにゃ~。どうせ複製品なんにゃろ?」
「複製品言うな! 形代と呼べ! 八咫鏡を忠実に再現した由緒正しき代物なんじゃぞ!!」
「ゴメンゴメンにゃ~」
玉藻が超面倒臭くなったので、わしは謝りながら天叢雲剣に手を伸ばす。
ドゴンッ!
しかし、玉藻に手を叩き落とされてしまった。
「痛いにゃ~。にゃにするにゃ~」
「触るなと言ったじゃろう!」
手をフーフーしながら文句を言ったら、玉藻にめちゃくちゃ怒鳴られた。
「え~! 報酬は、ちょっと見せてちょっと触ってちょっと持つだったにゃ~。それで了承したんにゃから、ちょっと振らせてくれにゃ~」
「どさくさに紛れてひとつ増えておるじゃろ!!」
また「にゃ~にゃ~」喧嘩。天皇の名代が約束を違えるのかと「にゃ~にゃ~」騒いでいると、三人ほど耳を塞いでいたが、リータだけは八尺瓊勾玉をジックリと見ていた。
「シラタマさん……シラタマさん?」
「ウソつきケチキツネにゃ~」
「なんじゃと~!!」
そしてわしを手招きしながら呼ぶので、わしは玉藻を罵りながらリータのそばに寄る。
「で、にゃんで呼んでたにゃ?」
「これ……白ダイヤみたいじゃないですか?」
「白ダイヤにゃ??」
「ほら、砂漠で買ったティアラの台座に付いていた宝石ですよ」
あ~。そんな事があったな。あの時も、リータが一番先に気付いておったか。
「誰がウソつきケチキツネじゃ~!!」
「うっさいにゃ~。あとで遊んであげるから、静かにしてろにゃ~」
うるさい玉藻は軽くあしらい、わしは【魔力視】を使って八尺瓊勾玉をよく見る。
な、なんじゃこれ? 何百と文字が浮き上がって重なっておる。この勾玉、ひょっとしたら魔道具かも??
「妾の話を聞け!!」
まだ怒っていた玉藻は、わしの肩をグイッと引くので、仕方がないから相手をしてあげる。
「ゴメンゴメンにゃ~」
「なんじゃその言い方は!!」
「それより、この勾玉、もしかしたら凄い代物かもしれないにゃ」
「はあ!? 神器なんじゃから凄いに決まっておるじゃろう!!」
「落ち着けにゃ~。わしが言いたいのは、凄い呪具かもしれないってことにゃ~」
「じゅ…ぐ……?」
なんとか玉藻が落ち着いて来たので、【魔力視】を付与してある虫眼鏡のような物を渡して、八尺瓊勾玉を見てもらう。
「なんじゃこりゃ~~~!!」
「もう~。だから落ち着けにゃ~。ほい、リータ達も見たいにゃろ?」
玉藻とは、もうしばらく話になりそうになかったので、予備の虫眼鏡をリータに渡し、順番に見させる。その間わしは、天叢雲剣の調査。【魔力視】を使って隅々までよく見る。
おお~……こっちも凄い量の文字数じゃな。それに、漢文じゃから解読が難しい。わしの頭じゃ不可能じゃ。ここは、生き字引を頼ってみるか。
「天叢雲剣はどうじゃ?」
わしが玉藻を呼ぼうとしたら、ちょうど声を掛けて来た。
「こっちも呪具で間違いなさそうにゃ」
「ほう……どれどれ」
玉藻が虫眼鏡で覗く中、わしは質問してみる。
「これって漢文にゃろ? 玉藻にゃら読めにゃい?」
「普通の漢文なら読めるんじゃが、どうも法則が違っているみたいなんじゃ」
「どういうことにゃ?」
「そちに言ってわかるかどうか……返り点や読む順番が書いてないと言ったらわかるか?」
「あ~にゃるほど。それじゃあ、長文にできないにゃ」
「相変わらず理解が早いな」
「てことは、単語は読み取れるんにゃろ?」
「そういうことじゃ。じゃが、なにぶん遠い昔に使っていた文字じゃから、辞書が必要じゃな」
チッ……使えんババアじゃな。
「いま、失礼な事を考えたじゃろう?」
「にゃんのことかにゃ~? ひゅ~」
「はぁ……所々の単語は読めるぞ」
「さすが玉藻様にゃ~!」
「はぁ……」
玉藻は、わしが口笛を吹いてもため息。褒めてもため息しか出ないようだ。
「もったいぶらずに教えてくれにゃ~」
「天叢雲剣には、『空・時・斬』……これらの文字が多く使われておるな。あと、神の名も刻まれておる」
「マジにゃ!? 誰にゃ~??」
「天叢雲剣には、スサノオノミコト。八尺瓊勾玉には、アマテラスオオミカミじゃ」
スサノオとアマテラスか~……これ、かなりヤバイアイテムかも? まさかとは思うけど、二人の所有物だったとしたら、すんごい効果が出るかもな。
使ってみたいけど、使ったら使ったでヤバイ事が起きそうじゃ。でも、どんな効果か気になるんじゃよな~。強い魔法なら、魔法書さんで探せるし……
「なんじゃ? 二柱の名を聞いた途端、百面相なんかしよって」
わしが腕を組んで考え込んでいると、顔がコロコロ変わっていたようで、玉藻が妙なツッコミをして来た。
「まぁにゃ~。あのアマテラスとスサノオの物だとしたら、かなり危険にゃ物だと思うからにゃ~」
「おいおい。二柱を友達みたいに言うでない。神じゃぞ?」
「わしは二人と会った事があるからにゃ」
「また大嘘を……」
「信じないのは自由にゃ。ちにゃみに三種の神器は、いつからあるにゃ?」
「さあな……妾の婆様の代にはすでに古い物だったと聞いているが、いつからまではわからん」
どうやら玉藻は名代の三代目で、ざっくり三千年より古い事は確定しているが、それ以降は文字も少なく、遡る事は難しかったようだ。
「ふ~ん……ま、玉藻の知識より古いんじゃ、性能にゃんかは知らにゃいか」
「基本、人が直に触れる事すらないからな。まさか呪具であったとは、こちらとしても初耳で驚いておる」
「それでにゃ……性能を確めてみるって事はしたくないにゃ?」
「うっ……そう言われると、見てみたい気もする……」
「にゃ~? 勾玉は壊れそうで怖いけど、剣にゃら頑丈そうにゃ~。わしじゃなくていいかから、玉藻が振ってくれにゃ~。にゃあにゃあ?」
「え~い! にゃあにゃあうるさ~い!!」
うるさいと言われても、わしは「にゃあにゃあ」言い続け、耳に猫となった玉藻は渋々許可してくれるのであった。
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