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第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~
482 キツネ達との再会にゃ~
しおりを挟む浜松から京に着いたわし達は、玉藻と別れようとしたが、ちびっこ天皇と会って行けと猛プッシュを受けて渋々謁見する。
だってリータとメイバイが、それぐらいしないと王様っぽい仕事じゃないと言うんじゃもん。別に羽を伸ばす為に来ただけじゃから……は~い。しゃんとしま~す。
とりあえず二人に睨まれたから、背筋を正してちびっこ天皇と話す。
「よう参った。玉藻から救援物資を山ほど持って来たと聞いたぞ。誠に感謝する」
「わしじゃなくて、各国に感謝しろにゃ~」
「そうであったな。文を認めるから、少し時間をくれ」
「もう少し京に留まるから、帰りにでも受け取るにゃ~。それと、これが救援物資のリスト……品目にゃ。確認してくれにゃ」
わしは用紙を手渡すと、しばし雑談してから立ち上がる。玉藻からは泊まって行けと言われたが、急ぎの仕事があると聞いていたので、今日のところはお暇する。
御所をあとにして高級串焼きをモグモグしながら京を歩き、今日はどこに泊まろうかと考えていたら、リータとメイバイは池田屋に行きたいとのこと。手をわきゅわきゅしているところを見ると、キツネ少女を愛でたいのであろう。
なので、以前、厳昭が紹介してくれた宿に向かおうとしたが、首根っこを掴まれて池田屋に連行されてしまった。
「お侍様!」
「にゃはは。久し振りだにゃ~」
池田屋に入ると、キツネ少女がパタパタと足音を立ててやって来たので、わしは頭を撫でてあげる。
「五人にゃ。空いてるかにゃ?」
「はい! すぐに案内しますね」
キツネ少女は嬉しそうに尻尾をフリフリ先を歩き、食事やお風呂の事は前回と同じでいいかと質問されたので、それでいいと言っておいた。
そうしてキツネ少女は部屋に入るとお茶を入れようとするのだが、待ちきれないリータとメイバイにモフられていた。なので、わしはキツネ少女の代わりに、人数分のお茶を入れるのであった。
涙目でわしを見るキツネ少女の視線に負けて、助けてあげると、懐から出した袋に入っていた物を布に包んでを手渡す。
「これは??」
「見ての通り、ワカメと昆布にゃ。お味噌汁にしてくんにゃい? 余ったら賄いにしてくれていいからにゃ」
「はあ……わかりました。板長に頼んでみます!」
キツネ少女が出て行くと、わし達はおやつを摘まみながらお喋りし、夕食が揃うのを楽しみに待つ。
そうして夕食が揃えば、皆、味噌汁から口に入れた。
「んん! 美味しいです~」
「今まで飲んだスープの中で一番ニャー!」
わし達が飲んでいる味噌汁は、昆布で出汁を取ったワカメ味噌汁。ただの昆布とワカメではなく、ヤマタノオロチの血を吸った昆布とワカメだ。それを被災者が収穫し、乾燥させた物を、浜松からの帰り際に家康から受け取ったのだ。
ふふん。リータとメイバイだけじゃなく、コリスとオニヒメも驚いておるな。わしも一口……うまい! 昆布の出汁が利いておるのう。ワカメも肉厚で旨味が違う。
こっちのワカメの和え物は、リクエストしていないのにわざわざ作ってくれたのかな? こりゃまたうまい。
乾燥した物を戻したからこそ、旨味が凝縮されているな。さすがはヤマタノオロチ。巨象の血と同じ効果を植物にもたらしたな。
皆はあっと言う間に味噌汁を飲み干してしまったので、キツネ少女を走らせて鍋ごと持って来てもらい、おかわりを楽しむ。ただ、キツネ少女が物欲しそうに見ていたので、キツネ女将には内緒でこっそりあげた。
当然キツネ少女もこんな味噌汁飲んだ事がないと驚いていたのだが、その時、戸襖が開いてキツネ女将が入って来てしまった。
「まったくお客様の食事に手を付けるとは、何をしとるんどす」
「も、申し訳ありません……」
「女将~。わしが無理矢理飲ませたんにゃから、責めてやるにゃ」
「しかし……」
「ほれ。女将も飲むにゃ。それとも、わしの出した味噌汁は飲めないのかにゃ?」
「うっ……では、一口だけ……」
キツネ少女を守る為に、酒を勧めるようにお椀を差し出すと、キツネ女将はガブガブ飲んだ。
「一口だけじゃなかったにゃ~?」
「あ……やられました……」
「にゃはは。うまい物はうまいにゃ! みんにゃで食べれば、もっとうまくなるにゃ~」
キツネ女将も加えての味噌汁パーティは、鍋が空になると即終了。少なからず迷惑を掛けたので、調理済みのヤマタノオロチ肉も振る舞ってあげた。
もちろん、キツネ少女とキツネ女将は美味しさに驚き、お返しにとっておきのお酒を振る舞ってくれた。
「お~。これもいけるにゃ~」
「ささ。もう一杯」
「にゃっとと……」
「そうそう。関ヶ原、うちらも見に行ってたんどすよ」
「そうにゃの??」
「はい! お侍様の試合、凄かったです!!」
「この子、最初はハラハラして見てたんどすよ」
どうやらキツネ女将とキツネ少女は、関ヶ原の期間は京から人が居なくなるから、社員旅行で来ていたようだ。そこでわしが出まくったので、応援してくれていたらしい。
その時、初めてわしの事を王様だと知って驚いていたようだ。その事もあり、キツネ少女がいまさら「王様」と呼んだほうがいいかと聞いて来たので、お忍びで来ているから「お侍様」でいいと言っておいた。
嘘だけど、猫、猫と騒がれない日ノ本で、王様と騒がれるのは避けたい。いまのところ、ここが一番わしが歩きやすい土地なのだから、当分身バレしたくない。タヌキと思われているのは癪じゃけど……
「まさか、玉藻様の神々しいお姿(巨大キツネ)を見れるとは、一生の思い出になったどすえ」
「本当です! でも、最後は負けていましたけど、怪我とかしなかったですか?」
「手加減してくれていたから大丈夫にゃ」
「手加減? そんなふうには全然見えませんでした~」
「お祭りだからにゃ。演技はバッチリにゃ。それより二人のほうが、地震は大丈夫だったにゃ?」
キツネ少女のキラキラした目が恥ずかしいので、わしは話を変えてみる。
「へえ。うちらは大丈夫どす。ですが、二軒隣の宿屋が崩れていたのを見た時は、肝を冷やしました」
「そこにお侍様が果敢に飛び込んで救出する姿……かっこよかったです~」
「見てたにゃ??」
「近くに居ましたから……。声を掛けようと思ったのどすが、そんな余裕がありそうになかったので出来ませんでした」
ぜんぜん気付かなかったな。まぁわしも救出作業で忙しかったからな。キツネはみんな同じに見えるから、顔を見たところで気付くか自信はないけど……
「この子なんて、ボーっとしてお侍様を見てたのどすよ」
「凄い揺れだったもんにゃ~」
「違いますよ。きっとお侍様に……フフフ」
「お、女将さん!!」
「にゃ~?」
意味深に笑うキツネ女将にキツネ少女がツッコムので、わしは首を傾げる。
「ち、違いますからね? わたし、ぜんぜんそんなんじゃないですからね??」
「そんにゃんって……にゃに?」
「だから違うんです~」
わしが質問すると、キツネ少女は顔を真っ赤にして逃げて行ってしまった。
「あらあら。ちょっとからかいすぎたどすえ~」
「だから、そんにゃんって、にゃに?」
「うちもそろそろ失礼しますえ~」
意味深な事を言うキツネ女将も部屋から消えると、リータとメイバイがわしの隣にドスンと座る。
「まさかシラタマさん……あんな小さな子に手を出さないですよね?」
「にゃ、にゃんですか? 怖いですにゃ~」
「まさかあの子が居るから、この宿を選んだニャー?」
「にゃんかしんにゃいけど、わしは違う宿に行こうとしたにゃ~~~!」
「「あ……」」
どうやら二人は、キツネ少女とわしの仲を怪しんだようだけど、冤罪もいいところだ。わしは連行されてここに来たんじゃからな!
誤解は解けたが、リータとメイバイは、それならばキツネ少女を猫の国に勧誘できないかと画策して、夜が更けるのであった。
翌朝起きると、行く所があったので朝ごはんを食べてから、少しゆっくりして池田屋を出る。朝早すぎるとやっていない可能性があったからゆっくりしただけなので、リータ達のお咎めはなし。
久し振りに京を歩き、道行くキツネやタヌキをチラチラ見ながら喋っていると目的のお店に着いたので、ズカズカと中に入った。
「邪魔するにゃ~」
「邪魔するなら帰りなはれ~」
「それじゃあ失礼しますにゃ~……て、にゃんでやねん!」
「コ~ンコンコン。さすがシラタマさん。ノリがええですわ~」
「質屋もにゃ。にゃ~はっはっはっ」
ここはキツネ店主の新しいお店。それも西の地の商品が多く並ぶ「万国屋」だ。
キツネ店主と初めて会った時を思い出し、わし達は大いに笑い合うのであった。
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