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第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~

477 たまには真面目に仕事をするにゃ~

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 猫の国に帰ったわしは、その日の内から慌ただしくしていた。
 各国と連絡を取り合い、浜松での被害状況の説明や面会のアポイント、救助物資の受け取り、日ノ本から連れて来た者達の処置、などなど。当然半日で終わらずに、次の日も朝から書斎にこもって働いている。
 緊急救助活動は、忙しい代表達に手伝わせるわけにもいかないので、誰よりも忙しい王様の案件になっているから致し方ない。

「これぐらいの仕事があったほうが、王様らしいですね」
「そうかニャ? ジョスリーヌさん達のほうが忙しくしてるニャー」
「そうですけど、今までを考えると、大きな進歩ですよ」

 わしの仕事を手伝ってくれているリータとメイバイは、何やらまだ仕事量が少ないと言っている。そんな事はないので、わしはそっと書斎を出て……

「どこに行くのですか……」
「そのクッションはなんニャー?」

 尻尾を掴まれて出れなかった。

「ほ、ほら? もう三時にゃ~。お昼寝の時間にゃ~」

 やはり仕事量が少ないらしく、お昼寝の時間は、この日から減らされるわしであった。もちろん猫撫で声でスリスリして、減額を要求するわしであった。


 そうして15分ほど仮眠を取ったわしは、目を擦りながら書類仕事に精を出す。

「起きてます?」
「寝てるニャー!」

 いや、うつらうつらして、机に突っ伏してしまったようだ。

「もう~。ちゃんとしてくださいよ~」
「本当ニャー。まだ困っている人がいるんだから、しっかりするニャー」
「そうはいっても、浜松で動き回った反動が出てるんにゃ~。にゃん日もお昼寝無しで働いたからにゃ~。リータ達も疲れてるにゃろ~?」
「たしかに疲れていますけど、急ぎの用件はやってしまわないといけません」
「だから頑張ってやってるにゃ~」

 わしが言い訳を続けると、メイバイの目が妖しく光る。

「どこがニャ? お昼前にも休憩して、お昼にも休憩して、さっきも休憩してたニャー」
「ちゃんと時間配分してるにゃ~」
「そう言えば、今日の案件は、あと一件だけですね……」
「にゃ~? わしは効率がいいから、サボッているように見えるだけにゃ~」

 ぶっちゃけこの程度の書類仕事、毎年やって来る会社の決算に比べたら、屁のカッパじゃ。だから時間配分して二人にも仕事を振ったから、楽勝すぎてお昼寝を三度しただけじゃ。
 ただ王様の仕事をしたくないだけであって、無能ってわけでもないんじゃ! わしは誰に言い訳してるんだか……

「ですけど……」
「無駄話してないで、さっさとやっちゃおうにゃ~」
「「ムッ……」」
「報告は終わったし、救援物資の受け取りは数日後……あとは、日ノ本の者の処置だにゃ~」

 わしが二人をとがめると「お前が言うな」と睨まれたので、話を逸らす。

「文字が読めない事には話ににゃらないし、留学生扱いにするしかにゃいか。前に猫耳族で使った制度もあるし、これに当て嵌めれば楽チンにゃ~」
「仕事はどうするのですか?」
「しばらく警備隊預かりにして、訓練にも付き合ってもらおうにゃ。宮本先生には週一で御教授してもらうから、残りは狩りに連れ出してもらうにゃ」
「え~! 私も早くマスターしたいから、もっと増やしてニャー」
「そうは言っても、宮本先生との契約があるからにゃ~。修行を邪魔するわけにもいかないんにゃ」

 リータとメイバイも侍の剣をマスターしたいようだが、どうなることやら。まぁ二人も常人より体が丈夫だから、わしと同じように、サンドバッグになれば覚えられるはずだ。
 竹刀なら痛くないはずだし、リータなら真剣でも……斬られても死なないリータの姿はちょっと怖いから、考えるのはやめとこ。

「とりあえず宮本先生は、ソウハに狩りに連れ出すように指示を出すって事で、今日の仕事は終了にゃ~。にゃっほ~!」

 わしは嬉しさのあまり万歳しながらぴょんぴょん跳ねて出口に向かうが、途中から床が無くなった。

「まだです!」

 リータとメイバイだ。わしは着地の前に両脇から抱えられてしまって、元の席に戻されてしまった。

「まだにゃ? にゃんかあったかにゃ??」
「エルフさん達ニャー。関ヶ原が終わってから、諸々やるって後回しにしてたニャー」
「代表の選別、留学生の受け入れも考えないといけません」
「にゃ……」

 完全に忘れておった! たしか、猫会議に丸投げしようとしていたのをリータ達にバレて、考えておけと言われていたんじゃった。うっかりじゃ……ま、面倒じゃし、後回しにしておこっと。

「いまは忙しいから、後日、話し合おうにゃ」

 わしは机に肘をついて指を組み、神妙な顔で決定を下すのだが、そうは問屋が卸してくれない。

「……どこがですか?」
「明日になったら、もっと仕事は減るニャ……」
「明日、さっそく取り掛からせていただきにゃす!」
「「あ~し~た~~~??」」
「いまから始めにゃす!!」

 リータとメイバイのおでこから角がニョキニョキ伸びるように見えたわしは、敬礼して残業に勤しむのであったとさ。


 ひとまず目を閉じて腕を組んで考えるのだが、ブンブン、ピシピシ聞こえて来たので目を開ける。

「ちゃんと考えてるから、邪魔しないでくれにゃ~」

 ブンブン、ピシピシ聞こえていた音の正体は、リータの棍棒とメイバイの鞭。わしが寝てると思って振り回していたようだ。当たっても痛くないが、顔が怖かったので言い訳しておいた。
 それからは手遊び。わしお手製、万年筆をくるくる回し、鼻の上に乗せてバランを取る。

「何を遊んでいるのですか……」
「にゃ!? 考える時は、いつもこれにゃ~!!」
「初めて見たニャ……」
「本当にゃ~! いまの時間で留学生の数は決まったけど、代表の選別は行ってみにゃい事には出来ないにゃ~!!」

 わしの必死の言い訳に、リータとメイバイは顔を見合わせる。

「「……猫会議は??」」
「そ、それは……次の開催が近いから、代表を決めたあとにでもにゃ……」
「「う~ん……」」

 猫会議は若干忘れていたが、近々議題を捩じ込む旨を、各代表宛に手紙を書けば仕事は終了。もう一度、「ひゃっほ~!」とドアに向かったが、リータとメイバイに捕獲されて、残業継続。
 猫の街、狩り部隊の集まる宿舎に連行されて、ソウハを探す。ちょうどバスが「キキーッ!」と止まったら、運転席からソウハが降りて来たので、王様権限で呼び出した。

 わしはリータとメイバイに脇を抱えられているから浮いているので、二人はソウハを連れて、エルフと日ノ本の者に与えた屋敷に入った。そこでムキムキ三弟子に宮本の居場所を聞いたら、庭に居るとのこと。
 なので、全員、庭に出て来るようにとムキムキ三弟子を走らせて、わし達は庭に移動する。

「宮本先生~。紹介したい人が居るにゃ~」

 刀を構えて身動きひとつしない宮本に声を掛けてみたが、ピクリとも動かない。しかし急ぎの用件なので、メイバイに棒を握らせて、本気の速度で叩いてみろと言ってみた。

 ゴンッ!

 意外や意外……メイバイの振った棒は、一瞬動いた宮本の頭に当たってしまった。

「あわわわわ」
「本気の速度とは言ったけど、力はセーブしてくれにゃ~」

 頭から血がピュ~ッと吹き出した宮本を見たメイバイはあわあわし、わしはすぐさま回復魔法。なんとか復活した宮本と座って喋る。

「まさか女子おなごにまで負けるとは……」
「そう自信を無くさないでくれにゃ。メイバイは、人の速度を凌駕し過ぎてるんにゃ。でも、先生は反応してたにゃろ?」
「反応はできたが、体はまったくついていかなかった……最強の剣豪になったと自負していたが、ここに来て、課題ばかり出て来るとは、剣の道はまだまだ険しそうだ」
「にゃはは。ちょっと楽しそうにゃ顔になったにゃ。それで、先生の仕事の話にゃんだけど……」

 とりあえずソウハを紹介し、狩りの達人だから指示に従う事を約束させる。対人戦と獣では勝手が違うし、一人の行動でチームが危険になる事はさせられないからだ。
 まぁソウハには、強い獣が居たら宮本を主軸にするように言っておいたので、上手く使ってくれるはずだ。

 そうして話し合っていると、ムキムキ三弟子が服部半荘はんちゃん達とヂーアイ達を連れて来てくれた。


 まずはムキムキ三弟子の職場を適当に決定。わしのお世話係を希望して来たから、突き放して警備隊に入れてやった。警備隊なら毎日とは言わないが、戦闘訓練をしているので、マッチョな体をいかせるだろう。
 たぶんケンフと飼い犬どうしのマウントの取り合いがあると思うけど、見るつもりも聞くつもりも無いので、好きにやってくれ。

 もう一匹の犬、服部半荘は悩んだ結果、諜報部門の先生に任命した。よくよく考えてみたら、我が国に諜報部門が無かったので、連れて帰って来て正解だったようだ。
 諜報部門には軍が関わって来るので、ウンチョウに丸投げする予定。猫の街で講習会を開きつつ、忍者修行もやってみるつもりだ。死人が出ない程度に……
 玉藻も家康も、ヤマタノオロチのせいで服部の存在を忘れていたから、行き場所も無かったみたいだ。だから玉藻達が思い出しても離れて行かないように、厚待遇で買い殺すつもりだ。

 もう一人のさらって来た「雑賀さいが孫次郎」という男も家康から忘れられていたので、猫の国に連れ帰ってしまったが、どうしたものかと悩んだ結果、工房で働いてもらう事に決定。
 鉄砲を撃つだけでなく、作っていたらしいので、手先は器用だろう。ただ、何やら元気がないので質問してみたら、国に残して来た嫁さんに会いたいようだ。
 いまは命を狙った罪もあるから奴隷紋で縛っているが、どちらかというと家康から保護しているので、今度会った時に説得して、なんとかして帰してあげると言っておいた。


 最後のエルフ組は……

「ババア達は、いつ帰るにゃ?」

 猫の街でゆっくりして行けとは言ったけど、まったく帰還の話をして来ないので、わしから問いただす。

「そうさね……もう一月ぐらい……」
「長過ぎるにゃ~!!」

 リンリーは留学生として連れて来たけど、ヂーアイと二人の男は護衛として雇っただけだ。食費はわしの持ち出しになっているので、あまり長く滞在されると、わしの懐が痛い。なので、説得して早く帰る方向に持っていく。

「そろそろエルフの里を猫の国に入れる本格的にゃ話がしたいんにゃ。ヂーアイを代表にするとして、もう一人も決めないといけないからにゃ」
「わたすがこのまま里をまとめて行くんさね……」
「にゃ? 嫌にゃの??」
「正直言うとさね。こんな年寄りでは、勉強についていけるかも不安なんさね」

 どうやらヂーアイは、学校を覗いてみたが、初めて見る英語のスペルに戸惑って頭に入って来なかったらしい。そもそも、最近、おさの代替わりも考えていたらしく、代表になるとますます引き際がわからなくなりそうなんだとか。

「ムムム……」
「いつ死ぬかわからない老骨よりも、若い世代が里を引っ張るほうがいいさね」

 言いたい事はわかるけど、これって、代表を一から選出して教育しなくてはいけないのでは? ババアに適当に任せようと思っていたのに……またわしの仕事が増える~~~!!

 ヂーアイの身を引く決断よりも、仕事が増える心配をするわしであったとさ。
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