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第十六章 日ノ本編其の二 天下分け目の関ケ原にゃ~
459 恐怖の対象にゃ~
しおりを挟む「勝者! ……猫の王~。猫の~王~~」
ボロボロで、たくさんのホッチキスのような物に拘束された巨大タヌキ家康の前に立つわしへ、終わりを告げる玉藻の勝ち名乗りが響く。
その声は観客席にも届き、西軍は総立ちでわしに賛辞を送っている。東軍はというと静かなもので、一部からはすすり泣く声が聞こえる。
そんな中、わしの元へ玉藻が近付いて来た。
「ようやったと褒めてやりたいところじゃが、些かやり過ぎじゃ。この関ヶ原の舞台が、こうもボコボコになったのは初めてじゃぞ」
「しょうがないにゃろ~。これぐらいやらにゃいと、ご老公は動きを止めてくれなかったんにゃ~」
「……家康は生きておるのか?」
「たぶんにゃ……」
途中から気功はやめていたから、たぶん……。どんだけ痛め付けても向かって来たから、いまいちわからん。おそらく、全身複雑骨折、全身打撲、内蔵も損傷。これで動いていたほうがビックリじゃ。
まぁさすがにそれで弱っていたから、土魔法【ホッチキス】で地面に縫い付けられた。体の部位ごとに、細かく【ホッチキス】で拘束したから、動くのは困難じゃろう。ただ、体を治すとすかさず壊されそうじゃからな~……
「それで、このあとどうするんじゃ?」
「薬の効果が切れてから、治療したいんにゃけど……」
「薬とは??」
「にゃ? そっか」
わしはリータ達がバーサク化した時の話をし、その後の実験も説明する。さすがにリータ達がわしを殺しに掛かったと聞いて、玉藻は驚いていた。
「まぁわしが見てるから、玉藻はこのあとの準備でもしていろにゃ」
「わかった。じゃが、昼以降にここを使うから、その事も考えておいてくれ」
「うんにゃ。これ、連絡用に持って行ってにゃ~」
とりあえず通信魔道具を投げ渡すと、玉藻は足早に観客席の方向に消えて行った。わしはというと、ここでランチ。ひとりで寂しく食べようと考えていたが、リータ達が戻って来てくれた。
なので、コリスに高級串焼きを投げながらレジャーシートを広げて、先ほどの闘いの感想を聞きつつお弁当をモグモグ食べる。
「モグモグ。そう言えば、イサベレはどこに行ったにゃ?」
「女王様に報告に行くと言ってました」
「じゃあ、お昼はそっちで食べてるのかにゃ。モグモグ」
わしの質問にリータが答えてくれて、オニヒメに餌付けしていたメイバイはわしを褒めてくれるが、気になる事もあるようだ。
「すっごい闘いだったけど、どうして本気を出さなかったニャー?」
「奥の手は必要なかったからにゃ」
「せっかくシラタマ殿の本気の姿がゆっくり見れると思ったのにニャー。残念ニャー」
「アレより、まだ上があるのか……」
メイバイが質問していると、誰かの念話が頭に響く。なのでわし達は、一斉に家康に顔を向けた。
「ご老公……盗み聞きにゃんて趣味が悪いにゃ~」
「目の前で話をしているのじゃから、仕方がなかろう」
「ま、そういう事にしといてやるにゃ。敗者をイジメるほど、わしの心は狭くないからにゃ~」
「フッ……儂も、この状態ではなんの言い逃れもできん。完敗じゃ」
「にゃはは。元気がないにゃ~。これでも食って、元気出してくれにゃ~」
わしは白い巨象フルコースを次元倉庫から取り出して、皆にも手伝ってもらい、家康の口に放り込む。でも、コリスは自分の頬袋に入れるのやめよっか?
三品減ってしまったので、コリスを「メッ!」と叱ってから、もう一度フルコースを取り出す。そしてコリスに取られた三品を除いたら残りは食べさせ、その隙に家康の口に放り込んでやった。
家康は一口目でかなり驚き、次からは口を開けて待っていたので、気に入ってくれたようだ。
「あと、これも食っておけにゃ」
最後に口に放り込んだ物は、高級薬草と巨象肉の炒め物。高級薬草をふんだんに使っているので、巨象肉と相俟って、体を内から治してくれるはずだ。
「お、おぉぉ……。内から力が湧き上がるような食べ物じゃ」
家康が元気になると、わしは暗い声を出す。
「ご老公の最後に食べた薬は、使うのはやめておけにゃ」
「なぬ? アレを知っておるのか?」
「詳しくは知らにゃいけど、似たようにゃ物なら知ってるにゃ。副作用も強いにゃろ?」
「ああ。身体中が痛い……」
「にゃはは。それはわしのせいでもあるにゃ。治してやるから、もう襲い掛かって来るにゃよ~」
「それは助かるのう。約束しよう」
家康が元のタヌキ親父に戻ったところで、コリスにも手伝うようにお願いして二人で治療する。コリスは頬袋がパンパンなので、快諾してくれた。
わしは右側から回り、コリスは左側。全身くまなく回復魔法を使う。当然、わしのほうが直すのが早いので、四分の三はわし担当。だからコリスが遅くて謝って来たけど、褒めちぎって撫で回してやった。
コリスがご満悦になったら、家康の拘束を解いて容態も聞いておく。
「どうにゃ? まだ痛いところはあるかにゃ?」
「もう大丈夫じゃ。多少節々が痛いが、明日には治っているじゃろう。本当に助かったぞ」
「にゃんだ~。それだけ回復が早いってことは、やっぱり体調不良は嘘だったんにゃ」
「う、嘘ではない……人間の寿命なんて、儚いものじゃ。わしは薬を呑んで、生き長らえているんじゃ」
「ご老公は人間じゃなくて、タヌキの化け物にゃ~」
わしのツッコミに、家康はつぶらな瞳で首を傾げるので、わしも同じ方向に首を傾げる。
「もしかして……自分の寿命が百年だと思っていたにゃ?」
「違うのか?」
「玉藻を見てみろにゃ! 秀忠を見てみろにゃ! あいつら、何百年生きてると思っているんにゃ~!!」
「あ……」
この日を境に家康は薬を絶ち、ぶいぶい言わせるらしいが、わしの知ったこっちゃない事であった。
家康を交えて和気あいあいと喋っていたら、玉藻から通信魔道具に連絡が入り、わし達は各々の陣営に戻ろうとする。すると、紋付き袴姿に戻った家康に呼び止められた。
「先ほどの試合……いや、その前の試合も、周りの者を人質に使って悪かった」
「誰も傷付いてにゃいし、もういいにゃ」
「そうか……。もしも、何か困った事があったら言ってくれ。徳川、全侍に命じて協力してやろう」
「にゃはは。その時は、お力添え、お願いするにゃ~」
こうしてわしと家康は笑顔で別れ、各々の陣営に戻るのだが、オクタゴンに帰ると笑顔でない王族達が、わしを見てコソコソと喋っていた。
なのでわしは、手をわきゅわきゅしているさっちゃんの元へ寄ってみた。
「ただいまにゃ~」
「モフモフ~」
おそらくさっちゃんは、おかえりと言いながらわしに抱きついて撫でているので、そのまま質問する。
「みんにゃずっとコソコソ話しているけど、にゃんかあったにゃ?」
「あ~……そりゃ、あんな闘い見せられたら、みんな怖がるよ~」
どうやら王族達は、白くて大きな獣が闘っている姿すら初めてなのに、それを簡単に甚振り続けた小さな猫に怯えているようだ。
オクタゴンにまで大きな音と衝撃波が届いたらしく、悲鳴をあげていた婦女子も居たとのこと。各国の王に至っては、日ノ本と猫の国にはとんでもない化け物が居ると受け取って、どう対応していいかも悩んでいるようだ。
「ふ~ん……ま、これでわしの国に喧嘩を売る国もいにゃくなるだろうし、面倒事が減ってちょうどよかったにゃ~」
「そうでもないよ。ちょっと耳貸して……」
さっちゃんはわしの頭の上でコソコソと喋る。
「シラタマちゃんを、魔王とか呼んでる人がいるの。それで、各国の王様に軍事協力を仰いでたり……お母様も、協力するように言われてたわ。もちろん保留って、言ってたけどね」
「そこはきっぱり断ってくれにゃ~~~」
このままでは、わしは召喚された勇者に討伐されかねないので、愛想よくスリスリ。王族婦女子の足や頬に擦り寄って、猫撫で声を出しておいた。
これで王族婦女子は陥落。モフモフ言っていたから、魔王討伐を考える王様を止めてくれるはずだ。しかし、二人の魔王がわしを睨んでいるので、超怖い。
ロビー活動ですがな~。こうでもしないと、勇者が暗殺にやって来るんですがな~。だから睨まないでくださ~い!
とりあえず、二人の魔王にもスリスリ。
「……魔王?」
「誰が魔王ニャ?」
かわいくて愛してやまない妻にスリスリ。心の声を読んでくれて怒りは減ったが、リータとメイバイに死ぬほどモフられるわしであったとさ。
そうしてゴロゴロ言いながら長い休憩が終わると、関ヶ原のプログラムに書いてある最後の対決が始まり、オクタゴンから悲鳴があがる。
「「「「「ギャァァ~~~!!」」」」」
野太い男の悲鳴、黄色くない女の悲鳴。その声はしばらく続き、わしは耳を押さえる。
うるさいのう。みんな騒ぎ過ぎじゃ。まぁ初めて見たら、こんなものなのかな? しかし、よくもまぁ、あんなに上手く変化できるもんじゃ。
最後の対決は、百鬼夜行。妖怪やお化けに扮した、東軍、西軍が分かれて入場し、会場を練り歩く。
玉藻は人間将棋が最後の対決と言っていたからおかしいなと思っていたら、百鬼夜行にも勝敗はあるのだが、最後は仲良く引き分けにするのが習わしとのこと。だから対決に入れていなかったのではと、ムキムキ三弟子が教えてくれた。
会場を練り歩くは、ガシャドクロ、ヌエ、からかさ小僧にぬりかべ。天狗、いったんもめん、カッパにおいわさん。古今東西、ありとあらゆる妖怪とお化けが、オクタゴンの前を通る度に悲鳴があがる。
ほとんどはその場で固まり、何人かは一目散に逃げ出したようだ。
百鬼夜行の行進が終わると中央で、はないちもんめのように前進と後退を両軍は繰り返し、王族達はやっと落ち着いて来た。
「うぅぅ。なんであんな怖いのが、この世に居るの~」
さっちゃんはわしに抱きついて離れない。リータとメイバイもわしに抱きつきたかったようだが、コリスで我慢しているようだ。
「さあにゃ~?」
「シラタマちゃんは怖くないの? あんなにおっきな骸骨が動いているのよ?」
「だって偽物にゃもん。それに、もっと大きくて怖い生き物にゃんて、いっぱい居るにゃ~」
「でも~~~」
「しょうがないにゃ~……三弟子! 説明してやれにゃ~!!」
「「「わん!」」」
わしが説明すると、変な勘繰りをされるからやりたくない。なので、犬となったマッチョなキツネとタヌキと人間に丸投げ。王族達は、念話の入った魔道具を繋いで説明を聞いている。
ふ~ん。でっかいガシャドクロとかは、複数人で変化しておるのか。下に居る奴等は大変そうじゃな。あと、浮いてる奴等は、竹馬に乗っておるのか……竹馬まで変化に組み込んで見えなくしているとは、器用な奴等じゃな。
ムキムキ三弟子の説明を聞いて、王族の約半数は納得して落ち着きを取り戻し、残りの半数が怖がる様を見て笑っている。
もちろんわしはずっと笑い、そのせいでさっちゃんとケンカ。それも笑われ、オクタゴンも日ノ本の観客と同じく、笑顔が溢れる場所へと変わって行った……
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