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第十六章 日ノ本編其の二 天下分け目の関ケ原にゃ~
458 家康の悪足掻きにゃ~
しおりを挟む家康が元の姿に戻ったのだが、5メートルの白タヌキのまま四つ足になっただけなので代わり映えしない。なので、その事を指摘したら怒らせてしまった。
家康の攻撃は、まずは突撃。先ほどよりは速いが、わしのスピードには敵わない。ひょいっと避けてやったがそこを狙われて、大きな前脚でぶっ飛ばされてしまった。
わしは刀でのガードは間に合ったが、勢いよく飛ばされたので、【突風】を自分に当てて舞台に残る。
ちょっとナメ過ぎてたか……あの姿でも、侍攻撃は顕在。四本の脚と五本の尻尾があるから、差し詰め九刀流ってところじゃな。
わしが舞台端で体勢を整えていると、家康は再び突撃。頭突きで押し出そうとしているのか、頭を前に突っ込んで来たので、わしも突撃。
二人の距離は一瞬で詰まり、わしの気功を乗せたジャンピング峰打ち。頭に当たり掛けたが、その前に前脚が飛んで来た。
なので、すかさず下向きの【突風】で着地。それと同時に風を横向けに変え、スライディングで家康の下を潜ろうとする。
しかし、家康はそうはさせまいと、腹での押し潰し。柔らかそうな腹が迫るので、わしは力業。横になった姿勢のまま、気功峰打ち。
本来ならば、体重差が十倍以上あるから効かないだろうが、相手はわしだ。少し浮き上がったので、楽々後ろに回り込んだ。
おっかしいな~……気功が入ったはずなのに、悲鳴すらあげん。柔らかい所を叩いたから、上手く力が伝わらなかったのか?
わしは悩むが、そんな場合ではない。みずから死地に飛び込んだのだ、次々と振り回される五本の尻尾がわしを襲う。
家康はノールックなのにわしを正確に捉え、凄いスピードと意識外から攻撃が来るので捌き切れない。離れようとしてもバックで距離を詰めるので、わしはついに尻尾を喰らってしまった。
一発喰らうと体は浮き、反対側で待ち構えていた尻尾で打ち返す。その先も打ち返す場所は計算されているからか、尻尾が待ち構えていて反対に、そして反対に……
わしは五本の尻尾の檻に閉じ込められ、脱出できずにピンポールの玉のように弾かれ続ける。
よっはっとっ! 吹っ飛ばされた方向に必ず尻尾があるからガードは間に合うけど、マズったな~。ご老公のほうが侍攻撃の精度がいいから抜け出せない。
もう、刀の出番じゃないな。手数が多いから、一本じゃ足りんからのう。
わしは刀を鞘ごと次元倉庫にしまうと、両手に気功を乗せて殴りまくる。尻尾を殴って逆に飛ぶと、猫の体幹を使って体を捻り、逆側の尻尾にネコパンチ。そして逆に飛んだらネコパンチ。
尻尾にカウンターを喰らわせまくれば、家康にダメージが溜まったのか、ネコパンチをしたあとに次の攻撃は来ず、わしは尻尾の檻から弾き出されてしまった。
「ポ~~~ン!!」
突如響く、家康の咆哮。口に五芒星が浮かび、そこからエネルギー波が放たれる。
あの状態でまだ考える余裕があったのか!?
わしが弾かれた場所は、後方に人間将棋に出場した西軍の者が待機する場所。角度的にわしが避ければ巻き込まれてしまう。いや、エネルギー波の規模から見て、わしが喰らったとしても皆は消し飛ばされてしまうだろう。
「【光盾】にゃ~!」
わし一人ならば【吸収魔法・球】で魔力を美味しくいただくのだが、後ろに守るべき者が居る。複数の【光盾】を広範囲に展開して、エネルギー波を遮った。
「フンッ……よう守った。褒めてつかわす」
エネルギー波が完全に遮断されると、家康は強がりなのか、わしに褒め言葉を送る。だが、そんな言葉、いまのわしには聞こえない。
「ふざけるにゃよ……にゃん人犠牲にしようとしたにゃ!!」
「これも戦略じゃ。それに、当たりそうになったら曲げていたわい」
「その呪術は直進しかしないにゃ……そんにゃ制御も出来にゃいもんを使うにゃ!!」
「何を戯けた事を……儂が出来ると言ったら出来るんじゃ。お主こそ、儂をナメおるのか?」
「ニャメいるのはそっちにゃ……。もういいにゃ! こっからは手加減抜きにゃ!!」
「フッ……ならば、その力とやらを見せてみよ」
わしの言葉を信じない家康は鼻で笑うが、次の瞬間、地べたを舐める事で思い知らされる。
「がはっ!?」
わしのネコパンチが脳天に落とされたからだ。
続いて横から顔面にネコパンチ。家康は巨体を浮かせて吹っ飛び、必死に床に爪を立てて舞台に残った。
「な、なんだこの力……この速さは……ぐはっ!」
家康は、想像を超えた攻撃を受けて混乱中。そんな中、わしのキャットキックが背中に突き刺さり、次の瞬間には尻尾を掴まれて回転。からの、投げっぱなし。
またしても、家康は舞台ギリギリにて耐える。
「ま、待て!!」
ゆっくり近付くわしに、家康は前脚を前にして止めるが、わしは聞く耳持たず。懐に潜り込んでキャットアッパー。浮いたところを後ろに回り込んでネコパンチ。舞台中央に叩き付けてやった。
ここまで無様に家康が地に転がるのは簡単だ。わしが力で上回り、速さで上回っていたのに、肉体強化魔法を使ったからだ。
その速度があれば、侍の剣など役に立たない。意思を捉えた瞬間には殴られているのだからだ。その侍の剣を使える家康には、まさに雷の如く見えているかもしれない。
舞台中央で仰向けに転がっている家康に、わしはゆっくりと近付いて声を掛ける。
「もうおしまいにゃ。これから先は、もっと痛い目にあうにゃ。さっさと降参しろにゃ!!」
わしの怒声に気付いた家康は、素早く立ち直り、悔しそうな顔を見せる。
「こんな醜態を晒したのはいつ以来か……三方ヶ原の戦い以来かもしれん……ここまでこけにされて、引き下がれるわけがあるまい」
「じゃあ、さらにゃる醜態を晒させてやるにゃ」
「出来ればいいがな……」
家康は強がりを言った直後、どこから取り出したのかわからない丸めた葉っぱを口の中に入れた。
「少し強い薬じゃが、お主に勝つには仕方ないのう」
「……にゃにを食ったにゃ?」
「まぁ見ておれ」
わしの質問に、家康はそれだけ言うので見ている必要もないかと考え、気功を乗せたネコパンチ。だが、そこには家康の姿は無かった。
空振った……さっきより速くなっておる。肉体強化か?
「ぐるるぅぅ!」
わしが家康を目で追い、脳内で速度調整をしていると、家康は唸りながら突撃。両前脚を素早く連打で落として来た。
おそらく、家康のスピードアップは、三倍。まだわしには余裕があるのでかわそうとするが、侍の剣も同じくらい精度が上がっていたので、跳んだ先で前脚に叩き落とされてしまった。
ぐっ……パワーも三倍か。床を硬めてもヒビが入ってしまったわい……わ! しまった。
わしが家康の押し潰しを耐えていると、足元に土がまとわりついて拘束されてしまう。今まで土魔法なんて見せていなかった事もあり、完全にわしのミスだ。
まぁこの程度の強度なら、わしなら簡単に脱出できる。それも一瞬だ。
しかしその一瞬があれば、家康の準備が整う。後ろを向き、五本の尻尾が高々と空を向く。その刹那、わしの頭上に一本の尻尾があり、次の瞬間には凄い衝撃音が辺りに鳴り響いた。
つ~……さっきと違って、かったい尻尾じゃな。手が痺れた。何か魔法を使っておるのか?
もちろん肉球ガードは間に合ったのだが、その硬さにわしは驚く。しかし、驚いている間もなく次々と太い尻尾が振って来るので、わしも対抗する。
「ホ~……ニャニャニャニャニャニャ~!!」
キャット百裂拳だ。両肉球に気功も乗せているので、常人ならば、本当に内部から破裂するかもしれない。だが、家康は効いているのか効いていないのか、さっぱりわからない。
これは、家康の使っている呪術の効果が大きい。使っている呪術は【ぶんぶく茶釜】。全身を鋼鉄に変える呪術で、使用中は動けなくなるらしいが、家康は五本の尻尾の先にだけ使う事が出来るようだ。
見た目に変化が無い事で普通の尻尾に見えるから、気功の性質を変えないといけない事に、この時のわしは気付いていなかった。
その怒号のラッシュは、どちらに軍配が上がるかと言えば、当然わしじゃ!
家康の五本の尻尾打ち下ろしよりも手数が勝るわしのキャット百裂拳で、一本の尻尾に三回以上のネコパンチを入れているので、しだいに家康の体が浮いて来た。
ここで家康は後ろ蹴り。それもビビビッと感じ取ったわしは、正肉球突きを合わせてぶっ飛ばしてやった。
家康は吹っ飛ぶと体を捻ってわしに向き直り、唸りながら睨んでいる。
ふう~……なかなか手強い。しかし、肉体強化の魔法にしては、元からの上げ幅的におかしいようにも思えるんじゃよな~。
もしかして、バーサクしてる? なんかあの目は、巨象の血で作ったジャガイモを食べたリータ達の目に似てるし……そう言えば、ご老公は何か食っておったな。薬にも精通していそうじゃし、これが答えかもしれん。
無理して身体能力を引き上げやがったんじゃな。じゃが、このままではマズイ。わし以外の者に目が行ってしまうと、誰彼かまわず襲いそうじゃ。
これは急がんといかんのう。
わしは肉体強化魔法を掛け直すと、鎧兜を引きちぎって、ポンポンとステップを踏む。そして、消える……
次の瞬間には、家康の真横。家康は攻撃の意思を感じ取って横を向こうとしたが、その時にはネコパンチが腹に減り込んでいた。
「がはっ!?」
気功を乗せた、わしの本気のネコパンチだ。いくら五倍も大きい体でも、ダメージは半端なく、その勢いで場外まで吹っ飛んだ。
そこは、人間将棋をしていた場所。東軍は全て退場していたので、大きなスペースが空いている。
そこで、さらに追い討ち。一足飛びで家康に追い付いたわしは、背中に強烈なネコパンチ。これで地面に減り込み、家康の場外負けは決定した。
「リータ! メイバイ! みんにゃを避難させてくれにゃ~!!」
「はい!」
「はいニャー!」
勝負は付いたが、それだけでは済まないと感じたわしの指示に、リータとメイバイは素早く対応。コリスやオニヒメも加え、近くに居る者は強制的に引っ張られ、強引に連れ去られる。
「さ~て……わしの勝ちにゃけど、まだやるにゃ?」
「ぐぎゃぁぁ~~~!!」
予想通り、正気を無くしている家康は、起き上がっても人間の言葉も念話も発しない。それを見た東軍の人間将棋参加者は散り散りに逃げ、玉藻も避難を呼び掛けている。
「はぁ~……死ぬにゃよ~!!」
わしは大きなため息をつくと、家康を一方的に殴り続けるのであった。
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