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第十六章 日ノ本編其の二 天下分け目の関ケ原にゃ~

452 秀忠と真剣勝負にゃ~

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「てか、この刀を見てくれにゃ~」

 わしの事を「親バカ親バカ」とののしる玉藻に、西軍ベンチのそばに落ちていた刀を拾って手渡す。

「これは……真剣じゃないか!?」
「わしに文句言う前に、向こうに言えにゃ~。いや、真剣をそのまま使わせた玉藻が悪いんにゃよ? それでコリスが大怪我したんだからにゃ」
「ぜんぜん怪我などしておらんかったと思うんじゃが……」

 コリスの怪我は、頑丈な体のおかげでかすり傷程度。胸が陥没した中堅タヌキのほうが、どう見ても重傷だったので玉藻は納得いっていない。しかし、不手際もあったので、その事には触れないようだ。

「たしかにわらわにも落ち度があった。しかし黒い真剣など、初めて見たんじゃ」
「そうにゃの?」
「ああ。徳川で使われている刀は、真剣は鉄色、模擬刀は黒色じゃ。関ヶ原では、いつも黒い模擬刀で出場しておったから、見落としてしまったな」

 はて? 玉藻が知らないところをみると、京では黒魔鉱の刀が存在しないのか。そこに付け込んで、徳川は真剣と模擬刀をすり替えたのかも? ……まったく、用意周到じゃな。

「玉藻は黒魔鉱って、知ってるかにゃ?」
「なんじゃそれは?」
「手に持っている物にゃ。ちょっと貸してみるにゃ」

 コリスの体でわし達を隠してもらうと、わしは玉藻から黒魔鉱の刀を受け取って魔力を流す。そして、玉藻に手の平を出してもらって、そこを軽く切る。

「つっ……なんじゃと!?」

 玉藻は刀程度で傷がつかないほどの化け物なので、血が出た事に驚く。

「刀傷にゃんて初めてだったかにゃ? 女性に対して酷い事してごめんにゃ~」

 わしは謝りながら、玉藻の手を回復魔法で治す。

「いや……こうでもしてもらわないと、この刀についてわからなかった」
「うちでは一般的にゃ武器だけど、白い獣に対しては、黒魔鉱か白魔鉱の武器じゃないと倒せないんにゃ」
「白魔鉱……そう言えば、そちの刀は白かったな。そちらも切れ味がいいのか?」
「黒魔鉱より倍以上は切れるにゃ。まぁその話はまた今度してあげるにゃ。それよりも、黒魔鉱を持ち出されると、コリスに手加減して闘わせる事は出来ないにゃ。ましては、次は将軍にゃ。殺し合いになっちゃうにゃ~」
「そうか……厳重注意して来る!」

 玉藻が血相変えて走り出そうとするので、わしは尻尾を掴んでグンッとする。

「何するんじゃ!」
「まぁまぁ。コリスではと言ったにゃろ? ここからは、わしが相手するにゃ」
「しかし……」
「コリスはやりすぎてたし、さっきの試合はうちの反則負けにしておけにゃ。明らかに殺し掛けていたしにゃ。それで観客も納得するにゃろ。あとは任せろにゃ~」
「シラタマがそれでいいなら……」

 玉藻が渋々引き下がると、わしはコリスを褒めちぎり、超高級串焼きを支給する。兄弟達も食べたそうに猫撫で声を出していたので、一本ずつあげた。
 そうしていると玉藻が勝敗を告げて、東西どちらの陣営からもブーイングがあがっていた。東軍は反則と怒り、西軍は勝っているのに負けとはどういう事かと怒る。その事態には、家康が一喝して東軍を黙らせ、西軍は玉藻が黙らせていた。


 静まり返る会場に、わしと秀忠は呼ばれると同時に舞台に上がる。その姿を見て、チラホラ歓声が戻り、徐々に大きくなっていく。

 わしと秀忠は、舞台中央に立つと語り合う。

「うちの反則負けにゃんだから、中堅の代わりを出していいんにゃよ?」
「どう見ても、うちの負けだ。それを勝ちとされたほうが、武士の誇りに傷が付く。やってくれたな……」
「にゃはは。コリスを怪我させた些細にゃ嫌がらせにゃ。嫌がらせついでに、わしはこの模擬刀を使わせてもらうからにゃ」
「なっ……」

 わしが二本持っていた模擬刀の内の一本を投げ捨て、先ほど拾った黒魔鉱の刀を握ると、返してもらえると思っていただろう秀忠の顔色が変わる。

「ダメにゃの?」
「それは徳川の模擬刀だから、返してもらおう」
「え~! これにゃら、確実に模擬刀だとわかってもらえると思ったのににゃ~。普通の模擬刀だと、真剣と間違えそうで怖いにゃ~」
「くっ……」

 わしのわざとらしい言い分を理解した秀忠は、名案が閃いたようだ。

「真剣?? その刀は! そういう事か……どうやら模擬刀の中に真剣がまざっていたようだ。すまなかったな」
「もう遅いにゃ~。バレバレにゃんだから、言い訳するほうが見苦しいにゃ~」
「事実なのだから……」
「だから、わしは謝罪にゃんて求めてにゃ。規則をどうするか話し合おうにゃ」
「規則?」
「真剣でやるか、模擬刀でやるかにゃ……わしはどっちでもいいにゃ~」
「ふざけた事を……ならば真剣でやってやろうじゃないか! 二度と母国を踏めなくしてやる」
「じゃ、そゆことで。ほいにゃ~」

 ここでわしは、秀忠に黒い刀を投げ渡し、開始線に向かう。秀忠は刀を受け取ると一度控え席に戻り、黒魔鉱を使っていると思われる大小二本の刀を差して舞台に上がる。
 その間、わしも【白猫刀】を腰に差していたら、玉藻に「本当にいいのか?」と聞かれたので、「手加減する」と答えておいた。すると玉藻は、秀忠にも確認を取って、観客にも真剣で立ち会うと説明していた。


 準備が整えば、玉藻の「はっけよい」。わしと秀忠は同時に刀を抜くが、秀忠は動きやすさを優先して鞘を投げ捨てた。

「将軍、敗れたりにゃ!」

 もちろんそんな巌流島みたいな事をされたからには、わしはノリノリでツッコム。

「フッ……その話は創作だ。実際には、お互い鞘を、最初から弟子に預けたのだ」
「そうにゃの??」

 わしは驚いて玉藻を見る。

「妾は立ち会ったから、事実じゃと知っておる。作者が面白くしようとして書いたのじゃ」
「そうにゃの!?」
「隙だらけだぞ!!」

 わしが巌流島について驚きまくっていると、開始は宣言されていたので、秀忠は二刀流で斬り付ける。物凄い剣速ではあったが、これまでの侍と比べては、だ。
 わしはひょいっと避けて、体勢を整える。すると秀忠は、何かを呟いたかと思ったら、【風の刃】を五つ飛ばして来た。わしは避ける事もせずに、刀に魔力をまとって【風の刃】を瞬く間に斬り裂く。
 その時間を使った秀忠は、二刀流で十字斬り……は、不発。わしは出だしをビビビッと捉えて、秀忠が刀を振る前に、顔の前で【白猫刀】を止めてやった。

「うっ……」
「それで全力にゃの? これじゃあ宮本先生のほうが、幾分やりにくかったにゃ~」
「そんなわけないだろう!!」

 秀忠は、わしの刀を右手の刀で弾くと同時に左手で胴斬り。もちろん出だしの時点で大きく離れ、【鎌鼬】を放ってやった。
 これで秀忠がどう動くか見ていると、【風の刃】を三発放ってようやく相殺。だけでなく、わしの足元から土の槍が飛び出す。
 そんな攻撃、慣れっこなわしは一気に前に出て、秀忠のカウンターも出だしで潰して寸止め。また、秀忠に刀を振らせずに、【白猫刀】を顔の前で止めてやる。

「もう降参したらどうにゃ?」
「くっそ~!!」

 わしの言葉は聞く耳持たず。目の前の刀を弾くと後ろに飛びながら【風の刃】。それと同時に、足元から複数の【土の槍】を放っての複合攻撃。
 わしはあえて、【風玉】で【風の刃】を相殺し、【土の槍】は刀で斬り裂いて脱出。その先に回り込んだ秀忠の二刀流を受ける。
 そこから何かあるのかと思いながら刀の峰で連続斬りを受けてやるのだが、これといって面白味に欠ける。
 なので、刀に切断気功を乗せ、十字斬りの出だしに合わせて、二本の黒い刀の根本から斬り落としてやった。

 それと気付かず秀忠は、両手をばってんに振り切り、ニヤリと笑った。

「にゃにがそんにゃにおかしいんにゃ?」
「え……刀が……無い……」
「わしが斬ってやったんにゃ」
「嘘だろ……黒刀だぞ……」
「だからにゃに? もう面白くにゃいからご老公と代わってくれにゃ~」
「ま……まだだ!」
「にゃ?」

 秀忠との距離は、刀を振り切った瞬間で止まって間近だった事と、まさかタックルをしてくるとは思っていなかったので、スピードと相俟あいまって、わしは避けられない。
 ただし、わしの力は秀忠の力を凌駕しているので、踏ん張って倒れる事はなかった。

「そんにゃに近付いてどうするにゃ? 刺すにゃよ?」
「刺せ! このまま無傷で負けるよりマシだ!!」

 秀忠がそんな事を言うので、わしは玉藻に視線を送って判定を委ねる。

 そのジェスチャーはなに? わしに首を切れって事か? 出来るわけないじゃろ!!

 玉藻に意見を聞いた自分がバカだったと思った瞬間、西軍ベンチに兄弟が居ない事に気付いた。なので、わしは秀忠に刀を突き刺す事はせずに、好きにさせてあげる。

 その時間は、数十秒、一分と過ぎ、観客からも秀忠が何をしているのかとヤジが飛んで来ている。玉藻も、何度もわしに「さっさとトドメを刺せ」とか、秀忠に「さっさと負けを認めろ」とか言っている。
 そうして三分ほど経ったらわしの待ち人がやって来たので、秀忠に声を掛けてあげる。

「いつまで待っても、弾丸にゃんて飛んで来ないにゃよ?」
「……なに??」
「将軍の切り札は鉄砲にゃろ? ちょっと前にわしが撃たれて、撃った奴をさらったのはご老公から聞いてるはずにゃ~」
「ま、まさか……」

 ようやく秀忠はわしを離してくれたので、西軍ベンチを指差す。秀忠が振り返った先には、エリザベスとルシウスが毛繕けづくろいしている姿。それと、その前にライフルが転がっていた。

「な、なんでそんな所に……」

 驚いて膝を突く秀忠……


 もちろんこの事態は、わしの指示じゃ!


 試合中、ライフル狙撃の可能性を予期していたわしは、保険で兄弟達を連れて来ていた。案の定、試合中に嫌な気配を感じたエリザベスは、ルシウスを連れて駆け出した。
 試合中であった事と、二人がわしお手製の肉体強化魔道具を使った事で颯爽さっそうと駆け抜け、誰にも見つかる事なく五重塔に到着。さすがは猫とあって軽々と屋根に登り、スナイパーの後ろから近付いて、ダブルネコパンチ。
 その一撃でスナイパーは気絶。エリザベスはルシウスに命令してライフルをくわえさせ、西軍ベンチまで戻って来たのであった。


 膝を突く秀忠に、わしは先ほどの答えを述べる。

「簡単にゃ事にゃ。徳川の策にゃんて、わしには通じないって事にゃ。それで……まだ策があるにゃら、どうぞ使ってくれにゃ~」
「くそ~~~!!」
「勝者! 猫の王~。猫の~王~」
「「「「「わああああ~!!」」」」」

 秀忠が悔しそうに舞台を殴ったところで玉藻の勝ち名乗りが響き、歓声が沸き上がるのであった。

 てか、玉藻まで、なんで「猫の王」って、四股名で呼ぶんじゃ! やっぱり馬鹿にしておるのか? そうじゃろ??

 試合に勝っても納得いかないわしは、玉藻に詰め寄り「にゃ~にゃ~」文句を言いまくるのであったとさ。
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