上 下
457 / 755
第十六章 日ノ本編其の二 天下分け目の関ケ原にゃ~

450 刺客その二にゃ~

しおりを挟む

 玉藻の事をババアだと思っていると疑われたわしとちびっこ天皇は、言い訳したが、しばらく玉藻にガミガミ言われてぐったり。それでも終わりが見えなかったので、次の準備はどうなったのかと聞いて、玉藻の怒りを逸らす。

「将棋か……シラタマは得意なのか?」
たしなむ程度にゃ」
「それじゃあ無理じゃな~。じゃがな~……」
「どうかしたにゃ?」
「実は……」

 どうやら囲碁の試合は、必ず勝てると玉藻は思っていたようだ。それが負けたから疑問に思って出場者に問うたところ、徳川に金を掴まされ、家族や親類を殺すと脅されていたとのこと。
 そんな者を、どうやって口を割らしたのか聞いてみたら、目を逸らされた。

 たぶん、脅したと思う。ちびっこが震えているところを見ると、脅しだけで済まなかった気がする……

 とりあえず情報が手に入った玉藻は、次の将棋の出場者にも、徳川に同じ事をされていないか問うたところ、口を割らなかったらしい。

 試合で力を発揮できないと本末転倒だから、拷問が使えなかったらしいが、やっぱり囲碁の名人に拷問したじゃろ? ちびっこに、それを見せたんじゃろ?

 わしの質問には答えてくれないが、その徳川の懐柔策があるから、出場者を変えようかと迷っているようだ。しかし疑いだけで日ノ本最強の将棋名人を外すのも、もったいないらしい。

「ふ~ん……ところで、いまの勝敗はどうなってるにゃ? 点差はかなりあるにゃろ?」
「先は行ってるが、最終戦でひっくり返る程度じゃ」
「にゃ? その最終戦は、点数が高いにゃ??」
「ああ。五点ある」

 おお~い? なんちゅう点数設定しておるんじゃ。わしの頑張りが無駄になるじゃろうが……てか、それなら今までの闘い、いらなくね?

「ま、それにゃら、将棋は落としてもいいにゃろ。証拠だけ集めて、徳川に貸しでも作っておけにゃ」
「なるほど……それはそれでありか……」

 ひとまず玉藻は証拠集めをすると言って話を打ち切り、その次の試合の話を詰める。わしも様々な案を食事をモグモグしながら出していると、口に物を入れながら喋るなとちびっこ天皇に叱られた。

 それが王様のする作法かじゃと? わしは暴君だからいいんじゃ。子供に作法を教わるなんて、王様失格じゃと? 猫だから失格でかまわないにゃ~。もうないのか?

 暖簾に腕押し。ずっとモグモグしながら言い訳を続けたら、ちびっこ天皇は涙目。わしは勝利を確信したが、玉藻がリータ達にチクると言うので、めっちゃ謝った。だって怒られたくないんじゃもん。

 そうして食事も話し合いも終われば、玉藻とちびっこ天皇はリムジンに揺られて帰って行き、宿場町見学に向かう者もオクタゴンから出て行った。
 わしはというと、オクタゴン警備を任されているのでオニヒメと残った。いちおうオニヒメにも遊んで来るかと聞いたのだが、わしを撫でる事にご執心のようなので離れなかった。
 なので、お昼寝継続。またイサベレとオニヒメに挟まれて「グースカ」して小一時間が経った頃、それは起こる。

「つっ!? 痛いにゃ~!!」

 手首に激痛が走り、わし何事かと飛び起きた。

「やっと起きた」

 わしに激痛を引き起こした犯人はイサベレ。何度も殴ってわしを起こそうとしたらしいが、まったく起きなくて、白魔鉱のレイピアに気功を乗せて腕を切ったっぽい。

 緊急事態だったから仕方なかったと言ってたけど、酷くね? 動脈が切れていたら吹き出しておったぞ?

「もうちょっと優しく起こしてくれにゃ~。血が出たにゃ~」
「それどころじゃない。すっごく嫌な感じがする」

 また嫌な感じか……忍者でも忍び込んだか? いや、オニヒメが対面の五重塔を睨んでおる。イサベレもか?

 わしはわざと五重塔から視線を外し、イサベレに質問する。

「あそこに誰か居るのかにゃ? あ、二人もあまり視線を送るにゃよ」
「たぶん……遠いから、人は見えないけど……」
「どうせ狙いはわしにゃろ。ちょっと離れてみるにゃ~」

 わしはオクタゴン観覧場を横切り、一番端まで移動して演技をする。着流しの下腹部をごそごそといじり、立ち小便でもするかの動作をしながら、探知魔法を張り巡らせる。

 さて、徳川は何をして来るんじゃろう? 距離があるから、遠距離攻撃魔法かな? てか、こんな演技するんじゃなかった。本当におしっこしたくなって来た……何をするかわからんが、早くやってくれ~~~!!

 わしが尿意を我慢していると会場が騒がしくなり、ついに探知魔法に何かが引っ掛かる。その何かは、小さいが凄い速度で飛び、何枚も張り巡らせた探知魔法を通り過ぎ、わしの頭を正確にとらえた。
 もちろんわしも、正確な場所と着弾時間を捉えていたので、その小さな物を横目に入れたら素早くキャッチ。

「あつっ!? にゃにこれ??」

 キャッチしたものの、熱さに驚いて床に落とす。しかし、演技中だったので、出来るだけ自然に振る舞いながら次元倉庫に仕舞って、元の場所に戻る。
 その道中で皿とコーヒーカップを手に持つと、クッキーをポリポリしながら、先ほどの物を次元倉庫から取り出して、皿の上に置く。

 鉄の塊……まさか鉄砲か?? 平賀家でも作っていない技術が、何故、こんな所にあるんじゃ? しかもこの鉄……黒魔鉱かも? これなら、わしが当たっても痛いかもしれん。
 しかし徳川は、マズイ技術を持っておるな……あとで玉藻に確認を取らないと。

 わしは考え事をしながら歩き、元に居た場所に戻ると、イサベレとオニヒメを交えて対策会議。影武者ぬいぐるみと通信魔道具を残して、わしは消えるように移動する。
 これでスナイパーは、影武者から照準を外せないだろうから、わしはその間にトイレに駆け込む。我慢していたから当然だ。
 とりあえず危機的状況は脱したので、オクタゴン隠し通路から外に出る。正確には、壁に土魔法で穴を開けたから、通路でもなんでもないけど……


 オクタゴンから出ると、宿場町側にダッシュで移動。隠密活動中だから宿場町には入れないので、東側に回り込む。
 そこには線路と駅があったので、少なからず人が立っていた。なので、見えないように一瞬で駆け抜け、徳川陣営近くまで走ると、警戒しながら大ジャンプ。
 少々怖いが叫ばないように口を押さえ、【突風】を操作して、音もなく五重塔の屋根に着地。そこでは、忍者っぽい服装の男が屋根に胸をつけて、棒のような物を構えてオクタゴンを見ていた。

 男に見付かりたくないわしは、下の屋根に降りて身を隠し、通信魔道具をイサベレに繋いでコソコソと喋る。

「嫌にゃ感じはどうなったにゃ? どうぞにゃ」
『強くなって来てる』
「じゃあ、ぬいぐるみに穴が開いたら教えてくれにゃ。どうぞにゃ」
『わかった……でも、「どうぞにゃ」ってなに?』

 隠密活動中だから、なんとなくかっこつけて、無線でやり取りしてる風で喋っていたのだが、元ネタを知らないイサベレにはわからなかったようだ。
 なので、たいした意味はないと説明しながら上の屋根に顔を出して見ていると、イサベレは「何か来そう」と口走る。その瞬間、会場が沸き上がった声と、「パーン」と乾いた音が鳴り響いた。

『あ……本当に穴が開いた』
「わかったにゃ。行動に移すにゃ~」

 これで、男は白猫ぬいぐるみ暗殺事件の現行犯。素早く男の後ろに移動して、ガッツポーズをしてるところに声を掛ける。

「にゃあにゃあ?」
「ん? ……んん~??」

 男はいきなり声を掛けられて振り向いたが、わしの顔を見た瞬間、望遠鏡のような物を覗いたかと思ったら、またわしに視線を戻した。

「な、何故ここに……」
「まぁ気になると思うけど、眠ってくれにゃ~」
「まっ、うっ……」

 何か喋ろうとした男はわしに口を押さえられ、ネコチョップで気絶。それから、男が握っていた物を手に持つ。

 やはり銃じゃ……しかも、火縄銃ではなく、スコープ付きのライフルじゃ。徳川はこんな技術を隠しておったのか。
 どうりで、玉藻に宣言してまでわしを暗殺すると言えたもんじゃ。これなら、普通の王族では、気付かれない内に暗殺されておった。銃を知らなければな。
 さてと、こいつもお持ち帰りするかのう。


 わしはライフルを次元倉庫にしまうと、男を担いで空を飛ぶ。今回も恐怖で声を出さないように口を塞ぎ、行きと同じ道をダッシュしたら、オクタゴン屋上に飛び乗る。
 そのせいで巡回していたヂーアイを驚かせてしまった。わしもその顔を見て驚いたけど……

 だって、梅干しみたいな顔が、つるんつるんになったんじゃもん。

 笑いをこらえながら謝罪すると、観覧場に戻ってイサベレとオニヒメの前に男をドサリと降ろす。

「嫌にゃ感じはどうなったにゃ?」
「ん。もう消えた」
「じゃあ、お昼寝に戻るにゃ~」
「その前に説明して。どうしてぬいぐるみに穴が開いたの?」
「さあにゃ~?」
「……犯す」
「こっちで説明するにゃ~」

 わしがとぼけると、イサベレが眼光鋭く脅すので、貞操の危険を感じて話す事にした。ヂーアイに少しだけオニヒメを見ているように頼み、男を担いだら食堂に移動する。

「あんまり言いたくにゃいんだけどにゃ~」

 前置きをしてから銃についての知識を披露すると、イサベレは何やら難しい顔をする。

「その銃があれば、国力が上がる……」
「まぁにゃ~。わしやイサベレクラスになるのは無理として、子供でも、Cランクハンター程度になれるかもにゃ」
「では、女王様に報告を……」
「待つにゃ~」

 きびすを返したイサベレの手を、わしは掴む。

「なに?」
「いま、わしは子供でもと言ったにゃろ? こんにゃ危険な物を普及させるつもりにゃの??」
「で、でも……獣には有効」
「言いたい事はわかるにゃ。だけどにゃ、わしの世界では、この銃のせいで多くの人死にが出たにゃ。戦争に使われ、犯罪に使われ、子供が間違って人を撃ち殺したにゃ」
「………」
「これは、わしから女王に話させてくれにゃ。頼むにゃ~」
「……わかった」

 なんとかイサベレもわかってくれたので、男への尋問と処置も決めておく。どうせ帰しても家康に殺されそうなので、奴隷紋で縛ってオクタゴンの雑用係に任命。ムキムキ三弟子に仕事を教えるように言って、観覧場に戻る。


 観覧場に戻ると、オニヒメがヂーアイの膝の上に座っていた。

「お~。よしよし。そうかそうか」

 しかも、ヂーアイは何故か好々ババアになっているので、わしは念話で疑問を口にする。

「こう言ったらにゃんだけど、ババアは恨んでたんじゃなかったにゃ?」
「ま、まぁそうなんだけどさね……娘の子供の頃にそっくりで、情が移ってしまったさね」
「娘は角が生えてなかったにゃろ!」
「なんさね……孫を取られて怒っているんさね?」
「そうにゃ! 返せにゃ~!!」

 こうしてわし達は、かわいい孫の取り合いに発展し、オニヒメを餌付けしまくってかわいがるのであった。

「モフモフ~」

 もちろん、わしの体を売ってオニヒメを取り戻したのであったとさ。
しおりを挟む
感想 962

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...