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第十六章 日ノ本編其の二 天下分け目の関ケ原にゃ~

439 綱引き対決にゃ~

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 相撲対決が終わると、関ヶ原はしばし休憩。観客は、小兵力士のわしが大関千代の富士を倒した事を喋ったり、かわやに行く者、屋台に何かを買いに向かう者がいたり、自由に過ごしている。
 そんな中、わしと玉藻はダッシュでオクタゴンに帰り、作戦会議。わしの相撲を見てうるさいさっちゃんは、コリスのモフモフロックで排除。各国の王も交えて、綱引きに出場する選手を選別する。

 綱引きへの出場人数は百人と聞いたので、これならば外国人が多くとも問題ないかと思い、二十人のごつい護衛を送り込む事に決まった。今回はズルっぽく見せない為に、わしとコリスは外しておく。
 綱引き出場者、多国籍軍のリーダーはリータ。しかし、リータの実力を知らないどっかの小国の血気盛んなごつい護衛がからんで来たので、腕相撲で決着をつけさせた。
 もちろん圧勝。手加減なしにやらせたので、腕も変な方向に曲がっていた。もちろんわしが完璧に治してあげたから、綱引きに出ても問題ない。
 ただ、少女に腕をへし折られ、変な猫に一瞬で治されたからか、心に傷を負ったようだ。その他のごつい護衛からも、リータは恐怖の対象として見られ、おそらく一番年下のはずだが、「姉さん」と呼ばれてあわあわしていた。

 トラブルはすぐに解決したので、多国籍軍はオクタゴンを出る。先導は玉藻。そのあとにリータとメイバイが並んで歩き、ごつい護衛がぞろぞろと続く。
 ちなみにわしはお留守番。多くの護衛が出て行ったので、王族を守らなくてはいけないからだ。まぁオクタゴンに入る者が居たらイサベレが気付くし、昼番のエルフ三人が目を光らせているので、王族に近付く事も出来ないだろう。

 リータ達が入場して来るまでは少し時間があったので、コーヒーを飲みながら女王やさっちゃん達とお喋り。相撲の感想を聞いてみた。
 少し距離があるけど取り組みは見えていたらしいが、やはり闘いとしては面白くなかったようだ。しかし、着ぐるみみたいな容姿の者が多かったので、意外と面白かったらしい。
 ただ一人出ていた人間の力士は裸だった為、こんな姿で戦うのかと驚いていたようだが、一部の婦女子は熱心に望遠鏡を覗いていたようだ。


 そんなお喋りをしていたら、綱引きの出場者が入場して来た。
 東軍は、タヌキ筆頭に最後尾までタヌキ。百人のタヌキの一糸乱れぬ行進は、王族達に好評のようだ。
 西軍は、キツネ筆頭にタヌキが居たり、人間が居たり、外国人が居たりとまとまりに欠ける。しかし、自国の出場者が居るので、王族達は盛り上がっていた。

 そうして始まる百人対百人の、圧巻の綱引き。先ほど相撲で行司をしていた老人が中央に立ち、合図を出して、出場者に綱を持たせる。

「はっけよい!」

 ここでも開始は「はっけよい」。西軍は多国籍軍が出遅れたからか、後手に回っているようだ。

「あれ~? 負けそうだよ?」

 徐々に、中心にある赤い旗が東軍に引かれて行くと、ごつい護衛達が向かったので負けると思っていなかったさっちゃんが、わしに声を掛けた。

「タヌキって、そんなに力があるの?」
「いや、普通の人間と変わらないにゃ」
「じゃあ、なんで負けてるのよ」
「そうだにゃ~……ひとつは、タヌキ達が息が合っているのが大きいにゃ。同時に力を入れているから、バラバラに力を入れている西軍が引っ張られているんにゃ」
「なるほど。でも、まだ要因があるの?」
「もうひとつは、リータとメイバイに、一本目は様子を見ろと言ってるからにゃ」

 わしの言い分はさっちゃんの心情に引っ掛かるのか、何やら不機嫌な顔をする。

「手加減させてるの? そんなの相手に失礼よ!」
「まぁそうにゃんだけどにゃ~。それを言ったらさっきのわしは、最悪だったにゃ~」
「あ! 本当だ! シラタマちゃん、ひどい~!!」
「そう怒らないでにゃ~。一発で勝負が終わったら、観客も面白くないにゃろ~? 手加減しにゃきゃ、試合にもならないにゃ~」
「そうだけど~」
「にゃ!!」

 さっちゃんと喋っている間も綱引きは続いており、赤い旗が東軍陣営に引っ張り込まれてしまった。

「あ~あ……負けちゃった」

 わしに指摘されてさっちゃんは会場に目を移し、落胆の表情。東軍は出場者だけでなく、対面の徳川陣営からも大きな喜びの声が聞こえている。
 徳川陣営とは逆に、西軍陣営は落胆の声が大きく、励ましの声がちらほら聞こえている。

「さあて……勝負はここからにゃ~」
「また暢気のんきなこと言って~」

 行司の「はっけよい」でリスタート。今度は西軍も出遅れずに、互角の引き合いになっている。

「今度は勝負になってるね」
「リータとメイバイが上手くやってくれているにゃ」
「どれどれ~」

 さっちゃんは望遠鏡を覗いて、綱の最後尾に居る二人の勇姿を確認する。

「ねえ? メイバイは力が入っているように見えるけど、リータは綱を持ってるだけじゃない?」

 そう。さっちゃんが言う通り、最後尾のリータとメイバイの間の綱はたわんでいる。リータは様子を見て、力を入れてないからだ。
 これはわしの指示。一本目、二本目は、リータ抜きでどれだけやれるかを試してもらっている。一本目も、メイバイにはあまり力を入れるなと言っておいたので、不甲斐ない結果となったのだ。

「見た感じ、メイバイもまだ本気で引っ張ってないにゃ~。これじゃあ、リータはいらなかったにゃ~」
「うそ……あの二人って、そんなに力があるの?」
「女の子にこう言うのは気が引けるけど、我が国で一位と二位の力を誇る人間にゃ」
「シラタマちゃんより?」
「わしは猫だにゃ~」
「あ……いやいやいや、シラタマちゃんも力があるように見えないわよ!」

 さっちゃんは自分で言っておいて否定する。そりゃぬいぐるみに見えて、わしはチートな猫だから、ザコとは違うのだよ。ザコとは……

「あらら。メイバイだけで勝ってしまったにゃ~」

 ジリジリ引いていた西軍は、赤い旗を自陣に入れて勝利とする。すると、徳川陣営からは悔しそうな声が聞こえて、西軍陣営からは歓声があがっている。

 その騒ぎの中、最終戦の「はっけよい」。両軍に力が入る。

「わ! 一気に全員倒れた!!」
「あ~あ……やっちまったにゃ~」

 三本目は一方的。最後尾に移動したメイバイは、綱を持ったまま休んでいたのだが、リータが引っ張ったせいで、敵味方関係なしに引きずられてしまった。
 立っているのも、リータとメイバイだけ。観客もどう反応していいかわからずに、口を開けたまま固まっているようだ。

 行司も固まっているように見えたので、オクタゴン一同にお願いして拍手喝采。その音で我に返った行司の勝ち名乗りで勝敗が観客に伝わり、東西真っ二つに割って、違った声があがっていた。


 その声を聞きながら綱引き参加者は退場し、ほどなくして、玉藻に連れられた多国籍軍がオクタゴンに帰って来た。

「シラタマさ~ん。やり過ぎちゃいました~」
「あははは。リータは馬鹿力だからニャー」

 リータはわしに駆け寄って泣き言を言い、メイバイは笑いながらやって来た。

「お疲れ様にゃ~」
「うぅぅ。メイバイさんが騙したんですよ~」
「そうにゃの?」
「ち、違うニャー! 私は本当にしんどかったんニャー」
「そんなこと言われたら、力が入ってしまうじゃないですか~」
「にゃはは。まぁお祭りにゃんだから気にするにゃ~」

 二人が喧嘩になりそうだったので、わしは笑って頭を撫でて、二人を労う。そうしていたら、玉藻がわしの元へやって来た。

「コンコンコン。お疲れ様じゃ~」
「玉藻はご機嫌だにゃ~」
「初日で二連勝なんて、久方振りじゃからな。それに、いつも戦闘以外でしか点が取れなかったからのう。これで初日に、三連勝は堅いな」
「三連勝にゃ?」
「ほれ、午前にやった踊り対決の結果が発表されるぞ」

 わしが玉藻の指差す会場を見ると、また行司が中央に立っており、手に持った軍配の裏に張り付けているであろうカンニングペーパーを読み上げる。

『観客から取った集計結果は、西軍の勝利! 数は……』

 その後、勝利した西軍の踊り子が会場に雪崩れ込み、勝利の舞いを踊り、観客達も盛り上がる。
 その光景を見ていたわしは、玉藻に問う。

「審査員は、観客だったんにゃ」
「そうじゃ。昔はちゃんとした審査員が居たんじゃが、不正があってのう。それ以降は、観客に決めさせておる。盛り上がったほうに点が入るから、徳川の意向だけでは勝敗はくつがえらんのじゃ」
「あ~。相撲でも審査員を抱き込んでいたしにゃ~」
「そんな事をせずとも圧勝なのに、家康は心配症じゃからな」
「わかっていたなら止めろにゃ~」
「シラタマに言われるまで、確信が持てんかったんじゃ。同体が何度も出るほど、拮抗しておらんかったからな」
「それはそれで不甲斐ないにゃ~」

 玉藻はわしと長く喋っているわけにはいかないのか、ほどほどにして、各国の王から感想を聞こうとテーブルを回る。
 わしも皆の相手をしようかと思ったが、コリス時計がわしの頭をカジカジしていたので、高級串焼きを出してから夕食の指示。リータとメイバイも連れて食堂に顔を出す。
 そこでつまみ食いしていたら、入口を見張らせていたリンリーが入って来て、わしを呼び出しているタヌキが居ると言うので、食堂はリータ達に任せる。


 リンリーと共にオクタゴンから出ると、大きくて豪華な駕籠かごの前に、タヌキ侍が四人立っていた。

「ひょっとして、中に居るのは将軍かにゃ?」
「「「「はっ!」」」」

 わしの予想は的中。タヌキ侍はすだれを上げると、徳川将軍秀忠が出て来た。

「ようこそにゃ~」

 わしはにこやかに声を掛けるのだが、秀忠は難しい顔をしている。

「各国の王様に会いに来たのかにゃ?」
「違う……」
「にゃ~?」
「シラタマ王は、関ヶ原に出場しないのではなかったのか?」
「ああ。その事にゃ? わしは出るつもりはなかったんにゃけど、玉藻が無理矢理ににゃ~。大事にゃ祭りなのに、邪魔してすまなかったにゃ」
「という事は、突然決まったと?」
「そうにゃ。ま、立ち話もなんにゃし、一緒にメシでもどうにゃ? 世界の料理が食べれるんにゃよ~?」
「いや、私はそんな事をしに来たわけでは……ムグッ」
「いいからいいからにゃ」
「こ……これは!?」

 秀忠は渋るので、高級串焼きを口に突っ込んでオクタゴン大食堂にご案内。あまりのうまさに驚いている内に、背中を押して連れ込んでやった。
 とりあえず席に着けると、テーブルの上に多国籍料理の全メニューを並べる。秀忠は生唾を呑み込んで食べたそうにしているが、なかなか手を伸ばさないので、全て王様に振る舞われる料理だと言うと、ようやく食べ出した。
 しかし、慌てて食べたので喉に詰まらせ、秀忠はあっちの世界に旅立つのであった。

 なかなかお茶目な奴じゃな……アカン! 帰って来~~~い!!

 もちろん背中を強く叩いて生き返らせるわしであったとさ。
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