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第十五章 日ノ本編其の一 異文化交流にゃ~

418 エルフの技術力にゃ~

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「猫の国の条件は、追って言い渡すから、それまではわし個人の案件として処理するにゃ」
「はは~」

 エルフの里の猫の国入りは、猫会議を行ってから正式加盟する事となり、わしの決定にヂーアイは再度土下座する。
 猫会議に丸投げする予定だから、ヂーアイの土下座する姿は心苦しい。ひとまず頭を上げさせて、先に処理したい事を話す。

「ここって、木工が得意みたいだにゃ。その技術を使って、大きにゃ木の加工を頼みたいんにゃけど、任せられないかにゃ?」
「もちろんさね。命令してくれたら、いくらでもやってやるさね」

 ヂーアイが色好いろよい返事をくれたが、まだ報酬の話をしていないので、安請け合いはするなと言っておいた。これから長の教育にも力を入れないといけないとは、頭が痛い。
 とりあえず今回は作る物の説明をして、仕事の仕方を見てから費用を決めるので、さっそく職人を呼んでもらったが、それっぽい人が一人しかいない。髭面のおっさん以外は、女性ばかりだ。

「これが職人にゃの?」
「うちでは、木工は妻のたしなみみたいなもんだからさね」

 内職か? わし、デッカイ木を扱うって言ったじゃろ?

「まぁいいにゃ。無理にゃらわしも手伝うからにゃ。それじゃあ、玉藻。設計図を出してくれにゃ~」
「わかったぞ。これじゃ」

 玉藻は【大風呂敷】から巻物を取り出し、コロコロと転がして広げる。わしも白い木を置けるだけ庭に取り出すと、設計図を見ている者にまざるが、女性がすぐに動き出して勝手に作業を始めた。
 だから止めようかと思ったけど面白そうなので、女性の作業を見守る。

 マジか……もう枝を切り終えた。本当に、この里の者は全員気功が使えたんじゃな。手に尖った気功をまとって、枝を切り落としよった。
 次は……ヤスリ? 手にグローブみたいな気功を纏って擦ったら、木の皮が綺麗に無くなって、ツルツルになった。さらに押さえたら、太さが均等になっておる……もう終わりそうじゃ。
 そこからの~……なんでやねん! 二人がかりで木を押したと思ったら、ぐにゃっと曲がって鳥居の形になったぞ! 針金じゃないのに、どうやっておるんじゃ?
 どうりで最初の形だけ見て、作業に取り掛かるわけじゃわい。

 わしが心の中でツッコみながら作業を見ていると、玉藻が隣に立つ。

「……のう?」
「……言いたい事はわかるにゃ」
「そうか……。しかし、シラタマ以外に、このわらわが驚かされる事があるとは思わなんだ」

 はい? そこでなんでわしが出るんじゃ? どう見ても、そこら辺にいる猫と違うけど、普通じゃぞ?

「でも、これでいいにゃ? ここに文字を書くんにゃろ? 完成した三ツ鳥居じゃ、書きにくそうにゃ~」
「そ、そうじゃな。ちょっと待つのじゃ! この設計図通りやってくれ~」

 玉藻が慌てて作業員に向かって行くと、わしは女王とヂーアイの会話にまざる。どうやら女王もエルフ達の異常っぷりに驚いて、ヂーアイに質問していたようだ。
 わしもどうやっているのかを聞いたり、乾燥作業はどうするかを質問していると、屋敷にリータ達を乗せたバスが戻って来た。どうやらお昼らしく、コリス時計が鳴っていたらしい。

 なので、ヂーアイの屋敷で昼食。リンリーとヂーアイにガン見されたので、食事に誘ってあげた。ここで、さっちゃん達に何をして来たか話を聞きながらわいわいと食べ、お腹がいっぱいになると、わしとヂーアイは席を外す……

「ストーップにゃ! ババアとは国に関する話があるにゃ。他国の者には聞かせられないにゃ~!!」

 わしについて来ようとした女王と玉藻に釘を刺して、扉に手を掛け……

「玉藻……ぶっ潰すにゃよ?」
「じょ、冗談じゃ~。コ~ンコンコン」

 探知魔法を小まめに飛ばしていたら、ミニ玉藻がくっついて来たので、襟首を摘んでさっちゃんに手渡す。もちろんさっちゃんに捕まったからには、抜け出す事は出来ない。ローザとワンヂェンも加わり、おもちゃにされていたようだ。
 そうして二人を振り切ると、わしはヂーアイの乗る車イスの取っ手を握ったまま、飛ぶように移動する。車輪は地面に着いていないから、傷むことはないだろう。


 わしの向かった場所は、エルフの里の生命線、ほこらだ。野人の驚異が去った事で道は細いが整備され、祠も白い木で建て直されていた。
 地下道を抜けると、産屋も白い木で建て直されていたので、その縁側に座ってヂーアイと話をする。

「完全復活だにゃ~」
「ああ。シラタマ王のおかげさね。これで、子を産めるさね。ありがとよ」
「もう感謝は聞き飽きたにゃ~」
「そうかい……それで、大事な話とはなんさね?」
「どれから話そうかにゃ……さっきの三ツ鳥居からにしようかにゃ。ここに……」

 わしは三ツ鳥居の設置場所をふたつと決める。ひとつは、この地下。もうひとつは、里のどこかに設置させる事にする。

「なるほど……里の使いやすい所に置けば、猫の街に行けるってことさね。でも、ここに置く必要はあるのさね?」
「わしの国にも、似た施設があると言ったのを覚えているかにゃ?」
「ああ」
「実験してにゃいからまだにゃんとも言えないけど、おそらく、その施設とここを繋げば、魔力の補給は必要なくなるにゃ」
「と言うことは……」
「繋ぎっぱなし……いつでも行き来できるにゃ」
「おお!」

 ヂーアイが喜ぶが、わしは注意点を説明する。

「もしも里が滅びそうにゃ時には、脱出手段として使うようにして欲しいにゃ。それ以外は使うにゃ」
「どうしてさね?」
「これからエルフの里に、観光に来る者が現れるにゃ。その者に知られると、都合が悪くなるからにゃ」
「あ……その心配があったのを忘れていたさね」

 ここは文字通りエルフの里の生命線なので、ヂーアイもわしの言いたい事が理解できたようだ。

「だから、一週間に一度は繋がる三ツ鳥居を使ってごまかしておいてくれにゃ」
「わかったさね」
「それとにゃ。ババアは、この里を捨てて移住する気があるかにゃ?」
「移住……」

 わしの問いに、ヂーアイは意味がわかっていない。

「これからどこにでも行けるんにゃよ? わしの国でも、東の国でも、日ノ本にでもにゃ。こんにゃ木ばかりの土地じゃにゃくても、開けた土地、水が多くある土地にだって、望めば行けるんにゃ~」
「そんな事を言われても……考えられないさね」
「にゃんてにゃ。困らせてすまなかったにゃ。元々わしは、この里を移住させる気がないにゃ」
「じゃあ、なんでそんな話をしたんさね?」
「実はだにゃ……」

 わしはエルフの里が抱えている問題を説明する。住人が強すぎること、ここ以外では食糧が膨大になること、食糧をめぐって土地を奪おうと思えば簡単に奪えることを、包み隠さず説明した。

「そんなことが……」
「にゃ~? ババア達は危険にゃろ? まぁやりたいにゃら、やるのはかまわにゃいけど、必ずババア達は滅びるからにゃ」
「世界中を敵に回すからさね?」
「違うにゃ。世界中の人を殺しても、ババア達の腹を満たせる量の食糧が無いからにゃ」
「たしかに……いまの十倍も食糧を手に入れないといけないとなると、滅ぶしかなくなる……」
「まぁ考えようによっては、この里は凄く平和にゃ地にゃ。四方を強い獣が守ってくれているし、これから必要物資も流れて来るしにゃ」

 わしが笑って見せると、ヂーアイも笑顔を見せる。

「そうさね。いまより生活が楽になるんだから、無駄にいさかいを起こす必要はないさね」
「いちおう言っておくけど、出たいと言っても、わしが食い止めるからにゃ。わしと戦って勝てるにゃら、いつでも掛かって来るにゃ~」
「ヒヒヒ。それほど怖いものはないさね。あい、わかった。住民にはきっちり説明しておくさね」

 エルフの里の危険性を話し終えると今後の話に移り、外に出せる住人の人数や、リータの耳のこと、留学生を募ることを話してから、ヂーアイの屋敷に戻る。


 屋敷に戻ると半数ほど見当たら無かったので、さっちゃんに聞いたら、女王と玉藻はバスで出掛けたとのこと。リータ、イサベレ、リンリーが付いて、観光をしているようだ。
 なので、この隙にもうひとつの案件を片付ける。……が、内壁を出る前に女王達にからまれてしまった。

「「白銀の猫に会いに行く(じゃと)!?」」

 テンションの高い二人は、物凄く興味深々なので、わしは面倒臭そうに答える。

「忠告しておくけど、わし以外が縄張りに入ると、一瞬で殺されるからにゃ?」
「それほど強い猫が……」
「玉藻はにゃにを期待しているか知らにゃいけど、わしも玉藻も同じだからにゃ? 母猫相手に、戦いになると思うにゃよ。一方的に甚振いたぶられて殺されるからにゃ」
「……もしかして、四方に居る奴等か?」
「気付いていたにゃら話が早いにゃ。絶対に白い木の群生地に入るにゃ。分身も付けるにゃよ? わしは助けないからにゃ~」

 わしの脅しにも似た忠告に、玉藻達は黙り込んだので、西に向かって駆ける。そうして転移魔法を使って逆側に飛ぶ。これは、最後に別れた時に出て行った方向だから、変に疑われたくないからだ。


 白銀猫の縄張りに一歩踏み入れると、わしの足が止まってしまう。

 おおう……相変わらず凄いプレッシャーじゃ。前より怖い気がする。仲良くなったと思ったけど、誰かが来たら、この挨拶なのかな? 念の為、【吸収魔法・甲冑かっちゅう】を使っておこう。
 説明しよう。【吸収魔法・甲冑】とは、【吸収魔法・球】の劣化番。わしの重要器官だけを、鎧兜に模した気功で守っているので隙間があるが、念話だけでなく、攻撃魔法も使える優れものとなっているのだ。
 ただし、【魔力視】を使っても見えないので、鎧兜に模している必要は、これっぽっちもないのだ……て、わしは誰に説明しているんだか。行こ行こ。

 わしは無駄な事を考えていた事を恥ずかしがりながら、圧力がある方向に進んで行く。しかし、恐怖心が強いのであまり速度は出ず、警戒を持って歩く。
 そうして歩いていると、一匹の猫が走って来たので警戒を緩める。

「久し振り~。やっぱりキミだったんだ~」
「ああ。久し振りです」

 見覚えのある白銀猫に、わしは緊張感が解けて顔が緩む。

「家族は大丈夫だった?」
「はい。ピンピンしてました」
「よかったね~。お母さんも心配していたし、行こっか」

 白銀猫はわしの返事を聞かずに駆け出したから、わしは遅れまいとついて行く。

 さすがは、わしより強い猫じゃ。めちゃくちゃ速い。軽く駆けているように見えるのに、わしは八割ぐらいの速度じゃぞ。わ! もう着いてもうた……ん??

 わしが白銀猫を観察している間の数秒で、寝床だと思われる場所に着くと、白銀の大きな猫が寝転んでいたので急ブレーキ。

 二匹いる……

 そう。母猫の後ろに、もう一匹、大きな猫が寝転んでおり、わしはまた緊張感が高まる。

 その猫は、母猫がお座りすると同じように起き上がるのだが、その姿に、わしは開いた口が閉じなくなった。
 母猫より倍以上ありそうな巨体に驚いたわけではない。

 雪だるまじゃ……

 お座りすると、雪だるまのように見えたからだ。

 デッカイ白銀のわしがおる……

 そう。雪だるまに驚いたわけでもない。わしそっくりの毛並み、そっくりの顔に驚いたのだ。

「「にゃ~~~!!」」

 そして、何故か白銀雪だるま猫も、わしと同時に驚きの声をあげるのであった。
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