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第十五章 日ノ本編其の一 異文化交流にゃ~
413 時計のお披露目にゃ~
しおりを挟むさっちゃんの誕生日パーティーに出席したわし達モフモフ三銃士は、猛女子に撫でられまくって完敗。一番被害の大きかったわしとワンヂェンはボロボロとなり、撫でられ耐性の低かったワンヂェンは、担架に乗せられて退場となった。
ちなみにコリスは、王族が猛女子を並ばせて、ごはんを食べてるコリスの背中や尻尾に抱きつくコーナーを作っていたので、被害は小さかったようだ。
「スーツがだいなしにゃ~」
わしはボタンが全て吹き飛び、袖やズボンがビリビリの服を王族に見せて嘆く。するとさっちゃんが、わしの頭を撫でながら慰めてくれる。
「もう、全部脱いだら? 服なんて着てなくても、ぬいぐるみにしか見えないんだからね」
いや、全然慰めてくれない。なのでわしはぷりぷり怒りながら外に出て、新しい服を着て戻る。
「わ! かわいい服ね。ツバメみたい」
さっちゃんが褒めてくれた通り、わしが着ている服は燕尾服。これはスーツを作った時に、猫の街の仕立屋に無理を言って作ってもらった物。
王様だからあったほうがいいかと思ったのだが、この世界の時代背景では誰も着ていないので、着る機会が無かったのだ。これも大蚕の糸で出来ているので、おそらく超お高い。
「正装用に作ったんにゃけど、こういう場で着るのはどうかにゃ?」
「う~ん……いいんじゃない? ドレスと合っているから、舞踏会なんかで流行りそうよ」
「舞踏会にゃ~? じゃあ、一生着る機会はなさそうだにゃ~」
「え~! 一緒に踊ってよ~」
さっちゃんがわしの服を掴んでぐわんぐわん揺らすので、話を逸らす為にある物を取り出す。
「ほれ。頼まれてた写真にゃ~」
「え……これが私……」
「かわいく撮れてたにゃ~」
さっちゃんは、初めて見る絵画以外の自分の姿に固まった。完璧な自分だ。驚いても仕方がない。ひょっとしたら、写真を撮られたら魂が抜かれると思って固まっているのかもしれない。
「いっぱい現像して来たから、友達と見るといいにゃ~」
「う……うん!」
わしがアルバムを数札渡すと、さっちゃんは貴族の子供達の元へ走って行った。これでさっちゃんの呪縛を逃れたので、わしはゆっくりしようとしたが、女王達が妖しい瞳でわしを見ていたから、ここにもアルバムを二冊提出する。
王族も自分の写真を見るとしばし固まっていたが、女王から順に動き出し、楽しそうにページを捲っている。
とりあえずわしへの注目が無くなったので、王族側にある席に着いてひと休み。すると、尻尾一本に変化したドレス姿の玉藻が、笑いながらわしの隣に座って来た。
「コ~ンコンコン」
「にゃに~? ちょっとは休憩させてくれにゃ~」
「いや、久方振りに、写真に驚く人を見たからな。昔を思い出しておかしかったんじゃ」
「あ~。こっちでは、魂を抜かれるとか怖がられてなかったにゃ?」
「あったぞ。変な噂が飛び交っておったな」
やっぱりか。西洋の事は知らんが、日本人は思う事が一緒なんじゃな。ここで冗談でも魂が抜かれるとか言うと、皆は怖がるじゃろうから自重しておこう。
「それで、そちの着ている服は、元の世界にもあったのか?」
「これは燕尾服と言ってにゃ。明治維新以降に、天皇陛下やお偉いさんが、格式の高い式典にゃんかで正装として着ているにゃ」
「ほう……そう言えば、ここの男は動きやすそうな格好をしておるな」
「そうにゃ。西洋文化が入って、日ノ本の服装も変わったんにゃ」
「国が交わるという事は、文化までもが変化するのか……」
玉藻が何やら考え込んでいるので、わしは補足する。
「変化を恐れていては、発展が止まってしまうにゃ。日ノ本だって変化してるにゃろ? 時の賢者の知識が入って豊かになったはずにゃ」
「たしかにそうじゃのう」
「それにいい文化は残るにゃ。わしの世界はここよりも遥に進んだ世界にゃのに、大嘗祭だって残っていたんだからにゃ」
「お、おお! あんなに金の掛かる儀式が残っておるのか」
「にゃはは。未来も捨てたもんじゃないにゃろ」
「そうじゃのう。コンコンコン」
そうして笑っていたら、女王がわし達の席に着いて何を話していたのか聞いて来た。どうやら日本語で喋っていたのでわからなかったようだ。なので、写真や燕尾服の件を持ち出してごまかしておいた。
どちらも燕尾服が御所望らしいので、発注は承っておいた。これで猫の街に新しい産業が出来るかもしれない。これ幸いと、ついでにもうひとつの工芸品の披露もしておく。
女王にお願いして全員の注目を集めると、わしは「にゃにゃにゃ、にゃ~ん♪」と言いながら置時計を取り出す。しかし、一部の者しか時計を知らないので、首を傾げている。
そんなざわざわする中、わしは腕時計を確認して、置時計の時間を合わせていたら、さっちゃんが苦情を言って来た。
「あんなにもったいぶったのに、ただの箱じゃない」
「にゃはは。さっちゃんの目は節穴だにゃ~。ところで、いまにゃん時かわかるかにゃ?」
「それぐらいわかるわよ。さっき昼二の鐘が鳴ったから、三時過ぎよ」
「おっしいにゃ~。いまは三時九分にゃ」
「九分? そんな細かい時間、どうやってわかるのよ?」
「ほれ、そっちの丸い所にある長い針を見てみるにゃ」
わしはさっちゃんがわかりやすいように、置時計の長針を指差す。
「十……さっきシラタマちゃんがいじったから、ここにあるんでしょ?」
「まぁそうにゃけど、わしが動かした場所は九分にゃ。この腕時計を見て、時間を合わせたんにゃ」
「腕…時計……」
「にゃ! たまにさっちゃんは鋭いにゃ~」
さっちゃんが置時計を見て息を呑むので、わしは全員に聞こえる大きな声で発表する。
「これは時計にゃ。砂時計ではわからにゃい、正確にゃ時間を知れる物にゃ~! 双子王女、出番にゃ~!!」
「「おまかせあれ~」」
貴族からの質疑応答は、双子王女に丸投げ。元々宣伝の為に、この場を使うと双子王女が言い出した事なので、わしの出番はここまででも怒られる事はない。
しかし、王族に説明が後回しになってしまったので、女王に首根っこを掴まれてしまい、質問に答えてやった。
わしが一通りの説明を終えると、女王はため息を吐く。
「はぁ……ジョスリーヌ達が楽しみにしていてと言っていたのは、この事だったのね」
「にゃんだ。女王には話が行ってると思っていたにゃ~」
「誰かさんのせいで、サプライズが好きになったみたいよ」
「にゃ~?」
「シラタマよ。あなたのプレゼントは、いつも新しい技術で私が驚かされるから、二人はその顔を見たかったのでしょう」
ふ~ん。そんな事で情報を隠していたのか。たしかに新技術は秘密にする事が多いけど、売り出す時のインパクトの為だったんじゃけど……
「まぁ置き時計が欲しいにゃら、双子王女に言ってくれにゃ」
「ええ。でも、そっちの腕時計も欲しいんだけど……」
「これはダメにゃ! 天皇陛下から直々に貰ったから、いくら積まれても手離すつもりはないにゃ~」
「何を言ってるのよ。どこかで買えるんでしょ?」
いや、めちゃくちゃ獲物を見る目で見ておったじゃろ! だからわしも奪われるかと思って怖かったんじゃ。
「いまのところ腕時計は、日ノ本でしか買えないからにゃ。たぶん、三ツ鳥居が繋がってからの話になるかにゃ~?」
「そう。残念……」
「まぁ楽しみに待ってるにゃ~」
それから女王と話をしているとさっちゃんがわしの元へやって来て、置時計を寄越せとぐわんぐわん揺らす。元々広告宣伝費で置いて行くつもりだったのに、早とちりしやがって……
さっちゃんの誕生日パーティーはもうしばし続き、王族は早々に消えて行ったけど、わしとコリスは解放してもらえなかった。
まぁ猛女子は驚きと騒ぎの連続でぐったりしているので、それほど大変ではない。各テーブルに挨拶して、モフッと抱き合うぐらいだ。
その中に、出会った頃より背が伸び、少し大人びた美少女に成長したローザが居たので、わしは話し掛ける。
「久し振りにゃのに、全然喋れなかったにゃ~」
「猫さんは大人気ですからね。私はよく会っていますので、今日は自重していました」
「ローザは大人だにゃ~」
「ウフフ。褒められちゃいました」
「そんにゃローザに招待状にゃ。二日後、空いてないかにゃ?」
わしが手紙を差し出すと、ローザは周りを見てからコソコソと話す。
「そんな事を言われますと、周りの目が……」
「おっと、すまなかったにゃ。詳細は、あとで手紙を読んでくれにゃ」
「はい。お祖父様にも、絶対に時間を取れるように頼んでおきます」
ローザと挨拶を済ませると、残っているテーブルを回り、最後に記念撮影。
フィルムの枚数的に、ひとりひとり撮る余裕が無かったので、集合写真とグループ事の写真となってしまった。まぁ現像で引き伸ばして分ければ、一人の写真となるはずだ。
わしは皆の顔と名前を覚えていないので、現像したら、さっちゃんに丸投げ。各々の住所に送ってもらう予定だ。これで他国にも写真の存在が知れ渡るので、猫の国に訪れる人が増えるだろう。
そうして宴もたけなわ。さっちゃんの挨拶で締めとなって、わし達はようやく解放された。
双子王女は、今日はお泊まり。二日後に迎えに来るのでここで別れる。
コリスと玉藻を連れて、エミリを探すと料理長を手伝っていたようなので、全然休みになっていなかった。でも、久し振りに一緒に作ったからか、楽しそうにしていた。
ワンヂェンとも合流すると、お城から出る。そこでエミリに、たまには孤児院に顔を出すように言って送り届ける。だが、わし達が中に入るとモフられるので、入口でお別れ。迎えに来る二日後まで、友達と楽しく過ごして欲しい。
これで東の国でのわしの仕事は終了。玉藻もわしの王様らしい仕事ぶりを見て、満足しているはずだ。
「そちは結局、撫でられただけで、王らしい仕事をせんかったな。本当に王なのか?」
いや、満足していない。猫の街に転移しても、わしが言い訳を言っても、王様らしくないと言われ続けるのであったとさ。
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