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第十五章 日ノ本編其の一 異文化交流にゃ~

406 時計をパクるにゃ~

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 王都の我が家で玉藻と話し込んでいたら、酔ったリータとメイバイが浮気だなんだとからんで来て、追い討ちでアダルトフォーまでからんでくる始末。服を剥ぎ取られ、モフられて「にゃ~にゃ~」泣いた。
 その姿を、ワンヂェン、つゆ、キツネ店主が、部屋の隅で震えて見ていたらしいが、助けてくれてもいいのに……。ワンヂェンは、わしを助けずに、玉藻達を部屋に案内しなくてもいいのに……

 翌朝起きたら、わし達は居間で倒れていた……

 そこで玉藻に叩き起こされた。本当に叩き起こされた。他国の王様に酷くない? けっこう痛かったぞ?
 わしの文句は聞いてもらえず、二日酔いの頭を押さえながら朝食と朝風呂。玉藻達は夜に入ったのですか。そうですか。
 ひとまず二日酔いから復活したわし達は、王都を出る。アダルトフォーは……しらんがな。勝手に仕事に行くだろう。


 猫の町近辺の隠れ家に転移したら、バスで役場に直行。双子王女と少し話をしてから、ここで今日の予定に取り掛かる。

「リータとメイバイは、玉藻と質屋をラサに連れて行ってくれにゃ。キャットトレインがそろそろ猫耳の里から到着するからにゃ。わしはやる事があるから、昼には合流するにゃ~」
「「はい(ニャー)」」
「つゆはこっちにゃ~」
「は、はい! すみません!!」

 今日は玉藻と別行動。絵本を預けたリータ達に、ラサを案内してもらう。ちなみにワンヂェンは、暇なら治療院で働けと言ったら、ブーブー……「にゃ~にゃ~」言いながらオニヒメの手を引いて向かった。
 コリスは、我が家で寝ていていいよと言ったら喜んで走って行った。巣でゆっくり出来て嬉しいとか言ってたけど、キョリスが泣くぞ?

 つゆと向かった先は、猫の街にある工房街。工芸品なんかを作って欲しいところだが、大蚕おおかいこの糸以外そんな物は猫の街に無いので、基本的にはどこにでもある物を作るか、修理工場となっている。
 そこに双子王女から集められている職人と子供達に挨拶すると、さっそくつゆに質問する。

「ここで現像を教えて欲しいんにゃけど、出来るかにゃ?」
「え……私が全部するんじゃないんですか?」
「にゃ? 奥さんから聞いてなかったにゃ?」
「聞いてなくて、すみません!」
「いや、たぶんわしが悪いにゃ。源斉に言ったから、伝達ミスがあったんにゃ。現像に関しては、教えてもらう約束になってるんにゃ。これは玉藻にも許可をもらっているから、つゆは心配しなくていいからにゃ」
「知らなくて、すみません!」
「まぁ謝ってないで教えてくれにゃ~」
「で、では……」

 つゆの話では、光が邪魔になるのでここでは出来ないとのこと。なので、工房の横に土魔法で暗室を作り、二人の子供と共に作業を見守る。

「あ……電気が……」
「にゃ? そっか。ちょい待つにゃ」

 つゆは大きな箱から道具を取り出していたが、必要な物が足りなかったみたいなので、わしの次元倉庫から足してあげる。キャットトレインで使っている電池と、光を作り出す魔道具があれば、なんとかなるだろう。

「こっちが電池で、こっちが光にゃ。君達も見ておいてにゃ」

 簡単な講習をすると現像が始まり、つゆが子供達に教えている姿を、わしは後ろから眺める。

 ふ~ん……ここでもセーフライトで光を取っておるのか。現代の現像方法に行き着くとは、本当に平賀家は天才じゃな。
 うちでやるには、道具も現像液も、全てが足りない。素直に平賀家を頼るしかないか。売ってくれればいいんじゃが……とりあえず、足りなくなりそうな現像液だけは、成分を聞いて探しておかねばな。
 それにしても、つゆは劣等生と聞いていたが、特に悪いところが見付からん。子供に教えるのも丁寧じゃし、どこが悪いんじゃろう? おっと、こればっかりに時間を取られている場合じゃなかった。

 一通りの作業が終わると、子供にやらせて見守る。つゆの親切な説明があったから問題が無さそうなので、子供達に焦らずゆっくりやるように言ってから、つゆと工房に戻る。
 そこで職人と子供達に待たせて悪かったと謝罪し、置時計を取り出す。

「さて……みんにゃには、これを作って欲しいにゃ」

 職人と子供達は「箱?」と首を傾げるが、つゆは違う。焦って止めに入る。

「まま、待ってください! それは平賀家の技術の結晶です! 作らせるわけにはいきません! すみません!!」

 まぁ止めるわな。でも、最後の謝罪はなんじゃろう? 癖にしても、いまの勢いでよく言えたな。

「わかっているにゃ。だから、わし達はこれを研究して、もっといい物を作るつもりにゃ。これをそのまま作って売れば平賀家の財産を侵害するけど、それよりいい物にゃらば、にゃにも文句はないにゃろ?」
「い、いえ! いい物を作られたら、平賀家が困ります! すみません!!」
「じゃあ、平賀家は、さらにいい物を作るのを諦めてるんにゃ~。へ~。そんにゃに自信が無いんにゃ~。へ~」
「え……」

 わしの挑発に、つゆは言葉を失う。

「ぶっちゃけ、技術の発展には、切磋琢磨する者が必要にゃ。平賀家だってそうにゃろ? 内部で高めあっているはずにゃ」
「……はい」
「にゃ~? でもにゃ。内だけでは限界があるにゃ。外にも目を向けないと、発展は止まってしまうにゃ。競争相手が居にゃいと、平賀家の発展は止まってしまう可能性があるにゃ。現に、源斉は無謀な挑戦をしていたのをわしが止めたにゃ。あのまま十年も続けていたら、たぶん平賀家は終わっていたにゃ」
「………」

 つゆは黙り込んでしまったので、わしはトドメを刺す。

「終わったは言い過ぎかもにゃ。それでも、時計の権利や電車の権利、技術を切り売りしなくてはいけない事態が、いつか来ただろうにゃ」

 まぁ可能性の話じゃけどな。天皇家が後ろ楯じゃから、いざとなったら助けるじゃろう。
 とりあえず、つゆは言い負かしたから、さっさと作業に取り掛かるか。

「つゆは見てるだけでいいからにゃ。助言も口出しもいらないにゃ。わし達が勝手にやって、勝手に時計を組み立てるだけにゃ~」

 最後に安心させる言葉を掛けて、わしは作業を始める。

 まずは分解作業。子供達にメモを取らせ、職人には目で覚えてもらう。だが、道具も使わずに、わしは鉄魔法を使ってネジを外すので、かなりスピーディー。メモ係からも職人からも、何度もストップが掛かってしまった。
 そうして全てを分解すると、次は歯車や部品のコピー。土魔法で型を取って固めたら、鉄魔法で鉄を流し込み、それも固めて完成。ひとまず部品を十組、あっと言う間に作ると、わしは歯車を持ってバリを確認する。

 ふむ。なかなか上手くいったんじゃなかろうか? ここのバリだけ……よし。見本と寸分違すんぶんたがわぬ出来じゃ。さすがはわしじゃ。うん十年の職人の目は、鈍っておらんのう。
 本当は腕時計も分解したいけど、天皇家から貰ったからおそれ多くて出来ない。平賀家で購入するまでは保留じゃな。さらに部品が小さくなると、職人達がついてこれないしのう。いまでも怪しいしな。


「ちょ……ちょっと見せてください!」

 わしがウンウン頷いて歯車を確認していたら、つゆがそんな事を言い出したので、わしは歯車を手渡す。

「う、うそ……完璧です……私はあんなに苦労したのに……」

 手作業では難しいもんな。最低、三年は研鑽けんさんしないと出来んじゃろう。魔法とわしの腕があってこその出来じゃ。

 つゆが驚いている横では、わし達は組み立て作業に入る。メモを逆に見て、ちょちょいのちょいで組み立ててやった。電動ドリル無しとは、鉄魔法様々だ。

「よし! 完成にゃ~」
「うそ……完璧な手順……。でも、時間の狂いが絶対あるはず……」

 つゆは完成品を見ながらブツブツ言っているが、わしは気にせず置時計のゼンマイを巻いて、腕時計を見ながら時間を合わせる。

「うんにゃ。たぶん誤差はないかにゃ? まぁ正確に言うと、極少数であるんだろうけどにゃ」
「えっ……見せてください!!」

 つゆがわしの左腕を取るので好きにさせる。そうして何度も腕時計と置時計の時間を確かめると、わしの顔を見た。

「な、なんでこんなに簡単に……」
「簡単じゃないにゃ~。みんにゃは見ていてもよくわからなかったにゃろ?」

 つゆの質問を職人達に振ると頷いている。

「しいて言うにゃら、魔法……呪術のおかげにゃ」
「呪術だけで、こうはいきません! シラタマ様は、いったい何者なんですか?」

 ほう……見ているだけでわしの腕前に気付くとは、なかなか見込みのある子じゃな。本当に劣等生か? 素直で源斉より扱いやすいから、是非ともうちに欲しいんじゃけど……

「我が国の国民になるにゃら、教えてあげるにゃ~」
「え……国民ですか?」
「日ノ本では脱藩ににゃるのかにゃ?」
「えっと……お家を出るからそうなると思います」
「それは重罪だにゃ~。もう日ノ本に帰れないにゃ~。でも、それと引き換えに、もっと素晴らしい技術が見れるんにゃけど、つゆは興味ないかにゃ~?」
「うっ……」

 お! この反応は、脈ありか?

「にゃんてにゃ。冗談にゃ」
「あ……冗談だったんですか。ホッ……」
「でもにゃ。引き抜く為に、平賀家の者を連れて来たのは本当にゃ」
「平賀家を引き抜く……それは出来ません!」
「わかっているにゃ。だからつゆが、我が国の技術に興味を持って、なおかつ、玉藻を説得できたら考えてくんにゃい? 絶対に、つゆに迷惑が掛からないようにするからにゃ」
「たぶん無理です……」
「にゃはは。いまは頭の隅に置いておいてくれたらいいにゃ。それじゃあ……」

 日ノ本で買って来て分解してしまった置時計を、再度わしが組み立てる姿を職人達に見せると、残った材料で練習しているように告げる。ついでに天皇家からもらった腕時計もよく見せて、最終目標はこれだと言っておく。
 ふたつも置き時計があれば、時間合わせは大丈夫だろう。現像している者は暗くて時間がわからないだろうから、職人には休憩や勤務時間を守るように言って、つゆと共にその場をあとにした。


 次に訪れた場所は、トウキン校長が働く猫の街の学校。ここで、わしとリータ達の日記を手渡し、物語り風の冒険記を書くように指示を出す。かなり渋い顔をされたが、養子になった猫耳族の娘二人に書かせるみたいだ。
 その人選は、わしとしては大賛成。読み書きの出来ない者が多かった猫耳族が、文字を使って働くのだ。こんなに素晴らしい事はない。わしは喜びながら学校を出たのであった。

 その途中、治療院の前を通ったので、中の確認。治療費を取るとなってからの話をワンヂェンから聞く。

「うちは東の国に行ってたからにゃ~」
「ああ。そうだったにゃ」
「でも、職員に聞いたら、患者は激減したって言ってたにゃ。これで楽になるにゃ~」

 ふむ。予想通りじゃな。じゃが、心配な事もある。

「我慢する者も出て来ると思うから、その点の注意も促しておいてくれにゃ」
「にゃるほど。悪化するかもしれないんにゃ……わかったにゃ。帰る患者には言っておくにゃ~」
「ほにゃ、よろしくにゃ~」

 わしが手をひらひらと振って部屋を出ようとしたら、「バシッ」と背中を叩かれた。

「にゃ? オニヒメ……どうしたにゃ?」
「う~!!」
「にゃ~??」

 なんじゃ? 何度も叩いて来るけど、記憶が戻って、父親を殺したわしに対して怒っているのか?

 わしが戸惑っていると、ワンヂェンがオニヒメを止めに入る。

「オニヒメちゃん。どうしたにゃ? シラタマの事が嫌いになったにゃ?」
「うぅ! いる!!」
「居るにゃ? にゃんか居るにゃ?」
「うん!」

 居る? うん? オニヒメが会話しておる! 早くもここまで来たか。じゃが、記憶が戻ったわけではなさそうじゃ。残念……
 しかし、居るとはなんじゃろう? ノミでもくっついているのか? 痒みは無いし、【ノミコロース】は毎日使っておるから居ないと思うんじゃけど……あ、叩くの終わった。

「にゃんかわからないけど、ありがとにゃ~」
「ありがとにゃ~」

 わしがお礼を言うと、オニヒメは笑顔になった。相変わらずオウム返しが多いけど、少しずつでも自分が出て来ているので、いい傾向だろう。
 そうしてオニヒメの頭を撫でていたら、ワンヂェンが「ノミでもついていたんにゃ。不潔にゃ~」と、からかって来たので、「治療院の資金管理はワンヂェンがやれ」と脅してやった。

 それから「にゃ~にゃ~」と泣き付くワンヂェンを振り切って、わしとつゆは治療院をあとにしたのであった。
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