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第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~

391 技術交換にゃ~

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 わしは平賀源斉の師匠発言を断り続けていたのだが、呼び方が固まってしまったので、「もうそう呼べ」と言って呼び名が落ち着いた。それから源斉の話をげんなりしながら聞いていると、鐘の音が鳴り響いた。
 何の音かと聞いたら、正午だとのこと。食事に誘われたので、ご相伴しょうばんに与る事にする。

 そうして蔵から出て、源斉の案内で食堂に向かっていると、小さなタヌキが男達に取り囲まれていた。

「ぎゃはは。お前のメシは、もう食っておいてやったぞ」
「そ、そんな……」
「いつもトロイから悪いんだ。ぎゃははは」

 なんじゃ? タヌキがイジメられておる。何かやらかしたのか? それとも、種族が違うからイジメられておるのか? いや……なんにしても、イジメるほうが悪い!

 わしは通り過ぎる間際に聞こえた声にいきどおるが、わしが手を出すのも違うかと思って源斉を見る。

「源斉、アレは止めにゃくていいにゃ?」
「はい? アレ? ああ。遊んでるだけでしょ。それよりも時計を……」
「もういいにゃ。ほれ、これで遊んでおけにゃ」

 源斉は役に立ちそうにないので腕時計を渡し、わしが男達の間を割って、タヌキの前に踊り出る。すると、男達はあからさまに不快な顔をして、わしを怒鳴り付ける。

「またタヌキが増えやがった……ここは人間様の通路だ! 獣臭いからどっか行け!!」

 男達の言葉にイラッと来たわしだが、大人な対応で……

「誰がタヌキにゃ! それに獣臭いにゃと~! 喧嘩にゃら勝ってやるにゃ!!」

 いや、大人気おとなげなく、喧嘩を吹っ掛けてしまった。だって、タヌキと言われるだけでもイラつくのに、いつもにおいに気を付けているわしに向かって獣臭いとか言うんじゃもん。

「おう! やってやろうじゃないか! お前達!!」

 男達もやる気満々。わしを取り囲んで来たので、ちょっと殴ってやった。と言っても、地面をだ。

「「「「あわわわ」」」」

 わしのネコパンチを喰らった地面には、波紋状に亀裂が入り、それを見た男達は後退る。

「つぎ、イジメを見かけたら、わしの肉球がお前達の顔に減り込むにゃ。それと、後ろにいる源斉にも強く言っておくから、源斉からの仕置きも待っているからにゃ」
「「「「当主様!?」」」」

 源斉は突っ立っていただけだが、当主とあって力は絶大で、男達は謝罪をしてからすごすごと走り去った。そうしてわしは、甚平を着たタヌキに声を掛ける。

「大丈夫だったにゃ?」
「は、はい! すみません!!」
「いや、怒ってるわけではないにゃ。それより、お昼が無いんだってにゃ。これでいいにゃら、腹に入れるにゃ」

 わしは喋りながら次元倉庫にあるおにぎりと漬物の入った箱を取り出して、タヌキに手渡す。

「で、でも……」
「これから仕事もあるにゃろ? お腹がへってたらいい仕事が出来ないにゃ。それじゃあ、頑張るにゃ~」

 わしはそれだけ言うと、源斉に歩けと命令して去って行く。後ろで感謝の声が聞こえたが、振り向きもせずに食堂へと向かうのであった。


 ちょっとしたトラブルはあったが食堂に入ると、マッチョな男達の座る奥の席にリータ達を発見したので、その輪に源斉と共に腰を降ろす。
 すると、玉藻が驚いた顔で声を掛けて来た。

「シラタマ……源斉が静かじゃが、何があったんじゃ!?」

 ちょっと驚き過ぎ……でもないか。わしと話す時も、専門用語のマシンガントークじゃったからな。
 わしもうっとうしく感じたから、食事の席は離れているように言ったのについて来てしまったから黙っていろと言ったんじゃ。いまは腕時計のベルトをいじっているから、静かになっているだけじゃ。

「まぁにゃんとか話す事が出来たにゃ」
「源斉とか!?」

 まだ驚く玉藻に、少し説明して、運ばれて来た料理に目を移す。

 お! 鮎の塩焼きか。どうりでメイバイが、わしをガン見しているわけじゃ。川魚は珍しいからな。でも、あげないよ?

 擦り寄って来るメイバイには「待て!」と言ったのに鮎は半分取られてしまい、コリスとイサベレには食べたりないと言われたのでドカ弁を差し出し、わしも適当なおかずを出して、リータ達と共にモグモグする。
 それからリータ達に、時計の工場見学はどうだったかを尋ねる。

「あんなに小さい時計に、いっぱいパーツが使われていてビックリしました!」
「歯車だったかニャ? 凄く精密に作られていたニャー!」

 リータ達の感想は思ったより楽しそうだったので、その理由も聞いてみたら、源斉の奥さんが面白おかしく説明してくれたからのようだ。
 イサベレも面白かったと言っていたが、コリスはやっぱり楽しくなかったようだ。おかしを食べ切ったあとは、部屋の隅で丸くなっていたとのこと。まぁ想定の範囲内なので、コリスに謝って、撫で回してご機嫌をとる。
 源斉は黙っていたけど、聞いていないのに時計の説明を始めたので、「待て!」と言って黙らせた。また犬が増えないか心配だ。

 ひとまず腹が落ち着いたところで、お茶をすすりながら玉藻に、キツネ店主達から聞いた情報を質問してみる。

「ちょっと質問があるんにゃけど、いいかにゃ?」
「なんじゃ?」
「三ツ鳥居の機能を知りたいにゃ」
「三ツ鳥居か……」

 わしの質問に、玉藻は何やら考え込んでいるように見えたので、慌てて質問をやめる。

「あ、こんにゃ所で話せない事だったんだにゃ。もしも言いたくなかったら、諦めるにゃ~」
「いや、使う者が少ないだけで周知の事実じゃから、何処で喋ろうとも、何も問題ない。ただな……」
「ただにゃ?」
「その手があったのだと、いま思い付いたから反省しておったのじゃ」

 この反応は、やはりキツネ店主達の情報は事実だったみたいじゃな。まさか、転移魔法と同じ効果のある魔道具があったとは……

「もしかして、玉藻も我が国に来たかったにゃ?」
「ああ。遠い昔、異国の話を母様に聞いてのう。わらわも行ってみたいと思っていたところ、国が滅んでいたと聞いて心底落胆したんじゃ」

 あ~。玉藻が生まれた頃には、中国にあった国はもう滅んでおったんじゃな。

「じゃあ、その三ツ鳥居を使えば行けるんにゃ」
「行けると言いたいところだが、何処まで遠くまで行けるかがな……。いちおう、蝦夷地と琉球は繋がったから、距離制限は無いと思う」

 蝦夷地? 琉球!? 北海道と沖縄じゃよな?? 是非とも行きたい! アイヌ民族は残っておるのかな? 琉球王朝も見てみたい!!
 と、興奮していると話が逸れそうじゃ。

「ただし、使い勝手が悪いんじゃ」
「そんにゃに遠くを移動できるにゃら、多少使い勝手が悪くとも重宝するにゃろ?」
「まぁそうじゃが……」

 玉藻の三ツ鳥居の取り扱い説明書では、入口と出口の三ツ鳥居に要する魔力は膨大だとのこと。一度使うと両方に、巫女十人がかりで一週間の、魔力の補給が必要になるらしい。
 しかも、空間を繋いでいる時間はたったの三分。もしも途中で繋がりが閉じた場合に備えて、二分で使う事をやめるようだ。
 さらに、現在生産がストップしているので、余っている三ツ鳥居が無いらしい。

「この事から平賀家の作った電車のほうが、よっぽど使い勝手がいいんじゃ」
「にゃるほどにゃ~……」
「そうでしょうそうでしょう。我が家の技術力は……」
「源斉! 待てにゃ!!」

 わし達の会話に入って来ようとした源斉は、わしに怒鳴られて「くぅ~ん」と黙った。やはり犬になりつつあるようだ。

「それがあれば、あきないなんかが出来るんにゃけどにゃ~」
「そ、それはいい考えじゃな! なんとか使用頻度の低い三ツ鳥居を回せば……あそこは? ダメじゃ。陛下が移動するのに必要じゃ」

 玉藻がブツブツ言い出したので、わしは代案を提出する。

「素材があれば作れるんにゃろ? どんにゃ素材か教えてくれたら、わしが集めて来てやるにゃ」
「本当か!? でも、白い木なんて、この国でも滅多に無いのに、他所の国にあるとは……」
「あ、そんにゃんでいいんにゃ」

 わしが簡単そうに言うと、玉藻は唾を飛ばしながら詰め寄る。

「はあ!? 白い木じゃぞ? 真っ白で、呪力の多い土地でしか育たないんじゃぞ!?」
「ちょ、ちょっと……興奮するにゃ~。そんにゃもん、わし達が旅して来た土地で、いっぱい見たにゃ~」

 わしに食って掛かる玉藻を宥め、いまは手持ちが無いから、今度取って来る事で落ち着いた。
 そうして喋っていると、食堂から人が消えて行き、残っているのはわし達だけになったが、源斉が出て行かない。なので、ちょうどいいからカツアゲしてみる。

「時計と写真機が欲しいんにゃけど、当主の力でにゃんとかならにゃい?」
「はい!!」

 と、源斉からいい返事はもらえたが、後ろに立つ奥さんの笑顔が怖かったので、注文する事となった。だが、予約が詰まっているらしく、どちらも引き取りはしばらく先になるとのこと。
 そこをなんとかとお願いしたら、置き時計は源斉の部屋に置いてある中古を売ってくれる事となった。ついでに懐中時計も中古がないかと聞いたら、壊れた物があったらしく、修理した物を売ってもらう事となった。

 これを猫の街の職人にパクらせ……ゲフンゲフン。研究させて作らせれば、外貨の獲得に役立つはずだ。
 カメラは使う事が多いらしく、中古でも売ってはくれなかったが、玉藻が天皇家にある物をレンタルしてくれると言うので、京での写真をいっぱい撮って帰るつもりだ。

 それから源斉には、電池の開発に精を出すように命令して走らせる。すると、何故か奥さんに感謝された。
 なんでも、奥さんも電池の開発をして、電車を小型化できないかと案を出していたようだ。しかし源斉は聞く耳持たずで、水素エンジンの研究費がバカにならなく、家計を圧迫していたとのこと。
 なので、注文した時計やカメラは、出来るだけ早く作るように指示してくれるようだ。

 その後、わし達は奥さんに礼を言うと牛車に乗り込み、御所へと移動する。


 御所へ入ると、玉藻から菊の御紋が入ったカメラを受け取る。立派な桐の箱に入れて使われていなかった物を貸してくれたようだけど、もうちょっと使い古された物はないですか? 絶対、落とす自信があるんじゃけど……
 もしもの場合は弁償金を払えばいいと悪い顔をした玉藻に言われたけど、払いたくないから、返す時には偽装工作をして返す予定だ。絶対、吹っ掛けて来る顔してるんじゃもん……

 カメラを受け取ると玉藻の案内で、三ツ鳥居のある場所までついて歩く。その三ツ鳥居は全て一ヶ所で集中管理しているらしく、体育館ぐらい大きな蔵の中へと通された。

 アレが三ツ鳥居か……大きい鳥居の隣に小さい鳥居が二つ付いてる。でも、思ったより小さいな。高さが2メートルちょっとぐらいか? それと、白い木を使うと聞いていたのに真っ黒じゃ。
 そう言えば、奈良の三輪山に撮影禁止の三ツ鳥居があると聞いた事があったが、これと同じ物なのかのう? 生前、見に行きたいと思っていたから、見れてラッキーじゃわい。

 わしはさっそくカメラを片手に写真を一枚撮り、三ツ鳥居をしげしげと眺めていると、玉藻にもっと近付いてもいいと言われたので、近付いてよく見る。

 真っ黒に見えていたけど、これは全部模様か? いや、漢字で埋め尽くされておる。耳なし芳一ほういちのようじゃな。
 しかし、これを分類するなら魔道具じゃろ? 白い木でも作れたのか? 帰ったら、ちょっと実験してみても面白いかも? いや、作った本人が居るんじゃから、聞けばいいだけじゃ。

「うちの国では魔道具と呼ばれる物があるんにゃけど、これもそのひとつにゃ?」
「魔道具?」
「獣の角とかで作られる物にゃ」
「ああ。呪具の事か。それと同じ物と考えてくれていい」
「合ってるみたいだにゃ。でも、木で作られるにゃんて聞いた事がないにゃ」
「そうじゃな……まずは、お互いの道具の違いを確認しておこうか。呪具とは……」

 玉藻の説明では、呪具とは魔道具と似て非なる物だった。魔道具は魔法を入れて終わりなのだが、呪具は呪術を文字にして道具に刻み、持続性、使いやすさを高めているようだ。
 参考までに呪具を見せてもらうと、安物の素材で作っているのに、高価な素材で作られた魔道具より、やや劣るぐらいの性能になっていた。
 ちなみにキツネやタヌキ達は、葉っぱを模した呪具を使い、変身魔法を持続させているらしい。

「なるほどのう……国が違えば、これほど違うのか」
「そうだにゃ。こっちは素材が多いから、進化が止まっていたようだにゃ。それで結論から言うと、白い木だけでは呪具は作れないって事だにゃ」
「そうじゃ。宮司や巫女が呪文を描く事で、力を発揮する」

 あら、残念。これではうちで作れないな。じゃが、習えばいいだけじゃ。

「わしの……」
「そちの……」

 わしと玉藻の考えは同じだったらしく、声が重なる。なので、「どうぞどうぞ」と言い合って、わしから玉藻の考えを述べる。

「素材の輸入にゃ……」
「呪文の学習……」
「「意見は一致(じゃな!)だにゃ!」」

 それから長い話になりそうだったので場所を変え、様々な話し合いをしてから、おいとまするのであった。


 宿に戻る途中でコリスがじゃれて来たので、鴨川で遊んであげる。この数日、難しい話ばかりで飽きていたようだ。

 でも、あまり本気を出すと地形が変わってしまうから、ほどほどにしような? 魔法もバリバリ使わないで? 手加減って、前に教えたじゃろ?

 何度も衝撃音が辺りに響き、観客も増えて来たのでレフリーストップ。だが、久し振りに暴れられたコリスはご満悦になっていたので、もう数日は大丈夫だろう。
 池田屋に入ると、わしがボロボロでキツネ少女に少し驚かれたけど、夕食とお風呂をいただき、眠りに就くのであった。
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