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第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~
378 時計台を見学するにゃ~
しおりを挟む京の中心辺りにある時計台に向かったわし達は、受付に座るキツネ耳のお姉さんに料金を支払おうとする。
「わし達は田舎者で、京に初めて来たにゃ。出来たら館内の案内役が欲しいんにゃけど、無理かにゃ?」
「はい。少々お高くなりますが、可能どすえ」
「じゃあ、それでお願いするにゃ~」
支払いを済ますと待合室に通され、しばらく待っていたら、女性らしきデカいタヌキがのしのしとやって来た。何故、女性とわかるのかと言うと、女物の着物にかんざし、化粧をしていたからだ。じゃなきゃわからん!
「わだすが館長の里与です。本日の案内をさせていただきます」
何歳かまったくわからんけど、年配なのか? 半分が獣ならわかるんじゃけど、キツネとタヌキは見た目から判断がつかないから悩むな。しかしタヌキは京言葉じゃないけど、京の生まれじゃないのかな?
「初めてにゃんで、丁寧に説明してくれると有り難いにゃ~」
「そうですか。では、こちらから見て行きましょう」
タヌキ館長の案内でわし達は進み、各種説明を聞きながら歩くが、コリスが眠そうにしていたのでわしが背負い、襷で結んでもらう。その時、変身が解けない事を願うが、なんとか耐えているようだ。
ふ~ん……昔は日本も、砂時計を使っていたんじゃな。江戸にある最古の砂時計って書いてある。でも、これって……写真じゃよな?
「ちょっといいですかにゃ?」
わしは喋り続けるタヌキ館長の、言葉の途切れる瞬間に割り込む。
「なんですか?」
「この綺麗にゃ絵は、にゃんですか?」
「まぁ……写真も知らないのですか」
「にゃにぶんド田舎から出て来たおのぼりさんだからにゃ~」
「これからたくさん出て来ますし、写真の説明もしたほうがよさそうですね。こちらは……」
どうやら写真は、時の賢者とは関係なく、平賀家が独自に作ったようだ。昔は白黒だったけど、平賀家の長年の研究で、カラーまで漕ぎ着けたとのこと。
写真機はお高いらしく、一般家庭には普及していないので、持っているのは大名や豪商しかいないみたいだ。
「写真機って、どこに行けば買えるにゃ?」
「買うつもりですの? それほどお金持ちに見えませんが……」
「これほどの物にゃら、いつか故郷に持ち帰ってあげようと思ってにゃ。にゃん年掛かるかわからにゃいけど、後学の為に聞いておきたいにゃ~」
「そうですか……。この建物の一階で販売しているので、帰りにご覧になってください」
わしとの話が終わるとタヌキ館長は説明に戻り、マシンガントークでわし達を連れて歩く。
時の賢者の話ばかり出て来ると思っていたんじゃが、ほとんど平賀家を称える話じゃな。やれ何を作ったのだとか、やれ何をしたのだとか……
もしかしたら、このタヌキも平賀家なんじゃね? 案内を頼んだのは間違いじゃったかも……そのドヤ顔がうざいんじゃ!
わし達はタヌキ館長の説明に、若干うんざりしながら進み、最上階、時の間と言う部屋に入った。
「こちらが、時の賢者様の遺物を復刻した物になります」
タヌキ館長が指差す場所には、腕時計のベルトが無い物が置いてあるのだが、距離があって、いまいちよく見えない。
「にゃあにゃあ? こんにゃ遠くじゃ見えないにゃ~。盗んだりしにゃいから、もっと近くで見せてくれにゃ~」
「ダメです」
わしのお願いは、タヌキ館長に冷たく却下されたが、諦めきれないので説得を繰り返す。
「復刻にゃんだからいいにゃろ~?」
「ダメです」
「綺麗にゃお姉さんが持ってたら、安全にゃろ? それで見せてくれにゃ~」
「まあまあ、上手いこと言っても……ちょっとだけですよ」
いいんかい! とツッコミたいところじゃけど、ヘソを曲げられても困るから黙っておこう。おべっかに弱くて助かったわい。
タヌキ館長は掛かっているヒモを外し、展示してある時計を持って帰って来た。触るなと注意を受けてから、わし達は大きな手の平に乗った時計を熱心に見つめる。
ほう……ローマ数字を使っておるな。素材は鉄かな? それよりも、ロゴマークにビックリじゃ。「SEIMITSU」って、なに? わしの世界と微妙に違う……
そう言えば、時の賢者は千年前に転生したんじゃろ? それなのに機械時計なんて存在しているって事は、同郷の日本人なんじゃろうけど、わしの世界より千年先を進んだ世界なのかもしれん。
スサノオが恩恵をいっぱい与えたとか言っていたけど、時の賢者は機械時計を頼んだって事か……
待て待て。機械時計かどうか、まだ決まっておらん。
「これって、構造はどうなっているにゃ? 中身は見れないのかにゃ?」
「気になりますよね。それでしたら、あちらに詳しく書いてあります」
わし達はタヌキ館長に連れられ、歯車が並ぶ壁に移動して説明を聞く。
間違いなく機械時計じゃな。振動でバネまで撒けるとは、時の賢者の世界はかなり進んだ世界だったんじゃな。時計台は……手巻きか。大きいからそりゃそうか。
「そっちの時計は、両側に紐を通す穴が付いているけど、その先はどうしたにゃ?」
「遠い昔に火事で焼失したと聞いています。話では、炎で融けたと言われていますね」
融けたと言う事は、プラスチック製か。鉄製であれば、残っておるもんな。それぐらいならわしでも作れそうなんじゃけど、知識が無いと難しいか。
「時計も販売しているにゃ?」
「置時計、懐中時計も販売していますが、どれも高いのでお侍様には買えないでしょうね」
「まぁ立身出世でもしたら買うにゃ~」
「その時はお待ちしておりますね」
時の賢者の遺物を見せてもらったわし達は、奥の部屋に通されて、時計台の動力であろう大きな歯車の回る天井を見ながら一周回り、下の階に移動する。
「ここからは平賀家の展示になります」
お~。茶屋で聞いた通り、平賀源外は自力で電気を発見しておる。わし達の世界では、エレキテルの機械を直しただけなのに、源内より天才なのではないか?
その子孫は、電球やモーター。水力発電のダムに、蓄電池まで自力で発明したのか……タヌキ館長の説明より詳しく書いておる。でも、さっき聞かされていたから、驚き半減じゃわい。
街並みに加えてここまでで、この日本の文化レベルが明治後期から大正ぐらいだと見て取れるな。黒船が来なくとも、日本は近代化を迎える事が出来たんじゃな。
わしが感動して、うっすらと目に涙を滲ませて話を聞いていると、リータ達が声を掛けて来る。
「どうかしました?」
「泣いてるニャー?」
「あ、ああ。にゃんでもないにゃ。それにしても、電車には乗ってみたいにゃ~」
「キャットトレインと似てますけど、中身は少し違うみたいですね」
「私はカメラで綺麗な景色をいっぱい撮りたいニャー! シラタマ殿に作ってもらわなくてもここにあったなんてビックリニャ。買って欲しいニャー」
メイバイが興奮しておねだりすると、珍しくイサベレまでおねだりして来る。
「私は時計を陛下にプレゼントしたい」
「そうだにゃ~……値段を見てから、買うか職人を引き抜くか考えてみようにゃ」
そうしてわし達は、ほとんど平賀家の成り立ちのガイドをしてもらい、一階に戻って販売コーナーも案内してもらう。
そこでタヌキ館長にカタログを見せてもらい、懐中時計や置時計、写真機等の値段を確認する。
「たっかいにゃ~」
「だから言いましたでしょ?」
「じゃあ、職人を引き抜けないかにゃ?」
「それは平賀家が許しません。職人は全員、平賀家の本家と分家ですからね」
「それじゃあ仕方ないにゃ。お金を貯めて、また来るにゃ。案内ありがとにゃ~」
「またのご来場、お待ちしております」
タヌキ館長に礼を言って時計台見学を終了したわし達は、興奮冷めやらず、リータとメイバイと喋りながら移動する。
「凄かったですね~」
「カメラはそんなに高かったニャー?」
「そうにゃ。手持ちでは、一番安い置時計にも届かなかったにゃ」
お金が足りないと言うと、イサベレはがっかりした顔になる。
「残念。懐中時計、欲しかった」
「手持ちではにゃ。イサベレの給金がいくらかわからにゃいけど、うちの代表の年棒で買える程度だと思うにゃ」
「本当??」
「金貨を交換できたら手っ取り早いんだけどにゃ~」
そうしてお喋りしながら歩いていたら、大きな川に辿り着いた。
「わ! 街の中に川がありますよ!」
「東の国王都でもあったにゃ~」
「王都はここまで大きくなかったニャー」
「あそこ、大きな橋もありますよ!」
「ちょっと待つにゃ~」
リータ達が駆けて行くので、わしも走って追い付き、皆で石橋の中央にて川を眺める。
「はぁ……街にこんなに水があれば、飲み水に困らないですね」
「それに涼しいニャー」
「いまは北の森を切り開いているからにゃ。そこから猫の街まで川を引いたとしたら、京は街作りの参考になるかも知れないにゃ」
「まだまだ先になりそうですが、考えておいてもよさそうですね」
「せめて街の代表だけでも連れて来てあげたいんにゃけどにゃ~」
それからも川を眺め、わしは皆の質問に答えていく。
鴨川の名前はそのままだったが、橋の名前が七条大橋でわしは驚き、川に向けて飛び出たバルコニーの説明では、床はこの世界でもあるのかと目を潤ませる。
皆の質問に答えていたら、日がかなり傾いて来たので宿探しに取り掛かる。元々、質屋のキツネ店主から宿の集まる場所を聞いていたので、鴨川の方向に歩いて来たから、あとは楽チン。元の岸に戻って川沿いを歩けば到着だ。
あった! 池田屋!! ここだけは、わしの頭の中に地図が入っておったんじゃ。維新志士が新撰組に討ち取られた場所じゃからな。何度、大河で見た事か……
出来れば、坂本龍馬の暗殺された近江屋に泊まりたいんじゃが、かなり歩いたし、リータ達を付き合わせるのも申し訳ない。今から探して時間を掛けるのもなんじゃしな。
わしが感動して固まっていると、リータ達が入らないのかと促すので、暖簾を潜って池田屋に入る。
「おいでやす~」
すると、丁稚奉公で雇われていると思われる、少女だと思われる、着物を着たキツネが出迎えてくれた。わしと身長が同じくらいだから、少女で間違いないはずだけど、キツネでは、相変わらず歳がわかりかねる。
「五人にゃ。空いてるかにゃ?」
「あ、はい。夕食はどういたしましょうか?」
「まだ頼めるにゃら頼みたいにゃ。出来れば部屋で食べたいんにゃけど、いいかにゃ?」
「ちょっと聞いて来ます」
「ちょい待つにゃ。あと、お風呂はあるかにゃ?」
「はい。銭湯ほど広くありませんが、一階にあります」
「それを、にゃん時になってもいいから、貸し切りに出来ないかも聞いて来てくれにゃ」
「夕食とお風呂の貸し切りですね……わかりました!」
キツネ少女はパタパタと奥に消えて行き、しばらくしてわしの要望は全て通ったと戻って来た。
ただ、料金の上乗せがあるとキツネ少女が説明するので、いくらかを聞いたら余裕だったので、了承して部屋に向かう。
キツネ少女に案内されて部屋に入ると、コリスを座布団に降ろし、リータとメイバイと喋りながら部屋を物色する。
「いい雰囲気の宿ですね~」
「シラタマ殿の作った旅館に負けてないニャー」
「にゃはは。それは逆にゃ。こっちの宿をパクッて、わしが再現したんにゃ」
「だから似てるのですか!」
「はぁ……シラタマ殿の世界はなんでもあって凄いニャー。私もそんな所を見てみたいニャー」
「にゃはは。この京より進んだ文明にゃから、きっと驚くにゃ~」
「ここよりですか!? 私も見てみたいです~」
羨ましくわしの話を聞く皆であったが、料理の匂いに反応したコリスが目覚めると急に黙り、キツネ少女達が食事を並べる姿を静かに眺めるのであった。
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