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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~

371 一時帰宅にゃ~

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 わしは「にゃ~ん」と聞こえた鳴き声に体がビクッとなり、木の枝に寝そべる白銀の猫を見て、心の中でツッコム。

 と……虎じゃないんか~い! 白銀の猫じゃ。わしより大きな猫じゃ。尻尾の数は三本で同じじゃけど、威圧が凄い。【吸収魔法・球】を使っていても、わしより確実に強いとわかる。
 出会わないで済むならそれでいいとも思っていたが、出会ってしまったのならば仕方がない。会話をしてみよう。【吸収魔法・球】は、頭の部分を少し開けて……

「こんにちは~。いい天気でんな~」

 わしが念話で陽気に声を掛けると、白銀猫は応えてくれる。

「あ、やっと繋がった」

 やっと繋がった? もしかして、声を出す前から念話を繋ごうとしておったのか? それなら、わしに気付かれずに、ずっとつけておったのか……

「へ、変な魔法を使ってすみません! それに、勝手に縄張りに入った事も謝ります。申し訳ありませんでした!」

 わしが丁寧に謝罪すると、白銀猫はニヤリと笑って、枝から飛び降りた。

「なんだ。やる気ないんだ」
「め、滅相もございません。あなた様の強さは承知しておりますので、ケンカなんかしたくありません」
「じゃあ、なんでここに入って来たの?」

 うっ……鋭い目に変わった。超怖いんですけど~。何か言い訳をせねば!

「何日か前に、空の生き物にさらわれまして、向こう側に落とされてしまったのです。命はなんとか助かったのですが、巣に帰るにはここを通るしか無く、覚悟を決めて入ったのです」
「ふ~ん……帰りたいんだ~」
「はい! 巣には帰りを待つ子供もおりまして、わしが帰らないと飢えて死んでしまうかもしれません。どうか、どうか……見逃してください!」
「う~ん……」

 これでどうじゃ? 国民はわしの子供みたいなモノじゃから、嘘と言うわけではない。それにまだ、完全に種族間のトラブルは無くなっていないから、わしが必要なはず……はずじゃよね?

 わしが最近した仕事を振り返り、たいした仕事をしていなかったので若干自信を無くしていると、考え込んでいた白銀猫は答えを出す。

「いいよ~」
「あ、ありがとうございます!」

 わしは礼を言うと、トコトコと西に向けて歩き出す。

 ふぅ……とりあえず、白い木の群生地は無傷で抜けられそうじゃ。メイバイ達は会いたそうじゃったが、猫はいかん。絶対撫でるからな。
 浮気の心配をしてるわけじゃないぞ? ちょっとでも撫でる場所が気に食わなかったら、猫は手を出すからな。手首から先がポトリと落ちるのは必至じゃ。
 しかしこいつ……どこまでついて来るんじゃろう?

 わしは隣を歩く白銀猫に視線は送れず、気配と足音だけを感じながら歩く。だが、無言で歩き続ける事はわしの精神に悪いので、話し掛けてみる。

「あの~……」
「なに~?」
「空に魔法を撃つのは、いつもやっているのでしょうか?」
「そうだよ。あいつら、縄張りにうんこを落とすから迷惑なんだよ」

 うんこを落とすから殺していたの!? 四方から【咆哮ほうこう】が飛んで来ていたのは、全員一致の見解なのかもしれんな。

「それは迷惑ですね」
「そうだよ~。お父さんが居ないから、僕も頑張らなくちゃいけないから大変なんだよ~」

 ほう。父親と暮らしているのか……

「お父さんは、どこに行ったのですか?」
「さあ? たまにふらっと出て行くんだよね~。お母さんはどこかに子供を作っていないか心配してるよ~」

 母親は、ここに居るんじゃな。会いたい気はするが、下手に詮索せんさくするのもな~。

「あ! お母さん!!」

 うお! 会いたいなんて思ったせいで、フラグが立ってしまったか。

 わしは駆けて行く白銀猫の後ろ姿を目で追い、母猫が目に入ると目線を外せなくなる。

 おっかさん……

 母猫は、3メートルほどの体に、六本の尻尾を揺らす白銀の猫。色は違うがその顔に、わしはおっかさんを思い浮かべ、目に熱いものを感じて足が止まってしまった。

「あらあら。お友達?」
「うん! さっき友達になったんだ~」

 おっかさん……いやいや、まったく強さが違う。わしの十倍近くある。でも、あの暢気のんきな喋り方……

 わしが唖然としながら母猫を見ていると、母猫はわしに一瞬で近付き、顔を近付ける。

「どうしたの? 涙なんか流して……痛いところでもあるの?」

 母猫は優しい言葉を掛けながら、わしの顔をベロンと舐めた。

「う、うぅぅ……」

 その行為もおっかさんを思い出す行為だったので、わしは涙がとめどなく流れてしまった。わしの涙を見た母猫は、心配そうにわしを体で包み込んでくれる。

「何も怖がる事はないのよ」
「う、うぅ……すみません。自分の母親を思い出してしまって、涙が……」
「そう……お母さんを亡くしたのね。でも、大丈夫。あなたは強い子でしょ? 私にはわかるわよ」
「にゃ~~~」

 わしは母猫の優しさに、わんわんと……「にゃ~にゃ~」と泣いてしまうのであった。


 それから長い時間が流れ、ようやく気持ちを落ち着かせたわしは、母猫に謝罪をする。

「見ず知らずのわしなんかに優しくしてくれて、ありがとうございます」
「いいのよ。この子も泣き虫だったから、息子の小さい時の姿を思い出させてくれたからね」
「僕は泣き虫じゃないよ~」
「うふふ。そうだったわね」

 はぁ……みっともなく泣き過ぎた。まぁリータ達が居なかった事が救いじゃな。
 しかし、この大きさを見れば、虎と間違うのは納得じゃ。わしもおっかさんを虎かと思ったもん。
 尻尾も六本も生えている強者じゃから、一目見ただけで、人間など気絶してしまうかもな。だから記憶に、猫より凶暴な虎だと刷り込まれたのかもしれん。

 わしが親子のやり取りを、考え事をしながら眺めていると、母猫はわしをクンクンと嗅ぎ出した。

「あ……臭かったでしょうか?」
「いえ……どこかあの雄に似たにおいがしたから……どことなく、姿も似ている気も……」
「あの雄ですか?」
「ええ。私の番よ。う~ん……気のせいよね?」
「はい。あなた達のような綺麗な毛並みの生き物は、初めて見ました」
「うふふ。褒めてくれるのね。ありがとう」

 それから少し話をし、白銀猫親子と別れを告げて、わしは白い木の群生地を突破したのであった。


 また来い……か。行きたいのは山々じゃが、わしは立派な大人じゃ。母の愛に飢えていない。たまたま思い出して甘えてしまっただけじゃ! わしは誰に言い訳をしてるんだか……

 そうしてしばらく北に走り、群生地から十分離れるとマーキングして、里の近くに転移。リータ達と合流すると、白銀の猫の話をする。
 当然、会いたいと言われたが、会わせると命の心配があるので、もう少し仲良くなったら話をする方向で納得してもらった。
 リータ達との話が終わると、その話を聞いていたヂーアイ達に話を振る。

「にゃんでいつも、普通にわし達の食卓に居るにゃ?」

 わし達の食事が気に入ったヂーアイとリンリーは、夕食には必ず顔を出す。他の時間もちょくちょくやって来て、無言で見つめ続けるから、仕方なく出してやっている。

「うちも宴で食べさせてやったんだから、等価交換さね」
「それは黒い獣で相殺にゃ~!」
「そう言えば、西の獣は猫だったんさね。驚きさね~」

 無理矢理話を変えるなよ……でも、気になる事がひとつあるから乗ってやるか。

「子供が産まれると、魔力を持って行かれると聞いたけど、双子の場合はどうなるにゃ?」
「双子さね……そんな事例は少ないけど、母親はその場で死ぬか、生きていても、しばらくは寝たきりが続くさね」
「うちは三つ子なんにゃけど、おっかさんは特にそんにゃ感じはしなかったにゃ」
「一気に三匹も産んだんさね!?」
「そんにゃに驚く事にゃの?」
「獣の事はわからないけど、母親は確実に弱っていたはずだ」

 獣の事を、人間に聞いたところでわからんわな。いや……キョリスはおっかさんに逃げられたような事を言っておったな。
 あの時は何も不思議に思っておらんかったけど、強さの差から見て、おっかさんが逃げ切れるわけがない。もしかしたら、おっかさんはもっと強かったのかも? わし達を産んで、アレでも弱っていたのか……

 わしが物悲しそうな目で遠くを見ていると、ヂーアイが何かを思い出したのか、目を見開いた。

「一件だけ、母子が通常の出産で乗り切った事があったさね。その父親はこの里、一番の強者だったんだけど、まぐわいの際に変な事があったと言っていたらしいさね」
「変にゃ?」
「力が母親に吸い取られたとかさね。あ、そう言えば、わたすの旦那も同じ事を言ってた気がするさね。それだけわたすのモノは名器……」
「ババア! もういいにゃ!!」

 なんちゅう下ネタをぶっ込んで来るんじゃ。幼い子も聞いておるんじゃから、野人のちんこの時みたいにオブラートに包まんか。リータさん達も、こっちを見ないでください。
 つまり、母親と父親の魔力が流れ込んで、死には至らなかったのか。ヂーアイの娘も白い髪だと言っていたし、二人の魔力が流れ込んで、白い一族にレベルアップしたって事かな?
 白銀の母猫の嫌な予想は、ひょっとしたら当たっているのかもしれん。あれほどの力があれば少しぐらい分け与えても、周りと力が違い過ぎるから、なんともないじゃろう。
 わしの父親か……

 そうして物思いにふけながらゴロゴロ喉を鳴らし、夜を明かすわしであった。




 翌日……

 里の入口で、わし達は多くの住人に見送られる。

「それじゃあ、売れたらまた来るにゃ」
「ああ。その時は、多くの土産を期待しているさね」
「売れたらだからにゃ~? 出来るだけ頑張るけど、少なくても怒るにゃよ~?」
「わかっているさね。でも、あんたならいいようにしてくれると信じているさね」
「期待し過ぎにゃ~」

 わしとヂーアイの挨拶が終わると、リンリーが近付いて来る。

「うふふ。大婆様に、えらく気に入られたわね」
「ババアはいらないにゃ~」
「じゃあ、私ならどう?」

 リンリーの色仕掛けにわしが後退あとずさると、リータとメイバイが抱き上げて助けてくれる。

「近付かないでください!」
「シラタマ殿は、私達の夫ニャー!」
「あはは。冗談よ。でも、外にあんなに美味しい物があるなら、猫さんに嫁いで連れ出して欲しいぐらいよ」

 田舎娘の憧れ、白馬に乗った王子様ってやつか? 残念ながら、わしは白い毛皮の猫様じゃ。期待には応えられん。二人の抱き締めが苦しいし……


 多少のトラブルはあったが、わし達は手を振る里の者に見送られ、西に移動してから転移する。
 着いた場所は、猫の街近辺のわしの隠れ家。殺風景な四角い建物だが、転移魔法を人に見られる心配は無い。そこから走って街に入ると、わしの帰りに喜ぶ住人に手を振り、役場に足を踏み入れる。

「「本当に帰って来たのですわね……」」

 役場では、わしの帰りを聞いたであろう双子王女の迷惑そうなシンクロ攻撃で、ハートはブレーク。わしの尻尾が下に垂れる中、双子王女はイサベレの手に持つモノに興味がかれた。

「白い髪の女の子……」
「どことなくイサベレに似ている……」

 双子王女は、オニヒメとイサベレの顔を交互に見てから、わしに焦点を合わせる。

「「シラタマちゃんとイサベレの子供!?」」
「違うにゃ~~~!!」

 ゴシップ好きの双子王女の変な勘繰りに、説明が長引くわしであったとさ。
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