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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~

367 準備完了にゃ~

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 ヂーアイからの依頼をこころよく受けたわし達は、朝ごはんを済ませ、準備に取り掛かる。


 わしは白い着流しに刀を差して準備完了。

 リータは白い巨象の服に包まれ、鎖付きの盾を担いで準備完了。

 メイバイも白い巨象のメイド服に包まれ、二本のナイフを腰にぶら下げて準備完了。

 イサベレは白い巨象の軽鎧に、腰にレイピアを下げて準備完了。

 コリスは頭に魔道具の付いた赤いリボンを結び、ドーナツで頬袋を膨らませて準備完了?


 とりあえずは準備が整ったので、白い屋敷の正門に移動する。そこには、頼んでもいないのに多くの住人が集まっており、道の両端に並んでいた。
 その中央には車イスに座ったヂーアイと、それを押すリンリーの姿があった。

 わし達は道の真ん中をズカズカと歩き、二人に声を掛ける。

「にゃんか仰々しいにゃ~。これから祭りでもするにゃ?」
「いや。これで最後になるかもしれないから、見送りに来たんさね」
「憎まれ口が好きだにゃ~。心配せずとも、わし達は戻って来るにゃ。にゃ?」

 わしが振り向くとリータ達は頷き、返事をしてくれる。

「「「「にゃ~~~!」」」」

 力強い返事をしてくれたけど、普通でいいんじゃぞ?

「……そうかい。任せたさね」
「それじゃあ、行って来るにゃ~」

 わしは手をヒラヒラと振りながら、ヂーアイの横を通り過ぎる。リータ達もふた手に分かれて通り過ぎ、わしと共に堂々と道を行く。
 そうすると、道に並ぶ住人から激励の言葉が多数聞こえて来た。

「頼んだぞ~」
「負けるな~」
「がんばれ~」
「死ぬな~」
「猫じゃなくて、タヌキじゃね?」

 その声を聞きながら、わしはリータに首根っこを掴まれて運ばれる。首根っこを掴まれていた理由は、タヌキと言った奴の犯人探しをしようとしたら、止められたからだ。

 住人の声が遠のき、外壁から外に出ると、走り出そうとする。

「シラタマさん。行かないのですか?」
「……行くにゃ」

 リータの質問に、わしはキョロキョロと進むべき方向を確認する。

「まさかシラタマ殿……」
「そんなまさかな事はしませんよね?」

 どうやらメイバイとリータは、気付いてしまったようだ。

「ほ……」
「「ほ?」」
ほこらの位置を聞き忘れていたにゃ~!!」
「「やっぱり……」」

 二人にジト目で見られたわしは、この里での会話の内容を必死に思い出す。

「えっと……たしかリンリーが、獣の巣が南にあるって言ってたよにゃ? そこかにゃ??」
「正確な場所は?」
「歩いてたら見つからないかにゃ~?」

 わしは質問するが、二人の目が冷たい。

「ほら、戻って聞いて来てください」
「え~! あんにゃに大々的に送り出された所に戻りたくないにゃ~」
「シラタマ殿のミスなんだから、さっさと聞いて来るニャー」
「え~! みんにゃも一緒に聞いていたんだから同罪にゃ~」

 わしが二人から責められ、「にゃ~にゃ~」と言い訳をしていたら、救世主が現れる。

「あなた達、まだこんな所に居たの!?」

 リンリーだ。どうやら、わし達が心配で見に来たようだ。なので、事情を説明して案内役になってもらった。

「あんなにかっこつけて出て行ったのに……」

 走りながらブツブツ言っているリンリーに続き、わし達は苦笑いでついて行くのであった。


 それから十数分後、リンリーが止まれと言うので、わし達は止まって進行方向を見る。

「もう着いたにゃ?」
「ええ。この道を真っ直ぐ行くと、祠があるわ」

 道? 獣道はあるけど、道とは言い難いな。長い年月、野人が住み着いていたから整備が出来ておらんのかな? これでは、案内役が居なくてはわからんかったな。

「わかったにゃ。それで、リンリーもついて来るにゃ?」
「……そうね。あなた達の戦いを見させてもらうわ」
「じゃあ、コリスから離れないようにしてくれにゃ」

 リンリーがコリスの背中にモフッと抱きつくと、わしを先頭にゆっくり進み、森が切れた先に、たくさんの白い木と、いまにも崩れ落ちそうな白色の木造家屋が現れた。

 あれが祠か……どちらかと言うと、やしろと言ったほうが正しそうじゃ。祠って聞いていたから、こじんまりした木の箱を想像しておったわい。念話でも、言葉の意味が若干違っていたのかな?
 しかし、野人の姿も無ければ探知魔法にも引っ掛からん。どこにおるんじゃ? ……ん? アレは地下か? 社の中央辺りが、暗くなって穴があるように見える。

「どうします?」

 わしが祠を観察していると、リータが質問して来た。

「周りにはそれらしい影は無いから、野人は地下にいると思うにゃ。わしが一人で入って誘い出すから、みんにゃは待機しておいてくれにゃ」
「はい」

 わしはそれだけ言って、トコトコと祠に近付き、地下に続く階段を静かに下りる。

 ここもボロボロじゃな。階段もほとんど崩れて坂になっておる。それにしても、小さな【光玉】だけでは先がまったく見えないから、かなりの長さがありそうじゃ。
 祠の後ろには白い木が群生していそうじゃし、その真下に来るように穴を掘ったのかな? なんの為に掘ったんじゃろう? 気になるし、帰ったら教えてもらうとするかのう。

 わしがトコトコと奥に奥にと進んで行くと、大きな声が聞こえて来た。

 マズイ! 【光盾】!!

 わしが光の盾を前方に出した直後、エネルギー波に包まれ、一気に地下道から弾き出されてしまった。

 くっ……この!

 防御は間に合ったが空に消えて行きそうなくらいの力であったので、わしは【光盾】と【突風】を操作して、無事、地上に降り立つ。

 なんちゅう攻撃をして来るんじゃ! 地下道が崩れ落ちてもおかしくないぞ!!

 そうしてわしがいきどおっていると、リータ達が心配して駆け寄って来た。

「シラタマさん。いまのは?」
「たぶん野人の攻撃にゃ」
「大丈夫ニャー?」
「ビックリしたけど大丈夫にゃ。……それより出て来たにゃ!」

 わし達が話し合っている最中、地下道を四つ足で走る生物が確認され、凄いスピードで飛び出し、立ち上がって叫ぶ。

「ぐわああぁぁ!!」

 デカイ……5メートルを超える人間じゃ。どうしたらそれほどの巨体になるんじゃ? 聞いていた通り白く長い髪の毛じゃけど、イサベレも、5メートルぐらいに成長するのかな?
 う~ん……イサベレのそんな姿は見たくない。角も変な生え方じゃし……。四方に四本の角。真ん中にぶっとい角が一本。王冠のつもりか?
 それも気になるが、尻尾が二本あると聞いていたけど尻尾じゃね~し。ちんこじゃし……しかも三本もあるぞ? 裸じゃから、ご立派な物がブラブラしておる。
 ヂーアイもちんこと言いたくなかったから、尻尾と言ったのか? 三百歳の妖怪ババアなんじゃから、ちんこ如きで恥ずかしがる事もなかろうに……

 見た目から強いとはわかるんじゃけど、強さがまったくわからん。隠蔽魔法を使っておるのか? と言うか、魔法が通じない理由と関係しているから、わからないのかもしれんな。


 野人は叫んだあとはわし達を睨み、一通り見ると、イサベレをずっと見つめている。

 本当にイサベレに興味を示しておる……。絶対、わしとコリスのほうが、見た目は面白いはずなのに……負けた。

「がうっ!」

 わしが肩を落とした瞬間、野人はいきなりイサベレに向かって走り出した。
 皆も警戒を解いていなかったので、すぐに得物を構えて臨戦態勢。だが、その接触より前に、わしがネコパンチを顔面に入れて、殴り飛ばしてやった。

「みんにゃは、祠に仲間がいにゃいか確認してくれにゃ。行って来にゃ~す!」

 それだけ言うと、わしは野人の吹っ飛んで行った方向に走り出すのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 シラタマが走り出した直後、リンリーはほうけながら、シラタマの後ろ姿を目で追っていた。

「あんなに大きさが違うのに、簡単に吹っ飛ばした……」

 里の者、全ての強者を倒した化け物だ。野人の五分の一しかない小さな猫の力に驚いてしまっても仕方がない。

「リンリーさん。行きますよ」
「あ、はい!」

 祠の調査を任されたリータ達は、リンリーに一声掛けて歩き出す。そうして地下道にまで進むと、順番を決めて中に入る。
 先頭はリータ。その後ろにイサベレ。先ほどシラタマが喰らった攻撃が来たとしても、イサベレが気付いてリータの盾で守れる配置だ。
 続いてリンリー、メイバイ、最後尾にコリス。野人が戻って来た時の為に、コリスは最後尾に配置したようだ。

 リータ達は魔道具の光を頼りに地下道をゆっくり歩き、奥へ奥へと進む。すると、奥に光を確認し、皆にも注意を促して、よりいっそうの警戒を持って進む。
 警戒しながら歩き、徐々に明るくなる中、地下道の先にはポッカリと空いた広い空洞が現れた。

「イサベレさん。脅威はないですか?」
「ん。この空間には何も無い」
「そうですか……」

 イサベレの危険察知に反応は無いようだが、それでも警戒を解かないリータ達。ひと塊で動き、空洞を調べ始める。

「食い散らかされた骨ばっかりニャー」
「そうでもないですよ」
「何か見付けたニャー?」
「壁です。全て魔道具じゃないですか?」
「あ! 本当ニャー。だから地下なのに、これだけ明るいんニャー。でも、シラタマ殿の作った魔道具より光が弱いニャー」
「どうなっているんでしょうね」

 リータとメイバイは警戒しながらも喋っていると、珍しくイサベレがリンリーの表情の変化に気付いたようだ。

「どうかした?」
「懐かしいと感じまして……」
「懐かしい?」
「私は産まれて数ヵ月はここで暮らしていたのですけど、その記憶は無いはずなのに、何か覚えている気がするんです。変ですよね?」
「ん。へん」
「あはは。やっぱりですか」
「でも、私もそんな経験はある。行った事も無い場所を懐かしむような……。ここも、少し懐かしく感じる」
「イサベレさんも変ですね」
「ん」

 そうして皆が喋りながら先に進み、一番奥の、こじんまりした木造の白い建物の前で止まる。

「ここはなんですか?」

 リータはリンリーに建物の正体を尋ねた。

「たしか、産屋うぶやと聞いています。出産した人と赤ちゃんも、しばらく滞在する場所です」
「なるほど……」

 リータは皆に警戒するように告げてから、盾を前に構え、建物の引き戸に手を掛ける。そして、皆に開ける旨を念話で伝え、カウントダウンをして、一気に引き戸を開けた。
 そのリータの行動で引き戸は遠くに飛んで行き、ホコリが舞い上がる。ホコリが舞う中、リータは建物の中を注視し、小さく呟く。

「え……うそ……」


 リータが驚いて固まっていると、皆も建物の中を覗き込み、同じく驚く事になるのであった。
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