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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~
360 お偉いさんと交渉にゃ~
しおりを挟むリンリーが仲間と話をしている間に、わしは戦闘機に戻って皆を降ろす。そこで、先ほどのやり取りを説明しながら、皆とお茶をする。
「ついに人を見つけたのですね……。なんだか、メイバイさんと雰囲気が似てます」
「そうだにゃ。おそらく、ここに住んでた人が、西に流れて行ったんじゃないかにゃ?」
「私と同じ……でも、耳が違うニャー」
「そりゃ、メイバイには猫の血が混ざっているんにゃもん。全てが一緒じゃないにゃ」
「亡くなった皇帝さんにそっくりです……」
「あ! たしかに、ここと一緒でエルフみたいな耳をしてたニャー」
「皇帝とここの人は、そういう人種なのかもにゃ~。おっと、リンリーが戻って来たにゃ」
リータとメイバイの質問に答えていたわしは、皆の代表としてリンリーに歩み寄り、話し合いはどうなったかを聞く。
「どうにゃ? 泊めてくれるにゃ?」
「いちおうは……」
「いちおうにゃ?」
「そっちのコリスちゃんはダメみたい」
「え~! コリスもわしの家族にゃ~。離れ離れはかわいそうにゃ~」
「そうは言っても、白い獣は危険なんだから、里に入れるわけにはいかないのよ」
「……獣じゃなかったらいいかにゃ?」
「え? どう言うこと?」
「コリス~。こっちおいでにゃ~」
わしが手招きすると、コリスは嬉しそうにわしに駆け寄り、モフッとダイブする。その姿が怖かったのか、リンリーは後退った。
わしは怖くないと弁明しながらコリスを撫でまくり、変身魔法を使わせて、さっちゃん2になってもらった。コリスはこの一年で魔力量も増え、変身の維持できる時間も延びているので、いまから使っても夜まで余裕で持つ。
「尻尾のある人になった……」
「これでいいかにゃ?」
「も、もう一度、確認して来るわ」
リンリーはコリスの姿に驚きながら離れ、仲間との相談が終わると戻って来た。
「やっぱりダメだったわ」
「そうにゃんだ……」
「と言うより、私達だけでは判断できないのよ。里に着いたら、長の大婆様と掛け合ってくれる? もしかしたら、許可が下りるかもしれないわ」
「にゃるほど。わかったにゃ~」
そうして、さっそく里へ向かう事となったので、戦闘機や出した物を次元倉庫に入れたら、リンリー達に驚かれた。
どうも収納魔法自体を知らないらしく、説明に時間が掛かりそうなので、適当に説明して案内をさせる。
どうやって向かうのかと見ていたら走り出したので、わし達も遅れまいとそれに続く。
リンリー達は慣れているのか、かなりのスピードを出して木を縫って走るが、わし達も慣れていたので、問題なくついて行く。
しばらく走り、黒い木を抜けた先に、黒い壁が出現した。
ほう……里を全て、黒い木の板で囲っているのか。入口は……あっちか。
リンリー達について走ると、黒い板で作られた門に到着し、そこで待つように言われた。なので、テーブルセットを取り出し、おやつを食べて待っていると、門から続々と人が出て来た。
そして最後に、四人のスキンヘッドの男が担ぐ神輿のような乗り物の上に座る小柄なお婆さんが出て来て、ゆっくりと降ろされた。
わし達はその光景をぺちゃくちゃと喋りながら見ていたが、リンリーに呼ばれて、お婆さんの前に座る。
しわくちゃなババアじゃな。何歳じゃ? 軽く百歳は超えていそうじゃけど、イサベレじゃあるまいし、そんなわけはないか。
わし達が座るのを待ってお婆さんは口を開くので、わしは慌てて念話を繋ぎ、耳を傾ける。
「お前達が、空から落ちて来た来訪者かい?」
「そうにゃ。わしはシラタマと申すにゃ」
「……立って歩くなんて、変わった猫さね」
「わしの国では普通にいるにゃ。ところでお婆さんのお名前をお聞きしてもよろしいかにゃ?」
「ああ。そうさね。わたすはこの里の長、ヂーアイさね。ピチピチの330歳さね」
さ……330歳じゃと?? 年齢にも驚いたが、330歳をピチピチと言いよった!
「えっと……本当に三百年も生きてるにゃ?」
「若さの秘訣を知りたいのさね?」
「どこに若い部分があるんにゃ!」
あ……ついツッコんでしまった。里の者に睨まれておる。口からも出てしまったから、怒鳴っていると思われたか?
「ヒッヒッヒッヒッ。わたすにそんな口を聞く奴は、何十年ぶりさね。本当に面白い猫さね」
セーフ! ババアが笑ってくれたから、お咎めは無しっぽい。しかし本当に三百年も生きているかを知りたい……
「それより、泊める代わりに肉や塩を譲ってくれるらしいね。どれぐらい譲ってくれるんだい?」
おっと。ババアに話を取られてしまった。これでは年齢をツッコめん。ま、どうせ一年が短いカレンダーを使っているじゃろうし、先に交渉を進めるか。
「そっちが決めてくれにゃい? コリスを里に入れるのも込みで考えてくれにゃ。コリス~。変身魔法を解くにゃ~」
「わかった~」
コリスが変身魔法を解くと、さっちゃん2から、2メートルを超えるリスが姿を現す。その姿に、大きな騒ぎが起きるが、ヂーアイだけは微動だにしなかった。
「だまらっしゃい! この程度の獣に、何を騒いでいるんだい!!」
ヂーアイの一喝で、里の者は口を閉ざす。その静まり返る中、わしが念話で話し掛ける。
「じゃあ、コリスも中に入っていいにゃ?」
「それは支払いしだいさね。ヒッヒッヒッヒッ」
このババア……いい奴かと思ったが、強欲ババアっぽいな。
「で? 支払いは、いかほどにゃ?」
「そうさね……六尺の獣を十匹でどうさね?」
「尺にゃ?」
「そんな事も知らないのかい。人間の大人ぐらいの大きさを十匹さね」
尺って、日本の古い単位で、30センチじゃろ? 六尺って事は、180センチ……成人男性ぐらいじゃから、尺は30センチで間違いなさそうじゃ。まさか言語が違うのに、日本と同じ単位が出て来るとはビックリじゃわい。
「それは黒い獣かにゃ?」
「ああ、そうさね。それ以下は認めないよ」
「わかったにゃ~」
「へ……?」
わしは次元倉庫に入っていた黒い獣を、大きい物で5メートル。小さい物で2メートルの獣を十匹。わし達の後ろに積み上げてやった。
「これでいいにゃろ? あとは塩と砂糖だったにゃ。こんだけ払ったんにゃから、塩と砂糖は物々交換にゃ」
「ま、待った!」
わしが物々交換を求めると、ヂーアイは慌てて止めに入るので、惚けて答える。
「にゃに?」
「獣は半分でいい。その分、塩と砂糖を譲ってくれ」
「にゃはは。吹っ掛け過ぎたと、自覚はあったみたいだにゃ」
わしの発言で、今まで線みたいな目だったヂーアイの目が、カッと開く。
「わかっていたのかい!?」
「そりゃそうにゃ。こんにゃ隔離された空間で、一番価値があるのは塩だからにゃ」
「それじゃあ……」
「無理にゃ。適正の量にゃら払うのは拒まなかったんにゃけど、そこまで強欲だとにゃ~……あ、奪うのもやめておいたほうがいいにゃ。魔法……さっき獣を出したにゃろ? その中に入っているから、もしも殺したら取り出せなくなるにゃ」
わしは魔法がわかってもらえないと思い、わかりやすく忠告すると、ヂーアイは悔しそうな顔に変わった。
「くっ……思ったより賢い猫さね」
「交渉でわしに勝とうなど、百年早いにゃ~。にゃははは……」
ん? 婆さんはまだ生きるのかな? それならいつか追いつかれそう……それはないよな??
「わかった。一番大きい獣だけもらって、あとは塩と砂糖を分けれるだけ分けておくれ」
「う~ん……塩と砂糖はそれでいいけど、獣は全部あげるにゃ」
「いいのかい?」
「まだまだ余っているからにゃ~。その代わり、にゃんかわしが欲しがる物は分けてくれにゃ。ひとつしか無い物は取らないから安心するにゃ」
「交渉成立さね」
ヂーアイはそう言って立ち上がると、周りからどよめきが起こる。皆は交渉成立に驚いたのかと思ったが、立ち上がって歩いている姿に驚いているようだ。
車イスに座る少女じゃないんだからとツッコミたくなったわしであったが、どうせツッコんだところでわかってもらえないだろうと、自重して握手を交わす。
そうして、出した獣は保管が出来ないから必要な物以外は、もうしばらく預かる事となった。それから里の中に通してもらい、ヂーアイの乗る神輿を先頭に、わし達はついて歩く。
里の中に入ると、わし達は辺りをキョロキョロ見て歩き、リータとメイバイがわしに質問して来る。
「アレは水田ですかね?」
「畑もあるニャー」
「この先に黒い壁のような物も見えるし、さっきのは外壁だったんだにゃ~」
門を潜った先は田畑が広がり、ここで生活に必要な食糧が作られている事が見て取れる。
「猫の街と作りが似てますね」
「広さは……五分の一も無いかニャー?」
「そこまで人口は多くないのかもにゃ」
そうしてぺちゃくちゃと感想を言い合い、内壁に入ると、黒く塗られた風景が目に飛び込んで来た。
「なんだか凄いですね」
「真っ黒ニャー」
「木造建築みたいだにゃ」
建物には全て黒い木が使われており、地面の茶色と植物の緑はあるものの、黒が目立ち、わし達は文化の違いを実感する。
その景色を眺めながら歩き、里の中央広場に連れて行かれたわし達は、歓迎の宴を開いてくれると言うので、その場で待機する。
ヂーアイもその場に留まり、わしへの支払いの物を、住人に持って来させるように指示を出していた。
そうして続々とわしの元へ物が集まるのだが、面白い物が見付からない。
木彫りの鳥? いらん。木彫りのウサギ? いらん。木彫りの猫? いらんと言っておろう! 木彫り以外の物を持って来て!!
それでもろくな物が集まらないので、食材に絞って持って来させた。
米はあるからいらん。この草は……雑草じゃね? こっちの粒は……辛っ! なんちゅうもんを食わせるんじゃ! 辛いって言った? それはすみません。毒草を笑顔で持って来るな!!
結局、たいしてわしを喜ばせる物が見付からない中、宴が始まった。
里の者は酒を片手に、至る所で肉を頬張って嬉しそうな顔をしている。聞いたところ、獲物が少ないので、空から鳥が降って来る恵みの日ぐらいにしか、肉を多く食べられないそうだ。
しばらくその光景をリータ達と話しながら見ていると、同じ席に居たヂーアイが割って入って来た。
「我が儘な猫さね」
「にゃにが?」
「あれだけの品を見て、全然受け取らなかったじゃないか」
「あぁ……この里ではいい物かもしれにゃいけど、わしの暮らす場所ではガラクタも同然にゃ」
「ガラクタとは酷い言いようさね」
「すまないにゃ。でも、受け取った物とは別に、塩と砂糖を払ってるんにゃから感謝しろにゃ」
「たしかにそうさね。ありがとよ。それにしても、あんなに塩を持ち歩いているなんて、どこで手に入れたんだい?」
塩は、この旅で必要になるかと思い、塩湖に行って集めていた物だ。森の中に人が居るのなら、物々交換で使えるかもと思っていたが、正解だったようだ。
「言ったところで、わししか取りに行けないから聞くだけ無駄にゃ」
「そうかい……では、あんたが何者かだけ聞かせてくれるかい?」
「信じられるかどうかわからにゃいけど、わしは王様にゃ。遥か西、森を抜けた場所にある、猫の国の王様にゃ」
「王様……。皇帝ってことかい?」
「それで合ってるんにゃけど、皇帝にゃんて言葉、にゃんで知ってるにゃ?」
「ああ。その昔……」
わしの質問に、ヂーアイは昔話を語り始めるのであった。
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