362 / 755
第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~
357 確信にゃ~
しおりを挟むわしの出したドロっとした液体を、管でチューチューと吸う白カブトムシは、凄い勢いで吸ったものだからあっと言う間に吸いきり、催促して来たので、もう一度同じ量を献上する。
やはり好物じゃったか。ハチミツは……。今度はもったいぶって、少しずつ吸っておるな。木の樹液より格段にうまいはずしゃから、貢物として持って来いだったみたいじゃな。
しかし、あの巨体で樹液なんて吸えるんじゃろうか? もしかしたら、数百年ぐらい樹液断ちをしておったのかもな。
わしが美味しそうにハチミツを吸う白カブトムシを見ていたら吸いきり、物欲しそうな顔で見て来たので、頃合いと見て交渉に乗り出す。
「それでどうじゃ? 夜の間だけ、仲間と共に泊めてくれんか? もちろんお前の縄張りを汚す事はしない」
「むう……もっとくれたら許可しよう」
「もっとと言われても、手持ちは少ないんじゃ。全部やるから、それで勘弁してくれんか?」
「う~ん……わかった」
「交渉成立じゃな!」
立場が変わり、わしが強気に出ても白カブトムシは容易に許可してくれた。なので、ハチミツの入った壺を差し出し、チビチビ吸っている間に、わしはリータ達を呼びに行く。
人型に戻ったわしは、皆と共に白カブトムシの前に顔を出し、晩ごはんを食べながらペチャクチャと話をする。
「おっきいですね~」
「白い巨象みたいニャー」
「これぞ、山だにゃ~」
リータとメイバイは、白カブトムシの大きさに感嘆の声をあげている。
「おかわりは~?」
「その頬袋の物を食べたらあげるにゃ」
コリスはお弁当が足りなかったのか、催促して来る。
「凄く強い……どうやって従わせたの?」
「食べ物で釣ったにゃ」
イサベレは緊張しているのか、白カブトムシの安全性を問いただす。
皆は別々にわしに話し掛けるので大変だ。それでもなんとか応え、食事が終わるとお風呂にする。
今日は危険な生き物は目の前にいる白カブトムシだけなので、皆で入る事にした。て言うか、イサベレの目が怖かったので、リータ達に守ってもらう作戦に出た。
「シラタマさ~ん?」
「手をどけるニャー」
「ここも気持ちいいと聞く」
「いにゃ~ん! 触らにゃいで~!!」
結局、あらぶる乙女達にわしはおもちゃにされ、あんなところやそんなところを撫でられてしまう。
コリスに助けを求めたものの、小首を傾げるだけ。なので、卑猥な所を触ろうとする魔の手は、尻尾でペチペチ叩いて回避するのであった。
お風呂から上がって綺麗さっぱりになるとバスを取り出し、わしはもう一度白カブトムシと話をして来ると言って、怪しく目を光らせて布団に入るように促すリータ達から逃げ出した。
うぅ……イサベレにわしの黄門様をイジられた。危険察知は助かったが、夜の危険が高まってしまった。どうしたものか……
わしは気持ちを落ち着かせながら歩き、白カブトムシの目の前まで行くと、ドサッと座ってあぐらを組む。
「お前も一杯どうじゃ?」
そして清酒をコップに注いで白カブトムシの前に置く。
「変な匂いだな」
「まぁさっきの物とは違うからな」
「試してみよう」
白カブトムシは酒を少し吸うと、渋い顔をしたかどうか読み取れないが、それでもチビチビと吸っているので、悪くはないようだ。
「それでなんじゃけど、昔に、この辺でわしに似たような生き物を見なかったか?」
「昔か……」
白カブトムシは思い出そうとしているようなので、ヒントになるかもしれないから、わしは猫又の姿に戻る。
「う~む……見た事があるような……」
「地が割れ、木が燃えた事があったはずなんじゃが……」
「むっ……あった!!」
「それじゃ!」
「たしかに、お前に似た奴が騒いでいたな」
白カブトムシは記憶を手繰り寄せて話を聞かせてくれた。
それは遠い昔、白カブトムシが良い住み処を探していた頃の話。転々と森を移動していたら、大きな音が聞こえて来たそうだ。
気になった白カブトムシは空から偵察を行い、現場に到着すると、生き物の戦いはちょうど終わったところだった。
そこには、二匹の白い生き物が横たわっており、一匹はクワガタに似た形をしていて、もう一匹はわしによく似ていたとのこと。
白カブトムシは森が無くなっていたので、酷い事をする奴がいたもんだと嘆いたそうだ。
ここには住めないと、白カブトムシは目星を付けていた場所に戻ろうとしたその時、二本足で歩く生き物が、わしに似た生き物を抱えて走り去ったらしい。
おお! 繋がった!! 人間がどこに向かったかはわからんみたいじゃが、おそらく西じゃろう。予想じゃと、森に押されてジリジリと西に移住し、現在の猫の国にまで流されて来たんじゃな。
白クワガタを殺してしまって失敗したが、これだけ情報を仕入れられたんじゃ。白カブトムシとは戦闘にならなくてラッキーじゃったわい。
わしは酒を飲み干すと礼を言って、白カブトムシの元を離れる。
猫又のまま寝たほうが安全かもと考えながらバスに戻ると、その前にはイサベレが座って待っていた。
「どうした? 眠れないのか?」
「ん。こんなに強い敵が近くにいると、胸がざわざわする」
「そうか。二人はどうした?」
「疲れて寝てる」
お! これなら犯される心配が減るな。あとはイサベレをなんとかするだけじゃ。
わしはまた酒を取り出し、コップに注いで飲むように促す。
「私を酔わせて何するつもり~?」
うん。進歩が無いな。棒読みのままじゃ。
「別に何もせんわい」
「ガーン」
落ち込んでる事を表現しているようじゃが、無表情のままじゃから伝わらんのう。
「それでどうじゃ? 自分より強い者と助け合う旅は」
「まだ一日。でも、悪くはない」
「そうじゃったな。これからさらに敵は強くなるから、夜はしっかり休んで欲しいんじゃ。わしも疲れたままで、強敵とあいたくない。皆を守れなくなるからのう」
やんわりと夜の営みを拒否してみたが、どうじゃ?
「……たしかに毎日ヤリまくったら疲れる」
通じたようじゃが、もうちょっとオブラートに包んで欲しいのう。
「ダーリンとの旅が嬉しくてはしゃいでいた。自重する」
やった! これで犯される心配が減ったぞ! あ、そうじゃ。忘れない内に、あの件も片付けておこう。
わしは白魔鉱を少量取り出すと指輪の形に変え、イサベレに渡したネックレスに付いている二個の宝石のうち、肉体強化魔法の入った宝石を取り外して台座に乗せる。そして、猫又のままイサベレの右手の薬指に、頑張って通してあげた。
「指輪……」
「欲しがっておったじゃろ?」
「ん。綺麗」
「さてと~。そろそろ寝るか」
「……ありがとう」
イサベレの感謝の言葉を笑って答えたら、わしの念話での口調がおかしいと言われ、本来の喋り方だと説明してからバスに入る。
念の為、猫又のまま寝ているリータとメイバイの間に入ろうとしたら、イサベレにむんずと抱き締められて眠りに就くのであった。
だから息子を触るなと言っておろう!
イサベレの布団の中で、長い戦いが繰り広げられたのは言うまでもない……
翌朝は、寝るのが遅かったわしとイサベレは寝坊。リータとメイバイの殺気で目を覚ました。イサベレ先生の手前、とくには怒られなかったのだが、夜の寝る順番を話し合いながら朝食をとる事となった。
その席で、昨日、白カブトムシから得た情報を聞かせて、メイバイと共に過去の繁栄に思いを馳せる。
先祖の暮らしや猫の国に辿り着いた事を話し合っていると時間が過ぎるのは早く、出発が遅くなりそうだったので、話を一度切る事にする。
出発の準備が整うと、わしだけ白カブトムシに、別れの挨拶で顔を出す。
「ほい。これは餞別じゃ」
「甘い匂いがするな」
「ハチミツはもう無いからな。シロップでも甘いから、代用になるじゃろう。いい話を聞かせてくれたお礼じゃ」
「そうか。ゆっくり味わわせてもらうとしよう」
「そんじゃ、ありがとさ~ん」
わしはシロップの入った壺を残して別れを告げ、手を振りながらリータ達の元へと戻る。
そこから戦闘機を飛び立たせ、東へと空を行くのであった。
本日も晴天なのだが、鳥の多い区域だったらしく、あっと言う間に囲まれそうになったので地上に変更。
地上に降りると、わし達は戦いを避けるべく静かに移動する。黒くて巨大なダンゴムシは、多数決の結果、戦いたくないとなったからだ。
ダンゴムシは好戦的な生き物じゃなかったので、こちらから手を出さなければ、無事に逃げ切る事が出来た。
だが、その先でムカデの群れに追われたので、皆で悲鳴をあげながら空に逃げて置き去りにした。
幸い、鳥ゾーンを抜けていたようなので、しばらくは戦闘機でペチャチクャ喋りながら空を行く。
「怖かったにゃ~」
「すごい数の脚でしたね……」
「うっ……思い出させないでニャー」
「もう見たくないよ~」
先ほどのムカデの感想を皆で述べていると、イサベレだけは涼しい顔をして質問して来る。
「強そうに見えなかったけど、どうして逃げていたの?」
「だって~。気持ち悪いにゃ~。てか、イサベレは、虫は大丈夫にゃの?」
「ん。特には……」
「にゃ! 今度から、虫はイサベレに頼もうかにゃ? お願いにゃ~」
「ダーリンを助けるのは愛人の務め。任せて」
はて? それは妻の務めじゃなかろうか? いや、妻も普通は戦わん。リータとメイバイも頼りにしてるから、ほっぺをぷにぷにしないでください。
お喋りをしていても戦闘機は空を進み、皆は渡していた望遠鏡を覗いて面白い物が無いかと探している。そんな中、メイバイの声がしなくなったので振り返ると、首を捻っていた。
「う~ん……」
「どうしたにゃ?」
「気のせいかニャー?」
「気になる事があるにゃら言ってくれにゃ。それを調べるのも、この旅の目的だしにゃ」
「あ、そうだったニャー。あの辺の黒い木、妙に揃い過ぎてないかニャー?」
わし達は、メイバイの指差す場所を注視する。すると、リータもメイバイと同じような反応をする。
「たしかに……木の間隔が一定に見えますね」
「ニャー? 道みたいになってるニャー」
「本当にゃ。じゃあ、あそこでお昼にしようかにゃ~?」
コリス時計がわしの尻尾をモグモグしているので意見を聞いたら、全員一致したので、戦闘機を気になるポイントに向ける。
しばらく進み、着陸態勢に入って高度を下げていると、驚くべき物が見付かった。
「建物にゃ……」
戦闘機が、道のように幅が揃った黒い木の上空を飛ぶと、建物のような物と、それが崩れた瓦礫が目に入る。
「なんだか長く続いて見えますね」
「やったニャ! 大発見ニャー!」
「そ、そうだにゃ。ひとまず降りるにゃ~」
わしはその光景に見惚れながら、戦闘機の高度を下げて行くのであった。
3
お気に入りに追加
1,168
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる