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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~
347 面白そうなモノはないかにゃ~?
しおりを挟むわし達が白カマキリの死骸を眺めていると、白くて細長い生き物が、ウニョウニョと尻から出て来た。
「シラタマさん、アレは……」
「シッ!」
細長い生き物は何かを探すようにウニョウニョしているので、リータとメイバイには黙っているように言う。
ハリガネムシか……あいつが体内にいたから、白カマキリが次元倉庫に入らなかったんじゃな。
しかし、あんな奴にも拒否するだけの知能はあるのか? そう言えば、ハリガネムシはエイリアンとか言ってる奴がいたっけ……まぁそれは無いじゃろう。
それにしても、ウニョウニョしておるけど、次の宿主でも探しておるのかな? まだ全て出ておらんから長さはわからんが、あんなのに体内に入られたら、人間なんてひとたまりもないじゃろな。
さて、どうしたものか……
ひとまずリータとメイバイにはゆっくり下がるように念話で伝え、わしは白ハリガネムシから視線を外さない。すると、白ハリガネムシは何に反応しているかわからないが、リータ達の方向に向かおうとしたので、土の玉を作って逆に放つ。
【土玉】を追っているって事は、動く物に反応しておるのか……とりあえず、全部出て来てもらうとするか。
行け! 【土猫】!!
わしは土で出来た猫を走らせる。すると白ハリガネムシは、土の玉の落ちた跡を探っていたが、【土猫】を追いかけ出した。
それを見て、わしは【土猫】を円を描くように操作する。
よし。全部出たし、白カマキリから離れたな。次は【火球】!
【土猫】を追っていた白ハリガネムシはとぐろを巻いて、ひと塊になっていたので、そこに高温の大きな火の玉を落とす。
白アメーバーすら燃やし尽くした魔法なので、これで終わりだと思ったが、すんなりとはいかないようだ。
う~ん……効いてない? わしのかわいい【土猫】は灰になったのに、まだウニョウニョしておる。生物なんじゃから、死んでもよさそうなのに……
時間が掛かるだけかもしれないけど、作戦変更!
【水玉】からの【雪化粧マックス】!!
【火球】を解除したわしは、水をぶっかけて、すかさず【雪化粧】を発動する。【雪化粧】は一定範囲を冷やすだけの魔法だが、魔力を注げば注ぐだけ気温は下がる。
初めから力を入れたので、水は一瞬で凍り付き、白ハリガネムシも固まって動かなくなった。
「シラタマ殿~」
わしがしばらく凍った白ハリガネムシを見ていると、メイバイ達が駆けて来た。
「終わったニャ?」
「次元倉庫に入らないところを見ると、まだ生きてるみたいにゃ」
「こんなカチンコチンでニャ!?」
「寄生虫は生命力が高いからにゃ。さてと、事後処理だけして移動しようにゃ」
わしはリータとコリスにも手伝ってもらい、白ハリガネムシを叩き割る。粉々とはいかないようだが、それでもかなり分割された。ちなみにメイバイも、リータから猫の手グローブを借りて殴っていたが、一発で尻尾の先まて痺れて諦めていた。
さすがに死んだだろうと、白カマキリと共に次元倉庫に入れようとしたが、まだ入らず、水の玉を丸々凍らした物に詰めて地下深くに封印し、その場を立ち去った。
それからしばらく走り、暗くなって来たので今日の夜営に取り掛かる。次元倉庫からシャワールームを取り出し、テーブルセットとバスも配置すれば、夜営の準備は完了。
野外でも、まったく普段の生活と変わらない事が出来るとは、魔法様々だ。
ただし、危険な森の中での夜営なので、見張りは必須。お風呂は全員では入れないので、わしとコリスを班分けし、リータとメイバイは一日起きに交代するんだとか。
珍しく二人きりの時間が取れるリータは、嬉しそうに甘えて来て、貞操の危機を感じる。わしもなんだか緊張して、カチンコチンになってしまった。体がじゃからな?
旅の汚れを落とすと、エミリのお弁当を食べて就寝になるのだが、見張りをどうするかの話し合いで揉めてしまった。
どうやら、お風呂の班分けでリータとメイバイは寝たいようだ。もちろんわしが却下した。揉めているのもわしだけだ。
だって二人きりになると、何して来るかわからないから怖いんじゃもん!
まだわしには、獣姦の覚悟が出来ていない。二人きりの時にそんな事をされたら、理性が吹っ飛んで間違いを犯しかねない。
初めての時は、ちゃんと人間の姿に戻った時と決めてるんじゃもん!
結局、わしがゴネまくって全員で寝る事となった。
危険の回避はどうするのかと聞かれたが、そんなもん簡単だ。バスを埋めてしまえばいい。
硬い天井で蓋をするから壊される事もないし、そもそも気付かれる事がない。空気穴も多数開けたから、窒息の心配もない。
あとはバスの畳みに敷かれた布団に、全員で潜り込むだけだ。
寝床の準備も終わると、今日の日記を皆でつける。初日は双子王女とごたごたしていたからいきなり忘れてしまったので、まとめて書く事にした。
わしは出会った獣や見掛けた虫、生物中心に書き留め、方向やおおよその進んだ距離も書いておいた。これを元に、猫の街で小説を書いてもらう計画もあるので、特に感想は入れていない。
皆は何を書いているか気になって見てみたら、リータとメイバイも生物関係が多いのだが、ちょくちょくわしが出て来る。わしが叫んで逃げたとか、今日の撫で心地がどうだとか……他の人にも読ませると説明したのに、勘弁して欲しい。
コリスに至っては、朝昼晩の食事のメニュー。明日、食べたい物まで書いてあった。絵がそこそこ上手くなっているけど、そんなぐちゃぐちゃな料理は、わしは知らない。
皆はなんだか変てこな日記になっているので、小説にするには、わしの日記だけを提出する事に決めた。ただ、思い出になるから、皆にも毎日書くように言っておいた。
日記をつけ終わると、わしはコリス専用のお布団にコリスを寝かし付けると、夫婦専用の布団にリータとメイバイと共に入って、今日の出来事を話す。
「今日はあんまり進めなかったにゃ。やっぱり、一筋縄では行かないにゃ~」
「そうですね。猫の国周辺の森とは違って、強い生き物が多いです」
「白い生き物に、すぐに出会ってしまうのも違うニャ……シラタマ殿より強い生き物にも出会うのかニャ?」
「だろうにゃ。まぁそこまで強い奴は、白い木の群生地に縄張りを持っている奴だろうから、そこに入らない限り、出会わないかにゃ?」
わしのセリフに、リータとメイバイは残念そうな顔をする。
「そうですか……少し見てみたい気もしないでもないんですけど……」
「私も見たいニャー。伝説の白い象より強いのも居るのかニャー?」
「また脳筋になってるにゃ~。そんにゃに強いのが居たら、絶対に逃げるからにゃ? わしは戦わないからにゃ?」
「はい……」
「わかってるニャー」
「「でも……」」
「にゃ~? にゃろめっ!」
わしはリータとメイバイに、「ついに口に出して言ったな?」とお仕置きを受ける。昼の事も覚えていたらしく、追加でブスブスと針で刺されて、変な声を出し続ける。
こうなっては平謝り。スリスリと二人に擦り寄って機嫌を直してもらい、ゴロゴロと撫で回される。なかなかやまない撫で回しに、明日も早いと言い聞かせて、ゴロゴロ眠るのであった。
翌朝は、地中で寝たので、光が入り込まないから寝坊しそうになったが、コリスにお腹がすいたと伸し掛かられて起床となった。
コリスに乗られたわし達はモゾモゾと脱出し、身支度を整えてから地上に出ると、ぺちゃくちゃと喋りながら朝食とる。
それから戦闘機に乗って離陸し、黒鳥が現れれば着陸して地を走る。だが、空からは大きな黒い木のせいでわかり難いが、地上は起伏が激しい。どうやら、山岳地帯に入ったようだ。
ひとまずわしとコリスで、リータとメイバイを担いで走り、移動距離を伸ばそうとする。
しかし行く手を阻む白い生き物や、黒い生き物の群れがちょくちょく現れて戦闘に突入したり、変な方向に逃げたりするので、どうしても移動距離が稼げない。
そうしてなかなか進めないまま、新婚旅行を再出発してから二日目の昼過ぎ、戦闘機の窓から面白い物を探してと頼んでいたリータが声を出した。
「虹です!」
「虹にゃ?」
わしはリータの指を差す方向に目を移すと、そこには山々が虹のように輝く光景があった。
「綺麗です~」
「本当ニャー」
「モフモフ~。おりて~?」
「そうだにゃ。ちょっと寄って行こうにゃ」
皆のリクエストに応え、戦闘機を旋回させながら虹色の大地に着陸すると、ハッチを開ける。
「「「わ~~~!」」」
「にゃ! 待つにゃ! 確認が先にゃ~」
皆が戦闘機から飛び出すので止めるが、まったく聞かないで行ってしまった。なので、わしも慌てて飛び降り、皆のあとを追う。
「待てって言ったにゃ~」
「これだけ開けていたら、大丈夫ですよ」
「シラタマ殿は心配症ニャー」
「カメレオンみたいにゃ奴が居たらどうするんにゃ~。コリスも動くにゃ~」
リータとメイバイは、カメレオンと戦った経験があったからわしの心配をわかってくれたが、コリスは走り回っている。
仕方なく追い掛けながら探知魔法を使い、安全が確認できると、ここでおやつ休憩。おやつと聞いたコリスは、わしに素直に従うようになった。
「それにしても、どうしてこんな色になっているのでしょう?」
「この場所は、雨風に浸食されて、いろんにゃ地層が表に出て来てるんにゃ」
「うっ……何を言っているかわかりません」
「難しいニャー!」
質問して来たリータは、頭を抱えてギブアップ。メイバイもちんぷんかんぷんなので、エミリの新作ケーキ、ミルフィーユを見せて説明してみたが、フォークを咥えたまま諦めた表情になった。
「でも、シラタマ殿は、なんでそんな事を知ってるニャー?」
「元の世界でも似たような場所があったから、知ってただけにゃ」
「また元の世界ですか……」
「リータの過ごした世界は、この場所と似てる場所はなかったかにゃ?」
わしの質問に、リータは少し考えてから口を開く。
「ここまで綺麗な景色はありませんでしたけど、ゴツゴツした岩肌に囲まれていると、なんだか故郷を思い出しますね」
「にゃ~? 探したら、もっとリータの故郷に似た場所があるかも知れないにゃ」
「いいニャー。私も元の世界の話で盛り上がりたいニャー」
わしとリータが話込んでいると、メイバイが残念そうな顔をするので笑って応える。
「にゃはは。この旅が終われば、話す事にゃんて山ほど増えるにゃ。あの時は、こんにゃ事かあったとかにゃ」
「例えば、この場所でシラタマ殿のミルフィーユが、コリスちゃんに食べられたとかニャー?」
「にゃはは。そんにゃ事があったらにゃ……にゃ~! わしのミルフィーユが消えてるにゃ~!!」
「おいしかった~」
「「あはははは」」
こうして思い出はひとつ増えたが、楽しみにしていたミルフィーユがひとつ減ったのであった。
それから二日後、相も変わらず空と地上を行き来し、戦闘したり逃げたりしながら東に向かっていると、戦闘機の中で辺りを見ていたメイバイが声を出す。
「わ! なんかキラキラ光ってるニャー!」
「本当ですね。湖でしょうか?」
「どこにゃ?」
「通り過ぎたニャー!」
「あ~……そろそろ日が暮れ始めるし、今日はそこで夜営にしようかにゃ?」
「でも、白い木の群生地でしたよ?」
「う~ん……わしも見てみたいし、空からの観光だけして行こうにゃ」
飛行機を旋回させてわしも湖を確認すると、その湖は白い木に囲まれ、真っ青に輝いており、是が非でも近くで見てみたいと全員一致の結論になった。
なので、白い木と黒い木の境界線に無理矢理着陸して、皆を降ろす。
「どうですか?」
「何か居るニャー?」
地上に降り立ったわしが探知魔法で辺りを確認していると、リータとメイバイが質問して来た。
「周りは大丈夫そうにゃけど、湖の畔には、デカイのが居るにゃ」
「じゃあ、近付けないですかね?」
「なんとかしてニャー?」
「モフモフ~?」
「わかったにゃ。一人で見て来るから、ここで待機にゃ。絶対、わしのあとを追うにゃよ?」
わしが二人を見ると、目が平泳ぎかってぐらい泳いでいた。
「行くわけないじゃないですか~」
「まったくシラタマ殿は、疑い過ぎニャー」
「コリス! 逮捕にゃ~~~!!」
片言のリータとメイバイは、コリス警部に抱きかかえさせてから、わしは白い木の群生地に入るのであった。
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