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第十二章 王様編其の三 猫の国の発展にゃ~

334 猫耳の里で観光にゃ~

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 運行会議の終わった翌日、各国の王はわし逹に見送られ、キャットトレインに揺られて帰って行った。

「にゃんで女王まで手を振っているんにゃ……」

 東の国の者を残して……

「サティを送るんでしょ? 同じ日に着くんだから、飛行機に乗って帰ったほうが時間の節約になるじゃない?」

 わしがジト目で見ると、こう言う始末……
 さっちゃんは帰る日を一日ずらすと聞いていたので、わしが送る事になっている。多過ぎると迷惑になるだろうから、残る人数を絞ったらしいけど、それも迷惑なんだと気付いて欲しい。

「もういいにゃ。それじゃあ誰か付けるから、適当に観光してくれにゃ~」

 わしは忙しいからとそそくさと逃げるが、さっちゃんと女王に尻尾を掴まれてしまった。

「にゃ、にゃんですか?」
「報告にあった、猫耳の里を見てみたいのよね~」
「わたしも見たい!」
「にゃ……」

 アイめ! 黙っていろと言ったのに、言いやがったな!!

「だ、誰から聞いたにゃ?」
「ジョスリーヌ逹よ。奴隷だった者が暮らしているんでしょ?」

 アイさん! 疑ってすみません!!

「だったら察してくれにゃ~」
「ジョスリーヌ逹ですら入った事が無いと聞いているけど、どうしてなの?」
「聞いているにゃろ? 人族を怖がっている者がいるからにゃ」
「何か隠しているんじゃないの?」
「にゃにをにゃ~」
「シラタマちゃん! 連れて行ってよ~」
「揺らすにゃ~! 挟むにゃ~! そこは触るにゃ~~~!!」

 こうして我が儘な二人に前払いで料金を支払われ、猫耳の里観光を許可させられるわしであった。


 連れて行ける人数は二人だけ。これだけは譲れない。残りの東の国の者は、リータ逹に面倒を見てもらい、女王とさっちゃんには質素な服に着替えてもらう。
 猫耳セットアップまで付けさせれば準備完了。コリスも積み込み、南東門からバスを走らせる。

 猫耳の里までは森を切り開き、キャットトレインの線路も作られているので、バスを猛スピードで走らせても問題ない。
 そうしてあっと言う間に猫耳の里に着くと、とある大きな建物の前で車を止めて、さっちゃん達と共に降りる。すると、さっちゃんから質問がやって来た。

「シラタマちゃん。ここが猫耳の里なの? 家が一軒しかないわよ?」
「ああ。地下にあるにゃ」
「地下??」
「離れないようについて来てくれにゃ」

 わし逹は建物に入り、働く猫耳族を横目に、奥へ奥へと進む。

「猫耳族ばっかり! でも、みんな何をしているの?」
「この里では、加工品を作っているにゃ。それをキャットトレインに積み込む準備をしているみたいだにゃ」
「つまりこの施設は出荷場になっているのかしら?」
「まぁそんにゃところにゃ」

 さっちゃんと女王の質問に簡単に答えていると、一番奥の扉に辿り着く。その扉の前には猫耳族の男が扉付近を見つめて立っているので、少し言葉を交わし、扉が開くのを待つ。
 待っている間もさっちゃん達の質問に答えていたら、ベルが「チーン」と鳴り響き、猫耳男が扉を開いた。中には荷物が乗っており、猫耳男の指示の元、猫耳族が集まって荷物を運び出す。

「こっちにゃ」

 わしを先頭に、荷物が入っていた場所に行こうとすると、女王とさっちゃんは不思議そうにわしに尋ねる。

「シラタマちゃん。そっちは行き止まりだよ?」
「そうよ。そんな所に入ってどうするのよ?」
「いいから入ってにゃ~」

 わしのセリフに、二人は渋々中に入り、扉が堅く閉められる。すると二人は扉の方向に振り返り、少し緊張した顔になる。

「シラタマちゃん?」
「「え??」」

 扉が閉まり、二人は心配そうな声を出した直後、わし逹の入った部屋は動き出した。

「な、なに?」
「変な音がするわよ?」
「反対側を向いて見るにゃ」
「反対側??」
「「うわ~~~」」

 二人は扉から逆に顔を向けると、小窓に顔を近付ける。その窓からは、猫耳の里が一望できる絶景が広がっていた。

「シラタマちゃん! すごい!!」
「部屋が下に動いているのね。どうなっているのかしら……」

 この部屋は、そう。エレベーターだ。
 猫耳の里は地下にあるので、加工品を持ち出すには長い梯子はしごを登らなければならなかった。しかも、人が重たい荷物を背負って登るので、重量制限もあり、時間が掛かり過ぎてしまう。
 その姿を見ていたわしは、何かいい案が無いかと考えて、エレベーターを作る事を決めた。動力を人力か牛を派遣するかで悩んでいたが、キャットトレイン製作と平行で考えていたので、モーターを使う事に決まった。

 エレベーター製作で一番の難所は、停止装置。センサーも無いので、そんな物は作れない。なので、中の部屋を引き上げるロープの色の違いで、当番がスイッチを押して、スピードを落としたり、停止をしている。
 いまのところ事故もミスも起きていないと聞いているので、安全に気を付けて使い続けて欲しいものだ。
 電力は、二日に一度、ソウの街からキャットトレインが来ているので、電池となる魔道具を交換する事で安価になっている。ただし、エレベーターは電力を喰うので、基本は荷物専用。少人数で乗る事は禁じている。

 え? わし達が乗ってるのはいいのか? いいに決まっておる。だって、王様じゃもん……帰りに魔力を補充しま~す!

 ちなみにソウの地下空間も、荷物を運ぶのに苦労があるから、エレベーターを取り付けてある。


 二人の感想を聞いていると、「チーン」と音が鳴り響き、扉が開かれる。扉を開けた女性は荷物が入っていると思っていたのか、わしを見て、慌てて挨拶をするので、謝って里の入口に向かう。

「さっきの人、コリスちゃんを見るより、シラタマちゃんに驚いていたわね」
「コリスとは、何度も足を運んでいたからにゃ。さっきのは、王様がいきなり現れたらビックリしただけにゃと思うにゃ」
「ふ~ん」

 若干、自信はないが、猫で驚いたわけではないはずだ。

 そうして、猫耳の里の観光。建物について聞かれたけど、それ以外は変わった事もなく、面白味に欠けるようだ。
 なので、米や大豆の加工品の工場見学や味見をさせてみた。作物は猫の国でしか作っていないので、マネする事は難しいから見せても問題ない。
 二人は作物が食材に変わって行く姿を初めてみたらしく、なかなか好評だったが、もっと面白い物を作ってないのかと聞かれた。

 キャットトレインはここで作ってないのか? なんでそんな事を聞くんじゃ? まさかここに来たがったのは、その為か? 

 わしが質問すると、二人は撫で回して来たから、絶対キャットトレインの製造法を探りに来たと思う。子供逹の笑い声が聞こえて来たら、わしを放り投げて走って行ったし……
 いちおう製造法はうやむやになったので、さっちゃんと女王を追って、子供達のやっている事の質問に答える。

「シラタマちゃん。アレは何をしているの?」
「アレは……報告にあったサッカーね」
「女王の正解にゃ。ちょっと見て行くかにゃ?」
「うん!」

 わし逹はサッカーグランドに近付き、テーブルセットを出してお茶休憩。二人には簡単なルールを説明し、ある程度理解すると、さっちゃん達は興味津々でボールを目で追う。

「あ! 入った!!」
「これで二対一みたいだにゃ。さて、制限時間まで逃げ切れるかにゃ~?」
「接戦なんだね。面白い!」
「面白いけど、何か揉めてるわよ?」
「あ、本当にゃ。ちょっと行って来るにゃ」

 わしが揉め事が起こっている子供逹の輪に入って話を聞くと、さっきのシュートの前に、ズルがあったようだ。
 いわゆるオフサイド。いつも待ち伏せをしてシュートを打つから、怒った皆から猫耳少年が責められていたみたいだ。

「にゃはは。君は賢いにゃ」
「ですよね?」
「じゃあ、新しいルールを付け加えるにゃ。待ち伏せは禁止にゃ」
「え~!」
「元々、そう言うルールのゲームなんにゃ。今までは、説明してもわかってもらえないと思っていたんにゃ。でも、いまにゃらわかるにゃろ? 簡単にシュートが入るんだからにゃ」
「う~ん……」
「君にゃらわかってくれると思ったんにゃけどにゃ。それじゃあ、Bチームに新しい戦術を教えてあげるにゃ。集まれにゃ~」

 わしはBチームに戦術の説明を終え、さっちゃん逹の元へ戻る。

「何か話をしていたけど、解決したの?」
「たぶんにゃ。あ、始まったにゃ」

 中断していた試合が始まると、Bチームの動きが変わった事に女王が気付く。

「Aチームは全員固まって動いているけど、Bチームはまばらに散っているわね」
「あ、本当だ。なんだか、Aチームは翻弄ほんろうされてる?」
「パスワークってやつにゃ。ほれ、そんにゃ事を言っていたら、シュートが決まりそうにゃ」

 Bチームは、ぎこちないがパスを回して、なんとかペナルティエリアに近付く。そしてセンタリング。高く上がったボールに、Bチームの子供が頭で合わせ、ヘディングシュートがゴールに突き刺さった。

「ゴ~~~ル! きれいに決まったね~」
「にゃはは。残り時間は少ないけど、このまま逆転するかもにゃ~」
「なるほどね。チームワークが決め手のゲームなのね」
「もっと上手くなれば、華麗なプレーが見れて、手に汗握る試合になるにゃ」

 説明を聞いた女王は、わしの考えを予想する。

「はは~ん……これも広げたいわけね」
「そうにゃ。貴族にはゴルフをやらせて、平民にはサッカーをやらせれば、娯楽が増えて見物人も楽しめるにゃ」
「楽しめるね~……目的はそれだけ?」
「まぁ金儲けも目的のひとつだけどにゃ~」
「他にもあるの?」

 わしの考えは女王の予想の上を行っていたようなので、真面目な顔になって、熱く説明する。

「例えばにゃ。ゴルフやサッカーを通して他国の者と触れ合えばどうにゃ? 同じ競技で一喜一憂し、汗を流せば仲良くなれないかにゃ?」
「たしかに……」
「仲良くなったら、戦争が起きそうな時に、隣の国の友達の顔を思い出して、殺す気が鈍らないかにゃ? いや、戦争をしたくないと、国を止めてくれないかにゃ?」
「う~ん……難しいでしょうね」
「だろうにゃ~。でも、可能性は否定できないにゃ。猫耳族も人族も、このサッカーを通して仲良くなって欲しいにゃ~」
「フフ。そうね。西の王だって、あれほど意見を変えたんだから、きっと良くなるわよ」

 わしが理想を語り、女王が笑いながら肯定する。だが、女王の笑い方は嘲笑あざわらうような笑い方ではなく、その理想が叶うと信じているような優しい笑い方だった。
 そうして女王と話をしていたら、試合終了間際、Bチームがシュートを決めて、逆転勝ちを収めたのであった。


 わしは終了の笛の音を聞くと子供逹を集め、先ほどの戦略を説明する。すると子供逹は、待ち伏せをするよりかっこいいプレーだったと目を輝かせ、練習すると言っていた。
 わしはこれならばと、正式なルールブックと練習方法を手渡し、上手くなったら猫の街の選手と試合をしようと言って、女王逹の元へ戻る。

 そこでわしが近付くと、さっちゃんが目を輝かせ、わしの手を握って来た。

「シラタマちゃん!」
「にゃに?」
「東の国でも流行らせたい!!」
「……だってにゃ?」
「フフフ。じゃあ、サティが頑張ってみる?」
「はい!」

 さっちゃんのやる気を女王に振れば、さっちゃん主導でサッカーの普及に努めてくれる事に決定した。
 ひとまず話し合いはお昼を食べながらする事にして、セイボクの屋敷に押し掛ける。わしが猫耳の里に来ていた事は筒抜けだったので、料理を用意してくれていたようだ。
 女王に食べさせるには少し質素だったが、文句を言わず食べてくれた。その時、セイボクだけには女王とさっちゃんを紹介したら、鼻の下を伸ばしていた。
 人族は嫌いだけど、絶世の美女は別のようだ。でも、女王の胸を注視するのは、失礼だ。わしが恥ずかしいからやめてくれ。


 昼食とサッカーの話を終わらせると、エロジジイは無視して観光を再開する。
 見る所は棚田しか残っていないので案内するが、下からでは見えづらいので、わしはさっちゃんを、コリスは女王を抱えて、てっぺんまで跳んで登った。

「うわ~」
「変わった栽培方法ね」
「ここは土地が限られているからにゃ。縦に伸ばすしかなかったんにゃろ」
「なかなか面白い物が見れたわ」
「まぁ猫の街よりは、見る所はあったかにゃ?」
「そうね。でも、一番はアレね」
「アレってなんにゃ?」
「アレだよ~」
「あ~……アレはあげないにゃ」
「「なんでよ~~~!!」」

 当然、女王とさっちゃんはエレベーターをご所望して来たので、わしは断り続け、おねだりは東の国に送り届けるまで続いたとさ。
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